【前回のあらすじ】


久しぶりに京の町を散策していた時、偶然にもお梅を妾として置いていた菱谷の前に来ていた総司と主人公は、沖田と原田、斉藤と出会う。その後、刀屋へやって来た二人は、佐々木愛次郎と出会い、後にやってきた新見と店主の会話を気に掛けると同時に、何か役に立つことが出来るかもしれないと思うようになっていた。


※沖田さんを攻略されていない方や、花エンドを攻略されていない方には、多少ネタバレになりますので、ご注意ください!


私の勝手な妄想話ではありますが…よかったらまた読んでやってくださいきらハート


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【沖田総司~花end後~】 第26話


「まるでドラマみたい…」


頬を強張らせながら囁くように言う裕香に、私と総司くんは苦笑を返した。


あの後、遼太郎さんから詳しく事情を聞いた私達は、いったん置屋へと戻り、偶然居合わせた裕香と共に総司くんの部屋を訪れていた。


「私達も、その話を聞いた時はびっくりしたんだけどね…」


数日前、芹沢さんと新見さんが訪れた際、お搖さんを芹沢さんの妾に欲しいと言われていたらしく、突然の話に困り果てているというものだった。


「しかも、二人が両想いなら余計にヤバイじゃん…」

「芹沢さんにはお梅さんがいるのに…」


深刻そうな表情で私に言う裕香に苦笑したまま返答すると、総司くんが何かを思い出すかのように視線を落とし、静かに口を開いた。


「…どこで誰に襲われるかまでは分からないけれど、愛次郎さんはこの後…何者かに斬殺されてしまうんだ」

「えー!?だったらますます何とかしないと…」


口元を手で覆いながら少し悲痛な表情を浮かべる裕香に、総司くんも瞳を細めたままゆっくりと頷く。


「これは僕らが詮索する問題じゃない。でも、事件に発展する前に防ぐことが出来たらって思っている」


そう言って、微笑む総司くんに裕香は、満面の笑顔で言う。


「私も賛成!だけど、どうしてそこまでして気に掛けるの?」

「愛次郎さんが亡くなってすぐ、お搖さんも亡くなっているから…」

「え…」


総司くんの呟きに、裕香と私は顔を見合わせ合い、悲しげに瞳を曇らせ始める総司くんに視線を戻す。


「その当時は、急な病に倒れたと聞いていたんだけれど…」


佐々木さんが斬殺された数日後にお搖さんも亡くなっていたことから、佐々木さんの後を追って自らを殺めてしまったのではないかと、総司くんは言う。


「そんなの駄目だよッ。何が何でも助けてあげないと…」

「うん。どうにかして助けよう」


泣きそうな裕香に頷いて、私を見つめる総司くんの、真剣な眼差しを受け止める。そして、この後のお座敷を終えた後、再びここへ集まる約束をしてそれぞれの持ち場に戻ったのだった。


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いつものように、姐さん方が三味線の音色に乗せて舞を披露する中、久しぶりに顔を出してくれた新選組隊士の方々を持成していた。


空の徳利をお盆に乗せて廊下に出た。その時、前方からやって来る佐々木さんを見とめ、声を掛けた。その声に気付き、速足で歩み寄って来る佐々木さんにあの後のことを尋ねると彼は、少し照れたような笑みを浮かべながらこっそりと教えてくれた。


店を出た後、お搖さんを行きつけの茶屋へと案内した佐々木さんは、これまで抱えていた想いの全てを伝えたそうで。その想いを受け止めてくれたお搖さんを、自分の元へ迎え入れたいと考えるようになったという。


「良かったですね!」

「ああ、あんさんらのおかげや。ただ…」

「…どうかしたんですか?」


満面の笑顔で答えた後、徐々にその瞳を曇らせ始める佐々木さんの顔を覗き込むようにして尋ねると、佐々木さんは辺りを見回しながら、「なんもあらへんよ」と、言って微笑み、お座敷で待つ仲間の元へ混ざって行く。


(もしかして、お搖さんから何もかも聞いているんじゃ…)


佐々木さんが何かを言おうとして言葉を飲んだことが気になりながらも、こちらからはそれ以上詮索出来ないまま、時だけが流れた。




数刻の後。これから見回りに出ようとしていた総司くんが、佐々木さんと出かけて来ると言い出したのは、他の隊士達よりも先にお座敷を後にしようとしていた佐々木さんを見送ろうと、共に玄関へとやって来ていた時だった。


