先日、友人と町田で会うついでに市立国際版画美術館に立ち寄ったのでありますよ。ふいに訪ねたもので特段の企画展が開催されているでもなくして、同館所蔵のコレクションから特集展示的なミニ企画展「パリのモダン・ライフ 1900年の版画、雑誌、ポスター」が行われておりました。

 

 

例によって入場無料とはうれしい限り。さらに特別に「これはダメ!」というもの以外、写真撮影は随意というのもまた。ですので、これでもか!というほどに撮影してきたわけですが、(些かの経緯は以前お話しましたように)画像データは半分方、失われてしまい…。まあ、残ったものがあっただけでもめっけものなのですけれどね。

 

ともあれ「モダン・ライフ」といって、上にある作品あたりは母子でなにやら楽し気なようすが窺えるところながら、1900年頃のフランス、パリの庶民生活はなかなかにしんどそうであることを想像させる作品も多々ありましたなあ。

 

 

20世紀初頭に刊行されていたという『ラシェット・オ・ブール』という雑誌でして、「この雑誌の特徴はひとつの号につき、ひとりの作家を起用し」、その作家が「全16ページの誌面を自らプロデュースできる」ようにしていたのだとか。「貧富の差が拡大したベル・エポックの時代にあって、資産家や政治家、聖職者を痛烈に批判し、市民の生活に寄り添うテーマを掲げ」ていたとは、上のフランソワ・プールボの作品「蚤の市」の中央に描かれた、身寄りのなさそうな子どもの姿にも見てとれるところかと。

 

ちなみに「蚤の市」(フリーマーケット)は今や「自由市場」的なる意味合いで盛況となってますですが、「19世紀半ばに始まり、1885年から公的に認められるようになった古物市」が本来のようで。掘り出しものを探す場ともなっていますけれど、なんとはなし戦後の闇市のような場所だったのかもですね。いうまでもなくベル・エポックは「美しき時代」の意であるものの、それを謳歌できた人も全く関わりなく日々に追われた人たちもいたということですね。

 

 

こちらはまた別の世相を反映した一枚でしょうか。作者のフランティシェク・クプカはオーストリア=ハンガリー帝国領東ボヘミアの出身であるとか。居並ぶ列強の君主たちは砲台に腰かけて常に臨戦態勢が整っているといわんばかり。その前では庶民代表が「戦争なんぞしている場合ではないでしょう」と訴える。さりながら、君主たちの背後には暗躍する姿(武器商人にも思えてきます)が描かれ、君主たちを唆してもいるように見えますなあ。こうした構図はなにやら今でも変わらぬような…とは嘆かわしい限りです。

 

 

時に時代は科学の進歩に明るい未来を描いていたわけでして、空を飛ぶという夢は(未だ飛行機でなく)飛行船にリアリティーがあったのでしょうけれど、近未来の想像として空に大渋滞が生じて警官まで駆け付けている…という場面。アルベール・ギヨームにより「我らに領空を!」という未来予想図ですな。

 

 

もう一枚の方は、遥か下界には大西洋を渡る客船が描かれ、これを飛行船が追い抜いていくという図。この絵が『ラシェット・オ・ブール』に掲載されたのは1919年のことだとか。もっとも、1903年にはライト兄弟が飛行機を飛ばしていますので、ギヨームの想像よりも世の中は急展開したのではなかろうかと。ま、いずれにせよ結局は戦争の道具として使われていくのも事実かと。モダン・ライフとはなかなかに複雑な時代であったろうなと思ったものでありましたよ。

 


 

本来の展示はここで書いたようなことを強調する内容ではありませんでしたので、悪しからず。本当はミュシャのポスターなどもあって、華やかな一面も見せておりましたが、何せ写真データが失われて…と、それはもういいか…(笑)。