いつも本当にありがとうございます。一葉です。
弊宅500記事を記念して、蒼々様からお与かりしました原作沿い、記念リクエストの続きをお届け致します。
お愉しみ頂けたら嬉しいです。
前のお話はこちら↓
足並み揃えて【1 ・2 ・3 ・4 ・5 ・6 ・7 ・8 ・8おまけ】
■ 足並み揃えて ◇9 ■
俺が撮影した河原バーベキューの映像と、テント内で最上さんが手放してしまったハンディカメラが偶然撮ってくれていた俺達の映像が、アウトドアスポンサーの販促に使われることになった…という連絡を社さんから貰ったのはその日の夜。
夕食に相当する夜のバーベキュー映像を撮り終え、俺と最上さんがのんびり夕食を楽しんでいた時だった。
「 ……ええ、了解です。……はい、伝えておきます。それじゃ 」
社さん談によると、スポンサー担当者たちは誰もが大張り切りだったらしい。
そう聞けばやっぱり嬉しくて、通話を切ったと同時に俺の口元が綻んだ。
「 敦賀さん。社さんですか? 」
「 そう。昼寝をする前に送った映像の件だった 」
「 えっ?!ももも…もしかしたらそれ、どこかダメな所があって撮り直しとかそういうのでしょうか?? 」
「 ぷっ。違うよ。スポンサーから販促に使わせて貰いたいって言われたから、それにOKを出したぞって、そういう事後報告 」
「 あ……そうなんですね。なんだ、良かった!! 」
撮り直しにでもなったら大先輩にご迷惑が…とかどうせ考えたのだろうけど、どういう風に使われることになったのかは敢えて口をつぐむ。
この子の意識を逸らそうと意図的に話題を変えてみた。
「 キョーコちゃん、本当に旨いよ、この焼き魚。バーベキューって言うと肉を焼くってイメージしかなかったけど、そうだよな。バーベキューってそもそも炭焼きだもんな 」
「 ね!そうですよね。バーベキューって聞いてから一度は絶対に炭で魚を焼きたいと思っていたんです!! 」
「 うん、それ当たりだ。炭焼きが手軽に楽しめるのがバーベキューの良い所だよな。しかも焼き魚なんてこだわりの料理人みたいだ。
どれだけガスや電気が普及しても炭火料理にこだわるプロがいるのはこの味が炭火でしか出せないからだよな 」
「 はい、そう思います!!でも、敦賀さんが作って下さったこの洋風いかめしも美味しいですよ 」
「 ……それ、君の指示に従って俺が冷凍ピラフを詰めただけじゃないか 」
「 でも美味しいですよ!! 」
「 そりゃあね。君が考えたレシピだから絶対旨いに決まっているけど、キョーコちゃんが焼いてくれたこの魚の方がずっと旨いって 」
「 あはははは。やだ、私たち、なんでお互いに褒め合いっこしているんですか 」
「 なんでだろうね 」
そう、今夜のメニューも最上さんが考えたものだけど、ふたりハンモックで仲良く昼寝…なんてしたら俺が想定していたそれよりだいぶ寝入ってしまったのだ。
別に時間がずれ込んでも何に支障がある訳でもないから、慌てて支度をし出した俺達の様子を監視室から見ていたスタッフが、わざわざメールで時間のずれは気にしなくて良いですよ…なんて知らせてくれたけど。
「 こうなったら!!敦賀さん、お手伝いしてもらってもいいですか!? 」
「 もちろん、指示して!! 」
「 それじゃあまずこれをですねっ 」
時間厳守はプロの意地。
互いに撮り合う形を取りつつも、二人で協力し合って何とか時間に間に合わせた。
そうして出来上がった料理は最上さん作、アジのハーブ詰めグリルと、最上さんの指示で俺が作った洋風いかめし。
…って言ってもこれ本当に簡単で、イカのお腹に冷凍のピラフを俺が詰めてアルミホイルで包んで焼いただけなんだけど。
小学生が作っても美味しく出来るよ、これなら。
