旅人日記 -9ページ目

南米脱出!

Caracas 朝9時より行動開始。
宿から歩いていける範囲で2~3軒周ってみるが、マドリッドまで片道で685USドル、往復で885USドルとやや高めである。
闇レートで両替したボリバーレス払いだとそれぞれ565USドル・730USドルくらいになるのだが、それでもちと高い。
しかも片道ではなかなか売ってくれない。
スペインの居住者以外には片道航空券を売ってはいけない決まりになっているのだとか。
もしそれで買っても、スペインに飛ぶ前にベネズエラ側で追い返されるとのことなのだ。

なんともバカげた話である。
同じようなことはパナマ⇔コロンビア間とか、アメリカやイギリス入国時などでちょくちょく耳にする。
片道航空券で飛んだのはいいけど、その先の国で入国拒否されてしまうという話だ。
その先から第三国へ出国する航空券があれば問題ないのだが、そうでなければその場で航空券を買わされたり、最悪の場合は入国できずに本当に追い返されたりするらしい。実際にそういう目に遭った旅行者に会ったこともある。
キャンセル可能な航空券をあらかじめ購入しておき、入国を果たしてからキャンセルするという手もあるのだが、一々そんな面倒なことやってられっか。
俺はこういう、バックパッカーの身の上をまるで考えていない制度が大嫌いである。

旅行代理店巡りを続ける。
学割が利く代理店が一軒あるはずなのだが、住所を頼りに探してみても一向に見つからない。
道行く人に尋ねまくるものも、みな知らないようだ。
しかたないので、とりあえず地下鉄で数駅離れた地区にある日本人経営の旅行代理店に行ってみる。
そこでは片道1281500ボリバーレスで売ってくれるとのこと。
闇レート計算で493USドルだ。悪くない。
「ただし、追い返されても責任は取らないからねー」とのお話。
よかよか。その辺りは自分でなんとかしよう。こっちも伊達に長いことパッカーやってるわけじゃない。口八丁手八丁ですり抜けるのはお手のものなのだ。

「明後日かそれか・・・今日の午後6時15分出発のがあるわよ」
へ?今夜発?間に合うのかそれって??
時計を見ると午前11時半。なんとかなりそうだ・・・。
どうせ明日には宿を追い出される身なのだ。別宿を探すのも面倒だし、この際だから今夜の便に乗ってしまうとしよう。
ある意味渡りに船である。こういった成り行き任せは大好きなのだ。

出発を決めたのはいいが、それからが大忙しであった。
宿に戻って、シャワーを浴びて、荷物をまとめて、チェックアウトして、一旦宿に荷物を預けて、闇両替商に行って大金を両替して、また代理店に戻って、航空券を購入。この時点で午後2時。
南米の最後にネットも少々しておきたいところだったが、どうやら余裕がなさそうだ。
さらに本日初の食事を取って、食料を買って、タバコも買いだめして、タバコ屋の娘の熱い眼差しに後ろ髪引かれながらもチャオチャオして、余ったボリバーレスを再両替して、宿に戻って荷物を取り出して、地下鉄と乗合いタクシーを乗り継いで、空港に着いたのは午後4時。なんとか間に合ったかな。

さてさて、問題はここからである。
チェックインカウンターに並ぶ列の入口で当然のように止められる。
女性係員が二人、代わる代わるに俺のパスポートと航空券を見ながら、
「この人、片道券よ」
「どうしましょう。外国人は確か往復じゃないと乗せられない規則だったわよね・・・」
などとささやきあう。
その間俺は聞こえない振りをしてニコニコ顔で静かに待機。
「失礼ですが、スペインから日本への航空券はお持ちでしょうか?」
うーん、やはり来たかー。ちと融通が利かなさそうな雰囲気だ。やばいな。
ワタシニホンジンアルネスペインゴサッパリヨン作戦でしのぐか。
いや、それだと上手くいく保証がない上に時間ばかりかかって手間取りそうだ。
ここは嘘八百&お涙頂戴作戦で行くとしよう。

「いえ、スペインからはポルトガルに行くんですよ。日本へはポルトガルから飛ぶ予定でして。スペインからポルトガルにはバスか列車で行くつもりです。そのチケットはスペインじゃなきゃ買えませんからね。当然持ってませんよー」
何の問題もなかろー、と純粋無垢な笑顔を投げかける。
「ポルトガルからのチケットはお持ちですか?」
やっぱりそう来るか。
「え?どうしてですか?ネットで買ったから手元にはないけれど・・・」
さーどう来る?
「スペインもしくは隣国からの出国券がないと搭乗できない規則なのです、お客様。ご購入の航空券はどちらの航空会社のものでしょうか?」
うーん、そうやすやすと突破させてはくれないか。間髪入れずテキトーに浮かんだ航空会社の名前をいう。
「ブリティッシュエアーです。リスボンからロンドン経由で東京へ行く便です」
「困ったわね・・・ブリティッシュエアーですって。この空港にはオフィスがないわ」
げ。あったら調べるつもりだったのか。危ねー危ねー。

ここらでこっちもちょっと攻めにまわってみるか。
「理解できません。どうしてそんなものが必要なのでしょう? クレジットカードもあるのです。先々で航空券が必要になればいつでも購入できるのです。日本人はスペイン入国にビザは必要ないですし、前回行った時も全く問題なかったのですよ」と、やや変化球気味にジャブ。
「そういう規則なのです。私たちもおかしいとは思うのですが・・・」
よし、多少は利いているかな・・・? 駄目押しにもういっちょうだ。
「インターネットに繋がるコンピューターはないのですか? あれば購入の証明をすることができるのですが」
ここにはそんなものなかろー、と高をくくった攻めである。なければ証明できないのはこっちの責任じゃなくなるというわけだ。
ま、見た感じ、コンピューターはチェックインカウンターにしか設置されていなさそうだし、それはさすがに一般人に触らせようとはしないだろう。
ちなみに、実際に予約してあるかのようなパソコンの画面をテキトーにでっちあげてプリントアウトしておけば、恐らくそれで問題なく通過することができたであろう。だが、今回はそんなものを用意する時間的余裕がまったくなかったのだ。

