<艶が~る、二次小説>
私なりの沖田さん花エンド後も、10話目になりました
※沖田さんを攻略されていない方や、花エンドを攻略されていない方には、ネタバレになりますので、ご注意ください!
現代版ですし、私の勝手な妄想ではありますが…よかったらまた読んでやってください
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【沖田総司~花end後~】第10話
映写室を後にした私達は、そこから少し離れた場所にある庭へと足を運んだ。
地面には、出入口と同じように真っ白い砂利が敷き詰められていて、真ん中に一本立派な木が聳え立ち、その前には何か文字が書かれた石碑のようなものちょこんと置かれていた。
「だいぶ変わりましたが、変わらないものもある…」
沖田さんは、そう言いながらゆっくりと歩みを進める。
「この反対側にあった道場で汗をかいた後、時々そこの縁側に座りながら土方さん達といろんな話をしました」
今は、閉じられたままの縁側の窓を見つめながらそう言うと、沖田さんは傍にある石碑に触れながら、「これはいつ建てられたのだろう…」と、呟いた。
「なんて書いてあるんでしょうね…」
「えーと、急がば回れ…鬼の目にも涙……??」
私の問いかけに答えるように、沖田さんがそこに書かれている全ての文字を読んでくれたのだけれど、そのどれもがことわざのようで、私達は顔を見合わせて苦笑し合った。
「どこかで聞いたことのある言葉ばかりだ…」
「あはは、そうですねっ」
試衛館からここまで出稽古に出向いていた沖田さん達が、当時、大名や幕閣(幕府の偉い人)しか泊まることの出来なかった日野宿に出入りすることが出来たのは、土方さんのおかげだと教えてくれた。
「土方さんのお姉様が彦五郎さんの元に嫁がれてからは特に、彦五郎さんは土方さんのことを本当の弟のように可愛がっていらっしゃいましたから」
「そうだったんですね…」
「この庭でも、源さんと一緒に竹刀を振るったりしていました」
その視線の先には、あの時代で生きていたもう一人の自分の姿が見えているのだろうか。庭を見やりながら、当時を懐かしむように細められた眼がとても凛々しくて。
(…長い後ろ髪も、新選組の隊服も無い。でも、この真っ直ぐな瞳だけはあの頃と変わらない…)
そんなふうに和やかな時間を過ごしていた時、縁側の窓が静かに開くと同時に受付にいた女性が顔を出した。
「あの、これからガイドがここの説明をしますので、宜しければこちらへどうぞ」
私達はまた微笑み合い、案内されるまま土間で靴を脱いで座敷へと足を運ぶと、ガイドらしき60代くらいの優しそうな男性と、観光客であろう御婦人方に迎え入れられた。
「今日は、ようこそ日野宿へお越し下さいました」
「よろしくお願いします」
沖田さんと一緒に挨拶をすると、男性は満面の笑顔で「近藤と申します、こちらこそよろしくお願いします」と、丁寧に返してくれる。
「近藤さんっていうんですか?」
「はい、近藤勇の近藤です」
沖田さんの問いかけに、近藤さんは胸元のネームプレートに触れながら嬉しそうに微笑んだ。
(偶然なのだろうけれど、近藤さんという方からお話を聞くことになるとは思わなかったなぁ…なんだか嬉しい…)
「では、まず…こちらをご覧下さい」
近藤さんは、丸椅子の上に立て掛けられたホワイトボードに触れながらゆっくりと語り始める。
「これは、佐藤彦五郎の家系図なのですが…」
そこには、とても見やすく佐藤彦五郎さんとの関係が書かれてあり、当時の家族構成やさっき沖田さんが話してくれた、土方さんのお姉様のことも語られ始める。
「土方の姉であるノブが、彦五郎の元へ嫁ぐことにより、土方はここへ頻繁に訪れるようになるんですね。彦五郎は、以前から土方のことを気に留めていたのですが、さらに可愛がるようになりました。そうして、」
