琵琶の香合
酷暑は一応過ぎたのか、このところは暑さに苦しまずに過ごしているものの、十月にはまた夏日の戻る日もあるかとか、一向に茶の湯に浸る日にはなりそうもありません。 世上は、立憲民主党の代表選とか、自民党の総裁選とか、騒がしいことですが、茶の湯の世界では、世代交代などは進んでいるのか、街の片隅で、ひっそりしている身には、さっぱりわかりません。茶室もこのところ閉めっぱなしで、なかなか我が家は、茶の湯に戻れない。毎朝、濃茶をテーブルで練って、作法もなく飲むというのは、何となく習慣で続けていますが、これを茶の湯とは言えますまい。さて、こんな暮らしの中、木工作家の前島秀光先生から、小さな包みが届きました。何かと思ったら、琵琶の形の香合です。実は、妻は、しばらく、暇の合間に、前島先生の元に通って、木工を習っていました。薄茶器、香合、茶杓箪笥など、七、八点を、作るのを教えて頂いたと思います。6年前くらいから、コロナの影響や、老齢化で、教室に通わなくなったのですが、最後の頃に、作りかけていたのが、この香合です。仕上げ前の状態のまま、ほったらかしてあったのですが、健康状態もあり、もはや教室に復帰も出来ないので、先生にご挨拶状をだしたところ、ご親切に、先生が仕上げて、送ってくださったのです。そもそも、何でこれを作ることになったのかというと、美術倶楽部だかで、私が、琵琶の香合を見て「いいなあ、こういうのも」と、口走ったのを、「なら、私が作ってあげる」となったわけです。無駄遣いをさせまいという気もあったのでしょう。それから長い年月が経って、私はすっかり忘れていました。私が見たのは、そう古いものではないが、塗りで、青貝がちょっと入ったものでしたが、これは黒柿の木地です。どこから先を前島先生が仕上げて下さったのかわかりませんが、先生の手が加わっているだけに、なかなか精緻な、いい感じです。 しかし、折角出来上がったとは言え、考えてみると、これから先、茶会を開くことがあるのか、あるとしても、どういう趣向の茶で使えるのか。季節のものでないだけに、かえって難しい。安易に考えれば、雅楽とか、平家物語の趣向が合いそうですが、そういうものに取り合わせる他の道具が、我が家にはない。お公家さんの和歌の軸か何かが似合いそうな気がしますが、風炉の時期で、そういう都合のよい軸があったかしらん。茶道具の難しいところで、単体として「ああ、いいなあ」と思っても、どういう茶会に使いたいか、どんな道具ととり合わせるのか、よくよく考えないと駄目です。若い頃で、懐に余裕があれば、買い込んでおけば、いずれ何かの役に立つという事もあるでしょうが、老齢に入ったら、箪笥のゴミを増やすだけともいえます。そういうことは、重々わかっているくせに、今度のことに関しても、私のうっかり、涎を垂らしたのが発端で、こんな品が到来してしまったわけで、結局は、初使いは娘の代にでもなるのか、このまま陽の目を見ないのか、人間後先も考えず、つまらぬ欲を出すと、他に迷惑をかけると、今更反省しております。 萍亭主