【お断り】
現在連載しているブログ記事は、コロナ禍のときに業界関係者と一緒に作り上げたベトナム送出し機関の状況についての小冊子から取り上げたものです。かなり良い出来なのですが、あまりにも内情を赤裸々に書いてしまったものですから、業界関係者の立場から公開せずにしておりました。このままお蔵入りしてしまうのももったいないので、私の責任にてブログに公開することにしました。文面は私の方で多少直しながら、連載していきますので、よろしくお願い致します。
第 2 章 送り出し機関の選び方と見るべきポイント
(3)教育内容
(チェックポイント)
・日本人教師の有無及び率←この「率」は非常に大切です。
「日本人=日本語を教えられる」では絶対にありません!
日本人がいればいいというものではありません。ベトナムで日本人が日本語教師をしている場合は、いろいろと事情がある者が多いです。外国に来て、日本人が 1 番できることとなりましたら、日本語を教えることであります。しかし、日本語をきちんと教えるのであれば、専門的な訓練を受ける必要が必ずあります。日本語教師は日本人なら誰でもできるものではなく、専門職であります。
日本語教師の資格も持たず、観光ビザの更新更新で送り出し機関に勤務している 50 代~は非常に多いです。「日本人のいる送り出し機関」という客寄せパンダ化していることが常態化しています。
そして、無資格者を雇用している時点で、送り出し機関の教育に対する意識が垣間見えます。 送り出し機関が「日本人教師が日本語を教えています」と言うのでしたら、その日本人教師の授業を確認することをおすすめします。そして、その授業を評価するためにも、先に述べた教育に明るい者の同行が必要なのであります。
今回の新型コロナウイルス感染に伴う日本の入国制限による送り出し機関の開店休業・経営悪化のため、解雇されたなんちゃって日本人教師は多いです。人件費は高く、コロナ禍で客寄せも機能しないため、至極当然のことであります。
有資格・無資格問わず、日本人教師がいる場合、学生数に対する日本人教師の率を確認するといいでしょう。例えば、500 名のセンターに日本人教師が 2 名と 200 名のセンターに 2 名とでは大きく意味が違います。ほぼ全ての送り出し機関で日本人教師は特定のクラスを担当するのではなく、コマ代わりで全てのクラスを行ったり来たりします。
その為、日本人教師の率が低ければ、出国までに日本人が教える回数も少なくなります。目安としては、実習生100~150 名に対して日本人教師 1 名が望ましいです。1 クラスが 20 名未満の場合、4 コマ/日すると、毎日、或いは、1 回/2 日は各クラスを回ることが可能です。
・会話/聴解練習
実習生にとって入国後、最も必要な能力が日本語でのコミュニケーション能力であります。コミュニケーション能力に必要な技能は当然ながら「話す・聞く」。多くの送り出し機関で使用している教材は「みんなの日本語」という日本での普及率が最も高いものであります。
但し、これは「文法積み上げ式」と呼ばれる型の教材で、会話・聴解に重きを置いたものではありません。どちらかと言えば、大学生・留学生等、教育に時間をかけられる人材向けの教材であります。使用自体はベトナムに主教材になりうる教材が少ないため、致し方ない面もありますが、残念ながら、実習生に必要な「話す・聞く」の練習は不足していると言わざるをえません。
そのため、送り出し機関がその不足に対して、「補う為に何をしているのか」が非常に重要になります。送り出し機関によっては独自にテキストや教材を作っていることもありますので、目的・経緯・内容は要確認です。当たり前ですが、先に述べた「日本人が教えています」だけでは不十分です。ベトナム人教師が教えている時間のほうが圧倒的に長いのですから、基本的に、日本語の話す・聞く・書く・読むの四技能を「如何にベトナム人教師が高めているか⁇」を確認することです。送り出し機関における 99%の日本人教師の役目は「ブラッシ ュアップ」であることが多いです。基礎を教えるのはあくまでベトナム人教師です。
・案内された以外の教室を抜き打ちチェック
送り出し機関の視察時に教室に案内されることが多いですが、送り出し機関主導で案内されたクラスは学力の高い・会話できる実習生を集めていることが往々にしてあります。もしくは他の送り出し機関の生徒を借りている場合も多いです。いわゆる「サクラ」であります。又、クラスの前方に学力の高い実習生が固まって座っていることも多いです。その為、その受動的に案内されたクラスのみを見て、判断することは非常に危険であると言えます。許可を得た上で無作為に適当なクラスに入り、指名して日本語でやり取りするほうが望ましいです。かかった費用等も直接実習生に聞くのがいいです。又、出国前のクラスのほうが望ましいです。(実習生は出国にかかる手数料を 2 回に分けて支払うことが多いです。面接合格後と在留資格認定証明交付後になります。出国が近い実習生は既に全額支払い終わっているため、総額がわかりやすいです。質問は自前の通訳で行った方がよろしいかと思います。送り出し機関の人間を介しても本当の答えは返ってきません。)
普段から問題のない送り出し機関では、いつでもどこでも見学が可能です。
・日本語以外(ルール・マナー等)
送り出し機関曰く「5S 徹底」「ルール・マナー教えます!」ですが、ベトナムにいる日本へ行く前の実習生が 5S を理解することはまずありません。理解し、やっているのではなく、「やらされているだけ」の場合がほとんどです。そもそも日本人も 5S 言えますか?
