いつもありがとうございます。一葉です。
弊宅500記事を記念して、蒼々様からお与かり致しました記念リクエストの続きをお届け致します。
一話分の長さはきっとラストまでずっと長いままだと思われます。
お愉しみ頂けたら嬉しいです。
■ 足並み揃えて ◇4 ■
最上さんとの初キャンプ生活、二日目にして最初の朝。
彼女は俺より少し早く起きていたようだった。
「 敦賀さん、おはようございます!! 」
「 ……おはよ 」
顔を合わせたのは小屋のキッチン。だからこの子が朝食の準備をしていたのだとすぐ気付く。
外に持って行くつもりなのだろう彼女が抱えていた木製のまな板には、食パン、ハム、レタス、トマトとお湯を注ぐだけで簡単に味わえるカップスープの素が乗っていた。
「 朝食の下ごしらえをするなら起こしてくれればいいのに… 」
「 いえ、下ごしらえっていうレベルのものじゃないのでいいかなって思ったんです。だってメチャクチャ簡単ですから。
でも、敦賀さんが起きて来られたのなら私、カメラを敦賀さんにお願いして外に出ちゃってもいいですか? 」
「 いいよ。俺もいま行く! 」
ミネラルウォーターを片手に、ハンディカメラをもう片手に彼女の後を追いかける。
今朝は清々しい目覚めだった。
早朝6時だというのに外はすっかり明るく、直射日光を受ければ暑さまで感じる。
俺が目覚めてすぐ気付いたのは社さんからのメール着信。すぐさま中身を確認した。
メッセージ内容は主に今日の撮影に関することだった。
「 敦賀さん、始めましょうか。平気ですか? 」
「 うん、いいよ。カメラはもう回っているから 」
それによると、昨日、彼女の料理の腕前を目の当たりにした両スポンサーは、どうやらその一日だけで十分納得したらしい。
朝食時、朝早く監視室に集まらなくてもいいだろう…で意見が一致したという。
つまりこの朝の時間、リアルタイムでこの光景を目の当たりにするのは俺達以外にいないわけで、そう思うだけで気分が違った。
「 え?電話はかけないんですか? 」
「 朝早いから別にいいって社さんからメッセージが来てた 」
「 ぷっ!本当ですかぁ? 」
「 本当だよ。あと社さんから伝言。すっごく美味しかったって 」
「 え? 」
「 昨夜の君の料理、やっぱり再現したらしいよ。キャベツの中からチーズがとろり…が最高だったって伝えてくれって。あれ、本当に美味しかったよな 」
「 えへへ。良かった、嬉しいです!! 」
初めから、番組放送に使う内容は俺達が撮る映像と防犯カメラの映像をミックス編集することで合意していた。
防犯カメラの映像はいつでも取り出すことが可能だから、それで十分だと判断してくれたのだろう。
人の目が無い…というのはこんなにもリラックス出来るものだろうか。
これが三度目の調理撮影だというのもあったかもしれないけど、チェックの目がない分、俺達は昨日よりだいぶ気楽で、そして自然と笑いが浮かんだ。
「 それで?今日の朝食はスープにトーストと野菜サラダって所かな? 」
「 ブー!!残念ながらハズレです 」
「 あれ、違った?簡単だってキョーコちゃんが言うからてっきりそうかなって思ったのに。いいよ、じゃあ紹介して? 」
「 今日はね、パンから焼きます。敦賀さんが昨日使っていた、すぐ着火する炭、使っていいですか? 」
「 あ、それは俺がやる。カメラ交代して 」
「 えぇぇ~!ちょっとやってみたかったのにぃ 」
「 仕方ないな。じゃあお昼にやらせてあげるよ。そうなると昼はそれを使うメニューじゃないと困るよ? 」
「 はい、だいじょうぶ、了解です! 」
「 けど、炭起こしって基本的には男の見せ場なんだ。だから任せてもらえた方が嬉しいものだけどね 」
「 ……そうなんですか 」
「 ところで、着火してから言うのもなんだけどパンから準備?しかもアルミホイルに包んだりしたらさらにすぐ焼ける気がするけど… 」
そうなのだ。
最上さんは食パンを一枚ずつアルミホイルで包んでいて、俺がコンロに網を乗せるとホイル包みの食パンを網の上に並べ始めた。
「 そうですね。これが冷凍食パンじゃなかったら早いと思います 」
「 うん?これって冷凍食パンなんだ? 」
「 はい。昨日、ここに着いてすぐ冷凍にしておいたんです。
夏場はパンってすぐダメになっちゃうんですよ。でもだからって冷蔵庫に入れておくとふわふわ感がなくなっちゃう。そうなっちゃったら焼いても美味しいトーストにはならないんです。
でもあら不思議♪冷凍した食パンをアルミホイルに包んで焼くとふわふわのトーストになるんですよぉ 」
焼くのに多少の時間がかかっちゃうんですけどね…と言いながら踵を返した最上さんは、網の上に置いた食パンは放っておけば大丈夫です…と目を細めた。
焼けたかどうかを見極めるのは簡単で、10~15分ほどでいい香りがするらしい。
