目の前の小さなテーブルには、J君が買ってくれたペットボトルが置かれている。

 

 

 

 

もうすぐ駅への到着時間だ。J君のウーロン茶はあまり減っていない。私のミネラルウォーターは、もうほとんど残っていない。

 

 

 

 

喉が渇くし何を話していいのか分からない。何度も飲み物に手がいってしまう。

 

 

 

目の前にある椅子の背面には、網のところに薄い冊子が置かれている。表紙はピンク系で、お土産屋さんが掛かれた街並みのイラストだ。

 

 

 

 

J君)

「そうだ!」

 

 

 

「プレゼントと言えば」

 

 

 

 

J君は、急に何かを思い出したように口を開いた。

 

 

 

 

J君)

「もうすぐ、俺の母親の誕生日なんだよね」

 

 

 

アスカ)

「えっ、そうなのね」

 

 

 

「おめでたいことね」

 

 

 

「お母さんのお誕生日には何かするの?」

 

 

 

 

J君)

「当日にメールするぐらいかな」

 

 

 

「ここ何年も実家に帰るのは正月とお盆ぐらい」

 

 

 

 

「予約が入ればその日も帰らないこともあるし」

 

 

 

 

J君はご両親と離れて暮らしていると教えてくれていた。

 

 

 

 

アスカ)

「プレゼントを送ったりしないの?」

 

 

 

 

J君)

「最近はしていないなぁ。渡していた時期もあったけど」

 

 

 

J君は顔を上げて、その視線は遠くを見ている。何かを考えているようだ。

 

 

 

 

アスカ)

「お母さんの話を聞くといつも思うけれど、とても綺麗な方なのでしょうね」

 

 

 

J君を産んだお母様は、どれほど美人なのかと想像した。

 

 

 

 

J君)

「どうかなぁ」

 

 

 

「でも、そうかもね」

 

 

 

「よく周りの人から褒められるって言ってたから」

 

 

 

 

アスカ)

「やっぱりそうなのね。綺麗なお母さんで羨ましい」

 

 

 

雑誌に出てくるような、美しい女性の姿が頭に浮かぶ。

 

 

 

 

J君)

「ありがとう」

 

 

 

 

アスカ)

「いつもお母さんに何もしないなら、今年はお誕生日プレゼントを送ったら?」

 

 

 

「自分の息子から当日に贈り物が届いたら、すごく嬉しいと思うし」

 

 

 

J君)

「そうだよね」

 

 

 

「そうしようかなぁ」

 

 

 

アスカ)

「プレゼントは何歳になってもやっぱり嬉しいものよね」

 

 

 

「子供の頃のお誕生日会も嬉しかったけど、大人になってもお祝いされることも幸せなことよね」

 

 

 

 

J君)

「確かにそうだよね」

 

 

 

さっきの会話に出てきた、泣いていたお客様の姿が頭に浮かぶ。

 

 

 

 

 

J君)

「よし!今年は送ることにする!」

 

 

 

「ありがとう、こう思えるのはアスカちゃんが言ってくれたからだよ」

 

 

 

 

アスカ)

「よかった」

 

 

 

「お母さんも喜ぶね」

 

 

 

J君)

「そうだろうね」

 

 

 

「母親は、俺が小さな頃から俺の世話を焼くのが好きだったから」

 

 

 

こう言うと、明るい言葉のはずなのにJ君の表情が一瞬曇ったように見えた。

 

 

 

そういえば、過去にJ君がご両親からされた辛かったことを何回も話してくれた。でもそのことをここで言うべきではない。

 

 

 

アスカ)

「J君に対して世話を焼くお母さん、素敵ね」

 

 

 

 

J君)

「あの人は、そういうことが好きだから」

 

 

 

 

今までもJ君のご両親について話してくれたことがある。過去に高級ホテルのラウンジで閉まる時間ぎりぎりまで、または高価な露天風呂の中でご両親の話を聞かせてくれたことは本当に嬉しかった。

 

 

 

 

J君はお母さんのことを時々「あの人」と呼ぶ。

 

 

 

今までも何度もこの言葉を聞いていた。しかし「母親をそう呼ぶ人もいるのだな」ぐらいにしか思わず、あまり気にしていなかった。

 

