私はJ君の言っている意味が上手く飲み込めない。

 

 

 

 

アスカ)

「J君が言っていることがよく分からないのだけど」

 

 

 

 

「J君にとって完全なプライベート旅行ではないってことは」

 

 

 

「温泉には、仕事だから来てくれているということなのよね?」

 

 

 

J君)

「そう」

 

 

 

アスカ)

「そう、って・・・」

 

 

 

 

私が困惑している様子を見て、なぜ私がオロオロしているのかJ君のほうが驚いているようだ。

 

 

 

 

J君は、さらによく分からないことを言ってくる。

 

 

 

J君)

「俺、完全に100%プライベートだったら、ここに来る理由が無くなる」

 

 

 

 

アスカ)

「え?」

 

 

 

 

アスカの心の中)

(今、何て言ったの?)

 

 

 

 

アスカ)

「ここに来る理由が無くなるって、どういう意味?」

 

 

 

J君)

「仕事10点だと思えるから来れるってこと」

 

 

 

「プライベート100点なら来ていないと思うよ」

 

 

 

 

アスカ)

「・・・・・・」

 

 

 

 

J君)

「もし、俺が今、仕事の気持ちが10点もなくて、プライベートだったら多分何もしない」

 

 

 

「会話もしないし、性感もしないし、笑いもしないと思うよ」

 

 

 

 

「それが普段の俺だから」

 

 

 

 

「だからさ、仕事10点あったほうが、アスカちゃんのためでもあるよね」

 

 

 

「そのほうがアスカちゃんも楽しいと思うし」

 

 

 

 

 

J君の声が遥か遠くの方から聞こえてくるかのようだ。

 

 

 

外国語を聞いているみたい。訳の分からない文章が次々に耳に入ってくる。

 

 

 

J君は何を言っているのだろう?

 

 

 

 

しかもついさっきまでは楽しくて幸せばかりだった。温泉に浸かれることや今夜のイチャイチャの期待で胸がいっぱいだったのに。

 

 

 

 

 

アスカ)

「あの、よく分からないのだけど・・・」

 

 

 

「私はもちろんプライベート100点だったし、今日もそうよ」

 

 

 

 

「それに、J君はずっとプライベートだって言ってくれていたから、私はそう思っていた」

 

 

 

J君

「うん」

 

 

 

アスカ)

「でも、J君はセラピスト10点という気持ちなのね?」

 

 

 

J君)

「そう」

 

 

 

アスカ)

「そうって言われても・・・」

 

 

 

「じゃあ、J君が今までアスカちゃんが好きとか、プライベートって言ってくれていたのは嘘だったの?」

 

 

 

J君)

「嘘じゃないよ。俺はいつも言っているけど、嘘をついたことは一度もない」

 

 

 

アスカ)

「え?」

 

 

 

「J君がたった今言ったように、今日がプライベートじゃなくてセラピストとしてここにいるなら、仕事なんでしょ?それなら今までの言葉は嘘になるよね?」

 

 

 

J君)

「嘘じゃないよ。それは仕事として言っていたんだから嘘ではない」

 

 

 

「俺がそう言わないとアスカちゃんは今までのように楽しめなかったんだよ?」

 

 

 

アスカ)

「え?」

 

 

 

アスカの心の中)

(J君の言っていることが、本当にによく分からない・・・)

 

 

 

J君)

「それに、俺、このことはアスカちゃんもずっと知ってると思ってたよ」

 

 

 

アスカ)

「このことって?」

 

 

 

J君)

「セラピスト10点の気持ちがあるってこと」

 

 

 

「アスカちゃんはずっと知っていると思ってた」

 

 

 

 

アスカ)

「え?」

 

 

 

「私は知らなかったよ」

 

 

 

 

「どうして私が知っているの?」

 

 

 

「J君がプライベートだって言ってくれていたから、そう言われたら誰だって信じるでしょ?」

 

 

 

私は困惑しっぱなしだ。なぜ、新幹線の中でこんな話になっているのか。会話はしているのだが、心は何が起きているのかついていけていない。

 

 

 

 

J君)

「そうかなぁ。でもさ、お金を支払うってことは仕事って意味もあるよね?お金のやり取りがある時には普通はそう考えるよね?」

 

 

 

「アスカちゃんも自分で仕事をしているんだから、お金のやりとりがあったら完全にプライベートではないって分かるものじゃない?」

 

 

 

 

アスカ)

「そういうものなの?」

 

 

 

 

「私はJ君の言葉を信じていたからJ君が仕事だなんて思ったことなかった」

 

 

 

「お金を払ったのは、J君がそう言ったからよ。でもプライベートと言ってくれていた言葉をずっとそのまま信じていた」

 

 

 

J君)

「お金を支払っている時点で、他の人はプライベートじゃないって普通は分かってるよ」

 

 

 

 

「普通は信じる人なんて誰もいない」

 

 

 

 

アスカ)

「え?」

 

 

 

「そうなの?」

 

 

 

「普通の人は信じないの?」

 

 

 

「私だけが信じていたということ?」

 

 

 

「・・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・・」

 

 

 

J君)

「俺は、俺が仕事の気持ちも少しあって会っているということを、アスカちゃんもずっと知っていると思ってたよ」

 

 

 

「アスカちゃんだってフリーで仕事してるんだし」

 

 

 

 

「普通は分かるでしょ?」

 

 

 

アスカ)

「・・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・・」

 

 

 

 

J君)

「でもさ、今日も俺はいつもと何も変わらないんだよ?」

 

 

「せっかくアスカちゃんが温泉を取ってくれたんだから、今から楽しもうよ」

 

 

「俺、夜ご飯も温泉も楽しみだよ」

 