それまで別の事をしていましょう…と言った最上さんは早速レタスを何枚かほぐし、適当な大きさにちぎってから水にさらしてざるに上げた。
手は休むことなくトマトを持ち上げあっという間に6枚ほどのスライスに。
「 ……キョーコちゃん。このハムはカットしないの?サラダにしては具が大きい気が… 」
「 これは焼けたパンに挟んで食べたら美味しいかなって思って用意しています。だから、敦賀さん、食べるときは自分で好きに具を挟んで食べて下さいね 」
「 わかった。で、あとはこっちのカップスープ用のお湯を沸かせばパンが焼けるのを待つだけでいいってことか。確かに簡単かも 」
「 ブー!残念ながらそれもハズレですぅ。だってそれじゃアレンジ料理にならないじゃないですか 」
「 あれ?あ、そうか。じゃ、どうする? 」
「 昨日のカセットコンロを使ってもいいですか? 」
「 うん、いいけど。これね… 」
「 ありがとうございます。火にかけるのは小さめの片手鍋。そこに冷凍のコーンと冷凍の豆だけ枝豆を入れます 」
「 …ってことは、この冷凍食品がスープの具になる? 」
「 はい、そうです。こういうひと手間をかけるとインスタントスープでも全然違いますよ 」
最上さんが手にしていたのはCMでもおなじみのポタージュスープの素だった。
コーンと枝豆が入った鍋へ、パッケージに記載されている二袋分の水を入れた所でコンロを点火。
お湯が沸いたので弱火にすると、最上さんはカップスープの素を鍋に入れてから小さな泡だて器で手早く鍋をかき混ぜた。
「 そうか。お湯が沸けば冷凍の具材も解凍されている訳か 」
「 そうです。そしてさらにここに牛乳を加えます 」
「 牛乳!? 」
「 このカップスープ、パッケージにある分量だと割と少な目なんです。具材を足してありますし、もうちょっとボリュームが欲しいので簡単嵩増しです 」
「 へぇ… 」
「 牛乳を加えて、表面が盛り上がってきたら完成!あ、ちょうどパンの香りがしてきた 」
「 ほんとだね。焼き立てパンの香り 」
「 香りだけで美味しそうですよね 」
網から下ろし、アルミホイルを開くとあぶられていただろう片面だけに薄く焦げがついている。
「 焦げがつかない反対側はしっとりふわふわになるんだ 」
「 パリッとしたのが好みなら少し網の上で焼けばいいと思いますけど、その場合は焦げやすいので注意してくださいね 」
「 そっか。アルミホイルに包むのは水分を逃がさないためか。さらにダブルの遠赤外線効果 」
「 炭焼きならではの贅沢だと思います。敦賀さん、温かいうちに食べましょう 」
「 もちろんそうしよう 」
かつて、こんなにも食欲をそそられた朝食があっただろうか。
焼きたてパンに、俺が起きてくる前に仕込んでくれていたのだろうマスタードを混ぜ込んだバターを塗ってレタスとトマトとハムを乗せる。
ケチャップとマヨネーズを同量混ぜたオーロラソースで味付けしたトーストサンドは格別に美味かった。
「 うま!本当に凄いよな、君は 」
「 え?いま私、敦賀さんに褒められちゃいました?ふふっ、嬉しい!! 」
「 当然だよ。食べ終わったらまた昨日みたいにお礼のチューをしなくちゃ 」
「 …っ!!!そのご褒美は遠慮します!!なんで急に敦賀さん、あんなこと… 」
「 ん?急に感じた?別に感激したお礼だったんだけど 」
なんて飄々と答えてみたけれど、実はこれには裏がある。
昨日、最上さんがシャワーを浴びている間に俺は社さんに電話を入れた。
理由は彼女にも言った通り、打ち合わせのためだった。
それによると、最上さんの手際の良さに食品メーカー担当者は目を見開いて驚いて、アウトドアメーカーの担当者たちは手放しで大絶賛。
予想以上の好評価だったと社さんは嬉しそうな声音で教えてくれた。
…で、取り敢えず夜のメニューも最上さんのお任せで…となった所で意外な注文が俺に飛び込んできたのだ。
実はそのきっかけとなったのは、後日の番組で注意事項として紹介されるガスボンベのあのシーン。
俺が最上さんの二の腕を引いて後ろから抱きしめたやつだった。
誰にも見られていないと思っていたあれを目撃していた関係者の女性たちは、瞬間沸騰したみたいに一気に盛り上がったらしい。
「 キャー♡♡♡ なに今の?!なに今の?!なに今の~~~~っっっ!超絶サービスショットですか、敦賀さん!大感激!! 」
「 すごい!凄い萌えキュンシーンだったね!だって二の腕引っ張ってチューよ?! 」
「「「「「 きゃあぁぁぁっ!!!たまんなぁぁぁいっっ!! 」」」」」
いや、チューなんてしていなかったんだけど。
どうやらちょうど俺が彼女の肩に頭を預けた時、三台あった防犯カメラのうちの一台だけは角度の関係でそういう風に見えたらしい。
「 ねぇ、ねぇ!!こういう素敵アクシデントがあるって想像しちゃったら、普段敬遠しがちな女性でもアウトドアに行ってみようかなって気になると思わない?! 」
