◆石川知裕『悪党。小沢一郎に仕えて』を読み解く
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石川知裕氏は、1996年から2005年まで小沢一郎氏の秘書を務めた。
2005年の衆議院議員に出馬、落選。
2007年に繰り上げ初当選、2009年に再選。
北海道知事選挙にも、出馬。
★要旨
・私は小沢一郎に20年近くも仕えてきた。
その日々をある人は「薫陶」と呼び、ある人は「洗脳」と呼ぶ。
カネを増やし、子分を束ね、権力を自ら握って、世の中を動かそうとする。
たとえ少数派であっても、流れに抗うことをいとわない。
謀略の限りを尽くし、敵と見なした勢力を奈落の底に追い込む。
しかし、いつも最後は、英雄になれない。
人は、そんな小沢一郎を「悪党」と呼ぶ。
・小沢は携帯を持たない。
持とうとしない。
いわゆる「小沢の携帯」と言われるものは、随行する秘書が持っている。
政財界の著名な方々の電話はそこにかかってくる。
・小沢が海外に独自のパイプを築いているのは、日米経済摩擦の経験があるからだ。
当時、官房副長官として交渉に当たった。
ところが政府のスタッフが通訳するとなぜか意図が正確に伝わらない。
思わぬ情報が外部に漏れていることもあったようだ。
そういう疑念が積もり積もって、海外に行く際に外務省のアテンドを断り、独自の人脈に頼る。
・小沢事務所に一定期間勤めると、どんな大物に付いても期待以上の仕事をこなせるようになる。
反対にお茶くみもできない人間に、人の心も、国家も、動かすことはできない。
小沢一郎は秘書の前でよくこうこぼしていた。
「庭掃除もできない人間には日本の大掃除もできない」
・小沢家の台所にはこんな決まりがある。
洗剤はできる限り使わない。
台所でお皿を洗っていると小沢からボソッと「使うな」と小言を言われた。
・住み込み書生第一号の藤原良信参院議員からこんな伝説を聞いたことがある。
岩手では日本酒が飲めないと政治家は務まらない。
会合という会合で酒をすすめられることになる。
集まった一人一人からお猪口になみなみと酒を注がれ、一気に空けるのが礼儀だ。
そんな日は、会合をはしごする小沢の車には、必ず用意しなければならないものがあったという。
塩水を入れたやかんだ。
一つの会合を終え、見送りの人が見えなくなった辺りで、小沢はこう指示する。
「ここで止めろ」
小沢はドアを開け、やかんの塩水を口へ一気に流し込む。
すると、先程、支援者から頂いた酒が口から全部出てくるのだ。
吐くのである。
「口から弧を描くようにきれいな線になって出てくる」という。
・小沢の頭の中には「どの選挙区でも過半数の議席を取る」という鉄則がある。
「誰がなるか」よりも「党として何票取れるか」を考える。
・私は2000年9月から事務所で企業回りを任されていた。
パーティー券を売るだけでなく、支援者から子息の就職の世話も頼まれた。
やりながら気づいたことなのだが、小沢から「ここの会社に行ってこい」と指示されることはない。
新規で献金をくれる企業を見つけても褒められもしない。
減ったら無能だと思われるだけだ。
・2004年、私は小沢の許可を得ないまま、衆議院議員選挙への出馬を計画した。
そして、北海道連の面接を受けに札幌に飛んだ。
羽田に向かう途中、新橋の菓子名店「新正堂」で北海道連へ持っていく菓子折りを買った。
ここはサラリーマンの間では知る人ぞ知る名店で、銘菓「切腹最中」はこぼれるほどの粒あんが詰まっていて、取引先に謝罪に行く際のお土産として定評がある。
・小沢一郎といえば選挙。
そして、小沢一郎の秘書といえば、当選請負人と思われている。
まず基本には次の考え方がある。
「全力で一人ひとりを相手にしなさい」
有権者との関係がすべての根底にある。
一人ひとりが何を考えていて、どんな暮らしをしているかを聞いて歩く。
・自民党の総務局長時代に小沢は全国の都道府県を回り、
選挙区事情だけではなく、有力な支援者についても情報を収集したようだ。
その時のデータが頭に入っており、逐次更新されている。
随行の秘書のカバンには300選挙区のデータが常備されている。
過去の得票率や政党支持率、世論調査の結果などが書かれているその紙を暇ができたときに取り出し、一人で眺めている。
・小沢は、民主党が野党時代、大連立で与党経験を積むことを重視していた。
民主党から国土交通大臣や厚生労働大臣を出して、与党議員として地方を回る。
すると有権者の反応から与党のつらさがわかる、と。
・選挙に限って言えば、小沢ほど他人を担いだり、若手を育てたりするのが上手な政治家はいないと思う。
裏を返せば、選挙だけは自分で何でもやらないと気が済まない体質なのだ。
・いまの民主党の欠陥は、俗に言う「雑巾掛け」、基礎的な鍛錬、基礎的な勉強をしないで偉くなった人ばかり。
だから危機が起きるとどうしたらいいか分からなくなる。
基礎的な修行を積み、経験を積み、知識を積み、
そしてこういう時はこう、ああいう時はこうと、自分の価値判断基準を、政策判断の基準が自然と作られてくる。
★コメント
石川氏の回想を読むと、小沢事務所の泥臭く、地道な仕事術がかいま見られる。
その選挙活動、政治活動は、地道な営業活動に通じるものがあり、ビジネスマンも参考になる部分はある。
政治でもビジネスでも、人との律儀な関係は、重要であることを教えてくれる。