③R2技術士試験の解答例(必須Ⅰ-2の問題文を読み解く) | 技術士を目指す人の会

技術士を目指す人の会

勉学を通じて成長をナビゲートする講師。
2008年に技術士合格後、「技術士を目指す人の会」を立ち上げ、多数の技術士を輩出。自身も勉学ノウハウを活かして行政書士、世界史検定2級、電験三種に合格。

令和元年度の技術士二次試験の解答例を作成しました。

上下水道の必須Ⅰ-2です。

 

【問題文】

-2 上下水道事業は、都市生活を支えるインフラとして整備が進められてきた。水道普及率は98.0%、下水道処理人口普及率は79.3%(ともに平成30年度末)となっており、両事業ともこれまでに整備した膨大な施設を有している。一方で、日本の総人口は平成20年のピーク後に減少へ転じており、大半の地域では水需要減少が見込まれている。各事業体の財政状況は厳しく、官民双方における技術者不足、施設の老朽化等の多くの課題を抱える中で、快適で衛生的な生活に不可欠な上下水道事業を安定的に継続させるための方策が求められている。このような状況を踏まえ、以下の問いに答えよ。

(1)上下水道事業を将来的に継続させるためのさまざまな取組が求められている。これについて、技術者としての立場で多面的な観点から、上下水道事業に共通する課題を複数抽出し、その内容を観点とともに示せ。

(2)前問(1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。

(3)解決策に共通して生じるリスクとそれへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。

(4)前問(1)〜(3)の業務遂行において必要な要件を、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から述べよ。

 

 

【解説】

必須科目は、リード文と4つの質問で構成されています。それぞれについて解説することで、解答作成のアプローチを説明したいと思います。

 

●リード文

リード文の2行目に「水道普及率98.0%、下水道処理人口普及率は79.3%」という文章があります。

水道普及率は、給水区域の人口のうち、水道を使用している人口の割合です。

これが98%というわけです。

ちなみに水道を使用していない人が2%いますが、こうした方々は井戸水や山水を使っているわけです。

次に、下水道処理人口普及率ですが、行政人口のうち、下水道を使用している人口の割合です。

これが79.3%です。

ちなみに、下水道に加え、農業集落排水、合併浄化槽を使用している人口を汚水処理人口と言います。

農業集落排水は山間部等の農村に限定された小規模な下水道です。

各家の汚水と生活雑排水を管渠で輸送して、汚水処理場で生物処理、滅菌して河川に放流します。

合併浄化槽は各家、集落単位で汚水と生活雑排水を処理するものです。

住宅横に水槽が埋設されていて、その中で生物処理、滅菌した後、水路等に放流します。

平成30年度末現在の汚水処理人口普及率は約91%です。

リード文の3行目に「膨大な施設を有している」という文章がありますが、この問題文は、前段で水道普及率と下水道処理人口普及率について言及しているので、施設には、農業集落排水や合併浄化槽は含まれないです。一般的な上下水道施設が対象になります。

リード文の3〜4行目で人口減少、水需要減少について触れた後、5行目で、厳しい財政状況、技術者の不足、施設の老朽化が課題になっていることを明言しています。

つまり、このリード文を踏まえると、この問いは、以下の3つの点に着目して解答を作成するべきだと解ります。

❶水需要の減少に起因する厳しい財政状況を踏まえた事業運営

❷人口減少に伴う技術者不足への対応

❸上下水道施設の老朽化対策

最後、リード文の6行目では、上下水道事業を安定的に継続させるための方策の必要性を訴えています。

つまり、この問いのテーマを一言で言い表すと「上下水道事業の基盤強化」になります。

 

●質問(1)

