令和元年度の技術士二次試験の解答例を作成しました。
上下水道の必須Ⅰ-1です。
ひとつ前で問題文の解説をしています。見たい方は こちら をどうぞ。
【解答例】
1 上下水道事業における水循環に関する課題
社会構造の変化や気候変動により水循環の健全性が損なわれている。上下水道事業は、水循環と密接に関連しており、以下の課題に取り組む必要がある。
(1)洪水浸水対策(水量的な観点)
近年、全国各地で集中豪雨が頻発している。河川の水位上昇と降雨により内水氾濫が発生する。さらに、降雨量が増大し河川流量が増加すると河岸の堤防が決壊し、甚大な浸水被害を招く。このため洪水浸水対策の推進が課題になっている。
(2)渇水対策(水量的な観点)
気候変動により多雨傾向が高まる地域が存在する一方で、長期間に渡って降雨がなく、毎年のように渇水が発生する地域が存在する。このため渇水対策の推進が課題になっている。
(3)水質保全対策(水質的な観点)
都市化や工業化が進むことにより、公共用水域の水質が悪化しる地域が存在する。下水道の放流水は公共用水域に影響を及ぼし、これが水道水質の悪化に繋がるため、水質保全対策の推進が課題になっている。
(4)水辺空間の創出・維持(水辺環境の観点)
道路整備に伴うせせらぎの埋立・覆蓋化や過剰取水に伴う河川流量の減少等により水辺空間が減少している。下水道の放流水の活用、水道の取水量抑制等、水辺空間の創出・維持が課題になっている。
2 最重要課題に関する解決策
前述の課題のうち、洪水浸水は広範囲において甚大な被害が発生し、その発生頻度も高くなっていることから最重要課題と位置づけ、以下に解決策を示す。
(1)下水道におけるハード対策
管渠の増設・増径、雨水ポンプの設置・増強等により雨水排除機能を強化する。また、放流先の河川において雨水流出抑制施設を整備するとともに、河川改修工事を促進する。雨水貯留管、雨水貯留施設等を計画的に整備し、校庭や公園に流域貯留施設を整備し、雨水貯留機能を強化する。雨水浸透桝、浸透側溝等の整備より雨水浸透機能を強化する。
下水道施設の浸水対策として、汚水水処理施設やポンプ場等に防水壁、防水扉等を設置し、更新時は床面のかさ上げを行う。被災時に備えて汚水処理施設のネットワーク化を進める。
(2)水道におけるハード対策
河川増水時は異物が漂流し、取水口が閉塞するリスクが高まるため除塵設備を設置する。河川の濁度上昇に備え、薬品注入設備の増設・改良を行う。
水道施設の浸水対策として、取水場、浄水場、ポンプ所等に防水壁、防水扉等を設置し、更新時は施設の高台移設を行う。相互連絡管や管路のループ化により、被災時のバックアップ機能を強化する。
(3)上下水道共通のソフト対策
洪水想定シミュレーションを行い、浸水区域、浸水深さを把握して浸水対策計画を策定する。
被災時において速やかに応急対応できるよう、BCPを策定する。応急復旧用の資機材を備蓄する。水道は給水タンク車、下水道はマンホールトイレ等を確保する。マニュアルの整備、防災訓練や研修、ハザードマップの作成等を行い、危機管理体制を強化する。
3 解決策の効果と懸念事項
前述の解決策を実行することで、水循環の健全化を促進することできる。また、豪雨災害の軽減とライフラインの防災機能を強化することができる。
ただし、解決策を実施するためには膨大な費用が必要である。また、経年化により、ハードは老朽化が進み、ソフト面の対策は陳腐化が進む。
この対策として、官民連携や広域連携を推進し事業の効率化を図り、施設の点検・補修を徹底し、既存施設の長寿命化を図る。また、アセットマネジメントを実施し、計画的に施設の更新・改良を行う。全ての解決策についてPDCAサイクルにより改善を重ねる。
4 業務遂行において必要な要件(技術者倫理と社会の持続可能性)
分析・評価、計画、設計、施工、維持管理等、業務遂行の全段階において、公衆の安全、健康及び福利を最優先にする必要がある。また、社会、文化及び環境に対する影響を予見し、持続可能性を考慮して業務を進める必要がある。
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【参考】
●必須科目対策に必要な下水道の基礎
※マネジメントサイクルについては こちら をどうぞ。
※アセットマネジメントとストックマネジメントの違いについては こちら をどうぞ。
※「持続と進化」については こちら をどうぞ。
※「資源の循環」については こちら をどうぞ。
※「水の循環」については こちら をどうぞ。
※「下水道による排除・処理」については こちら をどうぞ。
※「新下水道ビジョン加速戦略」については こちら をどうぞ。
●試験対策
※ 技術士合格法のテキストを見たい方は、 こちら をどうぞ。
※ 令和2年の予想問題と解答例を見たい方は、 こちら をどうぞ。
※ 令和元年の試験問題と解答例を見たい方は こちら をどうぞ。