「 それにしても、バーベキューで包み焼きって言うと、ラフィアを使うのが一般的だと思っていたけど、今は違うんだな 」
「 ラフィア?…ってなんですか、敦賀さん 」
「 ん。ラフィアってヤシの木の繊維のことだよ。柔らかくて丈夫、火にかけても燃えにくいって特徴があって、繊維をほぐして紐のようにして使うんだ。けど今はどちらかというと帽子やカゴバックの材料に使われる方が多いかもな。貴重な天然素材だし 」
※ハワイアンダンスを踊るお姉さんたちの腰を飾っているアレもラフィアらしい
「 へえ… 」
「 ごちそうさま!キョーコちゃん、俺、先に火の始末してくるから 」
「 え?それ私も手伝います、敦賀さん! 」
「 別に、ゆっくり食べていていいのに 」
「 もう食べ終わりました。大丈夫です 」
バーベキューの際、炭起こしで大切なのはいかに早く炭をつけるか。
焚きつけるのに一番適しているのは乾燥した細い枝や枯れ葉。次いで松ぼっくりや松の葉は油分を含んでいるので燃えやすい。
熱は下から上がってゆくもの。だからこの性質を利用して、枯れ葉や松ぼっくりを混ぜながら炭をピラミッド状に積み上げるのが基本形で、着火する時は一番下にある炭をおこすつもりで火をつける。
周辺の枯れ葉に着火すれば炭にも徐々に火が回り始め、やがて炭の端が赤くなる。
そのタイミングでうちわを使い、細かく早く盛大に風を送って一気に火を起こすのだ。
芯までしっかりと燃えて真っ赤になった炭の状態を、炭がおこる…と言うのだが、ここに至るまでの目安はだいたい15分。
耳を澄ますとパチパチと音がするのがいいと言われていた。
心地よく爆ぜている炭を専用トングで持ち上げ、火消しツボに投入する。
この地に来てから何度もこの光景を見ていた最上さんが、俺から少し離れた正面に腰を下ろした。
「 敦賀さん 」
「 うん? 」
「 それって火消しツボって言うんですよね? 」
「 そうだよ。炭は水をかけて消すと再利用が難しいけど、こうして火消しツボを使えば次もすぐに使うことが出来るんだ 」
「 そういうのがあるなんて、私、ここに来て初めて知りました 」
「 そうかもな。火消しツボって本当にアウトドアが好きな人じゃないと持っていないアイテムの一つだと思うから 」
「 それは撮らないんですか? 」
「 え?………うん。別にスポンサーサイドから何も言われていないし、火消しツボって意外と値が張ったものなんだ。気軽にアウトドアを…ってアイテムじゃなくて、どっちかっていうと玄人向けだから 」
「 それなら余計に撮っておいた方がいいと思いますけど 」
「 なんで? 」
「 だって、敦賀さんにそんなことを言われちゃったらみんな買いに走ると思いますから。……ふふっ。
いまの話を聞くと、火消しツボを持っている人が本当にアウトドアを好きな人ってことですよね。だから♡ 」
今まで持っていなかったくせに、自分はアウトドア派だぜ!…なんて鼻息を荒くしていた人たちが一気に買いに走りそうじゃないですか?…と、最上さんの目が言っていた。
「 ……くっ。じゃ、撮っておくか。そのセリフ込みで 」
「 そうですよ、撮っておきましょう!使うかどうかはスポンサーさんが決めて下さいますよ。でもきっと使うと思いますけど 」
「 はは。君はプロデューサーか 」
最上さんの勧めに従い、火消しツボの紹介映像を撮影し、直後にデータを送信した俺達は、そのあとバーベキュー道具をすべて片付けシャワーを浴び、さっぱりした所で山小屋からしばし離れて真っ暗な森の中に足を踏み入れた。
持っていたのは初日に紹介したキャンプ道具。水と塩で光るランタンと、それから可愛い彼女の右手。
たぶん明日は雨になるから、星を見に行こうと提案したのは俺だった。