「 それ、絶対あるぅ!だって好きな人が行くなら自分も行こうって思うもの! 」
盛り上がったのは主に最上さんサイドのスポンサー達の女性陣で、けれどこのとき同席していた俺サイドのスポンサー男性陣は、社さんの弁を借りるなら、瞬間キラリと目を光らせたとか。
奇しくも今回、依頼をくれたアウトドアメーカーの仕事内容はバーベキューなどで使える便利グッズや新商品のPR。そのコンセプトは誰でもアウトドアをしたくなる…だったのだ。
特別な道具を持たずとも楽しめるように…をメインとしていたので、特殊で高価な調理器具等はグッズ紹介一覧に名を連ねていなかった。
そして女性たちが口走ったように、素敵アクシデントの存在がアウトドアユーザーを増やすきっかけになるのなら…と考えたアウトドアメーカーのスポンサーが社さんに即刻耳打ち。それが昨日の電話で新たな注文として伝えられた。
「 蓮。お前がさっきやらかしてくれたキョーコちゃんの二の腕を引っ張ってチュー。あれ、こっちですごく盛り上がったぞ 」
「 は?…してませんよ、そんなこと!!あれはそんな事をしたんじゃなくて… 」
「 判ってる。人の目があるのにお前がそんな事を堂々とするはずないもんな。けどだからこそ自然な行動だったのが余計に萌えキュンされたんだと思う 」
「 ……萌えキュン? 」
「 そう。…で、結論から言うとそういうのをガンガン入れて欲しいってお前側のスポンサーから要望が出た 」
「 ……っ…はぁっ?なんですか、それ?! 」
「 これがさ、普通の奴に来た依頼なら出来ませんって突っぱねる所だけど、お前なら自然に出来るだろうと考えて断らなかった 」
「 ……っ… 」
「 けど多分、キョーコちゃんに教えちゃうとリアルな反応が返って来なくなると思うからあの子には内緒のままにしろよ?
けどもちろんお前は出来るだろ?なぜならお前はトップをひた走る役者、敦賀蓮なんだ。そういう男の役を演じてるって思えば幾らでも自然に出来るだろぉ?な、蓮。ぐふふ…… 」
なにがグフフだ。
簡単に出来るとか、あの子相手によくもそんな無責任なことを…とは思った。
けどこの時点で俺が出来ないと言った所で意味は無い。
何しろ社さんはもう了解して来ているのだから。
「 ……はいはい、仕事、分かりました。じゃああとは夜に、またお願いします 」
「 あ、蓮。お前のために俺、明日の朝までに世間で言われている萌えキュンシーンってやつを調べてメールしておいてやるからな。お前の為に!それを参考にして頑張れよ?! 」
頑張れって何をだよ?!
この瞬間、目の端にあの子の姿が映って通話はそこでぶっちぎった。
言葉通り、朝には来ていた社さんのメール。
メッセージは主に今日の撮影に関することだったけど、その最後に、今どきのベストオブ胸キュンと題された一覧があって、何気にスクロールしていった下の方に、二の腕引っ張ってキス…って項目があって苦笑した。
「 敦賀さん 」
「 うん? 」
「 今日の撮影もひょっとしたら打ち合わせ済みなんですか?それともこのあと電話で? 」
「 あ、いや。もう決まってるんだ。社さんからのメールに今日一日分の指示が入っていたから 」
「 そうなんですか? 」
「 そう。今日は昼間に河原でバーベキューをするよ 」
「 え?河原で?!ええ~すごい!! 」
河原のバーベキューに関しては、このキャンプが始まってから考えよう…と保留にしていた事項だ。
川はこの小屋から徒歩20分ぐらいの場所にあって、そこはメーカーが所有しているプライベートビーチ…ならぬ完全なプライベート・リバーサイドだという。
そこもこの小屋同様、開発した商品の使い勝手などを試すための場所らしく、故に誰もが入って来られない。
そこにも防犯カメラがあるらしいけど、一台だけ設置されているというそれは滅多に使うことがないため、現在は無起動状態だという。
「 キョーコちゃん? 」
「 どきっ 」
「 河原のバーベキューの準備はこれからするけど、現地で多くの道具を紹介しなきゃならないから少し時間がかかると思う。…から、キョーコちゃんにも手伝ってもらいたいんだけど、いい? 」
「 はい、もちろんお手伝いします 」
――――――― 萌えシーンをガンガン入れて欲しいって要望が……
……まぁ、仕事だってことはもちろん忘れやしないけど
でもそう言われた以上はもう
楽しんだ者勝ちだろう…とこのとき俺は思っていた。
⇒5話 に続く
どこまで書こうか悩んで結局午前中だけしか入らない。
この調子で行くと少なくともあと6話は確実に書くと思われます。うん。…ってことは少なくとも全11話ぐらいに?
…ってことです。どうぞよろしくお願いします。
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