「おのだはんが、俺を?」

「御迷惑でなければ。少し、貴方と話したいことがあるのです」

「そないゆうことなら、別に構へんけど…」


じゃあ、行って参ります。と、笑顔で言う総司くんと、少し戸惑ったままの佐々木さんを見送った。総司くんからは、特に何も言われなかったけれど、そこは暗黙の了解で。総司くんなりの考えがあってのことだと判断していた。


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*総司SIDE*


彼女に見送られながら大門を目指し歩く間も、愛次郎さんの戸惑ったような視線を受け止めたままだっだ。


それでも、思いきって遼太郎さんから事情を聞いた時のことを話すと愛次郎さんは、少し驚愕したように目を見開いた。


「…そやったんか」

「これから、どうするおつもりですか?」


そんな僕の問いかけに、愛次郎さんは大きな溜息をつくと後方を振り返り、未だ手を振り続けてくれている彼女に手を振り返した。


「あんさんなら、どないする?」

「僕なら、」


また前方に視線を戻し、俯き加減に歩みを速める愛次郎さんを横目に即答していた。どんなことがあっても、彼女を幸せにすると。


それを聞いた愛次郎さんの、こちらを見つめる瞳が大きく揺れる。


「…そう、やろな。やはり」

「当たり前じゃないですか。まさか、向こうの言いなりになるつもりだったんじゃないでしょうね?」

「そないなことあらへん!あらへんけど、筆頭局長が相手ともなれば、そう易々とやり過ごせる問題や無い…」


確かに、その気持ちは分からないでも無かった。局長と平隊士との差は歴然だったし、それもあの芹沢さんと策士である新見さんが敵になることを考えれば、そう簡単に決断出来ないことも頷ける。


だからといって、このまま不幸せになる二人を放っておけないと思った僕は、お節介だと思いながらもずっと考えていた策を告げた。


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その後、お座敷を終えた私と裕香は、戻って来た総司くんから佐々木さんと話した時のことを聞いて唖然とした。


「え、マジで?!」

「駆け落ちさせる?!」


裕香とほぼ同時に言い返すと、総司くんは例の苦笑を漏らした。


「駆け落ちというのとも違うんだけれど、それが一番良いんじゃないかと…」

「でも、そう上手く行くかな?」


裕香の一言に、総司くんは一つ頷いて「難しいだろうね」と、答えた。それでも、佐々木さんとお搖さんを救いたいからという総司くんに、これからどうする予定なのかを尋ねたところ、自信あり気に微笑みながら話してくれた。


まず、総司くんが佐々木さんを迎えに行っている間、私と裕香とでお搖さんを誘い出し。市中を離れた山郷にある旅籠屋あたりで落ち合うというもので、なるべく早く実行したいということだった。


「愛次郎さんは、いったん大阪へ行くことが出来れば何とかなると言っていた」

「でも、局中法度は?」

「法度が成立したのは、新選組となってからだったから今はまだ大丈夫」

「なら、安心した…」


ほっとしたのもつかの間。芹沢さん達に返事をしなければならない日も近づいている為、そうゆっくりもしていられない。


何か起こる前に、決行しなければと思っていた。


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駆け落ち作戦当日。


予てからお休みを頂いていた私と裕香は、お搖さんを連れて待ち合わせ場所である旅籠屋へと赴き。あとは、総司くんと佐々木さんの到着を待つばかりとなっていた。


昨日の正午頃のこと。


私と裕香とで、お搖さんの元を訪れ、今回の駆け落ち作戦のことを相談した際、快く賛同してくれたお搖さんと遼太郎さんから感謝の言葉を受けた。それと同時に、ここまでの協力を惜しまない理由を訪ねられた私は、ただ、“幸せになって欲しいから”という想いを伝えた。


そして、佐々木さんを迎えに行っていた総司くんと合流し。お二人の意向を聞いたうえで、この旅籠屋を待ち合わせの場所にすると、いう結論に至ったのだった。


けれど、予定の時間を過ぎても一向に到着する気配がないことに微かな不安を抱いた私は、お搖さんを裕香に任せ、旅籠屋の玄関先から外を見回した。


(何かあったとしか思えない…)


来た道を探しに行こうした。その時、雑踏の中から寄り添うようにしてこちらへ歩いて来る二人を見とめた。声を掛けながら近寄り、総司くんに肩を支えられながら歩く佐々木さんの、悲痛な表情を目にして思わず息を呑む。


「だ、大丈夫ですか!?」

「待たせて、えろうすんまへんどした」


左腕を庇いながら困った様に微笑む佐々木さんと、私に一つ頷いて佐々木さんを支えたまま中へと入ってゆく総司くんを見送ると私は、改めて辺りを見回しすぐに二人の後を追った。