「2階にインターネットカフェがあります。そちらでお見せいただけますか?」
うぎゃ。あるのか。裏目ったなーこりゃ。こうなったらなりふりかまわず嘘八百を並び立てだ。
「いえ、インターネットカフェでは無理なのです。Webサイト上で購入したのではないため、私個人のIPアドレスに接続したメールソフトでないと購入した際のメールが開けないのです。ブラジルで購入した時は問題なかったものの、ベネズエラでは何度も試したのですが、どうしても私のサーバーのIPアドレスにアクセスできないのです。この国ではPOP3のプロトコル使用に何か制限でもあるのでしょうか?」
自分でもよくわからない発言をかましているものの、聞いている方はもっとわけがわかるまい。
ほーら、オネーチャンたちも困った顔してるぞー(笑)。

この辺りで彼女らの上司らしき男が登場。
英語が話せるとのことで、事情を英語で一気にまくしたてる。
「こんなことになるなんて全く想像もしていませんでした。本当に飛行機に乗れないのでしょうか?どうしても無理なんでしょうか??」
泣き落とし作戦に突入である。眉毛八の字にして涙潤々。自分でいうのもなんだがアカデミー賞ものの好演技だ。
それまで説明を無表情で聞いていたその上司、俺の泣きそうな目を見て、フッと微笑んだ。
「仕方ありませんね。大丈夫ですよ、ご心配なく」そういって航空券にサインをしてくれた。
「本当に?乗れるんですか?ありがとう!!」
何度もお礼を述べてチェックインカウンターへ。
ふー、これでなんとか第一関門突破。一時はどうなることかと本気で冷や冷やしたよ・・・。

その後は特に問題なく通過。無事飛行機に乗ることができた。
ちなみにサンタバーバラ航空という、あまり聞き慣れない航空会社。
ベネズエラの航空会社だけれど、社主はスペイン人で、でも使っている飛行機はなぜかアイスランド航空のもの、という何だかよくわからない飛行機であった。

明日のスペイン入国では第二関門があるのだろうか?
まーイギリスやアメリカほど厳しくはあるまい。何とかなるさ。
最悪ベネズエラに追い返されてしまったら・・・そん時ゃせっかくだから南米二周目に突入しちまおうかな(笑)

カラカス

重い腰をあげてようやく移動開始。
所要21時間の夜行バスだ。

ベネズエラの悪名高き「冷凍バス」は相変わらず健在であった。
外は半そでシャツで丁度いい夜なのだが、バスの中はロライマ山頂よりも寒ぃ。
がっつりと着込んだつもりであったが、面倒くさがらずに寝袋も出しておけばよかったと後悔。

眠れはしなかったものの、なんとか凍え死ぬことなく無事カラカス着。
これで南米をぐるっと一周したことになる。ちょっとした達成感。
地下鉄でグランサバナ地区に行き、以前利用した安宿に向かう。

カラカスは治安が悪い町なので、バスを乗り換えるだけで滞在せずにやり過ごしてしまう旅行者も多い。
だがこの町は南米の中でもかなり物が豊富に揃っている所で、値段も比較的安め。知る人ぞ知る買い物天国の町なのだ。
南米旅行中にくたびれまくった服や靴を買い換えるのに丁度いい。
2~3日滞在して、航空券を探す合間にのんびりと買い物しながら過ごすとしよう。

ところが宿に着くと、おばちゃん曰く
「2泊しか泊まれないわよ。明後日から予約で満室なの」とのこと。
うぎゃ。
ちなみにこの宿は1人だと1泊約12USドル。カラカスではおそらく最安(治安の悪い旧市街は除いて)。
明後日から他の宿に移るとしても、これ以上滞在費がかさむのは少々厳しいなー。
すでに日が暮れかかっているので今日はもう無理として、とりあえず明日からマドリッド行きの航空券を探すとしよう。
2日以内に出発できる航空券なんてあるのだろうか・・・?

しばらく先になるとしたら、いったんコロンビアに抜けてカルタヘナの「かめい旅館」で太郎さんお手製の和食を食べながらのんびりしてこようかなぁ。
そこまで行ったら、せっかくだからカリまで行って、南米終了記念としてはじけてくるのも悪くないよなぁ。
うーん、こんな調子で無事南米を脱出することができるのだろうか・・・?

チャオ!

困った・・・

山から下りてしらばくここサンタエレナの町で休養していたのだけれど、身体の疲れが取れた今もなかなか動き出せずにいる。
ロライマの感動があまりに大きすぎたためか、旅へ意欲が失われつつあるようなのだ。
この先どんな場所に行ってもこれ以上の感動は味わえないのではという思いから来る脱力感。
旅疲れ、ホームシック・・・もしかしたら長期旅行者の多くが患う一種の病にかかりつつあるのかもしれない。

・・・いや、違うな。
ロライマのせいじゃない。
きっと「南米」そのものが楽しすぎたんだ。
次の大陸への一歩がなかなか踏み出せないでいる。
日本が恋しいというよりも、南米から離れたくないという想いの方が強い。
この2年間で出会った多くの人たちの顔が浮かぶ。
みんなの笑顔が無性に恋しい。

むぅ・・・いかん、涙出そうだ。

立ち止まっていても始まらない。
後ろを振り返るのはやめて、ひたすらに前だけを見て歩くことにしよう。

この後カラカスからマドリッドに飛びます。
この旅で会った全ての人に感謝します。
全ての出会いに感謝します。
ありがとう。
またいつかどこかで会えることを祈りつつ。

チャオ!

