企画展「霊気を彫り出す彫刻家 大森暁生展」(横浜そごう美術館) | ひつぞうとおサル妻の山旅日記

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ひつぞうです。
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霊気を彫り出す彫刻家 大森暁生展

 

往訪日:2023年7月1日

会場:横浜そごう美術館

会期:2023年6月3日~2023年7月9日

開場時間:10:00~20:00

料金:一般1,000円 大高生800円

アクセス:JR横浜駅から徒歩約5分

※館内は一部を除いて撮影OK

※終了しました

 

《紛れもない命の光が眼に皮膚に宿る》

 

ひつぞうです。今月の初め、横浜そごうで開催された大森暁生さんの彫刻の世界に触れてきました。大森さんの存在はスーパーリアリズムのアーティストを特集した書籍で知りました。只のリアリズムではありません。空想の生物から仏像に至るまで、どれもが実際に存在して魂を持っているかのような作品でした。以下、鑑賞記です。

 

★ ★ ★

 

今回も会期末ギリギリだった。関東と関西の二重生活の欠点かも知れない。ちょうどバーゲンセールが始まった頃で、開店前のそごうの入り口は、押し寄せた買い物客の群れで埋め尽くされていた。開場と同時にそごう美術館に直行する。今回は(仏像関係を除いて)全て写真撮影OKなのだ。そのため一番乗りする必要があった。

 

「本末転倒だよ」サル ったく

 

 

大森暁生さんは1971年生まれの彫刻家。愛知県立芸術大学を卒業したのち、薮内佐斗司工房で腕を磨いたのち、独立後は様々な異分野とのコラボで作品世界の幅を広げていく。一番の話題は、今年10月に奉納予定の讃岐國分寺大日如来坐像の制作。その一部を今回の企画展で鑑賞することができる。

 

 

では荷物をロッカーに預けて鑑賞しよう。

 

《タランチュラの灯華》(1012年)

 

いきなり天井からタランチュラのギミックがお出迎え。

 

《風切りの櫂》(1996年)

 

これらは大森さんの卒業制作。

 

《カラスの舟は昇華する》(1996年)

 

楠の樹の一木を繰り抜いた瀬渡し舟のような頼りなげな舟。

 

 

死んだハシブトガラスには瞳がない。

 

 

空を掴んだ足を見ると、確かに死んだ鳥のそれだ。だが、クスは腐りにくい素材。恐らくカラスの魂は三途の川の渡し守となって、朽ちることなく、永遠に存在し続けるのだろう。インパクトのある作品だ。

 

《風切りの舵》(1996年)

 

「羽根の質感がリアルだにゃ」サル

 

 

一本一本丁寧に彫り込まれているよ。

 

《Eagle's Hearts》(2014年)

 

壁や鏡にめり込んだ飛翔生物も大森さんのトレードマーク。

 

 

「なにか祭壇みたいになってゆ」サル

 

《羽根を残して》(1997年)

 

卵と窪んだ水盤のようなモチーフも多いね。

 

《翼霊》(1997年)

 

二体ある翼霊の最初の作品。女性の曲線美を丁寧に表現している。真夜中に見ると、瞼を開きそうで怖いよ。

 

《Gothic Casa Blanca》(2007年)

 

両脇を飾る花も、どことなく淫靡。

 

《Gothic Rose》(2006年)

 

ただ単に“本物そっくり”ではない。仔細に観察すれば、どこかに造り物の要素が鏤められている。

 

《棘の冠》(1998年)

 

「西洋ヤギのツノだにゃ」サル

 

《翼霊の首飾り》(1997年)

 

全部、翼霊の衣装なんだろうね。

 

《月夜の狼》(2012年)

 

鑿の彫り跡が粗いけど、生き物の気配が満ちている。

 

《月光のJackalope》(2010年)

 

「なにジャッカロープって?」サル

 

アメリカのワイオミング州に伝わるUMAらしいよ。ツノが生えたウサギだね。

 

《月光のやまねこ》(2000年)

 

これはリアルなヤマネコだよね。

 

《ぬけない棘の狼》(1997年)

 

一角獣からヒントを得たんだろうね。表情、取り分け、眼の造りが実に巧み。

 

《翼霊》(2003年)

 

こちらは6年後に完成した二体目。肉体の表現も装飾性も格段にレベルアップしている。

 

 

サイドから鑑賞する。惚れ惚れするようなデッサンだ。

 

 

この背筋の立体感と肩甲骨の反り具合がたまらないね。

 

 

まだまだUMAコーナーは続くよ。

 

《ぬけない棘のエレファント》(1999年)

 

これぞ大森さんの代名詞。二十代でこれだけの存在感ある作品を作っちゃうんだものね。メイキングビデオも必見だ。

 

 

横から見ると判るけど、耳と牙とツノは嵌めこみ式。

 

 

こんな感じね。皺や襞はチェーンソーで粗目に溝を入れている。

 

 

これが元になったドローイング。

 

《ぬけない棘のエレファント》(2002年)

 

数年後には小ぶりな一体も制作している。

 

《死に生ける獣-Babirusa—》(2016年)

 

ちなみにこれは実在の生物だね。

 

「なんか変だにゃ」サル

 

あ。ほんとだ。脳天に向かって突き刺さる悲運の生き物のはずが、牙が天空に伸びているよ。

 

《Two Anacondas trapped in the frame》(2004年)

 

鏡あわせになったアナコンダを二体に見せている。こうした“遊び”も大森作品の魅力。

 

