R4 技術士試験の解答例 [選択Ⅱ-2-2 耐震化計画](R5.2.5更新) | 新見一郎

新見一郎

勉学を通じて成長をナビゲートする講師。
2008年に技術士合格後、「技術士を目指す人の会」を立ち上げ、多数の技術士を輩出。自身も勉学ノウハウを活かして行政書士、世界史検定2級、電験三種に合格。

【問題】Ⅱ-2-2

 南海トラフ地震による地震危険度が高い地域に位置する中核都市において、水道の地震対策を効率的に実施するために、計画を策定することになった。あなたがこの業務の担当責任者として業務を進めるに当たり、下記の内容について記述せよ。

 

(1) 水道の地震被害想定を行うに当たり、調査・検討すべき事項とその内容について説明せよ。

(2) 業務を進める手順を列挙し、主な検討項目の留意すべき点、工夫すべき点を述べよ。

(3) 業務を効率的、効果的に進めるための関係者との調整方策について述べよ。

 

【解答例】

【解答例】

1 地震被害想定に関する調査・検討内容

(1)基本情報の調査

①水道施設(構造、材質、容量、位置、建設年度等)、②地域防災計画等に掲載された想定地震、③避難所等の重要給水施設、④水道経営等の情報を収集する。

(2)耐震診断・断水予測に関する検討

想定地震の震源位置、震度、加速度、液状化危険度等を設定した上で、施設と管路について耐震診断を行う。施設と管路の被害とこれによる水供給への影響を検討し、断水範囲、断水人口、重要給水施設への給水状況を予測する。被害の復旧に要する期間を設定し、断水期間を見極める。

2 耐震化計画策定業務の手順と留意点等

 計画策定の業務は、以下の(1)〜(3)の手順で行う。

(1)耐震化目標・水道供給目標の設定

地震被害想定を踏まえ、耐震化計画の期間、耐震性の水準、耐震化の目標を設定する。耐震性の水準は、水道施設の重要度と地震動のレベルに応じて適切なものを設定する。耐震化の目標は、配水池や管路の耐震化率を用い、計画期間内で実施できる事業量を踏まえて適切な数値を設定する。さらに、応急復旧の期間と応急給水の水量についても、住民生活の回復と水の要求量を踏まえて適切な目標を設定する必要がある。

(2)地震対策の検討

耐震化対策として、水源システム全体の耐震化を図り、震災被害の発生を抑制する。施設は、シミュレーションに基づき、耐震壁の整備、ブレースの設置等の耐震補強を行う。経過年数と耐用年数を勘案し、適宜、更新にあわせた耐震化を選択する。管路は、重要給水施設への供給ルートを優先的に耐震化する必要がある。

さらに、施設の複数化、予備の確保、管路の二条化、ループ化、連絡管の整備等のバックアップ体制を確保し、被災した際の影響を最小化する。連絡管を整備する際は、広域連携の観点から隣接都市間を結ぶ相互連絡管について検討を行う必要がある。

また、応急対策として、水道施設の応急復旧の迅速化、応急給水の充実、危機管理体制の強化を図る。水管橋の漏水事故に備え、補修用金具の備蓄、仮設配管の布設ルートの事前検討等を行う。応急給水時の水運搬に係る住民の負担を軽減するため、仮設給水栓の備蓄、設置場所の事前検討等を行う必要がある。

(3)耐震化計画の策定

対策に要する費用を算定し、優先度を踏まえて対策の実施時期を決定し、耐震化計画を策定する。計画内容はアセットマネジメントに反映する必要がある。

3 関係者との調整方策

関係者間で対面協議、リモート会議、メール審議を実施し、業務に対する要求事項、実運用後の留意事項等について、明確かつ効果的な意思疎通を行い、関係者の利害を調整しながら業務を進める。

 

