今年もやっぱり酷暑で、茶の湯を楽しむ雰囲気には程遠い気候です。直射日光を避けるため、広間の雨戸を閉め、照明を点け、冷房の中で茶箱を開くのがせいぜいという状態。ブログの方も特に話題もなく、休んだまま一週間経ちました。

 面白い話題でもなんでもありませんが、例年の東京美術倶楽部の正札市があったので、顔を出してみました。もう茶会もやらないし、特に欲しい道具もなく、珍しい道具に遭遇する確率も低いのに、つい足を運んでしまうのは、惰性以外の何者でもないのかもしれません。人出はまあまあなのかもしれlませんが、昔のような押すな押すなの活気は当然ありません。インバウンド全盛時代にしては、外国人の影が、ほとんど見当たりません。この正札市に関して、過去にこのブログで書いた事の繰り返しになりますが、昔と違い、本当に珍しい道具や、一癖ある面白い道具が出なくなり、明治以前の古い道具もほんとに少なくなり、あっても定番の楽茶碗か、危なそうな古備前とか古伊賀がたまにあるだけ。釜などの大きい道具が数が出なくなったのも、ここのところの傾向です。軸もある程度ぶら下がっていますが、現代の宗匠や和尚のものがほとんど。茶杓も同じことです。昔、民芸ブームの頃は古伊万里系などがよく並んだものですが、そういうものもサッパリだし、鑑賞陶器系も多くない。懐石道具は、料理関係で流通するのか、割と高値に出ていますが、シェア的には、それでも一番多い茶道具は、安値傾向が止まらず、物によっては、感覚的には四分の一か三分の一まで下落している感じ。二階の高級品を並べているところでさえ、下落傾向にあるようです。全体的に出品数も減り、元気がなくなっているように思えてなりません。支払いも殆どがカード決済になっているので、勘定場には、カード決済の窓口が並ぶのも、近年の光景です。「昔は札束が飛び交ったものですがね」と、古参の道具屋さんが懐かしそうに呟いていました。もう、そんな時代は来ないのだろうと思いますし、この日の売り上げは知りませんが、昔のような景気の良さの復活は当分ありますまい。そう言えば、ある陶芸作家が「陶芸ブームとか言いますけど、今、茶道具は冬の時代ですよ」と述懐されていたのを思い出しました。茶の湯の古道具の流通も、正札市の様子を見る限り、活発とも思えません。もっとも、風の噂で聞いたのですが、大正名器鑑に載るような名物茶器が、その対価は、名物茶器としては妥当なのでしょうが、我々から見ると、驚くばかりの値で取引されたといいます。噂ですから真偽はわかりませんが、私などの知らない社会で、普通の道具ではない高級美術品は、盛んに流通しているのかもしれません。

 さて、私は結局、八田円斎の色絵三人形蓋置を買いました。道具屋さんとの長年の付き合いもあるし、大正昭和初期の道具は好きだし、昔の相場の三分の一ほどの値だしと、つい買ってしましたが、考えてみれば、これから使う機会があるのやら。我ながら怪しいものです。無駄と言えば無駄な行為と、少し反省。

 ともあれ、夏も来ましたし、また当分ブログは休むかもしれません。

    萍亭主