ロライマの奇跡 ~最終日~

Roraima8-1 今日は麓のパライテプイの村まで歩いて戻るだけなのだが、緩やかな登りが続く道のため、少々きつい行程であった。
来た時よりもやや雲が多く、特に見るべきものはない道なので写真も撮らずにさくさくと進んでいた。

それでも途中二匹の珍しい生き物に出くわすことが出来た。
一匹目はサソリ。
体長5センチのなかなかの大物である。
これほど見事なサソリを野生で見るのは初めてだ。

二匹目は蛇。
最初全然気づかなかったのだが、水辺の近くを通りかかった時、
「うっわ!マサさん、下見て!」
という、すぐ後ろを歩いていたユキさんの声で地面を見たら、めちゃくちゃ気色の悪い蛇が、みみずのような毛虫のような動きで這っているではないか。
頭だけ白くて身体は黒く、気持ち悪いまだら模様。最初は巨大なヤスデか何かだと思い、鳥肌が立ちまくりだったけど、よく見るとチロチロと舌をだしているので、蛇の一種なのだろう。
爬虫類ならなんともない俺だが、蛇だとわかってもその動きはなんとも気色の悪いものだった。
後でホセにその写真を見せたら、毒蛇ではなく、原住民は酒に漬けて薬用に使うという貴重な存在だったらしい。
そうだったのか。捕まえてポーターにチップとしてあげれば喜ばれたかも知れないなー。

Roraima8-23時間半ほどで村に到着。
ホセの親父が来ていて、軽い昼食後に親父さんの運転でサンタエレナの町に帰還。

残りのガイド料の支払いを済ませ、ホセと別れる。
別れ際に各自が彼に渡したチップは10USドルずつ。
食費やポーター代が予想以上にかかったらしく、彼自身が期待したほど今回の収入は多くなかったようで、こちらも少々気の毒ではあったが、3人とも貧乏パッカー身分なので出費は出来る限り抑えたいところなのだ。
チップをあまり多くあげられなかった代わりに、他の旅行者たちにホセを雇うよう勧めることを約束する。
今回の旅は本当に大満足で終えることができたのだが、それも彼の力によるところが大きい。ちょっとお調子者で、水筒もタバコもヘッドランプすら自分のものを持ってこなくて俺らから借りまくりだったが、ガイドとしての仕事はきちんとこなす男である。もしこの日記を読んでロライマに登ってみたくなった人は、是非彼を雇っていくことをお勧めする。
連絡先は、えーっと・・・っておい、ホセお前、連絡先伝えるのを忘れてるよ・・・。
ま、そんなヤツではあるが、一つこのホセ・エンリー(Jose Henrry)に清き一票を俺からもよろしゅう。サンタエレナの町で誰かに聞けばきっと出会えると思う。
ちなみに次回からは6日コースで230USドル、8日間コースで260USドルで案内してくれるそうだ(ボリバーレス払い可)。

Roraima8-38日間の日程が全て終了。
宿の下の不味いと評判の中華レストランで祝杯をあげる。本当はもっとまともな店であげたかったのだが、他の店に比べればまだマシな方だったのだ。
それにしてもやっと文明圏に帰ってきたというのに、登山中の方がまともな飯を食べていたような気がするなあ・・・。


   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


細部をだいぶはしょったつもりでも、読み返してみたらかなりの長話になってしまった・・・。
全部読んでくれた人、お疲れ様でございます。

え?しょっぱなの妙な前振りは何だったのかって?
あれはわかる人にはわかる某京極夏彦作品のパロディにすぎないので気にしないでやっておくんなまし。
ホントは最初はあのままSF小説調に進めて、マワシをつけた47匹の恐竜を登場させようかとも思っていたんだけど、結局フツーの日記になっちまった。

最後に、この日記に登場するユキさん、トモ君、ロライマ本当に楽しかったねぇ!
道中色々とお世話になりました。この場を借りて感謝します!
二人ともこの先もよい旅を続けられることを祈りつつ。
ではまた!

ロライマの奇跡 ~7日目~

Roraima7-1 いよいよ下山である。初日のキャンプ場までいっきに下るのだ。
移動距離としては一番長い日だったが、体調も回復してきたし、ほとんど降り道ばかりなのでそれほどきつくはない。
とはいうものの、滑りやすい岩場も多く、あせって下って関節を痛めたり、足を挫いたりしないように慎重に進む。

ホセは今日も絶好調だ。鼻歌交じりに軽快に進んでいく。
何気なく世間話をしているうちに、各国からの旅行者の違いについての話になった。
「日本人が一番好きだよ。我慢強いし、静かだし、いつも笑顔だしね。二番目がスイス人、次がドイツ人かな」とホセ。
韓国人や中国人は?日本人と見た目は変わらないだろう?
「韓国人の相手はしたことがないなー。でも、中国人はあるよ。もう日本人とは文化が全く違うね、ヤツらは」
どう違うんだい?
「何をいうにも命令口調でね。あれしろこれしろって偉そうな連中だよ、ホントに」
ふーん、そうなんだ。
「最悪なのはなんといってもイスラエル人。俺が他のガイドよりもずっと格安な値段を提示しているのにもかかわらず、必ず『もうちょっとまけてくれよ』って値切ってくるんだぜ。ヤツらの相手をする時はいつも、ガソリンにいくら、食料これこれにいくら、ポーター代にいくら、って感じに全部明細に書いて見せてやらなきゃならないんだ。せこい連中さ。それでいて最後には『最悪の登山だった』なんてことをほざきやがる。最低だよ。他のガイドたちに聞いてみな。誰もがイスラエル人の相手なんてまっぴらごめんだっていうから」
よく耳にする話だなー、それは。

