ジュピターズ・ムーン

 

空飛ぶ難民

実に変わっている映画なので、目が回る。

比喩ではなく、本当に目がグルグルになる。

グルングルンである。

 

空を飛ぶ青年なのだ。

スーパーマンのようには飛んでくれない。

飛ぶというよりも、浮くのである。

だから、グルングルーンと回転したりする。

カメラも回る。目も回る。

 

ホラーではないのに全編、手持ちカメラ的な撮影法である。

ぃや、ここは固定カメラでいいだろうと進言したくなるようなシーンも、カメラが動く。

なので、画面酔いする方はぜひ、手首から指3本分下辺りにある酔いのツボを押さえながらの鑑賞をお勧めしたい。

すると、酔わない。

検証済みである。豆知識。

 

空飛ぶ青年はシリアからの亡命者である。

難民キャンプで医師と出会い、互いの人生が回転していく。

医師は過去の失敗を抱えて、人生ヤケクソ状態。

全てを失った医師と、全てを国に置いてきた難民だ。

 

ハンガリーが舞台だが、お国柄にまず、戸惑う。

医師の事情にも、同情ゼロなのでツラい。

医療現場に酒があるという時点で、東欧ではこれが普通なのかという謎も浮かぶ。

その後も、医師の行動や言動が何かと理解できない。

戸惑いの中、ひたすらにグルングルンである。

ある意味、4DX上映のよう。

 

 

SFエンタメのリアル感

当方はもちろん、多くの日本人にとって、ハンガリーという国は馴染みが薄いかと思う。

そのために、今作で描かれる現状把握が捗りにくい。

たとえば、劇中で「ロマ」という言葉が登場する。

「ジプシー」と言い換えると、分かりやすいかもしれません。

ロマ民族はヨーロッパでは大変な差別、迫害を受けている。

シリア難民とは由来も違うけれど、そういった下地があって語られる、難民問題だ。

 

真っ向からの問題提起ではなく、視覚的に訴えてくる。

サスペンス色も強い。

かなりスパイスの効いた趣向ながら、エンターテイメントである。

青年が宙に浮くシーンは美しく、スクリーンの魅力も堪能できる。

ワイヤーアクションなのである。

だが、どうやって撮ったのかと、想像が膨らんだ。

CG全盛の時代において、大いなる加点だ。

 

しかし、いかんせん、視界が揺れすぎるのでツラい。

おそらく、カメラ自体も浮遊感を表現させたかったのだろう。

『ホワイト・ゴッド』に続いて、今作もカンヌ映画祭に出品されて評判を呼んだそう。

ひと際、映画祭に好まれる作風かもしれない。

 

人は国家やしがらみや、何物・何者からも自由であるというメッセージは力強い。

空から見たら、国境は見えない。

終盤は、鮮烈。

 

東欧の小国で多民族国家でもあるハンガリーだから生まれ出た作品かと思うと、違和感も胸にストンと落ちてきた。

 

 

キャストとスタッフ

ハンガリー映画界にも名優は多いなと、感嘆した。

医師役のメラーブ・ニニッゼが、上手い。

本当にダメな男に見える。有り余る説得力。

 

シリア難民役のゾンボル・ヤェーゲルは芝居は良く、顔色が悪く、超能力設定もあいまって、エスパー伊東に見える。

両手を広げて「ハイ~」と言い出しそう。

ボストンバッグにも入れそう。って、フザケて、すみません。

 

彼らを追う国境警備隊のギェルギ・ツセルハルミが、いい!

実に味があり、哀愁も纏った大男。印象深い。

 

ここまでで、イケメンはゼロである。このキャスティングは好きだ。

 

ジェド・カーゼルの音楽が不穏で、耳に残る。

エイリアン コヴェナント』も担当していたと知り、大納得。

 

コーネル・ムンドルッツォ監督は、とにかく独特。

浮遊する男というSF要素と、ヨーロッパの難民問題を掛け合わせるなど、凡人には思いつかない筋立てだ。

浮遊シーンは美しく、見たこともない光景も現れる。

前作『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲(ラプソディ)』も気になってきた。

 

 

 

映画 スクリーン

 

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『ジュピターズ・ムーン』
Jupiter holdja/JUPITER'S MOON
2017年・ハンガリー/ドイツ
監督・脚本:コーネル・ムンドルッツォ
脚本:カタ・ベーベル
撮影:マルツェル・レーブ
音楽:ジェド・カーゼル
出演キャスト:メラーブ・ニニッゼ、ゾンボル・ヤェーゲル、ギェルギ・ツセルハルミ、モーニカ・バルシャイ

 

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