話は進む中、私達はそっと顔を見合わせながら暗黙の了解で。“さっき話していましたね…”とでも言いたげに微笑み合う。
「頻繁にここへ通うようになった土方は、近藤周助のお伴としてここへ訪れていた近藤勇と出会うわけですね。その時、土方18歳、近藤19歳。えー…」
「沖田総司は、10歳だった」
近藤さんの会話の合間に、沖田さんがサラッと言って微笑んだ。
「そうです!よくご存じでしたね。そちらのお客様が仰った通り、試衛館から出稽古に出向いていた沖田総司や、山南敬助らもここに通っていたのです」
近藤さんは、少し驚いたような表情で沖田さんを見やると、また柔和な微笑みを浮かべる。
(…だって、本人ですもん…)
これまた、暗黙の了解で。じつは、ここにいるのが沖田総司本人だということや、さっき話していた事と同じだった事など、私達はまた顔を見合わせて苦笑した。
その後も、近藤さんの話は続き。
この近辺に沖田さんのお姉様が嫁がれたことにより、沖田さんも頻繁にここへ顔を出すようになった事や、近藤さんや土方さんや井上さんらの家もここから徒歩20分くらいの距離にあったこと。
土方さんが産まれる前に他界してしまった父親のこと。6歳の時に母親さえも失ってしまった土方さんを考慮した彦五郎さんが、新選組を支援し続けたこと。
そして、もしかしたら佐藤彦五郎さんが“新選組の生みの親”なのではないかとまで言われていた事などを教わった。
「やがて、近藤周助に代わり、近藤勇が師範となってその立場を受け継ぐようになりました。その頃から、近藤らの夢は更に大きくなっていくんですね。『いつか、立派な武士になってみせる』と。貧しい農業を営みながらも、その夢だけは抱き続けたのです…」
近藤さんは、何かを思い出すようにゆっくりと語る。それは時に、伝えるべきことを忘れてしまったのかな?と、思うくらい長い間がある時もあるのだけれど、そのまるで見て来たかのような話に私はわくわくが止まらなかった。
「では、こちらへどうぞ」
そう言って、移動を始める近藤さんの後を辿ると、寝室に使用されたとされる部屋へと案内された。
「ここは、明治天皇や皇室の方々も訪れ、寝泊まりした部屋であり、土方も昼寝をしたと言われています」
「ここで…」
一緒に話を聞いていたご婦人方も、感嘆の溜息を漏らす。
(ここで、土方さんが昼寝していたんだぁ…)
近藤さんが話を進める中、沖田さんは私に内緒話をするようにしながら呟いた。
「そういえば、ノブさんから聞いた話を思い出したのですが。とても間抜けな顔して寝ていた時もあったそうですよ」
「ぷッ…」
その顔を想像して、思わず吹き出す私にそれぞれの「ん?」と、いうような視線が向けられ…
「あ、すみません…」
そう言って、すぐに目を細め片眉を上げながら沖田さんを見やる。
「沖田さぁん…」
「とっておきの情報だったでしょう?」
「そうですけどっ…」
「本人がいたら、『どの口が言いやがった』って、またお小言を食らっていたでしょうけどね」
沖田さんは悪戯っぽい笑みを浮かべ、また楽しそうに近藤さんの話に耳を傾け始めた。
「次は、こちらの部屋へ」
また歩みを進める近藤さんについて行くと、そこだけ現代風にホットカーペットと、その上にこたつが置かれていて、子供でも遊べる様に塗り絵などが出来るようになっていた。
「ここは、ノブの部屋でした。黒船襲来以来、甲州街道を歩いて来た客から京での情報を得ていたノブは、その話を近藤らにも話して聞かせたんですね。それからです、土方達が真剣に日本の未来を考えるようになったのは…」
ノブさんからその話を聞いた土方さん達は、本気で何とかしなければいけないと考え、文久三年一月十一日。130名の浪士らを引き攣れ上洛したのだそうだ。
「東海道を通って上洛したのは二週間後でした。彼らは壬生浪士として幕府へ赴き、その後、壬生浪士組として京の町を守るべく、警護に勤しむようになっていくのです」