んじゃアメリカ人は?
「アメリカ人はそうだな・・・これさ」
といってホセは自分の股間を指差した。
「これ以下の連中だよ。ガハハハハハ」
その瞬間俺がにっこり笑ってホセと熱い握手を交わしたのはいうまでもない。

Roraima7-3 途中ちょこちょこ雨に降られはしたものの、無事キャンプ地に到着。
ビールで乾杯後、川で洗濯したり水浴びしたりして過ごす。
夕方に集団で飛ぶ鸚鵡の群れを見ることが出来た。野生の鸚鵡を見るのも初めてだったが、しかもそれが群れている姿を見れるとは・・・。飛び方は不恰好だが、鴛鴦のようにつがいになって飛んでいく様はなんとも微笑ましいものだった。 Roraima7-2

ロライマの奇跡 ~6日目~

Roraima6-1 ここ二晩ほどよく寝付けなかったこともあって、今日は体調が悪い。

頭痛がする上に食欲もない。
すでに俺らの分担の食料はなくなり、残りは全部ポーター持ちになっていて荷物はかなり軽くなっているのだが、いかんせん身体自体が重くて思うように足が前に進まない。その足も生乾きの靴下を履いているためやたらと臭い。

天気は快晴。
今日は移動日で、登頂初日に泊まった「砂のホテル」の近くまで戻るのだ。途中2箇所の見所に立ち寄る予定である。
重い上に臭い足取りだが、この好天候だ。頑張ろうじゃないか。

まず最初に「三国境合流地点」に着いた。
ベネズエラ・ブラジル・ガイアナの三国の国境が交わる地点に小さな三角錐の石碑が建っている。
それぞれの側面に水晶を使って「VENEZUELA」と「BRASIL」の文字をかたどっていた。
「GUYANA」の文字がないのは、この辺りのガイアナ領土をベネズエラも領有を主張しているからで、ベネズエラ側としては自分たちが建てた碑にガイアナの名を刻むことはできないということらしい。
それなら「三国境」という名称や、碑を建てること自体が矛盾しているような気がしないでもないが、この際それはどうでもいい。国境好きの俺としてはこういう珍しい場所は大好きなのだ。
できれば三国の国境警備兵が銃を持って立っていて、三つ巴でにらみ合っていたりしてくれたら面白かったのだが、さすがにそんなものはいない。
税関もなければ国境線も全く引かれていない。どっちを向いても同じ景色。何の変哲もない場所(ロライマとしてはだけど)にその石碑は静かに建っていた。

次に、昨日見たのと似ているが規模の小さい湖を見学。特に大した場所ではなかったので話ははしょる。

Roraima6-3 歩き続けることさらに数時間、大地の向こうに見覚えのある岩山の形が見えてきた。
「俺らが3日前に泊まっていたのって、あの岩山?」
とホセに尋ねると、
「こんな遠くからよくわかったな!そうだよ、あの裏さ。たいていのヤツはこの複雑な地形の中で自分のいる場所がどこだか全くわからなくなるものなのに、やるなあ!」
半ばあてずっぽうだったのだが、当たったか。
調子に乗ってもういっちょうかましておくとしよう。
「万が一、ガイドが途中で倒れたりしたら誰かがかわりに下山口まで誘導しなきゃならんからな。通って来た道や岩の形はできるだけ記憶しておくようにしてたのさ。これでも俺らの中では年長者なんだ。責任というヤツさ」
「ほー」とホセが感心の眼で俺を見る。よしよし。

本日の洞窟宿は「ホテル・インディオ」。
3日前の「砂のホテル」と同じ岩山なのだが、ずっと高い場所にある。
洞窟というよりは、岩山の中腹で迫り出している岩盤の上にテントを張る形で、天井にも同様の岩盤が屋根を形作っている。遠目から見ると崖の中腹で横一直線に削り取った形の穴といった感じだ。ちなみに「インディオ」の名称は穴を横から見ると原住民の横顔に見えることからきているらしい。

宿に着く頃には空は一面の雲に覆われていた。
天候の悪化とは対照的に、ホセはなぜか気分のりのりで、別の客を連れてきたガイドたちとはしゃぎまくっている。もうすぐ下山するからなのか、他のガイド仲間と出会えたことが嬉しいのか、よくわからないが、初日の頃の沈んだ雰囲気とは打って変わってのはしゃぎっぷり。他のガイド連中と比べてもちと浮いている気がする。「おいおい、食事中くらい静かにしろよー」と笑いながらたしなめられていたほどだ。ま、見ていて微笑ましいから許す。

昼食後に、近場だけどまだ行っていない地域にホセの案内で行ってみることに。
ロライマのすぐ北側に兄弟のようにそびえるクケナンのテプイを見に行くのだ。
だが、その方向を仰ぎ見ると一面濃い霧というか雲に覆われている。
「この天候ではほとんど見れないかもしれない。あそこは常に雲がかかっているんだ。あまり期待はしないでほしい」
ま、そんなもんだろ。別に見れなくてもかまわんよー。

