足並み揃えて ◇10 | 有限実践組-skipbeat-

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 いつも本当にありがとうございます。一葉です。

 弊宅500記事を記念して、蒼々様からお与かり致しました原作沿い、記念リクエストの続きをお届け致します。


 お愉しみ頂けたら嬉しいです。

 前のお話はこちらです↓

 足並み揃えて【1おまけ9】




■ 足並み揃えて ◇10 ■





 敦賀さんと二人きりのキャンプ3日目……の朝食に、私が用意したのはこってこての和食だった。


 食品メーカーさんが提供している、煮物に最適根菜類…というネーミングで真空パックされているそれを使った煮物は、実は昨夜に一度火を通しておいたもの。


 一晩経っていたので味は充分過ぎるほど染みていて、とても美味しいと自分でも思ったし、敦賀さんも美味しいと言ってくれた。


 それから初日に使った冷凍小松菜を使ってお味噌汁を作り、カセットコンロを使って卵焼きを作った。


 白いご飯はやはり食品メーカーさんから提供されている真空パックものだったから炊き立てご飯には劣るけど、たまにはこういうのもアリかな、と思った。



 昨日、敦賀さんが言っていた通りに外は雨。


 オープンテラスの屋根代わりにもなっているターフから軽やかな音が休みなく生まれ、演奏者である小雨が辺りの景色を幻想的な雰囲気に変えていた。



「 いいね、こういうしっとりした朝も 」


「 そうですね 」



 穏やかに流れる時間の妙。

 もうずっと前からこの人と二人、こんな生活を続けていたような錯覚に陥る。



 本当は明日の朝で終わりの仕事なのに。それが信じられないぐらいに心地よい、3日目の朝だった。




「 敦賀さん、今日はどうするんですか? 」


「 うん。それなんだけど、俺、もう依頼されていた道具の紹介を全部終えているんだ。だから特に何をしなきゃいけないってこともないし、加えてこの雨だろ。だから小屋で過ごそうと思ってた 」


「 え?終わっているんですか?私はあと一個残っています。ファイヤーハンガーって奴が。今日のお昼に使おうかなって思っていたんですけど… 」


「 あ、そうなんだ。了解した 」


 …と、敦賀さんは笑いながら目を細めた。



 小屋で過ごす…なんて言われたから、もし二人っきりで会話が途切れてしまったらどうしよう、と考えたけど、それは要らぬ心配だった。



 朝食が終わると敦賀さんはすぐ小屋の裏手に回った。

 裏手…と言っても正確にはオープンテラスを降りた壁際だから、テラスから身を乗り出せば見える位置。


 だけど壁があるから当然、そこは防犯カメラの撮影範囲から外れていた。



「 敦賀さん。そこで何をするんですか? 」


「 ん?ここに風呂を作ろうかなって思ってね。手作り露天 」


「 はい?なに言ってるんですか。風呂?そんなの簡単に出来る訳ないじゃないですか。本気ですか?? 」


「 本気だよ。そのために昨日、河原で石を拾って来たんだ 」


「 はい? 」



 言われて納得。

 確かにそこは昨日、敦賀さんが拾って来た石を置いた場所だった。



「 ……ということは、もしかしたら焼いた石をお水に入れてお湯にするとか、そういうのですか?あの有名なドッツォみたいな? 」


「 君、そういう知識はあるんだな。違うって。そもそも比熱は水よりも石の方が大きいから、石を温めて水に投入っていうのは効率が悪いんだ。それをするなら直接水を温めた方がエネルギー量は少なくて済む 」