これは悪質な監理団体にも言えますが、自分がルールを守っていないにも関わらず、実習生に「ルールを守りましょう」と教える姿は中々シュールです。
日本の法令、失踪防止、キャリアプラン教育等、手法は送り出し機関によって、多岐に渡ります。
スリッパの脱ぎっぱなし。基本的なところにボロがでることも多いです。
入国後のトラブル・失踪の原因を何だと捉え、それを防止するには何をすべきなのかを常に考え、実習生に還元しているのかを確認してください。「失踪=ダメ」なのは当たり前です。それを口で言うだけでは伝わらないですし、意味もありません。
「失踪=ダメだと説明しています」と答える送り出し機関には、「じゃあ、どうやって?」と具体的に聞いてみてください。どうしてダメなのか、失踪させない為にはどうするのか、どうすれば理論的に理解させることができるのかを常に考えているかどうか。どこの送り出し機関も当然ダメといいます。その「ダメ」で失踪しないなら、失踪者は 0 であるはずです。
実習生向けに失踪対策等の各種講習などを実施している送り出し機関もあるので、資料を見せてもらうのもアリです。
・軍隊形式は是か非?
某実習実施者のところに軍隊形式でしっかり教育を受けた技能実習生が入りました。
毎朝ラジオ体操を全員で行い、同じ制服を着て、軍隊形式で授業を行う厳しい送り出し機関です。そこで教育を受けた実習生が日本に行き、早速、配属先の会社で大きな声で挨拶をしました。すると怪訝そうな表情をする日本人同僚たち。けだるそうに一言「朝からうるせぇなあ~」。
日本人は礼儀正しいと教わっていた実習生からすれば、意外な反応に目を白黒させ、困惑の表情を浮かべました。仕事を上がるときも「お先に失礼します!」といっても、日本人従業員からは挨拶なし。この実習生、次第に声が小さくなり、そのうちまともに挨拶をしなくなりました。
会社から態度が悪いという連絡を受け、その実習生のところへ駆けつけた監理団体の職員と通訳。どうして挨拶しないのかと訊ねると、「日本人が挨拶しないからやめた…」とのこと。いつしか日本人同僚たちと同じような態度に変わってしまっておりました。
軍隊形式を賞賛する実習実施者の社長の方々は多いですが、翻って、自社にいる日本人従業員の教育はきちんとしていない場合が多いです。自社でできないことを送り出し機関や実習生に求めるのはナンセンスです。理想を実習生にだけ求めてはいませんか?日本人従業員には実習生のいい見本・手本であってほしいと思います。
・面接前教育を行っているかどうか
送り出し機関によっては、事前に実習生候補者を入校させ、面接前に 1~2 ヶ月の教育を行うところもあります。面接のときに既に片言の日本語が話せることもあります。教育施設での生活・学習態度を見ることができる為、面接の前の段階で、態度の悪い候補者を面接から外すことができるなど、メリットが多いです。但し、こうした面接前教育(〇か月単位)を実施できるのは人気職種だけの場合が多いことを念頭に置いてください。建設業・縫製等は面接前教育どころか、2 倍も危うく、下手すれば、申し込みがあまりにギリギリで自己紹介すらできない場合もあります。
この面接前(=合格前)の教育に費用が発生するかどうかは送り出し機関次第です。延々合格するまで、学費も寮費も水道光熱費も取らず、食費のみ実費というところもあれば、合格・未合格関係なく費用が発生する送り出し機関もあり、千差万別であります。当然ながら、費用がかからなければ、面接前にそれだけ長く勉強しようという候補者も増え、送り出し機関としても、その候補者の人となりを見極めやすくなります。
面接合格前に費用が発生している場合、実習生本人の立場で考えると、費用的にも時間的にも負担が大きいですが、一方、面接前教育の代わりに一次選抜時に、1 週間の泊まり込みで無料の日本語教育を実施し、スクリーニングをする送り出し機関もあります。泊まり込みの合宿生活の中から、候補者の学習・生活の姿勢を厳しく審査し、人材の選抜を実施します。