 

 

だが今日はJ君がお母さんに対して「あの人」という言葉を使うことが妙に耳に残る。

 

 

 

アスカ)

「今もそうなの?」

 

 

 

「J君に対して世話を焼く感じ?」

 

 

 

 

J君)

「今はあまり会っていないから時々メールや電話が来るぐらいだけど」

 

 

 

「俺のことを心配してくれるのはありがたいよね」

 

 

 

 

アスカ)

「やっぱりお母さんは、何歳になっても息子さんのことが気になるよね」

 

 

 

J君)

「心配してくれてるけど、自由にもしてくれる」

 

 

 

「俺が何をしていても、突っ込んで聞いてこないし」

 

 

 

 

アスカ)

「それは素敵なことね」

 

 

 

 

J君)

「あの人は子供の頃も今も、ずっと俺を信じてくれている」

 

 

 

「ありがたいことだよね」

 

 

 

 

私は母親から否定されて育った。だから「親から信じてもらえている」と実感したことはほとんどない。

 

 

 

だからそう言えるJ君が羨ましい。

 

 

 

 

アスカ)

(そういえば)

 

 

(さっき、J君は「俺たちも信頼関係がある」と私に言っていた・・・)

 

 

 

 

頭の中がぐちゃぐちゃ、それなのに空っぽでもある。そのような状態が続いているので、私は会話をしていても表面的な言葉を交わすだけになる。

 

 

 

なんとか会話を続ける。

 

 

 

 

アスカ)

「お母さんが信じてくれているのは心強いね」

 

 

 

 

「お父さんは?」

 

 

 

 

J君)

「うーん、どうかなぁ」

 

 

 

 

「父親も俺のことを信じてくれているとは思うけど」

 

 

 

 

「実家に帰っても父親とはほとんど何も話さないから」

 

 

 

 

この言葉を聞いて、胸がキュッとした。心臓の辺りが痛くなる。J君の話を聞いて、前にも同じことが何度かあった。

 

 

 

 

J君)

「父親と話をする人って、何を話すんだろうね」

 

 

 

「俺、父親と二人きりになっても無言になるし俺はスマホ見てる」

 

 

 

こう話すJ君に目をやると、寂しそうな表情をしている。

 

 

 

J君)

「そうだ、アスカちゃん!」

 

 

 

「母親へのプレゼントって何がいいと思う?」

 

 

 

アスカ)

「そうね・・・」

 

 

 

「日常生活で使えそうなエプロンやお買い物用のトートバッグ等が嬉しいかも」

 

 

 

 

今まで私が母親にプレゼントしてきたものを伝えた。

 

 

 

 

アスカ)

「それに、お花はいつ受け取っても嬉しいと思う」

 

 

 

 

J君)

「ありがとう!」

 

 

 

「じゃあ、花とエプロンか何かを探してみるね!」

 

 

 

 

この会話をしながら、今までJ君にプレゼントしてもらったものが次々に思い出された。

 

 

 

今まで大好きなJ君からのプレゼントはどれも飛び上がるほど嬉しかった。

 

 

 

 

だけど昨日の「仕事10点」を聞いてからは、過去の思い出まで違った色に変わりつつある。

 

 

 

この会話をしているときに、車内放送が流れた。慌てて荷物を降ろしているうちに駅に着いた。

 

 

 

こうして楽しめるはずだった温泉旅行は、頭が痛くなったり胸が痛くなったり。よく分からないまま終了した。

 

 

 

 

帰り際に改札のそばでハグをしてくれた。それも嬉しくなかった。

 

 

 

 

J君)

「アスカちゃん、ありがとう!また連絡するね!」

 

 

 

 

ニコッと笑うJ君。いつもと同じ笑顔。いつもと同じ言葉。その後ろ姿はすぐに人ごみに消えていった。

 

 

 

 

その後、電車での一人帰り道。

 

 

 

 

「仕事10点」の言葉と、ホテルの部屋でスマホを眺めるJ君の顔ばかり何度も思い出された。

 

 

 

 

J君に会うために乗った電車の行く道と帰り道は全く同じはずなのに。

 

 

 

 