「 じゃ、どうするんですか? 」


「 昨日、川に行くとき手押し台車を使っただろ 」


「 はい 」


「 最初はあの台車にドラム缶が乗っていたんだ。邪魔で下ろしちゃったんだけど 」


「 へ? 」


「 何に使ったのかを考えている間に思いついたんだ。そのドラム缶を使って露天風呂を作れるなって 」



 そう言って敦賀さんは正真正銘、ドラム缶を手押し台車に乗せて運んで来たけど、でもとても入浴できるようなサイズには見えなかった。



「 敦賀さん。このドラム缶のサイズだと、そもそも敦賀さん、温まるに至らないんじゃないですか? 」



 ちなみにこれは後で知ったことなのだけど、一般的なドラム缶は高さ90センチ、直径が60センチというのが一般的なサイズらしい。

 確かにいま自分の目の前にあるのはそのぐらいに見えたし、それだけに身長190cmの敦賀さんが温まる構図はどうしたって無理に思えた。



「 誰がこのドラム缶に入るって言ったんだ。これはお湯を沸かすのに使うんだ。いわばヤカン、もしくは鍋代わりってこと 」


「 鍋代わり?じゃ、露天風呂はどうやって? 」


「 ここに穴を掘って 」


「 正気ですか!?今日、雨ですよ? 」


「 問題ないよ。だってここは屋根の下だから 」



 上向いた敦賀さんにつられて上を向くと、確かにせり出した屋根はあったけれど。



「 だからって…… 」


「 出来たら君も一緒に入るだろ? 」


「 一緒に入る?!ムリムリ、無理です!出来る訳ない!! 」


「 言い切るんだ。じゃあ出来たら入るよな? 」



 なんですか、子供じゃあるまいし。

 敦賀さんがムキになるとか、ちょっと可愛いじゃないですか。



「 いえ、でもそんなこと言われたって…… 」


「 キョーコちゃん。いま俺達は? 」



 ヴェ…。なんですか、その質問。それってまさか……



「 ラブ度高めの恋人同士? 」


「 だ。なら当然、一緒に入るよな? 」



 ちょっと待って?!それ当然??


 一般的な恋人同士は、ラブ度高めになると一緒のお風呂に入るのが当然なんですか?!…っていうか、今はそういう事じゃなく!



「 なに、出来る前提で話をしているんですか 」


「 実際、さほど難しくはないと思うよ。俺達二人が入れるスペースがあればいい訳だから。深さは4~50cmもあればいいだろうし、幅だって1mもあれば並んで入れる。楽勝! 」


「 なにが楽勝ですか……っていうか、私は入りません!だから敦賀さん、お一人分のスペースで良いと思います。その方が早く出来ると思いますし 」


「 ……キョーコちゃん。いま一度確認する。俺と君はいま何だっけ? 」



 え…そこ?

 そこにまた戻る?



「 ラブ度高めの恋人同士…… 」


「 だよな。だから当然、入るよな? 」


「 はっ……破廉恥ですか!!何を考えているんですか!!こんな、なんにもない所で露天風呂なんて冗談じゃないです!だって河原とは違ってここにはカメラだってあるじゃないですか!なのに裸…… 」


「 君こそ何を考えているんだ。水着を着用するに決まっているだろう 」


「 ……へ?水着? 」


「 そうだよ。でも君が必要ないって思うのなら別に着なくていいと思うけど。あ、その方がラブ度高めの恋人同士っぽいな。じゃ、お互いそうする? 」


「 …っっ!!!必要です!それ、絶対必要ですからっっ!! 」


「 了解。じゃ、水着着用で入るってことで♡ 」


「 ……っっっ!! 」



 結局そうなる!



 そこから敦賀さんはいそいそとお風呂づくりに取り掛かり、他にやることも無かった私は当然それを手伝った。



 まずはお湯を沸かすため、ドラム缶を火にかけられる様にブロックを使った。


 ドラム缶のサイズに合わせてブロックを四角いマス目の形に組み、その一角には隙間を開けて薪がくべられるようにする。

 ブロックの上にドラム缶を乗せると敦賀さんはすぐホースを使ってドラム缶に水を入れ始め、足場となったブロックの中央、ちょうどドラム缶の真下に当たる場所に、小さく切って隙間が空くように並べた段ボール…に火をつけた。


 着火を確認してから薪をくべる。



「 てっきり炭を使うのかと思っていました 」


「 炭っていうのはコンロでいうとほぼ弱火なんだ。温度を一気に上げるには物を燃やすのが一番手っ取り早い。

 段ボールは芯が圧縮されているものだから適度に空気が入っていて燃えやすいんだ。そこに薪をくべれば一気に火力が上がるから 」


「 へえ… 」


「 灰が出るからバーベキューでは使えない手だけど、蓋のある暖炉もこうやってつけるものなんだ。じゃ、穴を掘るか 」


「 ……微力ながら手伝います 」


「 助かるよ 」



 手伝ったのは手持ち無沙汰だったってこともあるけれど、あんまり小さいサイズだと敦賀さんに抱っこされる形でお湯につかる羽目になるかも知れないと考えたから。


 まさか敦賀さんに限ってそんなことはしないと思うけど、万が一にもそんな破廉恥な事態にならないように…と念の為に頑張った。


 それに、これなら敦賀さんと一緒に居られる訳だし。



 所がシャベルがあったとはいえ穴掘りはやっぱり大変で、小雨が降っていたせいで湿度が高くてさらに大変だったけれど、おしゃべりしながらだったから作業はそれほど苦ではなかった。

