剣ヶ峰に行かない・お鉢めぐりをしない・富士登山
私たちは富士山頂に登頂し、山梨県側から静岡県側に移動しながら剣ヶ峰の行列を眺めていました。
今回は剣ヶ峰での記念撮影とお鉢参りをしない山行予定を立てました。
最初から決めていたことです。遠くから馬の背を眺め、昨年の大変さについて思い出がよみがえります。
「今回はいいよね。」お互いを思いやります。静岡県側から御前崎や箱根がきれいに見えるはずだが、空と海の境は不明瞭で、グレーの濃淡のガスが立ち込めています。先ほどのALSOCKのおじさんが大きな声で叫んでいました。『御殿場に雨雲が発生しているから早く下山を!』その通りでしょう。私たちが宿泊先の富士一館でもきれいに見えたであろうご来光を、少しでも高い標高で見ようと思ったのは、本日夕方の雷発生の予報があったからです。山にいる人が言うことだから間違いないです。
来た道を戻り最初の登頂口に辿り着きました。山梨県側は晴天です。日差しが眩しく、空も青く雲海が眼下に広がり、一面光に満ちています。穏やかな山頂です。下山前に、アリナミンのゼリー飲料とクエン酸チャージのスティックを取り出します。水分、塩分、糖分、炭水化物、エネルギー、今回は摂取することに留意しお互いに声を掛け合いました。
山小屋の数が極端に少なくなる吉田口下山道です。天気も心配です。何事もなく下山したいと願います。アサギマダラが目の前を舞っています。ひらひらと舞う蝶々を眺めました。山頂は人にとって過酷な環境なのに優雅な姿で舞っていました。アミノ酸が身体にいきわたります。
吉田口の頂上は久須志神社がまつられている久須志岳です。そこから成就ヶ岳、伊豆ヶ岳、朝日山、御殿場口を下に見て浅間大社奥宮を通過し富士宮口にある富士山頂郵便局を折り返して戻ってきました。このまま時計回りに進めばお釜の周りを一周するお鉢めぐりとなります。
剣ヶ峰に建てられた富士山頂測候所を、富士山頂の火口から眺めていました。砂礫の急登に人影が見えます。馬の背の終わりに行列を確認しました。撮影スポット行列です。知っているからこそ今回は止めました。
10時半頃、私たちは山頂を下り始めます。
慎重です。強い日差しに遮るものは何もありません。青い空と白い雲と赤い登山道です。吉田口の下山道は、山で働き救護者も乗せる重機が通るので幅が広いです。九十九折りに作られた登山道は、急な坂道のようで場所によってその急さも増します。足元は流動的な砂礫で石も多いです。登りとは違う単調な景色、足元で舞う砂埃、膝が悲鳴を上げます。歩幅が小さくなります。永遠ともつかない砂道が続きます。
目の前で何人かの人が尻もちをつきました。
痛そうです。はやる気持ちが一転、途端に慎重になります。反面、軽やかに走っていく人がいます。その重心を操る美しい登山者の動きに、足が止まります。早く下りたい、気持ちが先走ります。
人工的に作られた登山道からは登りのルートが見えます。これから山頂に向かう人、山小屋に向かう人、たくさんの人が富士山に想いを馳せています。下り道、気持ちを残したままどんどん遠くなる山頂、富士登山が終わってしまいます。何とも言えない心の動きに、自分が忙しいです。転びたくない、この坂道早く終わってほしい、富士山が終わってしまう!あぁ。
長い時間、足元の砂道と自分のバランスに気を取られていました。彼が何か話しています。眼下に緑が見えてきます。6合目が近いようです。気が付いたら、私たちは淡くて濃いグレーのガスに包まれていました。火照った体に優しいミストです。
6合目からは無料ガイドさんが案内してくれた内容が頭を横切ります。いくつかのシェルターをくぐります。富士の山肌が美しい緑の濃淡に覆われています。淡いグレーのガスと白い雲の境界線はあいまいで、見上げると隙間から青い空が見えます。富士の姿は見えません。
空気が違います。景色が変わります。木々に包まれました。足元の登山道は整備されている最中です。台風の影響で崩れた道でした。こんなにも早く整備されます。誰かに支えられている富士登山です。富士を守ろうとする人たちの足跡をみました。富士を思う人の影があります。
そうだ、ここから登り始めました。昨日見たはずの景色でした。紫のアザミがはちきれんばかりに咲いていました。昨日見た景色でした。
私たちは最後のおやつをここで食べました。富士で食べる最後の行動食です。
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