ロライマの奇跡 ~3日目~ | 旅人日記

ロライマの奇跡 ~3日目~

Roraima3-1 今日はいよいよ本格登山。
といっても絶壁をザイルを使ってよじ登るような、ファイト一発系の肉体技を使うわけではない。
崖の中腹の崩れた箇所に沿いながら、岩がごろごろ転がっている、いわゆるガレ場を登っていくのだ。

今日はまだ誰も上にはいないという話を信じるなら、上に着けばそこは俺らだけの独占テプイ

そこには俺らだけしかいないという最高の状態を味わえるはずだ。

想像するだけでわくわくしてきた。

朝食後、まだ準備の出来ていないガイドやポーターを残したまま俺らだけで出発。
その直前に下からドイツ人カップルが登ってきた。ここでしばらく休憩するようだが、もし途中で抜かれてしまったら俺らだけのテプイが・・・。
いやがうえでも気がはやる。

急勾配の道をほとんど休まずにがんがん登る。
ここまで登ればそう簡単には追いつけまい、という辺りで、小さな滝を発見。

そこで水を補給しつつ小休憩していると、上から別の一行が降りてきた。
おいおい、誰もいないんじゃなかったのかよー。

ひょっとしたら結構まだ残っているんじゃないか?やる気激減。

その後はしばらくちんたら登っていたものの、徐々に増えてきた珍しい植物や、眼下に広がる景色などで心楽しくなり、またさくさくと進む。
途中から雲の中に突入し、一時的に雨にやられもしたが、追いついてきたホセの「あと40分で頂上」という言葉に勢いづけられ一気に登る。
上を見上げるとまだ半分以上絶壁が続いていそうで、半信半疑だったものの、その後はホントにあっという間に頂上まで着いてしまった。
キャンプ場から結局3時間ほどで登れたことになる。

Roraima3-2 ロライマ登頂!!
俺たちはついにやったのだ・・・。

「うおおおおおおお!!!!」突き上げる衝動に駆られ、意味もなく叫び声を上げる。
するとホセが神妙な顔つきで指を口にあて、静かにしろと合図する。
「しーっ、大声を上げると雨が寄って来るんだ。本当だよ。俺はもう240回もここに登っているけど、こんなにいい天気の時は滅多にないんだ。静かにした方がいい」
単なる迷信か、それとも不思議な自然現象で本当にそうなるのかはわからないが、それよりも何よりも240回も登っているヤツがあんなにひーひーいってたことの方がよっぽど不思議である。ま、雨は降られないに越したことはないのでここは大人しく静かにするとしよう。

感動を分かち合いつつ、記念写真などを撮りながらまわりの景色を見渡してみる。
ちょっと言葉では表現しにくい異様な光景が広がっていた。
遠目から見た感じや、上空からの写真から想像して、平坦な大地が広がっているかと思いきや、黒い岩がゴツゴツと突き出ていて、その合間に薄桃色の砂地や、水溜りや、ほっとくとぴょんぴょん飛び跳ねそうなヘンテコな形の草が点々としている。
木々は見当たらない。なんとも茫漠とした世界。音もなく、ただひたすら静寂だけが支配している。

なんというか手塚治や松本零士の作品に出てきそうな世界。
地球上ではない全く別の惑星に降り立ったかのような錯覚を覚える。
もしここに目隠しをされて連れて来られ、意味もなく後姿のTプロデューサーに「ナメック星です」といわれたら、信じてしまう人もいるかもしれない。おっちょこちょいなヨシダ君なら確実に「え?マジっすか?」と聞き返しているところだ。
ヨシダ君については同期の日本旅館滞在者しかわからない内輪ネタで申し訳ないが、とにかくそのくらいもの凄い光景なのだ。
ちなみにヨシダ君は南半球では太陽は西から昇ると人から聞いて本気で信じていた愛すべき男である。