 およそ10時を過ぎた頃に敦賀さんサイドのスポンサーさんから使って欲しいと言われていた最後の道具、ファイヤーハンガーを使って、キャンプと言えばこれでしょ…と誰もが口を揃えるだろうカレーを作った。



 敦賀さんと力を合わせて掘った穴にブルーシートを入れることが出来たのは、お昼のカレーを食べたあと。

 何に使うのだろうと思っていた、敦賀さんが河原から拾って来たあの石たちはブルーシートに並べられ、少し大きめの石はブルーシートを固定する為に使われた。



「 ちょっとした岩風呂気分で 」


「 岩風呂っていうか…。ふふふ。でも、この足の裏に当たる感じがそれっぽいです 」



 ドラム缶で沸いたお湯は、水槽から水を抜いたり、バケツから水槽にゆっくり水を追加したい時などに利用されるサイフォンの原理を使って流し入れた。

 お湯を入れ始めてから部屋で水着を着用し、その上に服を着て来たから防犯カメラには私の水着姿は写っていない。


 手作り露天風呂のそばで服を脱ぎ、恥ずかしながら敦賀さんと一緒にお湯に浸かった。



「 ……はぁ~~~……お湯、気持ちイイ~~~~ 」


「 汗をかいたから余計にね 」


「 ふふ。ある意味贅沢ですよね。山小屋にちゃんとお風呂があるのに。私たちがこんな事をしていたって知られたらあとで笑われるんじゃないですか 」


「 別に笑われても俺は気にしない 」


「 あはは。気にするぐらいなら最初からしていないですよね 」


「 そういうこと。でも、たまにはこういうのもイイだろ? 」


「 はい!いいと思います。非日常って感じが特に。大変でしたけどね~ 」



 朝食後にスタートしてからお湯につかるまでに5時間以上かかってしまったけれど、重労働だったことも手伝ってお昼のカレーは最高に美味しかったし、どうせこの雨だから特に予定も無かったし。


 いつもと全然違う時間の過ごし方は目新しくてやっぱり面白かった。



 お湯の中で敦賀さんと肩が触れ合っちゃっているのは正直、恥ずかしいけれどねっ!!



「 景色がけぶっていて幻想的ですね 」


「 そうだね。このブルーシートが見えなかったらもっと情緒があったんだろうけど 」


「 ぷっ!敦賀さんって案外こだわるほうなんですね。仕方ないじゃないですか。埋められるほど石を持って来られなかったんですから 」


「 笑うな 」


「 あははは。そう言われると余計に笑っちゃいますよ 」



 時間が経つほど雨は強くなっていて、風も徐々に出て来ていた。


 手作り露天風呂は山小屋の屋根の下に作ったのでそれほど影響を受けないだろうと思っていたけど、雨脚が強くなるにつれて気温も徐々に下がって来て、そのせいかお湯の温度が下がるのも意外と早かった。

 時間にするとたぶん、20分も入っていられなかったと思う。



 作業時間に対して短い入浴だったけれど、これはこれでとても貴重な体験だった。



「 明日でもう終わりだね 」



 もう終わり…と言われて、敦賀さんも寂しさを感じてくれているのかな、と思った。

 4日間なんて本当にあっという間だと思った。


 こんなにあっけなく終わってしまうのだと、物足りなささえ感じていた。



「 楽しかったです。まさか敦賀さんが露天風呂を作ろうなんて言い出すとは思ってもいませんでしたし 」


「 やってみたかったんだよ、君と色々なことを…。こんな機会じゃないと出来ないだろ、だから。

 さて、上がろうか、キョーコちゃん。雨が更に強くなって来た 」


「 はい。残念ですけど仕方ないですね 」



 敦賀さんとのキャンプ三日目は雨で始まり、雨で終わるのだな、と。

 私も、そして敦賀さんもそう考えていたと思う。


 けれど雨で終わり…なんて可愛いものでは済まなかった。



 山の天気は変わりやすい。

 この言葉通り、低気圧はあっという間に発達して思わぬ猛威を振るった。



 それがこんなことになるとは…。

 敦賀さんとあんなことになるとは、夢にも思っていなかった。






 ⇒11話 に続く


※比熱…その物質の単位質量の温度をセ氏一度高めるのに必要な熱量のこと。


このあとは駆け足でラストまで。



⇒足並み揃えて◇10・拍手

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