都があった京都。外は雨が降り、

雪が降っているところもある。

紫式部の「源氏物語」の姫君・未摘花

(すえつむはな)。

 

源氏は19歳のとき。   

源氏の乳母のひとりの娘(命婦)から

常陸の宮家の姫君(未摘花)の話を聞く。

 

娘の命婦がいうには、常陸の宮の晩年に

生まれた姫の未摘花(すえつみはな)は、

父は最近亡くられ、母君も昔に亡くなら

れ、今はひとりで淋しく暮らしているそ

うだ。

 

源氏は、友人の頭中将と「雨夜の品定め」

を思い出し、好奇心をかきたてられる。

お顔はよくわからないが、淋しいとき、

古い弦の琴をひき、古風な方だという。

 

 

朧月夜の頃、色好みの命婦と示し合せ、

常陸の姫君(未摘花)の宮家へ出かけた。

荒れ果てた屋敷で、夜なのに格子も下さ

ず、姫君は外の梅を見、梅の香りが漂っ

てくる。姫君の琴の音が聴こえる。

源氏は命婦におそばへ行き、あいさつは

できないかというと、恥ずかしがりでか

わいそうだから…と言われて帰るが、こ

のあと再度姫の姿を見ようと戻るが、友

人の頭中将に出合ってしまい、この日、

源氏は姫の姿も観れずに、ふたりで左大

臣邸にゆく。

 

春。源氏はおこり病を治すために北山の

僧都のところへゆき、山寺で寝ていた。

夏には藤壺の宮のことがあって、悩みは

深く、末摘花のいる常陸の宮家には足が

向かなかったが、末摘花の姫にはこまめ

に手紙出していたが返事は全くなかった。

 

宮中で会った頭中将に、返事は来たかと

問われる。源氏と頭中将は、互いに先を

こされるまいと、ひとりの姫君をめがけ

て張り合う。源氏は、再度あの命婦に頼

み込む。

 

命婦はある秋の晩に末摘花の姫君と昔ば

なしをしている。そこへ、門へ出た女房

が「源氏の君が急にお渡りになりました」

と、知らせる。姫君はお客様とお話など

と後ずさりをするところを、命婦は、黙

って話を聴くだけにとすすめ、部屋の襖

を閉め、その手前に席を設けた。

 

そこへ源氏の君が案内され入ってくる。

源氏はいつにまして美しく装っていた。

艶な貴公子の風情の源氏の姿に、屋敷の

歳いった女房や若い女房らが、あ然と見

とれている。

源氏は、姫君にこれまで手紙で心の内を

伝えてきたが、お気持ちの一端でもお明

かしくださいと懇願すれど、襖の向こう

の末摘花は無言だった。

 

そばにいた女房の侍従の君は、これでは

源氏が気の毒だと思い、「世づかぬわた

しでございますから、お返事の申しよう

もわかりません。」と代わって言う。

その後も言葉をつくして源氏が心の内を

と、頼むが一向に返事はなかった。

そこで、源氏はすっと立ち上がり、あい

だの襖を自分で開けて入ってしまう。

 

命婦はびっくり、気をきかし、その場

を外す。まわりの女房たちも、咎めも

できず、素知らぬ顔をして出てゆく。

いつの間にかまわりには人がいなくな

った。

 

源氏は、心をつくし、優しい言葉で、

真っ暗ななか、姫君を抱く。

姫君は黙って身をまかせたままで、

さらに手厚くふれてゆくが、あなが

うこともなく、生身のからだが感じ

るという様子もなく、一度もかの女

の声を耳にすることもなかった。

源氏は、首を傾けながら、屋敷をあ

とにした。

 

女のもとへ行った翌日。夕方に今日は

雨ですから行けませんという手紙をだ

すと、姫君からわたくしの方こそ涙に

くれておりますわとの才気も情もない

返事。

 

それから後、忙しくもあり常陸の宮家

へ行かなかった。すると命婦に、あん

まりだといわれ、源氏は出かけた。

二度目も同じで、まったく喋らず、無

反応で、供寝しても暗く、顔も見られ

なかった。

 

ある晩。源氏はいつもより早く出かけ

た。出入り口からのぞくと、女房たち

がご飯を食べながら雪になるのではと

言い、貧しい食事をとっていた。

その夜、いつものように無反応、無抵

抗の姫君を抱いていると、雪が降り出

してきた。

 

明け方、源氏は手ずから格子を上げる。

一面に雪景色。荒れた庭も、この朝ば

かりは美しい。

 

 

 

老いた女房たちは姫君に、いつまでも、

もじもじなさってはいけません、「素直

なのが一番ですよ」と言い、おそばへ出す。

 

格子をあげるので辺りが手にとるよう

に見える。源氏の好奇心は。

「姫がどんなお顔をだろう」と、はち

きれんばかりだった。

 

その顔は、普賢菩薩が乗ったような、

末摘花のようであった。

普賢菩薩が乗った象のような長い鼻で、

その鼻の先は寒さのせいか、末摘花の

よう真っ赤であった。

その源氏。姫君の黒髪は裾より長かった。

非の打ちどころがない女はいないように、

一点のいいところもない女もいない、

というのは「雨の夜の品定め」でいわれ

たけど、この姫君も髪だけは美しいので、

気を取りなおす。そして歌を詠む。

 

朝日さす 軒の垂氷(たるひ)は解けながら

 などかつららの 結ぼほるらむ

朝日あたってつららが溶けていますよ。

このつららのようにあなたの心も溶けて、

何か言ってくださると嬉しいんだが。

 

姫君は「むむ」と笑うばかりで、何の

返事もなかった。

 

源氏はこのあと、常陸の宮家へ何かと援

助することを欠かさなかった。

その頃二条邸では、紫上が可愛く育って

いる。

源氏は、紫の君の桜色の頬を見、末摘花

の花の色でもこんなに可愛い紅色もある

んだなと、紫の君と絵を描いて遊ぶ。

二条邸は、うららかな笑い声で包まれていた。

 

 

 

2023.1.28

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