質問(1)ですが、事業を安定して継続させるうえで取り組むべき課題を示すものです。

前述したとおり、リード文で❶厳しい財政状況、❷技術者不足、施設の老朽化対策が示されています。これらについて書けばいいと思います。

ただし、問題文の2行目に多面的な観点からという指定がありますので、4つくらいの課題があってもいいでしょう。

前述の❶〜❸に、もう1つ課題を加えるのが理想的です。

そうなると、リード文で上下水道の普及率に言及しているので、例えば、❹過疎地域における上下水道の普及促進等を論点として加えるのが良いと思います。

それから、問題文の2行目に、「技術者としての立場」というフレーズがあります。

前述の課題のうち、❶は事務的な要素が強いです。

このため、課題として提示する段階で、技術的なものが含まれるよう、書き方に工夫が必要です。

例えば、広域連携による施設管理等について言及しておけば良いと思います。

次に、❷ですが、リード文に「官民双方」というフレーズがあります。

官民ですから、一般的には、PFIやコンセッション等の官民連携手法について目がいきます。

ただし、官民双方で技術者が不足していることが課題になっているわけですから、官民で連携しただけでは問題を解決できません。

このため省力化対策としてICTの活用について言及するべきです。

次に、❸ですが、上下水道施設の老朽化対策ですから、当然、施設の更新について説明をすることになります。

アセットマネジメント、施設台帳、施設の統廃合、ダウンサイジング、保守点検と補修等のキーワードを使えば文章を作りやすいと思います。

というわけで、質問(1)は、上述の❶〜❹について項目立てをして課題を説明することで、多面的な観点で課題を語ることが可能になります。

 

●質問(2)

質問(2)、前の質問(1)で抽出した課題の一つをピックアップして、解決策を述べるものです。複数の解決策という指定がありますので、少なくとも解決策を2〜3個以上、提示することが求められます。前述した課題の中では、❸が書きやすいですので、多くの受験生はそうしたのではないかと思います。

 

●質問(3)

質問(3)は、前の質問(2)で説明した解決策について、それらを実行した際の「効果」を述べます。

さらに、解決策を実行した際の「懸念事項とその対応策」を述べる必要があります。

解決策と対応策は同じような言葉です。課題に対する具体的な取組内容が解決策です。

その解決策を実行する際に新たな問題点が生じて、それを解消する方法が対応策です。

質問(3)の解答を作成する際、平成26年に公表された『技術士に求められる資質能力』が参考になります。

具体的には、トレードオフの部分です。

複合的な問題に関して、相反する要求事項(必要性、機能性、技術的実現性、安全性、経済性等)が発生することが懸念されます。

その対応策としては、複数の選択肢を提起した上で、リスクの影響の重要度を考慮し総合的な評価を行い、最適な方法を選択することが重要になります。

それから、一つの対策を行うとことで、それが潜在的なリスクが増大する場合があります。

このため、対策による効果だけではなく、その影響についても調査・評価を行い、全体の水循環のあり方を慎重に検討した上で、総合的な対策を講じることが重要になります。

 

●質問(4)

質問(4)は、質問(1)から質問(3)に関する業務、つまり、課題の抽出、解決策の提示、対応策の提示について、技術者倫理、社会の持続可能性の観点から必要な要件を述べます。

これは一般的な内容になります。

こちらについても、平成26年に公表された『技術士に求められる資質能力』が参考になります。

具体的には、業務遂行にあたり、公衆の安全、健康及び福利を最優先に考慮した上で、社会、文化及び環境に対する影響を予見し、地球環境の保全、社会の持続性の確保に努めることが重要になります。

 

※ひとつ前の解答例を見たい方は こちら をどうぞ。

 

【参考】

●必須科目対策に必要な下水道の基礎

※マネジメントサイクルについては こちら をどうぞ。

※アセットマネジメントとストックマネジメントの違いについては こちら をどうぞ。

※「持続と進化」については こちら をどうぞ。

※「資源の循環」については こちら をどうぞ。

※「水の循環」については こちら をどうぞ。

※「下水道による排除・処理」については こちら をどうぞ。

※「新下水道ビジョン加速戦略」については こちら をどうぞ。

 

●試験対策

※ 技術士合格法のテキストを見たい方は、 こちら をどうぞ。

※ 令和2年の予想問題と解答例を見たい方は、 こちら をどうぞ。

※ 令和元年の試験問題と解答例を見たい方は こちら をどうぞ。

※ 【技術士対策】のコラムを読みたい方は こちら をどうぞ。