なお、コロナ禍後では、事前教育をしていても、ある程度日本語が出来た段階で他の送り出し機関で面接合格してしまい、タダで教育してしまったというケースも多く発生しています。
〇ある送り出し機関の実例 その 1
① 募集
一般的にブローカーと呼ばれる者も使いますが、候補者との直接の金銭授受を禁止です。ブローカー側に誓約書があります。
② 入校
申し込み時にも募集部社員より、ブローカーとの金銭授受禁止を念押しします。申し込み用紙の記入を行い、視力・色盲・刺青のチェックをします。刺青アリは原則入校不可です。
③ 面接前教育
自己紹介・挨拶を覚えることがメインです。担任教師・管理人・寮長から学習態度・生活態度を随時ヒアリングします。難ありの人材は指導・注意後、改善が見られない場合、退校させます。
④ 企業説明会
面接候補者に対して、送り出し機関側からは、実習制度・費用詳細・支払い時期の説明を行います。実習実施者については、求人内容・作業内容・勤務地・先輩の有無等の説明を行います。スマホによる撮影・録音可です。説明会終了後、その場で家族に連絡させ、最終の意志確認を実施します。
⑤ 面接前講習
技能実習制度について、意識・心構え、将来について、どんな人間が合格できるか等の説明を行います。
⑥ 面接練習
100%日本人が実施します。自己紹介・挨拶・お辞儀の角度・立ち方・視線・座り方・入退室の仕方、受け答えの仕方等の練習を行います。
⑦ 採用面接
一切の忖度なく実施します。
(入校から採用面接迄の間に学習・生活態度、学力の極端な低さ等問題があった場合、倍率 3 倍を切ったとしても採用面接に参加させることはありません。)
〇ある送り出し機関の実例 その2
監理団体から事前に面接が入ると思われる時期について報告をもらい、面接前 1~2 ヶ月前から日本語教育をスタートします。すでに日本に入国している実習生らの紹介も受け、10~20 名の候補者を常に確保しておきます。
監理団体から会社のヒアリングシートが届くと、その面接に参加希望のある候補者をリストアップし、仕事の内容、給料などを誤解のないように説明します。
面接前に簡単な練習を行います。日本語で自分をアピールできるように、拙い日本語を使ってどうして日本に行きたいかの動機の確認を行います。
面接前に日本の高校生が就職試験で使う SPI 試験を引用し、ベトナム語に翻訳したものを計算力テスト、理解力テストとして使います。また補数計算も行い、頭の回転力を事前に把握します。
面接はグループ面接が主であり、1 グループ 3~4 名、ほぼ 1 時間半から 2 時間かけてじっくり選び出します。会社がそれぞれ独自の面接方法がある場合はそちらを優先します。そうではない場合は監理団体、及び、送り出し機関が主体となり、面接を行います。
「ここまでしっかり面接を行うのですか?」と言われるケースがたびたびあります。
初めての面接で合格するケースはあまりなく、2~3 回目での合格が多いです。もちろん面接終了後、不合格者に対するフォローアップも行います。何がダメだったのか、どうすれば合格できるか、それを次回の面接までに直すように指導します。
面接時に『みんなの日本語』10 課~20 課まで勉強している候補者が多いので、合格後 N4 レベルになるように日本語教育をしっかり行います。NAT-TEST N4 合格後、入国する実習生も少なくありません。1 日の勉強時間は、クラス授業・自習の合計で 10~12 時間程度です。生活態度は常に確認し、合格後、態度が悪くなったり、規則を守らない実習生は、在留資格認定が下りていたしても、躊躇なくキャンセルします。日本に入国後に問題が発生すると、対応が大変な為、疑問を感じる実習生が出た場合、監理団体、及び、実習実施者の確認を取って、入替を実施することもあります。
⇒ 送り出し機関の選び方と見るべきポイント ③ へ続く