小さな滝に立ち寄りつつ、目的の崖に辿り着く。
例によって下から雲がもくもくと湧き出しており、ほとんど何も見えない。下方からせり上がる雲の様子を眺めたりして、それでも結構満足していたところだ。
しばらくすると対岸のクケナン上方が徐々に晴れてきて、ホセがその上にあるという小さなラジオ塔を指差した。
やっと見つけたラジオ塔は遠すぎて針のよう見えた。
ユキさんやトモ君にもその針の方向を指し示したりしながら、3人ともその一点に集中していたため周囲の変化にしばし気づかないでいた・・・。

Roraima6-2 ふとホセが叫ぶ、
「見ろ!晴れたぞ!信じられない!奇跡だ!」
あ!本当だ・・・いつの間にか雲がすっかり消えているよ!
それは本当にあっと間の出来事だった。
ついさっきまで下界を覆い尽くしていた雲がまるで魔法のよう跡形もなく消えてしまったのだ。
すげぇ。信じられない。こんなことってあるのかよ・・・。
「俺はここに来るのはこれで241回目だが、こんなに晴れたのは初めてだよ!」とホセ。
「俺らは運がいいからなー。ついてるよホントに」
「違う。運じゃない。君らの姿勢がいつも前向きだからだよ。パチャママもテプイもそんな君たちを歓迎しているのさ」
お、なかなか気の利いたこといってくれるじゃないか。
ブラジル側の崖で見た景色と同様、下にはジャングルが。正面にはクケナンが完全に姿を現してどっしりと構えている。
今までに見た光景とあまり変わらないものの、やっぱり凄い。
朝から不調だった身体も軽くなっていく思いだ。

しかし、本当に奇跡のようなものを感じたのはその後だ。

写真を撮り終え、帰途につく。
50メートルほど進んだ辺りであっただろうか。
ふと崖の方を振り返ると、ほんのついさっきまで全開だったのに、見る見るうちに左右から雲が押し寄せ、あっというまに元の白い雲の壁になってしまったのだ。
全員かわるがわるに目を見合わせて絶句・・・。
まるで宗教映画か何かで奇跡が起こる瞬間の映像を見ているかのようだった。


「じ・・自動ドアじゃん」
「ガハハハ、その通りだ、自動ドアだ!」
「きっと俺らが戻ったらまた開くぜ、あの扉」
「開くだろうねー、きっと」
「すっげー、ホント信じられねーよ・・・」

ちょっと話が出来すぎているような展開に、俺自身身震いする思いだった。
ひょっとしたらこのくらいのことはそれほど珍しい現象ではなくて、ホセが俺たちを喜ばせるために大げさにいっているだけなのかもと、ちらっと思ったりもしたが、戻ってからホセが他のガイドたちや下山後に彼の父親相手に、興奮しながら自慢気に話していたところをみると、やはり滅多にありえないことだったのだろう。

これでロライマ山頂では見るべきものは全て見終えたことになる。
長かったようでもあるし、あっという間だった気もする。
明日からは下山だ。連日のテント生活で疲労気味の身体がベッドの上での心地よい眠りを恋しがっていた・・・。

ロライマの奇跡 ~5日目~

Roraima5-1 朝起きると、やはり靴下は乾いていなかった。それどころか干した時より濡れている気がする。
まあいい。今日は洞窟内にテントも荷物も置いたままで、ガイアナ側にある湖まで空身で歩く日なのだ。雨さえ降らなければ明日までには乾くだろう。

天気は曇り。霧はないので昨日よりだいぶ歩きやすい。
けれども、ところどころにある湿地では、気をつけていないとずぶずぶと泥沼にはまることに。
ホセが行く先々に飛び石を作りながら先導し、俺らはその上を跳びながら進む。

しばらくしてカコ川という小川に出た。
テプイの外壁で滝をなし、ガイアナ国内を通って大西洋まで続いている川の源流だそうな。川沿いに北上しながら歩く。
ホセ曰く、この川ではダイヤモンドが採れるとのこと。
「何っ!ダイヤモンドだって?」
3人の目がキラリと光り、一斉に川底の砂を掬いはじめる。
ホセが小さなダイヤの原石を掬い上げて見せてくれた。砂粒並みの小ささだ。
違う。俺らが欲しいのはもっとこう、とにかくデカイやつだ、わかるだろう?
砂が沈み溜まっていて、ありそうな雰囲気の場所を見つける度に底の砂を掬い上げ、手のひらの上で水の流れにさらしながら比重の重いダイヤを見つけ出そうと試みるが、残念ながらその後はホセでも見つけることができなかった。

Roraima5-2 その後、赤茶色の潅木が生い茂る谷間を抜け、広々として歩きやすい岩盤の上を通り、またもやいつ越えたかわからない国境を越えてガイアナ側へと進んでいく。

洞窟宿から数えて3時間後、目的の湖に到着。
広い岩盤に直径50メートルくらい穴が開いていて、その底に黄褐色の水を湛えた小さな湖がある。
想像していたほど見ごたえのある湖ではないが、とりあえずロライマの奥までやってきたのだという達成感は味わえた。
穴の縁に座りながらしばし休憩。

近くにある、8年前に墜落したヘリコプターを見に行こうとホセがいう。
行ってみると、そこには機体の残骸のほんの一部だけがゴミ山のような形で残っていた。
ホセはその一部をもぎりとり、自分のリュックに括りつけた。
こうして立ち寄る度に下界に運んで行き、みなで少しずつきれいにしていくのだそうだ。
なるほどね、感心感心。

カコ川まで戻り、ホセが昼飯を作る間に、俺らは下流の崖を見に行ったり、滝壺で水浴びしたりして遊んでいた。
昼飯後にゆるゆると来た道を洞窟宿へと引き返す。
帰りがけに、昨日のブラジル側の崖の方面を見上げると、どうやら多少の晴れ間がありそうな気配。もしかしたら今ならロライミーニャも見えるかもしれない。
ホセを先に宿に戻し、俺らだけで行ってみることに。