【出題された背景や狙い・解答に繋がるポイント】

水道の耐震化の推進施策の一環として、厚生労働省は、平成20年度から全国の水道施設の耐震化状況を調査し、毎年、その結果を公表しています。

令和2年度末の耐震化状況は、基幹管路の耐震適合率が40.7%、浄水場及び配水池の耐震化率がそれぞれ38.0%、60.8%であり、十分な水準になっていません。

こうした実情を踏まえ、令和3年2月、厚生労働省は、「水道における防災・減災・国土強靭化のための5か年加速化対策の実施について」を通知しています。

令和7年度末における水道の耐震化の目標として、基幹管路の耐震適合率54%、浄水場及び配水池の耐震化率をそれぞれ41%、70%を掲げ、水道事業者等に対する財政支援の充実と必要な予算の計上を行っています。

また、日本水道協会は、令和元年11月から「水道施設耐震工法指針・解説」の改訂作業を進めており、新型コロナウイルス感染症の蔓延の影響で相応の期間を要しましたが、令和4年6月に2022年版を発刊しました。

今後の水道施設の耐震化は、この指針に基づいて進めていくことになります。

このように、水道施設の耐震化を推進するため各種取組みが進められており、このことが当該テーマについて出題された背景になっていると思われます。

耐震化計画の策定方法については、平成27年6月、厚生労働省が「水道の耐震化計画等策定指針」を公表しています。

このため、解答を作成するにあたっては、この指針の内容を基に、調査・検討の内容や策定手順(図2参照)を説明することが基本になります。

この指針は、震災被害を未然に防止するための水道施設の耐震化だけではなく、地震被害の影響を最小化するためのバックアップ、応急給水と応急復旧を含む応急対策を整えることについても言及しています。

想定地震を上回る規模の大地震が発生する可能性を勘案すると、水道施設の耐震化だけではなく、被害を受けることを前提にした危機耐性を確保することが重要になります。

このため、総合的な観点から地震対策に関する取組みを説明することが解答を作成する際のポイントになります。

 

 

 

【当該テーマについて上記以外で勉強するべき事柄】

耐震化計画に関する問題は、平成24年度、平成28年度に主題されています。水道施設の耐震化は、インフラの強靭化を図る上で必要不可欠な取組みであることから、今後も引き続き勉強しておくべき重要テーマです。

管路については、耐震管の管種選定の考え方、施設については、コンクリート構造物の耐震補強の考え方を説明できるようにしておけば良いでしょう。

また、近年、地震だけではなく台風、集中豪雨、少雨等に起因する自然災害が全国各地で多発しています。

このため、今後の試験対策として、水道施設の浸水災害対策や渇水対策をクローズアップして、こうした対策を実施する際、調査・検討するべき事柄、検討の手順や留意点について説明できるよう情報を整理しておくと良いでしょう。

 

【この問題に関する感想】

この問題は、地震対策という言葉を使っています。

このため、水道施設の耐震化だけではなく、応急対応策についても言及することが求められています。

厚生労働省が、平成27年に公表した「水道の耐震化計画等策定指針」がありますが、この指針、水道施設の耐震化だけではなく、応急対応策についても考え方を示しています。

構成は、①基本情報の整理、②水道施設の被害想定、③耐震化目標の設定、④地震対策の検討、⑤耐震化計画の策定・推進という流れになっています。

この問題と同じ流れです。

つまり、この問題の解答は、「耐震化計画策定指針」の内容をコンパクトにまとめればいいわけです。

それから、問題文の中に、中核都市、地震対策を効率的に実施という言葉を使っています。

このため、広域連携というキーワードを何かしらの形で言及することを求めています。

「耐震化計画策定指針」の内容を原稿用紙2枚でまとめるのは難しいですが、地震対策について2枚程度で体系的に説明することは、そんなに難しいわけではないです。

ある程度、技術士の受験勉強をしていれば、地震対策という論点は想定内のはずです。

選択科目Ⅱ-2については、Ⅱ-2-1は水安全計画に関するもので、これは難問でしたが、このⅡ-2-2は、結構、解答を作りやすかったでしょうね。

多くの人はこちらの問題をチョイスしたと思います。

 

 

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