次いで、裕香とお搖さんの待つ部屋へと向かい、お搖さんが総司くんと共にその場に頽れるように座り込む佐々木さんに寄り添うのを見守りながら、これまでの経緯を話し始める彼らの話に耳を傾ける。


「おのだはんと、ここへ向かう途中に襲われたんや」


昨晩のこと。佐々木さんが荷物をまとめていた際、佐伯又三郎という隊士から組を抜けるのかと尋ねられ、佐々木さんは少しの間、暇を貰ったと嘘を付いたらしい。


「佐伯に見つかってしもうたんが運の尽きどした」

「こちらの手の内が読まれていたと、言うよりも…もともと愛次郎さんのことを狙っていたとしか思えない」


佐々木さんが痛みを堪えるように俯きながら答える隣で、総司くんも沈痛な面持ちを浮かべている。





刺客となって二人の前に現れたのは、芹沢一派の、佐伯又三郎という人と、平山五郎という人だったそうで。いずれも腕の立つ彼らに行く手を阻まれた総司くん達は、迫りくる剣を払いながら狭い路地へと身を隠すようにして、何とかその場を凌いだという。


しかし、その際に佐々木さんは左腕を負傷し、市中から離れた場所にある病院へ寄っていた為、到着が遅れたのだと教えてくれた。


「こんくらいの傷、大したことあらへん」

「佐々木様…」


佐々木さんに肩を抱き寄せられ、その胸に頬を埋めるお搖さんの瞳が悲しげに歪む。腕の傷はかなり深いらしいが、明日の朝には京を離れたいと言う佐々木さんに、私達は大きく頷いた。



その後、お二人に改めて、これから幸せになって貰いたい想いを伝えて旅籠屋を後にした。


歩き始めて間もなく。終始浮かない顔つきの総司くんにその訳を訪ねると先程、佐々木さんを守る為に剣を向けた相手が、藍屋で芹沢さんが暴れた際、剣を交えたことのある佐伯さんと平山さんだったことから、いつの日かまた藍屋に迷惑をかけてしまうかもしれないとの返答を受けた。


「…それはあり得るよね」

「どうしよう…?」


裕香の一言に不安を感じながら、隣にいる総司くんの横顔を見上げる。


「こうなる可能性も考えていたし、その時はまた追い返せばいいことだけど。藍屋さんにも、今回のことをちゃんと伝えなければ…」

「そうだね。言いにくいけど…」

「迷惑が掛からないように、藍屋を離れることも考えないといけないな」


言いながら微笑む総司くんに、ぎこちなく微笑んで私は、秋斉さんに何て説明しようかと考えていた。


これが切っ掛けとなり、後に大変な事態を招いてしまうということに、この時の私達はまだ気づく由も無かった。


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*沖田SIDE*






夜も更け始めた頃。見廻りから戻ってすぐに土方さんの部屋へ呼ばれた私は、とある相談事を持ちかけられていた。


厳粛な眼差しを浮かべながら、芹沢さん達を浪士組から排除する為の策を考えたという土方さんに、私は一つ頷き。


逆に、先ほど報告を受けたばかりの愛次郎さんの一件について尋ねると土方さんは、またかとでも言いたげに大きな溜息をついて視線を庭先へ向けた。


「おのだそうじろうと、いう男と千本朱雀通りの路地裏を歩いているのを、佐伯と平山が見かけたらしい」

「あの、藍屋の護衛をなさっている…?」

「ああ。二人でどこへ行こうとしていたかまでは不明のようだが」

「何時の間に親しくなったのでしょう。それに、佐伯さん達もそんな場所で何をしていたんです?」

「さあな、詳しいことは俺にも分からん。勝手に出て行ったり、島原当たりでふらついてた奴らのことなど正直どうでもいい。話を戻すが、山南さんと相談した結果…」


まだ何かを話し続けている土方さんの声を遠くに聞きながら、思い出してしまうのはあの方のこと。島原で発生した人質騒動の時も、原田さんらと共にお梅さんの奉公先で会った時も。あの方の隣には、彼がいた。


「…総司」

「え…?」

「お前まさか、聞いて無かったとか言うんじゃねーだろうな」

「す、すみません。なんでしたっけ?」


おいおい。と、呆れ顔で言う土方さんに苦笑を返しながら、その計画の一部始終を聞くこととなったのだった。





【終わり】





途中ではありますが、ここでいったん完結とさせていただきます。