「 雨?降るかも知れないんですか? 」
「 降ると思う。川遊びをしていたとき、時間が進むにつれて少しずつ川が増水していたから間違いないと思う 」
川辺で使うつもりでいたハンモックを持ち帰って来たのはそういう理由だった。
万が一にもすぐ雨が降り出してしまったら、場合によっては川が氾濫するかもしれない。だから危機を回避した。
時差こそあるものの、その予想は当たっていた。
さっき社さんからもそれを言われていたのだ。明日はきっと雨になると思う…と。
「 キョーコちゃん、寒くない? 」
標高1600mのここは、8月でも平均気温は22.2℃という涼しさ。
アスファルト上などの輻射熱を受けやすい場所は別にして、遊歩道や木陰は案外過ごしやすい気温なのだ。
ちなみに標高が100m高くなると気温は0.6℃下がるのだが、これをいま自分達がいるここ、標高1600mに当てはめると、海抜0m地点との温度差は9.6℃ということに。
しかし理論上は9.6℃でも、風が吹くと体感温度はさらに下がる。
湿度や日照も関係するので一概には言えないが、風速1mで体感は1℃下がると言われていて、つまり体感レベルの感想で言うと昼間はTシャツで過ごせるが、夜はダウンジャケットがあってもいいぐらいの気温になるのだ。
朝晩の気温差が大きいのがこの地の特徴だと聞いていたから、一応、暑さ対策、寒さ対策はしてきたつもりだ。
しかし今年は例年になく暑く、昼間の最高気温は30℃を楽に超え、昨夜は20時を過ぎた時点でも28℃を保っていた。
けれど明日は雨天になるからだろうか。
いまはすっかり寒くなっていて、それは秋の気配を感じるほどだった。
「 大丈夫です。敦賀さんが貸してくださった上着に守られていますから 」
徒歩30分程度先にあると聞いていた本来のキャンプ場にたどり着き、そこに拡がっていた高原で足を止め、俺はこれ以上ないほどこの子をギュッと抱きしめた。
「 本当に寒くない? 」
「 ……寒くないです。敦賀さんは寒くないですか? 」
「 寒い。だから強く抱きしめてくれると嬉しい 」
「 は、はいっ!!お任せください! 」
「 ……っ……ふ……っっ… 」
おねだり通りにきつく抱きしめられて頬が緩む。
誰にも見られていないと知っているからこそ、俺は心のままに彼女の頭の上でこっそり破顔を浮かべた。
でもこれは後で聞いた話。
この場面は幸い見られていなかったけど、俺達が星空を見に行ったことはバレていた。
もともと外設置のカメラが5台あることは聞いていたのだが、そういえば俺が把握していたのは4台だけだった。
うち3台はずっと稼働していて、これが防犯カメラ映像であり、今回の深夜番組で使用されるものなのだが、その内訳は、山小屋の庭にあるバーベキュー場に向かって一台と、ターフに向かって一台。そして調理場周辺に向かっての一台だった。
そして稼働していないもう一台が河川敷にある訳で、残りの一台は山の中にあったという。
山小屋を背にして山側向きにあるそのカメラは夜間にのみ稼働しているらしく、こちらは完全に対獣用。
野生動物…主にクマの存在を把握する為の一台だったらしいのだが、そこに俺達が映り込んでいたとのこと。
前述した通り、幸い…というべきか、たどり着いた高原で俺が彼女と抱き締め合っていたシーンは撮影範囲から大きく外れていたためカメラには映っておらず、つまり俺がだらしなく表情筋を緩めた顔も撮影されていなかったのだが、俺が最上さんと手を繋いで山の中を歩く後姿と、高原から戻って来た姿はバッチリ映像が残っていた。
それで結局後日、この後ろ姿の映像と、山小屋に戻って来た時の正面の映像が、キャンプ場を宣伝する際のポスターとして使用されることに決まった。
