◆鱸一成『詐欺師×スパイ×ジェントルマン』を読む

(すずき・かずなり著)



副題

→「パトリシア・ハイスミスとジョン・ル・カレの作品を読み解く」



★要旨



・パトリシア・ハイスミスは、

22冊の長編小説と9冊の短編小説集を公刊した。

彼女は、

サスペンス小説の大家として評価されている。



・ジョン・ル・カレは、

26冊の長編小説を公刊した。

デビュー3作目の

『寒い国から帰ってきたスパイ』が

世界的ベストセラーになった。



・ジョンルカレの作品は、

『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』

『スクールボーイ閣下』

『スマイリーと仲間たち』

のいわゆる「スマイリー三部作」をまず読んだが、

正直なところ、

当時の筆者の手におえるものではなかった。



・ルカレ作品の場合は、

救いようのない世界の中で、

登場人物たちを作者が何とか救い出そうとしていた。



・彼が描く作品のベースには、

ヒューマニズムがあり、

そのことが筆者をほっとさせてくれたのだ。



・パトリシアハイスミスと、

ジョンルカレの作品について書くことは、

2人の作品を読むと同じくらい楽しかった。



・これまで筆者は、

日記だったり、勤め先での報告書だったり、

あまたの文章を書き続けてきたが、

それらはルーティンであり、

書いていて楽しいと感じたことは一度もなかった。



・スマイリーは、オックスフォードの学生時代、

「17世紀ドイツ文化の研究という未開拓な分野に、

その生涯を捧げる覚悟でいた」

のだが、

両大戦間期の激動のヨーロッパで夢をあきらめて、

スパイの職に就き、

老いてなおホワイトカラー層の一員として働き続けた。



・彼は冷戦時代の申し子であり、

まじめに働く人々の代表だ。



・詐欺師とスパイは、どこか似ている。



・詐欺師もスパイも

まず相手を信用させないと仕事は始まらない。

だから詐欺師もスパイも、

リプリーやスマイリーのように、

紳士でなければ務まらないのかもしれない。



・作者ジョンルカレは、

仕事に没頭するスマイリーに託して、

仕事はなぜ大切なのか、

人はなぜまじめに働くのか、

組織に仕え成果を出すとか成功するとはどういうことか、

を問おうとしていた。



・ホワイトカラー化の進行とはまた、

事務仕事のルーティン化でもある。



・ホワイトカラーの職場は、

膨大な書類の山に囲まれた文書の世界だ。



・スマイリーは補佐役のギラムに命じて、

サーカスの文書保管庫から

過去のファイルを持ち出させて

真相究明のため膨大な文書に目を通すが、

彼の諜報技術をもってしても、

真相とか真実にたどり着くの容易ではない。



・山のように積まれた書類だから、

倉庫に眠るように保管されているファイルだから、

組織に不都合な書類がいつのまにか改ざんされていたり、

紛失してしまう事態が生じる。



・スマイリーは、

干し草の中の針を見つけ出すことに没頭していた。




★コメント

スパイ小説のなかから、

いろいろと教訓をつかみとる作業は楽しい。