いつも本当にありがとうございます。一葉です。
弊宅500記事を記念して、蒼々様からお与かり致しました原作沿い、記念リクエストの続きをお届け致します。
お愉しみ頂けたら嬉しいです。
前のお話はこちらです⇒足並み揃えて【1 ・2 ・3 ・4 ・5 ・6 ・7】
■ 足並み揃えて ◇8 ■
「 ……敦賀さん、何をしているんですか? 」
「 なにって、持ってきた石を台車から下ろしているところ 」
「 それは見れば分かります。だからそれを…… 」
一体なにに使うつもりなのだろうか、と軽く丸めた右手を口元に当てながら私は目を細めた。
実は聞いたところではぐらかされる事になるのは承知していた。
山小屋に戻って来る前、敦賀さんは河川敷の大きな石をいくつも手押し台車に乗せていて、それは大きなものばかりじゃなく、片手で持てる程度の石もゴロゴロ拾っていたのだ。
だから私はそれをいったい何にするのだろうと思ってその時点で疑問をぶつけていたのだけど、敦賀さんは輝く笑顔でただ一言。内緒♡…と答えただけだった。
「 よし、OK。ひとまずこれでいいか。キョーコちゃん 」
「 はい? 」
「 水着を脱いでからまたそれを着たから湿っぽくて着心地悪いんじゃないか?着替えをあげようか? 」
「 着替え?…ってまだあるんですか…っていうか、敦賀さん、つかぬことをお伺いしますけど、そもそも敦賀さんはいつ私の水着を、なぜ用意したんですか? 」
「 なぜって。河原バーベキューの話は実行に至るかどうかハッキリしていなかったから君には伝えていなかったし、不可抗力とはいえ君を俺の仕事に巻き込んでしまった形だろ。しかもプライベートな時間はあるけど4日間ここに拘束されっぱなしになる。
事前情報で河原の防犯カメラは動いていないって聞いていたし、景色を撮らないでくれってお願いもされていたから、もしGOになったとしたらお互いプライベートな時間を確実に確保できるなって。
それで俺が用意しておこうって思ったんだ。君に気兼ねなく楽しんでもらえたらって考えて。
だからお店の人に急遽お願いしてね、ここに来る前に寄り道した店で受け取って来たんだ 」
「 あ…! 」
そうだったのか、といま気付いた。
つまり、私が着替えを持っていようがいまいが敦賀さんはきっと寄り道をしたに違いない。
そしてだからこそ、敦賀さんはさほどの時間をかけずに私の着替えを買って来ることが出来たのだ。
なんてさり気ない気遣いが出来る人なのだろうか、この人は。
「 お気遣いありがとうございます。おかげですごく楽しめました 」
「 俺もだよ。楽しかったね 」
「 ……はい 」
「 それで?着替えなくても平気? 」
「 はい、大丈夫です。このサロペット、リネン生地でしかもゆったりとしていますから着心地がいいですし、実際、歩いている間にすっかり乾いちゃいましたから快適そのものです 」
「 そう?ならいいけど 」
「 あ、違った。今年はジャンプスーツって言うんでしたっけ? 」
「 そうらしいよ。君がいま言ったサロペットで間違いないんだけどね。
毎年ファッション業界では目新しさを出すために意図的に呼び名を変えて販売を続行するんだ。涙ぐましい努力だよな 」
「 そうなんですね。……あ!それより敦賀さんこそ。私がシャツを濡らしちゃったから着心地悪いんじゃないですか?着替えて来た方がいいんじゃ… 」
「 もうとっくに乾いたよ。じゃ、仕事をするか。キョーコちゃん、カメラを構えて 」
「 はい! 」
促されるままにカメラを構えると
敦賀さんは手押し台車に乗せていた正体不明の巾着袋を持ち上げた。
それは、河原に持って行ったにもかかわらず、使いもせずそのまま持ち帰って来たものだった。
「 この巾着袋の中身を紹介するんですか? 」
「 そう。これね、ハンモックが入っているんだ 」
「 ハンモック?!こんな小さいサイズもあるんですね。
あれ?…ってことは、最初は敦賀さん、これを河原で使うつもりだったってこと? 」
「 うん、そのつもりだったけどちょっと気になることがあって持ち帰っちゃったんだ 」
「 気になること? 」
「 そ!じゃ、紹介行くよ。撮ってる? 」
「 もちろん撮ってます! 」
驚いたことに敦賀さんが紹介したハンモックは、アウトドア用のキングサイズというものだった。
キングサイズ…と聞いてすぐ思い出したのは敦賀さん宅の大きなベッド。
敦賀さんが紹介するに相応しい名称だな、と心の中で笑ったつもりでいたけど、もしかしたらその感情は私の顔に出ていたかも。
巾着袋から出されたハンモックはキングサイズに相応しいとても大きなもので、目星を付けていたのか敦賀さんはさほど戸惑う様子もなく、すぐそこにあった太い幹の木にハンモックを取り付け始めた。
手慣れた様子だったからこれもやったことがあったのかな…って想像して、口元が自然と緩んだ。
「 このハンモックの良い所はまず、ツリーベルトで取り付けるってこと 」
「 ツリーベルト? 」
「 そう、いま俺が持っているコレ。ハンモックの多くは紐を木に括り付けるタイプが多いんだけど、それだと安定性が危ういし、だいいち幹に傷をつけやすいんだ。
そこでこのハンモックはベルト式を採用。ベルトなら幹に接する面積が多いから力が分散されやすい。つまり木肌を削りにくいってこと。それに接地面が広いから安定性が高く、同時に固定性にも優れているんだ 」
