食事処からの帰り道。長い廊下を手を繋がずに歩いてスイートルームに戻る。手を繋ぐのか手を繋がないのかいつもJ君が決めている。

 

 

 

 

今日は和室用のベッドだ。純和風の部屋にも背の低いベッドがしっかりとマッチしている。寝室用の和室には広縁が続いている。クリーム色の壁の色が部屋を和ませている。背の低いテーブルと同じ高さの椅子が二脚。

 

 

 

 

カーテンを閉めずに食事に行ったので窓の外が見える。星の見えない夜空と暗い林が目に入る。

 

 

 

 

靴を脱いで部屋に入ってから、私はどうしてよいのか分からなくなる。いつもなら食事後の紅茶かお茶を淹れるのが私の役目だ。だが今日は何をする気にもなれない。

 

 

 

食事中は仕事の話があったから良かったが、今は何を話していいのか分からなくなる。

 

 

 

 

急に胸がギュッとなる。J君が言った言葉の意味が段々と心に突き刺さる。

 

 

 

 

スマホを広縁のテーブルに置き、右側の椅子に座る私。J君が言った言葉を考えたいような考えたくないような心境だ。でも頭の中は「仕事が10点」のことばかり浮かんできてしまう。

 

 

 

 

J君はベッドに寝ころんだ。本業を終わらせてこの旅行に来てくれたから、きっと疲れているのだろう。

 

 

 

 

でも私はJ君のことをかまっていられる気分ではない。ただただどうしてよいのか分からない。

 

 

 

窓の外を見る。夜空が見える。遠くの電柱が光っている。風が吹くと木々が揺れる。それしか目に入らない。

 

 

 

 

何も言葉が出ない。外を見ているので精一杯。私は身体を窓のほうに向ける。夜空を眺めながら頭も少し痛くなってくる。

 

 

 

 

ボーっとしているのはそうやって自分のことを守っているのかもしれない。本気で何かを考えたら崩れ落ちそうだから。

 

 

 

 

何も考えたくないけれどやはり勝手に何度も湧いてきてしまう。

 

 

 

 

アスカの心の中)

(仕事が10点・・・)



(他の人は理解している・・・)



(J君は完全なプライベートではない・・・)




(今、動揺していることは君にバレてはならない・・・)




(仕事が10点・・・仕事が10点・・・仕事が10点・・・)

 

 

 

 

 

心の中はぐちゃぐちゃだ。衝撃。そして寂しさ。悲しさ。辛さ。情けなさ。胸の痛み。困惑。混乱。これからどうしよう?今から何をすればいいの?

 

 

 

 

だけど一番は、突然すぎて何が起きたのかよく分からない気持ち。

 

 

 

 

ひたすら暗い外を眺める。言葉も出ない。どんな顔をしてよいのか分からない。

 

 

 

 

私の背中側のベッドにはJ君がいる。

 

 

 

 

J君と一緒にいるときの私は、無言になることはほとんどない。楽しい会話がしたいし、J君と一緒にいるとどんどん話がでてくる。聞きたいこともいっぱいある。J君と離れているときの近況として伝えたいことも山積みだ。J君が隣にいてくれるだけでルンルンしている。大好きなJ君と同じ時間を過ごせることで幸せに満ち溢れる私はいつでも笑顔でいっぱいなのだ。

 

 

 

 

でも今日の私はどうしても言葉が出てこない。楽しい気分にもなれない。ずっと無言。表情も沈んでいるだろう。

 

 

 

 

アスカの心の中)

(J君に何も伝えていないけれど)

 

 

 

 

(私がいつもと違う様子なのはバレてるよね・・・)

 

 

 

 

(いつものように楽しんでもいないし笑ってもいない私だから、J君は心配になっているかな)

 

 

 

 

(普段とは違う私の姿を見たらJ君も変に思うよね・・・)

 

 

 

(J君は何も話さない私に対してどう思っているのかな・・・)

 

 

 

(無言のままだからJ君が心配して声をかけてくれるかな・・・)

 

 

 

 

ずっと気落ちしている私に対して、J君は少なからず何か思うことがあるだろう。そう思っても言葉が一つも出ないのだ。

 

 

 

 

だから無言でいる私。おそらく何も話さないまま20分~30分は経過しただろう。心も思考も固まったまま。いつも明るい私なので、こんな姿を見せるのはJ君に出会ってから初めてのことだ。

 

 

 

 

長い時間が経過していることだけは分かった。ぼーっとしていた頭が少し働く。

 

 

 

 

私はJ君に背を向けたまま。

 

 

 

 

窓の外をぼんやりと眺め続ける。

 

 

 

 

さらに何の言葉もないままに10分が過ぎる。

 

 

 

 

 

 

段々と「J君が私のことを心配していたら申し訳ないな」と思ってきた。普段とは違う私の様子をJ君はきっと心配してくれているのだろう。だからJ君も無言なのだ。J君もきっとどうしていいのか分からないのだ。私にかける言葉を必死に探しているのかもしれない。

 

 

 

 

このまま何も言わずに窓の外を見ているだけなのも悪い気がしてきた。

 

 

 

 

だからかける言葉は見つからないけれど。

 

 

 

 

二人の間に流れる沈黙の空間をどうにかしなければと思った。

 

 

 

 