《月夜のテーブル-Cougar-》(2004年)

 

「気配」を帯びること。大森さんが制作で目指すものはそれだ。クーガーの警戒している感じが伝わってくる。

 

 

「開会の辞」にも記されていたけれど、自宅兼アトリエの事務所には作りかけの作品がたくさん蹲っている。夜になればスタッフも帰宅して、大森さん唯一人になる。気になって夜更けにアトリエに降りる事があるそうだ。そのうち“なにか”の気配にビクッとする瞬間が出てくる。それは完成間近な作品。この“気配”という言葉こそがキーワードだ。

 

 

角度を変えると、ふてぶてしく水を飲もうとする肉食動物の姿があった。

 

《Gothic lunatic》(2005年)

 

次のコーナーはゴシック&ファッション。

 

《UNDERCOVER×AKIO OHMORI》(2004年)

 

高橋盾率いるブランド、UNDERCOVERのパリコレ出展コラボ作品。

 

 

スカートは真鍮と銅が象嵌された檜でできている。モデルの顔を覆っているドライフラワーのような物体は帽子らしい。突き抜けているね。プレタ系でもUNDERCOVERの服は、なかなか着こなせないものね。

 

《Rude CHAOS×AKIO OHMORI》(2017年)

 

ジュエリーブランド、Rude CHAOSとのコラボ。

 

★ ★ ★

 

ここからは空想の薬シリーズ。全て個人蔵だから売れたんだろう。意外に作家蔵の作品が多い。

 

「出来映えが良すぎて手放せないんじゃ?」サル

 

《発条(バネ)人間への回答 発条薬》(2012年)

 

ヤドクガエル?

 

「飲んだら発情するんじゃね」サル

 

媚薬か。

 

《龍乃角粉》(2013年)

 

龍角散をヒントにしたパロディ?

 

《魂抜丸》(2013年)

 

遊びのセンスが詰まっている。

 

《Secret Heart》(2012年)

 

心臓に鉄条網。メシヤの心臓?

 

《超音波錠》(2012年)

 

夜な夜なトマトジュースが飲みたくなるとか?

 

《鱗乃粉》(2013年)

 

「夜の蝶になるためのオシロイかも」サル

 

《笑化薬》(2013年)

 

一連のシリーズの素材は檜。この道化師以外は素材が判らなかった。

 

お次は魚コーナー。

 

《月夜のテーブル-Arowana-》(2007年)

 

超リアルなんだよね。

 

《月下のPirarucu》(2020年)

 

実寸大のピラルク。メイキングビデオを観ることができる。大森さんって彫り出すときに余分な削り代を取らない。なので、あとで修正がきかないんだけど、寸分の狂いもなく目指す形を彫り出していく。神技だ。

 

 

最後は鑿を変えながら、緻密に質感を出していく。硝子への接着も一発勝負。

 

 

ウロコの一枚一枚まで丁寧に彫られている。漆を塗ったあとに、一度金箔を全面に貼り、その上から顔料が施されている。

 

《森神-Silver Back-》(2023年)

 

「おっ!パパリンがこんなところに」サル

 

シルバーバックだね。

 

 

唯の背中で無くて巨大ヤマアラシのようだ。

 

《山神》(2015年)

 

不敵な面構えの猿がいた。

 

「なんだって?」サル 呼んだ?

 

 

ところが、見る角度を変えただけで、猿の顔に油断ならない緊張が。能面のようだ。

 

 

このシリーズ。哀しい物語だけに備忘録として載せるべきか悩んだが、大森さんの才能と想いを感じさせる作品だったので掲載することにした。熊本市動物愛護センターに保護されたワンコたちがモデルなんだ。どの子もそれぞれ特有のハンデがあり、人間に慣れることのできない子もいる。大森さんは彼らの生きてきた背景を、一瞬の表情のなかに浮かび上がらせるんだよ。

 

《光の肖像-8分の2-》(2017年)

 

恐らく八匹生まれたうちの一匹。もう一匹いるんだよね。他の六匹はどうなったんだろう。貰われたんだろうか。それとも…。

 

《光の肖像-エリザベスカラーのマイタケ-》(2017年)

 

怪我したのだろう。犬のマイタケの眼はどこか虚ろだ。表情の表現もすごいが、カラーなど、異素材で見事に質感を演出している。

 

★ ★ ★

 

ということで、最後は、話題の大日如来像にも(写真は使えないが)紙幅を割きたい。会場には仏頭のレプリカと、(『寺誌東宝記』を許に)狛犬ではなくライオンをモチーフに造詣された八大明王像のうち四蔵が展示されていた。なお、大日如来坐像は10年の歳月をかけて制作されたそうだ。

 

《Super Mouse, never be captured》(2019年)

 

当初、大森さんは大塚純司住職のオファーに悩んだそうだ。しかし、大森作品に漲る“気配”すなわち魂に魅了された住職は、未来に残る仕事として、熱心に口説いた。今年の10月に500年ぶりに讃岐護国寺に“還ってくる”本尊は多くの参拝者を感動させるだろう。

 

 

大森式超絶リアリズムは気配と命を感じさせるものだった。その一方で、リアリズムの反語でもあるファンタジーの要素と、虚構で笑い飛ばすユーモアに満ちた作品世界でもあった。好いものを見せて頂いた。

 

「やっぱりサルは猿がすごいと思った」サル

 

(おわり)

 

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