R4 技術士試験の解答例 [選択Ⅱ-2-1 水安全計画](R5.2.2更新) | 新見一郎

新見一郎

勉学を通じて成長をナビゲートする講師。
2008年に技術士合格後、「技術士を目指す人の会」を立ち上げ、多数の技術士を輩出。自身も勉学ノウハウを活かして行政書士、世界史検定2級、電験三種に合格。

【問題】Ⅱ-2-1 

水道水は、水質基準を満足するよう、原水の水質に応じた水道システムを整備・管理することにより安全牲が確保されているが、水道水へのさまざまなリスクが存在し、水質汚染事故や異臭味被害が発生している。水道をとりまくこのような状況の中で、水道水の安全性を一層高め、今後とも利用者が安心して飲める水道水を安定的に供給していくためには、水源から給水に至る総合的な水質管理を実現することが重要である。このためには、水源から給水栓に至る各段階で危害評価と危害管理を行い、安全な水の供給を確実にする水道システムを構築する「水安全計画」(Water safety Plan:WSP)の策定が提唱されている。あなたが、この「水安全計画」を新たに策定する業務を進めるに当たり、以下の内容について記述せよ。

(1) 水道システムの把握と危害分析について、調査検討するべき事項とその内容について説明せよ。

(2) 管理措置と対応方法の設定を進める手順を列挙して、それぞれの項目ごとに留意すべき点、工夫を要する点を述べよ。

(3) 「水安全計画」の運用も含め、業務を効率的、効果的に進めるための関係者との調整方策について述べよ。

 

 

【解答例】

1 水道システムと危害分析に関する調査・検討

(1)水道システムの調査

水源から給水栓までの水道システムの概要を整理し、フローチャートを作成する。その上で、①水源(流量、水質、汚染源等)、②水道施設(方式、容量、口径、能力、材質、処理プロセス、配管ルート、モニタリング機器、使用薬品、水量、水質等)、③給水装置(方式、材質、水質、水圧等)、④水質検査体制(検査方法、頻度、場所等)、⑤事故履歴等に関する情報を収集する。

(2)危害分析に関する検討

過去の事故事例や水源における汚染源の存在等を踏まえ、水道システムの各プロセスにおいて発生が想定される危害原因事象を特定し、これに関連する水質項目等を掌握する。その上で、危害原因事象の発生頻度と影響程度を定量的に評価し、これら2つの評価結果から危害原因事象毎にリスクレベルを決定する。

2 管理措置・対応方法の設定手順と留意点等

 以下の(1)〜(4)の順で設定を行う。

(1)管理措置・監視方法の設定

現状の水道システムにおいて、危害の発生を予防するとともに発生した危害を処理するための管理措置と、これが機能していることを確認するための監視方法が確保されているか確認する。これらが確保されていない場合、適宜、新たなものを設定する。リスクレベルの高い危害原因事象に関する管理措置は、その内容が適切か慎重に判断し、速やかに導入する必要がある。水道施設における危害の処理に係る監視方法は、連続的に監視できる装置を採用するべきである。

(2)管理基準の設定

監視を行った結果を評価するための管理基準を設定する。管理基準は、危害の顕在化を防止する観点からその範囲や最高値には余裕を持たせる必要がある。また、関係者から聞き取った経験知、過去の実績データ、季節の影響等を考慮し、適切なものを設定する。

(3)管理基準を逸脱した際の対応方法の設定

管理基準を逸脱した際に備え、①点検、②浄水処理の強化、③修復・改善、④取水停止、⑤関係機関への連絡等の対応方法を設定する。実態を踏まえた内容を設定し、対応マニュアル等を整備する必要がある。

(4)緊急時の対応方法の設定

管理基準を大幅に逸脱する事故等に備え、①緊急事態対応方針、手順、行動計画、②責任者とその権限、③休日や夜間を含む連絡体制、④緊急時の水供給体制等の対応方法を設定する。様々な事態を想定し、定期的な訓練を行う必要がある。

