老化は、誰もが経験します。
時が流れるスピードはみんな同じなのに、
成長のスピードがみんな違うように、老化のスピードもみんな違います。
老化の原因は様々ありますが、
一般的には、活性酸素による酸化ストレスの影響が言われています。
僕の見解では、活性酸素による酸化ストレスは老化の一部を見ているだけだと考えています。
活性酸素によって何が起こるのか、その先に老化があります。
それがタンパク質のカルボニル化です。(Protein carbonylation)
老化の新しい考え方:タンパク質のカルボニル化とは?
タンパク質のカルボニル化とは、体内にある脂質が活性酸素の影響を受けて過酸化脂質になることで、
その過酸化脂質がタンパク質と結合して、タンパク質の機能が失われてしまう反応です。
カルボニル化をインターネットで検索すると、肌の老化に関する記事がたくさん出てきます。
しかし、カルボニル化は肌に起こるだけではなく、全身のタンパク質が標的になります。
そのため、老化、糖尿病、心臓病、神経障害や様々な代謝性の疾患や病態とも関連があります。
日本ではまだまだ認知度が低いですが、僕は将来、確実に老化の指標となると思っています。
タンパク質のカルボニル化はどうして起こる?そのメカニズムとは?
生き物は呼吸で酸素を取り込んで、エネルギーを作ります。
酸素を取り込むと、一定の割合で必ず活性酸素が発生します。
活性酸素は、体内にある抗酸化酵素によって無毒化されて、バランスが保たれています。
一方で、酸化ストレスが増えて抗酸化が追いつかなくなると、
タンパク質や細胞、遺伝子などにダメージを与えてしまいます。
その酸化ストレスを増大させるのが、鉄や銅です。
体内で鉄や銅が過剰になると、その鉄や銅を触媒にして、より強力な活性酸素が発生します。
(フェントン反応)
酸化ストレスは主に、酸化に弱い多価不飽和脂肪酸(Poly Unsaturated Fatty Acid:PUFA)が標的になりやすく、
多価不飽和脂肪酸は活性酸素によって、4-HNEや4-ONE、4-HHE、MDAなどの過酸化脂質(アルデヒド)を形成します。
多価不飽和脂肪酸とは、構造に炭素の二重結合が複数ある脂肪酸で、
オメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸が該当します。
これらの過酸化脂質は毒性がとても強く、タンパク質の中にあるアミノ酸のリジン、ヒスチジン、システインを変質させやすいことが知られています。[1][2]
これらのアミノ酸が変質することが、タンパク質のカルボニル化といいます。
カルボニル化されたタンパク質は、検査キットで調べることができ、
病気のバイオマーカー(病気の指標となる数値)になります。[3]
過酸化脂質はグルタチオンS-トランスフェラーゼA4(GSTA4)という酵素によって代謝されて、
無毒化され、尿になって排泄されます。
しかし、GSTA4そのものがカルボニル化によって機能を失ってしまうため[4]、
酸化ストレスの発生を最低限に抑えることが、タンパク質のカルボニル化を防ぐ重要なポイントです。
カルボニル化が老化に与える影響
カルボニル化は、筋肉のタンパク質と結合し老化させてしまいます。[5]
ラットの実験では、加齢に伴って速筋と遅筋の両方にカルボニル化が確認されています。
しかも、速筋では遅筋に比べて抗酸化能力が低下していて、
速筋のミトコンドリアのタンパク質のカルボニル化が2倍も増加していることが分かりました。
また他のマウスを使った実験では、
大腿四頭筋という筋肉にあるクレアチンキナーゼという筋肉の収縮に関わる酵素が、
若年のマウスに比べて、老齢のマウスでは2.5倍もカルボニル化したことが分かりました。[6]
クレアチンキナーゼは、筋肉や脳のエネルギー源となるクレアチンリン酸とクレアチンとの橋渡しをする酵素です。
クレアチンキナーゼがカルボニル化するということは、筋肉や脳が動くときにエネルギーがうまく供給できなくなる恐れがあります。
歳を取ると筋肉が衰えると言いますが、
カルボニル化が筋肉の老化に関係しているといわれています。
ただし、カルボニル化は老化に関わるだけではありません。
数多くの病気にも関わっています。
続いての記事で、カルボニル化と病気の関係を見ていきましょう。
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【参考文献】
[1] Chemistry and biochemistry of 4-hydroxynonenal, malonaldehyde and related aldehydes.
Free Radic. Biol. Med. 1991;11:81–128.
[2] Basic aspects of the biochemical reactivity of 4-hydroxynonenal.
Mol. Aspects Med. 2003;24:149–159.
[3]4-Hydroxynonenal-protein adducts: A reliable biomarker of lipid oxidation in liver diseases. Mol. Aspects Med. 2008;29:67–71.
[4]Carbonylation of adipose proteins in obesity and insulin resistance: identification of adipocyte fatty acid-binding protein as a cellular target of 4-hydroxynonenal. Mol. Cell Proteomics. 2007;6:624–637.
[5]Quantitative proteomic profiling of muscle type-dependent and age-dependent protein carbonylation in rat skeletal muscle mitochondria.
J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2008;63:1137–1152.
[6] Oxidative modification and aggregation of creatine kinase from aged mouse skeletal muscle.
Aging (Albany NY) 2009;1:557–572.
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