Roraima5-3 この辺りにも落ちている水晶を拾い歩きながら進み、崖の先に辿り着く。
前面の雲はスカッと晴れていて、下界の大地には見事に大ジャングルが広がっている。ロライミーニャのテプイもはっきり見ることができた。
遥か地平線のかなたには、遠くアマゾン河すらぼんやり見える・・・というのはさすがにウソだが、ホントに見えそうなくらい遠くまで果てしなく緑のジャングルが続いていたのだ。

この辺りの日程はいわばオマケのようなもので、もう十分見るべきものは見たし、別に雨が降ろうが雲に遮られようがかまわない気分でいたのだが、なんとなく俺らの行く先々で雲が避けていくような感じがしてきた。これだけ幸運が続くと後が怖い気すらしてくる・・・

ロライマの奇跡 ~4日目~

Roraima4-2 この日の天気は「雲」。「曇り」ではなく、もう完全に「雲」の中。
5メートルくらい先までしか視界が届かない中、荷物を担いでの移動日である。
岩でできた自然の迷宮や、様々な形をした奇岩の近くを通るものの、この天候ではあまりいい画にはならない。

だが、これが本来あるべき姿のロライマ山頂なのだろう。いままでの天候が良すぎたのだ。
道なき道を岩の上を飛び越えながら少しずつ進む。
ホセもよく迷わずに進めるものだ。この道20年の本領発揮といったところか。見直したぞ。

途中「クリスタルの谷」と呼ばれる地点を通過。
その名の通り、地面のいたるところに水晶が散らばっている。記念に形のいいものをいくつか拾っていくことに。
「下山時に見つかったら君らは100USドルの罰金で、俺は3ヶ月間ガイドの仕事が出来なくなる。だから・・・絶対誰にもいわないでくれよ(笑)」とホセは片目をつぶる。
ウンウン、そういう頭のやわらかい人間、俺は大好きだ。
約束しよう。絶対誰にも話さないよ。日記には書くけどねー。
それにしてもこんな場所に水晶が落ちているなんて、ちとびっくり。

Roraima4-3さらに進んで、線は引いてないけど国境を越えてブラジル側にある本日の宿に到着。
昨日と同じく岩山の中の洞窟宿だが、こっちはかなり広い。
中に入るとホセがいう。
「ようこそホテル・コアーティへ!」
コアーティとは中南米に棲むリスのようなネズミのような動物で大きさはウサギくらい。ジャングルの中をてとてと歩く可愛らしい生き物である。
「受付はどこですかー?」
「ホットシャワー付きのダブルルームはありますかー?」
などと冗談かましながらテントを張る。
「見ろよ。吹き抜けの天窓や、中庭まであるんだぜ」とホセが自慢げに続ける。
本当だ。
洞窟の一部が長い廊下のようになっていて、天井は岩の裂け目が廊下に沿って続いている。空が見え、地面には水が流れてちょっとした植物が生い茂っている。なかなかいい雰囲気じゃないか。気に入ったぞ。

宿に着いてすぐ大雨となったが、しばらくしたら止んだ。
昼飯後に外に出て、近くの池で水浴び。
周囲の霧がいい感じで湯煙情緒を醸し出してくれているものの実際にはめちゃくちゃ冷たくて5分と入っていられない。それでも汗を流せてさっぱりしたし、上がると体もぽかぽかしてきた。

Roraima4-1その後、ホセの案内でブラジル側の崖まで歩いていくことに。
またもや靄ってきて視界ゼロ。ホセなしでは無事に宿まで戻ることはできないだろう。
崖に着いても、その先は真っ白な雲が下からもくもくと沸いている状態。崖下は当然高さ1000メートルの絶壁のはずなのだが、見えないので怖くも何ともない。
そのうち晴れるかもと、しばらく待っていたが、逆にまた雨が降りだしてきた。4人で岩陰にまるまって身を隠し雨宿り。

ふと近くの地面に目をやると、そこには小動物の骨が。
全身骨格の標本のように、きれいな形で残っている。尾が長く、ぱっと見はネズミのものようだ。
ホセが慎重に調べながらつぶやく。
「ロライマにネズミ?聞いたことがない。それにネズミなら門歯があるはずだ。見てごらん。ギザギザの歯しか付いていないだろう。ネズミじゃない。だとしたら一体何の骨なんだ?」
「ひょっとしてまだ発見されていない新種じゃねーのか?」
「・・・かもしれない」
「よし、第一発見者の俺が命名してやろう。ロライマ・マサネズミだ」
「ハハハ、そうだな。新種のマサネズミだ」

その後もさらに雨宿り。
なかなか止む気配がなく、このままでは戻ることもできない。
ホセが持ってきたロンを回し飲みしながら体を温める。
トモ君がいう、
「パチャママに祈ったらどうかな?」
「そうだね、パチャママにもロンをおすそ分けしよう」
ホセがちびりとロンを地面に垂らす。
するとどうだろう。本当に正面の雲に切れ間が広がり始めたのだ。
「見ろ!パチャママのプレゼントだ!」とホセ。
オイオイオイオイ!こんな即効性の神様なんてホントにいるのかよーっ!
全景ではないものの、下まで見下ろすことができるほどになってきた。眼下にはブラジルの大ジャングルが広がっているのが
わかる。近くにあるはずの「ロライミーニャ(小ロライマ)」と呼ばれるテプイまでは見れなかったものの、それでも凄い。
雲の間の切れ間から薄っすらと垣間見える深緑の大地。写真には収めづらかったのだが、なんだか妙に神々しいものを見たような気分だった・・・。