帰りに見た車内からの風景はまるで夢の中で彷徨っているかのように現実味がなかった。

 

 

 

 

電車の中にいる大勢の人たちの顔は、みんなのっぺり顔で無表情だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

___________

 

後日談です。

 

 

今まで「なぜアスカは指名し続けている中で、J君の演出を見抜けなかったのか」と読者の皆様から何度も聞かれました。

 

 

 

その理由として、会社や本業のことが大きいです。

 

 

 

J君は会社でも活躍していました。本業の会社にセラピスト活動がバレたら大ごとになると私でも分かるぐらい大きな会社で働いているJ君でした。

 

 

 

私は出会ってから早い段階でJ君から本名と本業の会社名を聞かされていました。本業の会社のHPやブログも見せてもらっていました。

 

 

 

そしてJ君はいつも「本名は絶対に誰にも言えない」「アスカちゃんにしか本名を言えない」「本業の会社もアスカちゃんにしか言えない」と言ってくれていました。

 

 

 

私はそれが嘘だとは思えませんでしたし、信じ切っていました。

 

 

 

本名や本業がお客様に知られることは、年齢や出身大学等がバレることとはわけが違います。もしお客様がJ君の本業を知ったら、本業の会社にセラピストのことを伝える人がいるかもしれません。実際に、好きだったセラピストとケンカ別れをしてセラピストに復讐するために、本業の会社や実家にセラピスト活動のことを伝えるお客様もいると聞きました。

 

 

 

 

ですから個人情報を複数のお客様に伝えることは大きなリスクがあります。本業を失うことだってあり得ますし、活躍している業界でセラピストをしていたと知られたら、J君の社会的な評価も落ちるかもしれません。風俗のお仕事は、社会的にはまだ認められておらず、「いかがわしい仕事」などと思われてしまう側面があるからです。

 

 

 

ですから本名と会社については「アスカちゃんにしか絶対に教えられない」が嘘だとは思えませんでしたし、本当だとしか思えませんでした。

 

 

 

後から分かったことですが、J君は本名もなんと本業の会社まで他のお客様にも教えていたのです。なぜそのことを知ったのかは今後のエピソードに出てきます。

 

 

 

もちろんすべてのお客様に教えていたわけではなく、信頼していたお客様に教えたのでしょう。私もJ君から見て信じられる客の一人ではあったのでしょう。

 

 

 

しかし私一人だけが特別に信頼されていたわけではありませんでした。

 

 

 

私たちは、好きなセラピストに「○○ちゃんだけだよ」と言われると、どうしても信じてしまいます。

 

 

 

その内容が、秘密のものであればあるほど、相手を疑わなくなります。

 

 

 

しかし、恐ろしいことに、セラピストの演出として、自宅の合いカギを渡されたりして完全に交際していると思わされる接客スタイルまであるのです。

 

 

 

セラピストと仲良くしている期間は幸せでも、いつかは「他の女性にも同じことをしていた」とバレる日が来ます。

 

 

 

その時の絶望と虚無感は、ブログでは伝えられないほど深いです。立ち直れないほど傷ついている女性もいますし、精神科に通っている女性もいます。

 

 

 

女性向け風俗やホストクラブを利用するときには「セラピストの言葉は一つも絶対に信じない」ぐらいの強い気持ちをもって利用してください。

 

 

 

大金を支払って、しかも大好きな人を信じて、後から死ぬほど苦しむなんて自分の人生が可哀想すぎます。

 

 

 

平凡な日常生活の中に本物の幸せがあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

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【FRIDAYデジタルにインタビュー記事を掲載いただきました】

 

 

ー前編ー

〈タイトル・『実録“女性専用風俗”の沼にハマった30代シングルマザーの末路』〉

(注・シングルマザーはアスカのことではありません)

 

 

ー後編ー

〈タイトル・『いま既婚女性が”女性専用風俗”に次々とハマっている意外な理由』〉

 

 

 

 

 


 

 

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特に、私アスカが感じている

風俗の危険な面にフォーカスを当てています。

 

 

 

 

すべての女風店やセラピストが

私が書いてある通りということではなく

良いセラピストもいます。

一方で、

ブログに書かせていただいているような

危険な現状もあるのだと

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