3 関係者との調整方策

関係者間で対面協議、リモート会議、メール審議を実施し、業務に対する要求事項、実運用後のレビューの必要性等について、明確かつ効果的な意思疎通を行い、関係者の利害を調整しながら業務を進める。

 

 

【出題された背景や狙い・解答に繋がるポイント】

水安全計画については、厚生労働省が平成20年5月に「水安全計画策定ガイドライン」を取りまとめ、水道事業者等に通知を行った後、平成26年度には「水安全計画策定支援ツール簡易版」を作成し、水道事業者等による計画策定を促進してきました。しかしながら、令和3年3月末時点における策定率は、策定中の水道事業者を含めても3割程度でした。

こうした状況を打開するため、厚生労働省は、令和4年4月13日付けで「水安全計画策定の支援に資する資料について」を事務連絡し、策定手順を示した動画やチェックシートを提供しています。水安全計画の策定率を高めるため、国が新たな取組みに着手しており、このことが当該テーマについて出題された背景になっていると思われます。

問題文の(1)の「危害分析」、(2)の「管理措置」という用語は、「水安全計画策定ガイドライン」において定義されたものです(表1、表2参照)。このため、解答を作成するにあたっては、このガイドラインの内容を基に、調査・検討の内容や策定手順(図1参照)を説明する必要があります。特に、水安全計画の肝となるのが管理基準の設定であることから、その設定方法や基準値を逸脱した際の対応方法について言及することが、解答を作成する際のポイントになります。

 

 

 

 

【当該テーマについて上記以外で勉強するべき事柄】

水安全計画に関する問題は、平成21年度、平成25年度に出題されているほか、平成27年度の水環境でも出題されています。出題内容としては、表流水を水源とする急速ろ過方式の浄水場やオゾン処理と粒状活性炭処理を備えた浄水場において水安全計画を策定することを想定したものでした。このため、水安全計画について勉強する場合は、これらの内容を確認しておけば良いでしょう。

また、水安全計画を策定する際、リスクレベルの高い危害原因事象として水道施設へのNBCテロをクローズアップすることが重要です。令和3年3月、厚生労働省はテロ対策マニュアル等策定指針の改訂について通知を行っており、令和5年5月にはG7広島サミットが開催され、国内のテロ対策の強化が予想されます。これらのことを踏まえた試験対策として、バイオアッセーによる水質常時監視、ろ過池の覆蓋化等、水道施設の保安対策について内容を整理することをお勧めします。

さらに、水質管理に関する計画は、水安全計画以外にも水質検査計画があります。水質検査計画は、水質検査の適正化と透明性を確保するために作成するもので、検査項目、採水場所、検査回数等を定め、事業年度の開始前に作成・公表します。このため、今後の試験対策として、水質検査計画を策定する際に調査・検討する事柄、検討の手順や留意点等について説明できるよう内容を整理しておくと良いでしょう。

 

 

【この問題に関する感想】

水安全計画については、平成20年、厚生労働省により「水安全計画策定のためのガイドライン」が公表されています。

今回の問題は、水安全計画の策定が主題ですから、このガイドラインに沿って、解答を作成する必要があります。

(1)では、水道システムの把握と危害分析について述べさせ、(2)では、管理措置と対応方法の設定について述べされています。

このように、危害分析、管理措置、対応方法等、ガイドラインで用いられている水安全計画の専門用語で問題文が埋められています。

つまり、ガイドラインを読まずして、この問題の解答を作成することはできません。

しかも、この問題の場合、原稿用紙2枚という制限があるのにも関らず、細かな指定があります。

管理措置や対応方法について、内容を詳しく書くと、文字数が増えて、2枚でまとめることができなくなります。

しかしながら、管理措置や対応方法の実施内容を書かずして、留意点・工夫点のみを書いて、2枚の原稿用紙を埋めるのは難しいです。

もしも、水安全計画にヤマをやっていたとしても、このあたりのバランスをとるのが、難しいわけです。

というわけで、この問題は難問でしたね。

 

 

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