また靄の中を引き返し、宿に戻る。
晩飯はミートソース・スパゲッティ。見ているとちゃんとホセが作っていた。
今日はこの深い霧の中、ちゃんと道案内できていたし、かなり見直したぞ、ホセ。へなちょこなんていって悪かったな。お前は立派な名ガイドだよ。

その夜は一晩中雨が降り続いていたようであった。
干してある靴下、きっと乾かないんだろうなー・・・。

ロライマの奇跡 ~3日目~

Roraima3-1 今日はいよいよ本格登山。
といっても絶壁をザイルを使ってよじ登るような、ファイト一発系の肉体技を使うわけではない。
崖の中腹の崩れた箇所に沿いながら、岩がごろごろ転がっている、いわゆるガレ場を登っていくのだ。

今日はまだ誰も上にはいないという話を信じるなら、上に着けばそこは俺らだけの独占テプイ

そこには俺らだけしかいないという最高の状態を味わえるはずだ。

想像するだけでわくわくしてきた。

朝食後、まだ準備の出来ていないガイドやポーターを残したまま俺らだけで出発。
その直前に下からドイツ人カップルが登ってきた。ここでしばらく休憩するようだが、もし途中で抜かれてしまったら俺らだけのテプイが・・・。
いやがうえでも気がはやる。

急勾配の道をほとんど休まずにがんがん登る。
ここまで登ればそう簡単には追いつけまい、という辺りで、小さな滝を発見。

そこで水を補給しつつ小休憩していると、上から別の一行が降りてきた。
おいおい、誰もいないんじゃなかったのかよー。

ひょっとしたら結構まだ残っているんじゃないか?やる気激減。

その後はしばらくちんたら登っていたものの、徐々に増えてきた珍しい植物や、眼下に広がる景色などで心楽しくなり、またさくさくと進む。
途中から雲の中に突入し、一時的に雨にやられもしたが、追いついてきたホセの「あと40分で頂上」という言葉に勢いづけられ一気に登る。
上を見上げるとまだ半分以上絶壁が続いていそうで、半信半疑だったものの、その後はホントにあっという間に頂上まで着いてしまった。
キャンプ場から結局3時間ほどで登れたことになる。

Roraima3-2 ロライマ登頂!!
俺たちはついにやったのだ・・・。

「うおおおおおおお!!!!」突き上げる衝動に駆られ、意味もなく叫び声を上げる。
するとホセが神妙な顔つきで指を口にあて、静かにしろと合図する。
「しーっ、大声を上げると雨が寄って来るんだ。本当だよ。俺はもう240回もここに登っているけど、こんなにいい天気の時は滅多にないんだ。静かにした方がいい」
単なる迷信か、それとも不思議な自然現象で本当にそうなるのかはわからないが、それよりも何よりも240回も登っているヤツがあんなにひーひーいってたことの方がよっぽど不思議である。ま、雨は降られないに越したことはないのでここは大人しく静かにするとしよう。

感動を分かち合いつつ、記念写真などを撮りながらまわりの景色を見渡してみる。
ちょっと言葉では表現しにくい異様な光景が広がっていた。
遠目から見た感じや、上空からの写真から想像して、平坦な大地が広がっているかと思いきや、黒い岩がゴツゴツと突き出ていて、その合間に薄桃色の砂地や、水溜りや、ほっとくとぴょんぴょん飛び跳ねそうなヘンテコな形の草が点々としている。
木々は見当たらない。なんとも茫漠とした世界。音もなく、ただひたすら静寂だけが支配している。

なんというか手塚治や松本零士の作品に出てきそうな世界。
地球上ではない全く別の惑星に降り立ったかのような錯覚を覚える。
もしここに目隠しをされて連れて来られ、意味もなく後姿のTプロデューサーに「ナメック星です」といわれたら、信じてしまう人もいるかもしれない。おっちょこちょいなヨシダ君なら確実に「え?マジっすか?」と聞き返しているところだ。
ヨシダ君については同期の日本旅館滞在者しかわからない内輪ネタで申し訳ないが、とにかくそのくらいもの凄い光景なのだ。
ちなみにヨシダ君は南半球では太陽は西から昇ると人から聞いて本気で信じていた愛すべき男である。

その場で軽い昼食を済ませ、今晩の宿となる洞窟を目指す。
着いてみると小さな洞窟(といっても吹き抜けていて天井も空に向かって広がっているので暗くはないのだが)の中に砂地が敷き詰まっていてた。「砂のホテル」という、なんとも小洒落た名前の場所だそうな。

Roraima3-3テントを張り、荷物を置き、ホセたちが飯の準備をしている間に俺らだけで周辺散策。
まず、登ってきた方角を見下ろせる絶壁の上に行ってみた。
崖の上に張り出した石の上から恐る恐る下を見下ろす。
遥か下方に黄緑色のサバンナが広がる。
吸い込まれそうで怖い。
立っている石そのものも空中に突き出た形になっているので、もしこの石が落ちたら・・・なんてことを考えるとめちゃくちゃ怖くて長居はしていられない。
長居はしていられないが、とりあえず石の先からケツをだして「高さ1000メートルのぼっとん便所」「1000メートルを落下する黄色い放物線」などのお約束写真だけは忘れずに撮っておいた。それはそれは雄大な図なのだが、品がなさ過ぎて人に見せられないのが残念である。