さっきまでの笑顔とは違い、だんだんと渋い顔で話す近藤さんの表情の変化に緊張しながら、まだまだ続く話しに耳を傾け続ける。
「そして、彼らは新選組と改名した後もその功績が称えられ、大活躍することになるんですね」
「確かに私達…いや、新選組は幕府の下、京の町を守る為に命懸けで戦っていた」
沖田さんは、話し続けていた近藤さんを見つめながらそう呟いた。
「そうです。ですが、倒幕派との長い戦いの最中、徳川幕府の衰退と共に新選組もその行き場所を失って行くことになります…。鳥羽伏見の戦いに負けたことを知った佐藤彦五郎は、劣性に陥った新選組の為に、横浜で鉄砲などの武器を買い付け、京へ送ったりしていたそうなんです」
佐藤彦五郎さんは、新選組の応援団長みたいなものだったと、楽しそうに話す近藤さんを見つめながら、沖田さんも満面の笑顔を浮かべている。
とてもほのぼのとした空間に心がほんわかとなっていくのを感じながら、さらに移動する近藤さんの後を着いて行った。
そして、次に紹介されたのは控えの間で、通称「ロマンの部屋」だった。
「ロマンの部屋?」
首を傾げながら言う私に、近藤さんは微笑みながら静かに語り始める。
「土方の小姓である……えー…」
近藤さんがまた、何かを思い出そうと目を泳がせたその時、
「市村鉄之助くんですね?」
沖田さんが笑顔でそう答えた。
「おお、そうです!市村鉄之助です。その市村鉄之助が訪れ、彼がこれまでの経緯(いきさつ)を語ったのが、この部屋なのです」
「え、彼はなぜここを訪れたのですか?」
沖田さんの問いかけに、近藤さんは少し目を細めながら続きを話し始める。
「五稜郭での戦いの最中。土方は、市村にここを訪ねるように言い渡したんです。勿論、最初はその言い分に聞く耳を持たなかった市村ではありましたが…」
近藤さんが言うには、土方さんは刀を抜き放ち、「命令に背くようなら、お前をここで斬る!」と、まで言って、市村さんに迫ったらしく…
その後、仕方なく命令に従うことになった市村さんは、刀二本と絶世の和歌や写真、書簡などを持たされ、港に迎えに来たとされるアメリカの軍艦に乗り江戸へと赴き。
やっとの思いでここへと辿り着いたのが、明治二年五月二日の昼だったのだそうだ。
「官軍らに新選組だと気付かれぬ様、わざと乞食の格好をしてここを訪れた市村でしたが、最初は勿論追い返されました。ですが、土方からの書簡を受け取った彦五郎はすぐに市村を風呂場へと連れて行き、浴衣などを貸し与え労ったのでした。ちなみにその書簡には、『使いの者の身の上頼み上げ候』と、書かれていたそうです」
「…そうか」
小さなノートを見ながら話す近藤さんに、ぽつりと呟き返した沖田さんの表情は真剣そのもので…。土方さんの最後の命令を預かった市村さんが、この部屋で全ての想いを語ったのかと思うと、私も胸が締め付けられた。
(土方さん…)
きっと、沖田さんも私と同じ想いなのだろう。少し俯き加減な表情から切なさが伝わって来る…。
「市村鉄之助、まだ16歳でした。その後も、市村は一年八カ月もの間、ここに滞在したそうです。この部屋で彦五郎は、市村からこれまでのことを聞いた時、その場にいた者達に執筆することを許さなかったそうです。一言一句、覚えるようにと伝えたんですね…」
そう言って、少し眉を顰めながら近藤さんは、土方さんのお墓はあるものの、遺骨だけがどこをあたっても見つけられないのだと話してくれた。
「…そうですか」
悲痛な面持ちで近藤さんを見つめる沖田さんの横顔を見つめながら、私も思わず自分の手を握りしめる。
「私は、五稜郭近辺に埋葬されていると思うのですけれどね。不思議なもので…いまだにそれだけが謎なのだそうです」
一瞬だったけれど、近藤さんの瞳も哀しげに細められた。
(土方さんはどんな思いで市村さんを送り出し、最期を迎えたのだろう…)
その場にいた全員が思い描いたはずだ…
最後の武士として戦い続けた土方さんの勇姿を。
「沖田さん…」