 

 

 

 

J君は私の態度に少し驚きつつも、表情を変えずにペットボトルのお茶を飲んだ。

 

 

 

私は何が起きているのか分からない。頭がぼーっとしてしまっている。J君につられて、目の前にある小さな簡易テーブルに置かれたお茶をゴクゴク飲んだ。

 

 

 

混乱しながらも、この会話で分かったこと。

 

 

 

 

J君は完全にプライベートではなく、少しは仕事の気持ちでここにいること。

 

 

 

お金のやり取りがあれば仕事であること。J君は、私もそれを理解していると思っていたこと。

 

 

 

 

言っている意味は分かるが、それをどう受けとめろと言うのだろう。

 

 


頭も心もぐちゃぐちゃになっている。J君に返す言葉が見つからず、頭の中ではJ君が言った言葉を反芻している。

 

 

 

そうしているうちに、目的の駅に到着した。

 

 

 

受けとめきれないほどの衝撃だ。だがこの衝撃すら衝撃と分からないぐらい、突然すぎる出来事だ。

 

 

 

 

何も言えない。言っていい言葉が見つからない。頭の中は吹雪のように真っ白。

 

 

 

そこは嵐のように荒れていて。どう手を付けていいのか分からない。

 

 

 

怒りなのか?悲しみなのか?

 

 

 

どちらも違うような気がした。

 

 

 

自分の気持ちに整理がつかない。視界が曇ってしまいはっきりと前も見えない。

 

 

 

ただ「恥ずかしい」という気持ちが湧いていることは分かった。J君が言うには「他の人はお金を払えばプライベートとは信じない」というのだ。

 

 

 

 

私は新幹線を降りて改札を出た。流れ作業をするかのように機械的に。

 

 

 

J君と私は隣同士並んで歩いているのだが、二人の間には、今までとは違った細い隙間ができているような感覚がした。

 

 

 

 

アスカの心の中)

(一体、新幹線で何が起きたのだろう?)

 

 

 

よく分からない。だが時間だけはきっちりと過ぎていく。改札を出ると、バンタイプ白い車が停まっている。男性が外に出ている。車の横面に、私たちが宿泊する旅館の名前が紺色で書いてある。

 

 

 

アスカ)

「J君、今日は宿からお迎えが来てくれることになっているの。あの車がそうよ」

 

 

 

J君)

「じゃあ、車の方に行こうか。旅館はここから近いの?」

 

 

 

アスカ)

「HPには10分ぐらいのところにあると書いてあった」

 

 

 

私は聞かれたことに答えなければと思って、事務的に返事をした。

 

 

 

旅館の男性スタッフさんに挨拶をする。車に乗る時に、その方が足元に小さな踏み台を置いてくださった。最初に私が、次にJ君が後部座席に乗り込む。グレーの座席が綺麗に整えられている。

 

 

 

駅前はガヤガヤしているのだが、私の周りだけシーンとして空気がぼやけている。

 

 

 

旅館のスタッフ)

「本日は当旅館へお越しいただきありがとうございます。今から到着までよろしくお願いいたします」

 

 

 

アスカ)

「今日は来る時間が遅くなってしまいすみませんでした。時間の変更にも快く対応してくださって、お迎えもありがとうございます」

 

 

 

私は機械的に伝えた。時間変更の電話連絡をしていた数時間前が、ずっと昔の出来事に思えてくる。

 

 

 

車が動き出す。隣にいるJ君は窓の外を見て嬉しそうな表情だ。

 

 

 

J君)

「これから温泉にゆっくり浸かりたいなぁ。お腹が空いたから、ご飯も楽しみ」


 

 

ビジネス講師が教えてくれた心の点数の話をすることによって、まさかこんな展開になるとは予想できなかった。

 

 

 

 

しかもJ君が喜ぶと思ってJ君のために参加した講座だった。その講座での内容のせいで、今、私には何が起きているのかよく分からない。セミナー講師に会ったことをサプライズでJ君に伝えるつもりが、それを遥かに上回る驚きが自分に降りかかっている。

 

 

 

 

 

青天の霹靂。

 

 

 

J君の言葉に対して何と返事をして良いのか分からない。フリーズしている。何もかも。

 

 

 

 

 

 

私は心の中で「夕食のときに今のことについて、何かを聞かなければ」と思うことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

___________

 

後日談です。

 

 

 

なぜこのタイミングだったのか。一緒に仕事をして社内コンペもまだ終わっていません。

 

 

 

普通に考えれば、J君にとっては、アスカにプライベートの演出をし続けていたほうがメリットがある時期です。当時の私にはなぜここでこう言われたのかよく分かりませんでした。

 

 

 

 

J君からは「何かを告白してしまった」というような様子には見えませんでした。会話の流れで思っていることを口にしたという感じでした。

 

 

 

 

悪びれた様子もありませんでした。クールな表情の下では「言ってしまってまずい」「言わなければ良かった」ともしかしたら思っていたかもしれませんが、この時は、J君のいつも通りの冷静な姿にしか見えませんでした。

 

 

 

 

後から考えればですが、J君はなぜここでこの話を言ったのか、私なりにですが分かったことがあります。今後の記事に書く予定です。

 

 

 

 

17回目のJ君からの告白のエピソードを長らく待っていてくださいました皆様、本当にありがとうございます。ここまで何度も何度も大変お待たせしてしまい本当に申し訳ございませんでした。待ち続けてくださって読んでくださった皆様のお気持ちに心から感謝申し上げます。

 

 

 

 

 

 

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〈タイトル・『実録“女性専用風俗”の沼にハマった30代シングルマザーの末路』〉

(注・シングルマザーはアスカのことではありません)

 

 

 

 

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