好きな人とキャンプに行こう。
一生の思い出を持ち帰ろう…という、一般的な誘い文句が入ったポスターとして。
「 敦賀さん!!! 」
「 うん? 」
「 いま、空!空を見ていましたか?流れ星が流れたんです!! 」
「 え? 」
「 ほら、また流れた!! 」
実はこの時期、この地域では10~15分に一回程度、流れ星が見られるという情報を俺は得ていた。
隣接したキャンプ場では、スターライト・ツアーや星見プランなどの用意もあるらしい。
「 敦賀さん、ほら!またですよ!すごい。それに、こんなに綺麗な天の川、初めて見ました! 」
「 ……俺も 」
俺も、こんなに綺麗な星空を見るのは初めてだ。
そして、こんな純粋に目を輝かせている君に会ったのは久しぶりな気がする。
「 ふふ。寒いですけど、でも来てよかったですね! 」
「 やっぱり寒いんじゃないか。それなら俺の上着の中に入る? 」
「 ……っ……そ……そこまでは…… 」
「 ここで照れても意味ないだろ。ランタンは消したから俺達の存在に気付く人はいないだろうし、だいいち見た感じ誰も居ないんだからどうせ誰も見ていない。ゆえに遠慮は必要ない 」
「 きゃうぅぅぅっっ!! 」
「 ……どう?暖かい? 」
「 ………てれくさい… 」
「 じゃなくて。俺、暖かいかどうかを今、聞いただろ 」
「 だってぇぇぇ…… 」
辺りにはこれと言った明かりが無く、そのためか雲のような天の川をはっきりと見ることが出来た。
特に日中暑かったから、フェーン現象の影響で更によく見えていたと思う。
※フェーン現象・比較的高温の乾いた風が山から平地へ吹き降ろす現象。
「 風が強いな。体温を奪われ過ぎたら体調を崩すかもしれないから、あと5分ぐらいしたら戻ろうか 」
「 はい。それならあと5分、敦賀さんを全力で暖めてあげますね! 」
「 ありがとう。それ本気で嬉しい 」
夜の空は美しく、完璧に二人だけの世界。
無限の星空の下で俺達は
情熱を燃焼させながら想いを蓄え
ともに頭の中に掲げた志には少しだけ目をつむり、二人だけの時間を楽しんだ。
⇒10話 に続く
やっと2日目の夜が終わった(笑)
■欄外おまけ■
昼寝から目覚めたのはキョーコちゃんの方が少し早かった。
ボーっとしながら上半身を起こそうとして、ハンモックが揺れたことにきっとひどく驚いたのだろう。
キョーコちゃんは蓮の腹の上に顔面を直撃。
その衝撃で当然の如く蓮も目を覚ました。
「 ……頼むから、もう少し優しい起こし方をしてくれないか 」
「 すみません。ハンモックで寝ていたことをすっかり忘れて、起き上がろうとして揺れたからそれでびっくりしちゃって… 」
「 キョーコちゃん、いま何時か分かる? 」
「 あ、はい。ハンディカメラの電源を入れれば分かりま……敦賀さんっ!!! 」
「 なんだ?! 」
「 寝坊しちゃってますぅぅ!! 」
「 !???? 」
寝ぼけ眼を擦っていた蓮の様子にスタッフ一同が頬を緩め、キョーコちゃんのセリフで一気に覚醒した二人の様子に笑いが溢れた。
「 …っ…ふふふ。やだ、もう、微笑ましい 」
「 ほんと。こうしてみるとなんで社さんが二人の担当をしているのかが自然と判る感じですね 」
「 ね。同じ事務所に所属ってだけじゃなくて、本当に仲が良いからなんですね 」
「 ははは。実は蓮とキョーコちゃん、最初から気の合う二人だったんですよ 」
最初は互いに良く思っていなかったみたいだけど。
でも今は2人が自然体だからこそ、見ていてこんなに微笑ましい気持ちが生まれるのだろう、と思った。
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