いったん洞窟に戻るが、飯はまだとのことなので、今度は絶壁の縁に立つ岩山に登ってみることに。
ホセにいわせると、その上が本当の頂上らしいのだ。
岩と岩の間の水溜りをぴょんぴょん飛び越えながら岩山のふもとに辿り着き、最後は少々よじ登るような形で上に到着。
そこからの眺めもまた言葉に尽くせないほどの絶景。
想像していただきたい。
巨人が左右に大きく手を広げるかのように絶壁の稜線が遠くまで延びている。その縁のまさに中心に自分が立っているのだ。眼前にはどこまでも果てしなく広がる緑の大地。そして後ろを振り返ればそこはナメック星。
ありえねー・・・。信じられねーよ、こんなの・・・。
いまだかつてこれほどまでに雄大な景色に出会えたことがあっただろうか・・・。
この時点で俺の中の満足度はすでに200%に達していた。

夜は夜でまたもや満天の星空。
洞窟からでは全体は見えないものの、星を眺めながらの晩飯は美味いものだ。
ふとユキさんが突然「あ!流れ星!」と叫ぶ。
普通の流れ星なら、その声を聞いた他の人が振り返る間にすでに流れてしまっているはずなのだが、その流れ星は異常に長く続いた。角度にしたら45度は流れ続いていたはずだ。
そんなバカなと思う人もいるかもしれないが、これはもう信じてくれとしかいうしかない。とにかくバカでかい流星だったのだ。
なにしろ「あ!流れ星!」という声の後に
「え?マジ?」
「あ、ホントだ!」
「スッゲー!めっちゃ流れてる」
「うわっまだ消えないよ・・・」
と他の人の言葉が続いた後にようやく、すっと消えたのだ。
しかもさらに信じがたいことに、しばらくしてまた同じくらいの流星が。
ありえがたい幸運に感謝して、ロン(ラム酒)を入口の岩に少々降りかけて一同で大地の神パチャママに祈りを捧げる。

晩飯後、入口付近にマットを敷いて横になり、ひたすら流れ星を待ち続ける。
二度あることは三度あるというものだ。先の二つでは咄嗟のことで忘れてしまった願い事を唱えるためだ。
俺の願い事はすでに決まっている。
「セカイガヘイワニナリマスヨウニ」だ。
だが、さすがにこれでは長い流星だとしても、三回唱えきれるかどうか微妙なところだ。もっと短めのものに変えたほうがいいだろう。しかもここはベネズエラである。日本語ではなくスペイン語で唱えるのがスジというものだろう。
「チカボニータ、チカボニータ、チカボニータ、ポルファボール!」
よし、これならばっちりだ。

準備万端で待ち続けたものの、残念ながらその後流星は現れてくれなかった。
しかたない。世界の平和は自力でなんとかするとしよう。
チカボニータの方は随時募集しておりますのでそこのところよろしく。

ロライマの奇跡 ~2日目~

Roraima2-1 見事な快晴だ。
キャンプ場からは近くの丘が邪魔をしてロライマそのものの姿はよく見えないが、その隣のクケナンのテプイは稜線をくっきりと現してくれた。

朝食を取り9時に出発。
途中から曇りがちになってきたものの、その方が暑くなくて歩きやすいというものだ。
この日は全体的に緩やかな登り。橋のない川や草原の中の丘を越えながらまっすぐテプイに向かって歩く。
相変わらずホセは遥か後方だ。お前は料理人なんだからちゃんと俺らの昼飯に間に合うように着いてきておくれよー。

昨日も今日もトレッキングとしてはかなり初心者向けの行程。
村から2泊3日で頂上を目指すのが一般的で、俺らの行程もそうなっているのだが、ゆっくり歩いているのに一日につき4~5時間くらいしか進まない。元鯨漁師のカポエリスタであるマチダさんなら鼻歌交じりにジンガ踏みながら一日で全部登ってしまえそうな気がする。年配の客を考慮してなのか、それともガイドやポーターたちがシエスタ(午睡)を取りたいがためなのかはわからんが、中年に片足つっこんでる俺や、ボゴタで沈みまくって筋力が衰えているユキさんには丁度いい楽さ加減である。

Roraima2-2 5時間かけてキャンプ場に到着。
ここはもう崖にかなり近い場所である。眼前に聳える絶壁がすぐ間近に迫っている。上の方は雲に覆われていて見えなくなっているが、それでもかなりの迫力である。

昼飯後に近くの小川で洗濯を兼ねて水浴び。
話によると今登っているのは俺らだけで、山の上には誰もいないとのこと。小川はトレッキングの道と交わっていたのだが、他の登山者の目を気にすることなく、まっ裸で気持ちよく水浴びすることができた。かんなり冷たかったけどねー。

夕方、近くの岩の上で三人で夕陽を眺める。
背後に聳え立つ1000メートルの絶壁を紅々と照らす。それまでテプイの上方を覆っていた雲もすっと消えていった。
素晴らしい。まことに見事な光景だ。
この地方は通年雨の多い土地として知られ、たいていの登山者は毎日のように雨にやられているのだ。ここまで晴れ間が続くのはかなりの幸運といえよう。この時点でもう満足度80%である。明日から雨続きになったとしても、もう何の文句もないよ。

Roraima2-3 夜はまた満天の星空。
T君が集めてきてくれた枯れ枝で焚き火をした。
すでに標高1800メートル。ここまでくるとかなり冷え込むので、炎の温かさ身に染みる。
晩飯は挽肉のパスタ。またもや美味。やるなホセ。
と思ったら、トモ君がいった。
「さっき見てたら、ヤツは隣で寝ていて、ポーターが全部作ってたみたいですよ」
む?ひょっとして昨日の飯もポーター任せだったのか??
ホセのへなちょこガイド疑惑、いまだ晴れず。