チェックアウトする前に、忘れ物がないかお部屋を見渡す。
空気を入れ替えるために開けた窓とブラインドが、そのままになっていることに気付く。
J君)
「俺、窓を閉めてブラインドを元の通りに下ろしてくるね」
こう言ってJ君が窓のほうに行ったので、私はテーブルや椅子を来た時と同じようにまっすぐに整えた。
J君の方を見ると、窓は締まったのだがブラインドが下がらないようだ。オシャレな小窓は、一般的なブラインドと違って珍しいデザインだ。J君が何度も紐を動かしているのに、ブラインドが思うように下がらないようだ。
どれだけ紐を動かしても下がらないので、私がトライしてみることになった。
ブラインドの紐を見て、パッと紐の使い方が閃いた。私が紐を動かしたらすぐにブラインドが下がった。
私は昔から、このような経験することが多かった。皆が困っている時に、私がやってみるとすんなりできてしまう場面だ。私は機械や細かな作業が得意ではないのだが、直感が働くからなのかもしれない。
アスカ)
「あ!ブラインドが下がったよ!元通りになって良かった!!!」
できたことが嬉しくて、褒めてもらえると思ってJ君の方を見る。だがJ君は喜んでくれているというよりも、顔は笑顔でも目は私を睨んでいるように見えた。
J君)
「良かった。じゃあ、出ようか」
広くがらんとした部屋。J君と過ごした空気が残るこのお部屋から出るのは名残惜しいし、いつまでもJ君と一緒にいたいが、帰らなければならない。
J君がドアを開けてくれた。なんとなく気まずい雰囲気で廊下を歩く。
フロントに行く途中に自動販売機コーナーがあった。帰路の車の中で飲むために、飲み物を買うことにする。
自動販売機に並ぶ飲み物を見て、J君が選んでいる。J君は無言のまま。
前の旅行ではペットボトルのお茶をJ君が購入してくれたことがあったので、今日も買ってくれるかもしれないという期待が湧いてくる。自分で買うよりも、J君が買ってくれるお茶の方が美味しい。
だけど今日のJ君は財布を取り出そうとしない。そのJ君の様子を見て、すかさず財布を取り出した。
J君がお財布を出さないということは、私が買うという意味だ。
アスカ)
「J君、どれがいい?」
J君)
「じゃあ、俺はこのミネラルウオーターで。アスカちゃん、ありがとう」
J君が選んだ飲み物のボタンを押すと、上の方から勢いよく冷たいペットボトルが落ちてきた。落下するガタンという音が、いつもよりも大きく聞こえる。
私はウーロン茶を選びボタンを押す。上から落下するボトルの音が、さらに大きく聞こえた。
ミネラルウオーター 120円
ウーロン茶 140円
合計 260円
1,000円札を入れたので、お釣りも上から落ちてきた。かがんでコイン返却口から100円玉や10円玉を取り出すのに時間がかかってしまう。
ようやく手元に取り出せたお釣りを財布の中にしまう。
その間に、昨日J君が言っていた「150万円の買い物」のことが勝手に頭に湧いてくる。
私は150万円を直に見たことがないのだが、テレビで見たお札の束が映像として浮かんできた。
「早くお釣りをしまわなくちゃ」と焦ってから、ずっと頭がうまく働かない。
飲料水のロゴの入った真っ赤で大きな自動販売機がなぜか寂しく見えた。
J君も私も、旅行バッグと購入したペットボトルを手に持って玄関まで歩いていく。
私はフロントでチェックアウトの手続きをする。
カウンターで一連の手続きを終えてJ君の方を見る。私のことを待っていてくれていると思ったが、少し離れたところに立っているJ君は真剣な顔でスマホを見ていた。
宿を出てから笑顔も会話もなく、レンタカーに乗り込んだ。
朝の空や太陽は、いつものように綺麗だ。
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後日談です。
この時の私は、J君が他のお客様には飲み物や食べ物を買っていることを一切知らなかったことと、会っている時のお支払いはお店のルールで基本的に私がするものだと思っていました。ですから、買ってもらえる期待をして寂しくなりましたが、買ってもらえないことに対して大ごとには受けとめませんでした。
現在の指名15回目はあと2記事です。進度が遅く感じる方は、大変申し訳ございませんが後からまとめて読んでいただけますようお願いいたします。
漫画化について素敵なコメントやDMを沢山いただき本当にありがとうございます。時間をいただきますが少しずつお返事させていただきます。
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一方で、
ブログに書かせていただいているような
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2021年07月28日 09:12