言葉が見つからないのでJ君のほうを向いても、そこから私はどう振舞って良いか分からなかったけれど。

 

 

 

 

とにかくどうにかしなければ。

 

 

 

 

そう思ってくるっと後ろを振り返る私。

 

 

 

 

J君は私を心配してくれていると思ったのだが。

 

 

 

 

なんと。

 

 

 

 

ベッドに寝ころんで横になっているJ君は。

 

 

 

 

 

普通の表情でスマホを見ていた。

 

 

 

 

私の姿を変に思ったり心配している様子はまるでなかった。

 

 

 

 

普段と同じようにスマホを眺めているJ君。

 

 

 

 

色々な考えでグチャグチャしている私なんて構わずに普通の姿でいるJ君を見て。

 

 

 

 

思わず笑いそうになってしまった。J君の姿は私の想像とあまりにもかけ離れている。

 

 

 

 

 

人は衝撃的に辛すぎると笑いが込み上げると聞いたことがある。

 

 

 

 

 

 

何も心配している様子がないJ君を見て、何かが吹っ切れた。何も考えられないがこのまま気落ちしていても仕方ない。

 

 

 

 

 

J君は何事もないかのようにスマホを眺めてのんびりしている。普通の姿に拍子抜けする。ここでただぼーっとして何分も深刻に考えている自分が可哀想だ。自分だけ思考をぐるぐるさせて一体私は何をしているのだろう。

 

 

 

 

 

よく分からないがネガティブに過ごすことが馬鹿だと思った。それに考えすぎて頭がもっと痛くなる。

 

 

 

 

 

アスカの心の中)

(今日はもう考えることを止めよう)

 

 

 

 

 

何も言わずに、私の様子も気にせずにスマホを見ているJ君に対して、私から言葉をかけなければならないような気がした。

 

 

 

 

 

ぼーっとしたまま。いつもと同じように過ごさなければならない。そんな考えだけが浮かぶ。

 

 

 

 

 

アスカ)

「お風呂に入りましょうか?」

 

 

 

J君)

「うん!」

 

 

 

 

 

J君の表情を見ると「やっとお風呂に入れる」という嬉しそうな感情が伝わってきた。

 

 

 

 

私は機械的に浴衣を脱いだ。目の前ではいつものようにJ君も浴衣姿から裸体に変わる。タオルを腰に巻くJ君の全身を私は冷静に眺める。

 

 

 

 

 

あいまいな時間が流れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________

 

後日談です。

 

 

 

このエピソードはJ君と過ごした中でも、特に強く印象に残っている場面です。この夜30~40分は無言だったと記憶しています。

 

 

 

 

一般的に男女が一緒に過ごしているときに、女性が無口になったり、拗ねたり、自分に背を向けて沈黙でいたら男性は心配になるものではないでしょうか。

 

 

 

「女性が怒っているのか?」「何を考えているのか?」「どうすれば口をきいてくれるのか?」など気になるものだと思います。

しかもアスカのこのような態度は初めてのことなので、なおさら気がかりになるものではないでしょうか。

 

 

 

J君に心配をかけているとは分かっていても、あの日は言葉が全く出てきませんでした。ですからJ君に背を向ける姿のまま、私はフリーズしていました。

 

 

 

後ろを向いてJ君を見た時に拍子抜けしました。普通にスマホを見ていたからです。心配している様子は少しも感じられませんでした。

 

 

 

当時は分かりませんでしたが、後から考えたことがあります。

 

 

 

女性向け風俗を利用している女性のツイートを見ると、セラピストと過ごしているときの様子が沢山書かれています。セラピストと揉めた、喧嘩した、言い合いになったという女性がいました。その他に、拗ねた、途中でつまらなくなった、会話がなくなった等と書いている人もいました。

 

 

 

つまり私の予想ですが、セラピストと二人で過ごしているときにお互いに楽しいことばかりではないのです。

 

 

 

女風の場合、客はセラピストが大好きでも独占はできませんから、セラピストに対して嫉妬したり憎んだり批判したりなることが多くなるのだと想像します。

 

 

 

今回の私のように、言葉が出なくて固まったり、女性がどうしてよいのか分からなくて沈黙になることもきっと少なくないのだと考えられます。

 

 

 

J君はこの時には、2つ目のお店でセラピスト活動をしています。ということは沢山の客と会っていてアスカのようにガチ恋している客も多くいたと考えられます。

 

 

 

そうなりますと、J君の前でアスカのように無言になったり拗ねたりした客はきっと日常的にいたのです。だからJ君にとってはアスカの態度は何も珍しくなかったのでしょう。

 

 

 

女性客が拗ねたり無言になることはよくあること。そして女性客はその後、アスカのように自分から気持ちを切り替えて話しかけてくることも多いのでしょう。

 

 

 

ですからJ君はアスカの姿に驚きもせず、冷静に過ごしていられたのだと想像いたします。

 

 

 

 

あの時はそんなふうには思えませんでした。ですから「J君は動揺を隠していたのではないか」と思っていました。

 

 

 

 

しかし今わかりますのは、このような場面は女風ではよくあることなので経験の長いセラピストはきっとあらかじめ女性のあらゆる態度に対して対応するための心構えがあるのでしょう。

 

 

 

 

私が何十分も無口になることは、J君にとってはありきたりのよくある場面だったと今なら分かります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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