「源氏物語」の主人公・光源氏は、

紫上が病で亡くなり、嘆き悲しみ、

管弦の遊びもせず、茫然自失。

 

ひとは、あれだけ光輝いていた人が、

仏のような心境になり、ただ女性関

係で苦しめたことを悔い、謹業に打

ちこむ日々をおくる。

 

紫上の一周忌が過ぎ、年の瀬だった。

光源氏(52歳)はついに出家を決意

した。源氏亡き後。もう源氏のよう

な人物は、これ以後はいないという。

 

光源氏は、生涯、結婚していない女性

と「源氏物語」のなかで恋仲、密会、

言い寄り、そして恋し契りを結んだ

女性は十数人に及ぶ。

光源氏の、光輝いていたときこそを

みてみたい。

 

ー光源氏と空蝉ー

光源氏17歳、雨あがる夏。

源氏中将は、夏の夜、紀伊の守邸に寄

り、泊まることになる。

 

酒が振舞われ、話題は紀伊の守の父・

伊予の介の後妻の話に及ぶ。

紀伊の守の父(伊予の介)は遠い地に

赴任中、その妻・北の方の空蝉とは、

年が親子ほど違うそうだ。

源氏は「そんなに美人か」というと、

そばにいた少年が、昼間、空蝉に「源

氏の君を見たが、やっぱり綺麗な方だ

った」というと、空蝉は昼間だったら

「そっと覗くんだけど」とこたていた

と聞く。

 

夜が更けて「中将の君はどこへ行った

の」という空蝉と侍女が「お湯を使い

に」のねむたそうな声が寝室にいる源

氏にきこえてくる。

 

そこで源氏は、掛け金をはずし、そろ

りと襖を開けた。隅の方に小さな灯が

ひとつだけあり、薄暗い中、華奢な女

が着物をかぶって横になっている。

空蝉は、隔てた部屋に源氏が戻ってき

たばかり思っている。

 

突然、空蝉は被っている衣をとりはら

われる。このとき、源氏は「中将をお

呼びになったのでしょう、だから参り

ました」という。

空蝉は「何をなさいますの。お人違い

でしょう」と、押すように拒み、あな

がうが、源氏は抱きかかえ「わたしは、

前からあなたに憧れていました。やっ

とお会いできた。御仏の導きです」と、

単衣を剥いでゆく。

 

 

源氏は、辛そうに泣いている空蝉を見て、

言う。「私の人生とあなたの人生が交差

した一瞬の人生の歓びというように考え

てください」と。

 

これに空蝉は、もし私が娘の身で、親の

家に居て年に二、三回会えるなら、今夜

のこの契りにも希望が持てるでしょう。

でも、私はもう伊予の介の妻ですもの。

将来にどんな希望ももちようがないので

す。今夜のことはどうぞお忘れください。

と、言う。

 

抵抗する空蝉を無理やり自分のものにし

た。空蝉は、身分が低いものにも、それ

相応の生き方があると、毅然と源氏をな

じる。

 

たしなみ深く品のある空蝉。

空蝉を忘れられない源氏。

源氏は空蝉の弟の小君を使い、手紙を

ことづける。「夢か幻か、あの一夜の

ことが忘れられない。ぜひ、もう一度

お目にかかりたい」と。

これに空蝉は返事せず。源氏は、まる

で帚木(ははきぎ)のような方ですね

と、歌を書き、空蝉に届ける。

 

帚木の 心を知らで そのはらの

 道にあやなく  まどひぬるかな

 

あなたは わたしが行くたびに隠れてし

まう。ついに私の手に入らない方なんで

すね。と、源氏は、信濃の国に箒を逆さ

にした形の樹があり、遠くからは見える

けど、近くに寄ると見えない言い伝えの

箒木を空蝉に喩えている。

 

セミの一生は短くはかない。

 

 

人間の一生もそうで、「源氏物語」には

空蝉が歌に詠まれる。

 

空蝉の 世は憂きものと 知りにしを

また言の葉に かかる命よ

 

空蝉のようにはかない男女の仲、

恋は憂きものと想い知ったはずなのに

またそれにすがっていきたいと思う。

男と女性の不可解な物語。

 

2023.1.26

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