「大丈夫です…」
そっと沖田さんの腕に触れると、すぐにその手を包み込まれ、少しひんやりとした指先から哀しみが伝わってくる。
無理に笑おうとする沖田さんを支えるように寄り添い、私は両手でその腕にしがみ付いていた。
その後も貴重な話は続き、ようやく全ての話を聞き終えた時にはもう、月見の準備が始まっていた。それまで居られる場所が限られた為、私達は残りの時間を使って、土間付近をゆっくりと見て回ることにしたのだった。
「さっきも近藤さんが話して下さいましたが、この大黒柱…」
沖田さんは、大黒柱に触れながらそう言うと、にこにこしながら話し始める。
「まだ健在だなんて凄いなぁ…」
「あの頃の沖田さん達を見守っていたなんて…」
私も同じようにそっと触れてみる。
(…あの当時からこの屋敷を支え続けている大黒柱かぁ。そう考えると、沖田さんも感慨深いものがあるのだろうなぁ…)
大黒柱に触れながら、やんわりと瞬きをする沖田さんの長い睫毛を見つめながら、ここでの彼らを思い描いた。
日本の行く末を考えながらひたすら剣術に磨きをかけ、立派な武士になることだけを夢見ていた彼ら。きっと、私の思い描いた以上にドキドキした毎日を過ごしていたに違いない。
PM:5:10
お月見の本格的な準備が始まった為、いったん部屋を後にし、入口近辺に設置されたお土産コーナーのような一角へと足を運んでいた。
「すごいな…本格的に書かれている」
沖田さんが何冊かある資料のうちの一冊を手に取り、読みながらそう呟く。
寄り添って見てみると、そこには新選組について調べ上げられた事柄、書簡などが詳しく書かれており、そんな私達を目にした近藤さんが、こちらに近づきながら声を掛けて来た。
「それは、大学の研究材料として調べられたものを本にしたものです。確か、こちらのパンフレットには土方の恋文が…」
そう言いながら、一冊のパンフレットをパラパラと捲りはじめた近藤さんに寄り添うと、土方さんの発句集が書かれている部分を見せてくれた。
「これは、土方の豊玉発句集なのですが、ほらここ…」
近藤さんの指さした先にある言葉を目で追うと、そこには…
“しれば迷い しなければ迷わぬ恋の道 しれば迷い しらねば迷わぬ法の道”と、書かれていた。
「きっと、京へと赴く前に恋をしていたのでしょうね」と言い残し、また柔和な笑みを浮かべながら去って行く近藤さんを見送って、私達はまた微笑み合った。
「土方さんがこの発句集を編んでいたことは知っていましたが、どんな内容だったかまでは知りませんでした。なんせ、読ませて貰えませんでしたからね」
「ふふ、そうでしたね」
「おまけにそのような方がいたとは…」
沖田さんは、口元に指を添えながら楽しげに微笑んだ。
(沖田さんでも知らないことがあったんだ…)
その後も、お月見が始まるまでの間、当時の彼らを感じながら楽しい時間を過ごした。これだけでも充実した時間を過ごせて、楽しすぎるくらいだったのに…
着々とお月見の準備が進められるのを見つめながら、この後始まるイベントに心を躍らせずにはいられなかった。
~あとがき~
お粗末さまどした
何気に長くなったので、お月見は次回になってしまいましたまだまだ、ガイドの近藤さんから楽しい話や、「な、なんですとぉ?!」というような話とか、沢山聞いたのですが今回はこのへんで
写真は前回同様、携帯カメラで写したので多少ピンボケしとります
近藤さんの、彼らの生き様を見て来たかのような語りぶりにどんどん引き込まれて行きまして、文中にもありましたが、本当に「土方の小姓で…えーと、」と、考え込んだので、私が「市村鉄之助ですね!」と、言って思い出させてあげたような形になって(笑)
その他の話も終始、「ええ?!うそぉ…」を繰り返していたわたす(笑)まだ、訪れたことが無い方は、是非!一度は足を運んでみて下さいませ
時を忘れ、幕末時代へタイムスリップしたような気持ちになれますから