「 そうなんですね。そうですよね。アウトドアが好きな人って自然大好きってイメージがありますから、だとしたら自分達が楽しむために木々に傷を負わせるのは心が痛みますよね 」
「 それ!キョーコちゃん、良いことを言った。人だけじゃない。企業も同じだと思うよ。こういう製品を世に送り出す姿勢を見れば嫌でも分かる。
このハンモックの正式名称はパラシュート・ハンモック 」
「 パラシュート? 」
「 そう。パラシュート用の布は薄くて引き裂きに強く、通気性が高いという特徴があって、つまり蒸れに強くて快適な寝心地が得られるんだ。
折りたたんでケースにある留め具で小さく収納できるのに、展開時のサイズは290cm×140cmとかなり大きい。…っていうか、実はこれ一人用じゃなくて二人用ってだけなんだけど。はい、完成 」
「 わぁ!ずいぶん大きい! 」
「 だろ。見てわかる通り俺でも横になれちゃう大きさ。よし、いいよ。キョーコちゃん、おいで 」
ハンモックに腰を下ろした敦賀さんが、何気ない口調で私に手を差し伸べた。
何を言われたのかが分からなくて私は目を点にしたけど、立ち尽くした私を見て敦賀さんは小さくクスリと笑った。
「 ほら、おいでって、キョーコちゃん 」
「 うきゃぁぁぁっっ??!! 」
腕を掴まれ引っ張り込まれ、腰を抱かれて持ち上げられ
あっという間に私は敦賀さんと一緒にハンモックの上に。
「 ほら、二人で乗っても大丈夫だろ?耐荷重も350㎏もあるから少しぐらいこの上でイチャイチャしてもビクともしないし、俺がこうやって君の靴を脱がせたって全然平気。…ってことで、ハンモックから見える景色も撮って、キョーコちゃん 」
「 ……っっ!! 」
そりゃ、撮れって言われれば撮りますけど。
でも微妙に恥ずかしいんですけど、敦賀さん!!
「 撮った?撮ったら俺に貸して? 」
「 どうするんですか? 」
「 河原バーベキューの映像と一緒にデータを送信して寝る 」
「 はい??? 」
そう言うと敦賀さんは私を膝の上に抱えたまま、スポンサーが用意してくれたスマホを介してカメラのデータを素早く送信。
それを終わらせると今度はツリーベルトとハンモックを繋いでいるロープにカメラをぶら下げ、抱え込んでいた私を道連れにハンモックに寝転がった。
「 ……っっっ!!!敦賀さん、寝るならお一人でどうぞ!! 」
「 ダメだよ、君も寝ないと 」
「 で……でもこれはっっ…!! 」
私にはご褒美が大きすぎるし、だいいちこんなシーンをスタッフさんに見られでもしたら、万が一にも敦賀さんに迷惑が…!
「 大丈夫。俺達が恋人設定で動いていることはスタッフもすぐ気付くよ。何しろここの防犯カメラはマイクも生きているんだから 」
ああ、本当だ、そうでした。…じゃなくてですね!
自分の耳の下にあなたの心臓があること自体がひどく照れくさい私なのですが!!
「 それにね、キョーコちゃん 」
「 はいっっ 」
「 俺達、たぶん4時間ほどは川で遊んでいただろう。水の中での運動は確実に体を疲労させているだろうし、そこに暑さも加わっている。
大丈夫だと思っていても身体は休ませておいた方がいい。体調管理も仕事のうちだからね 」
「 ……はい 」
仕事…と言われて思い出した。
河原に行く前、私は敦賀さんからこう教わっていたのだ。
道具を紹介するときに大切なことは、私たちがその道具を使ってみせることだと。
使用感を目の当たりにさせることで未来のユーザーを増やすことに繋げるのがこの仕事の本来の目的なのだ。
だから、二人用のこのハンモックで私たちが実際に眠ることは、アウトドアメーカーのイメージキャラクターに採用された敦賀さんには必要なことなのだ。
そして、敦賀さんが恋人設定はラブ度高め…にしたのはこういう全ての事を見越してのことだったのだろうと思った。
本当に。
知れば知るほど、この人の凄さを実感できる。
「 ……敦賀さん。私がくっついているの、暑くないですか? 」
「 全然。さっきも言ったけどパラシュート用の布は通気性が高いからそもそも蒸れにくくて快適な寝心地だし、木陰ってこともあってむしろ君の体温がちょうどいいよ 」
「 ……っ…… 」
ハンモックだから当然、敦賀さんから離れようとしても離れられるはずも無く。
しかも敦賀さんが私の体を抱いていたから私は敦賀さんの上に半分以上乗っかった状態だった。
なのに川で体を冷やしたからだろうか。
敦賀さんの言葉通り、私にとっても敦賀さんの体温はやけに心地よく感じられた。
木陰にいるお陰で眩しさもなく、大地が辺りの湿度を適度に調整してくれているから蒸し暑さも感じない。
渡る風は柔らかく、肌を滑るたびに心地良く。
太陽の下で、石を運ぶ…なんて重労働をしていた敦賀さんはきっと私より疲労を感じていたのだろう。
私の頭の上で大先輩が、うつら、うつらとするのを眺めながら、私は肌を通して伝わってくる敦賀さんの心音に緊張感を和ませ、口元で柔らかく弧を描きながら導かれるように徐々に眠りに落ちて行った。
脳裏に浮かんでいたのはさっきまでの自分達。
誰の目も気にせず二人で思いきりはしゃぎまくった、敦賀さんとの楽しかった川遊びだった。
⇒突然ですが、8話のおまけ に続きます
いえーい、全然進んでいないですね~(笑)
時系列のんびり進行がこのお話の特徴デス!
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