その場で軽い昼食を済ませ、今晩の宿となる洞窟を目指す。
着いてみると小さな洞窟(といっても吹き抜けていて天井も空に向かって広がっているので暗くはないのだが)の中に砂地が敷き詰まっていてた。「砂のホテル」という、なんとも小洒落た名前の場所だそうな。

Roraima3-3テントを張り、荷物を置き、ホセたちが飯の準備をしている間に俺らだけで周辺散策。
まず、登ってきた方角を見下ろせる絶壁の上に行ってみた。
崖の上に張り出した石の上から恐る恐る下を見下ろす。
遥か下方に黄緑色のサバンナが広がる。
吸い込まれそうで怖い。
立っている石そのものも空中に突き出た形になっているので、もしこの石が落ちたら・・・なんてことを考えるとめちゃくちゃ怖くて長居はしていられない。
長居はしていられないが、とりあえず石の先からケツをだして「高さ1000メートルのぼっとん便所」「1000メートルを落下する黄色い放物線」などのお約束写真だけは忘れずに撮っておいた。それはそれは雄大な図なのだが、品がなさ過ぎて人に見せられないのが残念である。

いったん洞窟に戻るが、飯はまだとのことなので、今度は絶壁の縁に立つ岩山に登ってみることに。
ホセにいわせると、その上が本当の頂上らしいのだ。
岩と岩の間の水溜りをぴょんぴょん飛び越えながら岩山のふもとに辿り着き、最後は少々よじ登るような形で上に到着。
そこからの眺めもまた言葉に尽くせないほどの絶景。
想像していただきたい。
巨人が左右に大きく手を広げるかのように絶壁の稜線が遠くまで延びている。その縁のまさに中心に自分が立っているのだ。眼前にはどこまでも果てしなく広がる緑の大地。そして後ろを振り返ればそこはナメック星。
ありえねー・・・。信じられねーよ、こんなの・・・。
いまだかつてこれほどまでに雄大な景色に出会えたことがあっただろうか・・・。
この時点で俺の中の満足度はすでに200%に達していた。

夜は夜でまたもや満天の星空。
洞窟からでは全体は見えないものの、星を眺めながらの晩飯は美味いものだ。
ふとユキさんが突然「あ!流れ星!」と叫ぶ。
普通の流れ星なら、その声を聞いた他の人が振り返る間にすでに流れてしまっているはずなのだが、その流れ星は異常に長く続いた。角度にしたら45度は流れ続いていたはずだ。
そんなバカなと思う人もいるかもしれないが、これはもう信じてくれとしかいうしかない。とにかくバカでかい流星だったのだ。
なにしろ「あ!流れ星!」という声の後に
「え?マジ?」
「あ、ホントだ!」
「スッゲー!めっちゃ流れてる」
「うわっまだ消えないよ・・・」
と他の人の言葉が続いた後にようやく、すっと消えたのだ。
しかもさらに信じがたいことに、しばらくしてまた同じくらいの流星が。
ありえがたい幸運に感謝して、ロン(ラム酒)を入口の岩に少々降りかけて一同で大地の神パチャママに祈りを捧げる。

晩飯後、入口付近にマットを敷いて横になり、ひたすら流れ星を待ち続ける。
二度あることは三度あるというものだ。先の二つでは咄嗟のことで忘れてしまった願い事を唱えるためだ。
俺の願い事はすでに決まっている。
「セカイガヘイワニナリマスヨウニ」だ。
だが、さすがにこれでは長い流星だとしても、三回唱えきれるかどうか微妙なところだ。もっと短めのものに変えたほうがいいだろう。しかもここはベネズエラである。日本語ではなくスペイン語で唱えるのがスジというものだろう。
「チカボニータ、チカボニータ、チカボニータ、ポルファボール!」
よし、これならばっちりだ。

準備万端で待ち続けたものの、残念ながらその後流星は現れてくれなかった。
しかたない。世界の平和は自力でなんとかするとしよう。
チカボニータの方は随時募集しておりますのでそこのところよろしく。