【前回のあらすじ】
写真館にいたはずの4人は、二組に分かれて再び幕末時代へとタイムスリップしてしまう。沖田達は壬生浪士組を見かけ、翔太達は坂本龍馬との出会いがあった。お互いに逸れてしまった二組を探す前に、それぞれの居場所を確保する為に、翔太達は龍馬の滞在先へ。沖田達は藍屋の置屋を目指したのだった。
※沖田さんを攻略されていない方や、花エンドを攻略されていない方には、多少ネタバレになりますので、ご注意ください!
私の勝手な妄想話ではありますが…よかったらまた読んでやってください
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【沖田総司~花end後~】第17話
藍屋の暖簾の前。
二人で佇みながら、一瞬顔を見合わせる。
「何だか緊張して来ちゃった…」
私の呟きに、総司くんも苦笑いを浮かべた。
久しぶりの訪問。
二度と会うことは無いと思っていた人達が、この中にいる。
「は、入るね…」
「ああ」
総司くんに一声かけて、私は意を決して藍屋の暖簾をくぐり誰も居ない玄関から中へと声を掛けるも、返事が返ってくることは無かった。
春らしいぽかぽかとした陽気が心地良く、太陽はまだ真上にあったからお昼頃だろうか。となると、昼餉などでみんな、出払っているのかもしれない。
(また、時を改めた方がいいかな…)
そんな風に思った時だった。
「何か御用どすか?」
(…!?)
背後から聞き慣れた声がして振り返ると、同じ新造仲間だった花里ちゃんが、私達を見つめながら小首を傾げていた。
「は、花里ちゃん!」
「え、」
「良かった、誰もいなかったからどうしようかと思っていたんだけど…」
「はぁ……あんさんら、どちらはんどす?」
(えっ?)
訝しげに私達を見やる花里ちゃんに戸惑う中、総司くんはそんな花里ちゃんに一声かけ、私の手を引いて玄関の外へと歩み出た。
「総司…くん…?」
「えっと、こういう展開か…」
「ど、どういう展開?」
「いや、花里さんが貴女を知らないということは、二人がタイムスリップした年と同じか、それ以前ということになるんじゃないかな…と、思って」
総司くんは、私達を怪しげに見つめている花里ちゃんに、愛想笑いをしながら呟いた。
「ということは、秋斉さん達も私との記憶が…無い…」
「おそらくは。だから、それなりの対応を考えて行かないと…」
小声で囁き合い、またお互いに花里ちゃんを見やる。
ますます私達に向けられる、何か怪しい人を見るような眼が気になりすぐに彼女の元へ戻ると、私はあくせくしながらも、あの時のように総司くんと、そしてどこかにいるはずの翔太くん達と共に江戸からやって来たことを簡潔に話し、この藍屋で働けないかを尋ねてみた。
「そやったんどすか、それは御苦労さまどした。そないことなら、ちびっとここで待っとって下さい」
旦那はんに話して来ますさかい。と、言ってやっといつもの笑顔を見せてくれた花里ちゃんを見送って、私達はほっと息をついた。
「はぁ…。とりあえず、第一関門突破…」
「ああ。でもきっと、藍屋さんはこうはいかないだろうな…」
「うん…」
花里ちゃんが戻ってくるまでに、二人で秋斉さんと対面した時の為に話の辻褄を合わせ始める。こう尋ねられたら、こう返そう…とか。
まず私は、江戸の島原で新造として働いていたということにして、総司くんはその界隈で用心棒をしていたという設定にしてみた。
本当は、太夫としての技量も持ち合わせているけれど、新造の立場の方がいろいろと動けるだろうし、何より総司くんの意向でもあり、
はっきりとは口にしなかったけれど、多分、床入りのことを心配してくれたのだろう。
そして、話も何となくまとまった頃。
戻って来た花里ちゃんに連れられて、秋斉さんの部屋へと案内されたのだった。
「ここどす」
(…知ってるよ。何度も通った部屋だから…。)
花里ちゃんが中へと声を掛け、ゆっくりと襖を開けた先にその人はいた。記帳作業でもしているのだろうか、文机に向かい筆を走らせている。
(…秋斉さんだ。)
ほな、わてはこれで。と、言ってその場を後にする花里ちゃんを見送って、私達はちょっと複雑な想いを抱きながら、秋斉さんに促されるまま敷かれていた座布団の上に腰を下ろした。
「わてんとこで働きたいゆうことやけど…」
筆を休め、改めて私達に向き直る秋斉さんに、私は大きく頷く。
「はい、あの…新造の経験ならあります」
「…ほう」
秋斉さんの眼が一瞬、細められる。
用心深い秋斉さんだから、私の素性を見透かされそうで。
いつの間にか、手に汗を握っていた。
それでも、ここ以外行く宛が無い私は熱意を込めて懇願する。
「この界隈では、この藍屋が一番だという評判を耳にして。出来ればここで働きたいと…」
「…どこでここの評判を聞かはったんかは分かれへんけど、そないまでゆわれて断る理由は無い。せやけど、そちらはんは…」
秋斉さんの視線が総司くんに向けられ、
「僕は、いえ…私はこの方の……幼馴染です」
(…えっ…)
総司くんは微笑みながらそう言って、「いつの日か、身請けするつもりですが」と、きっぱりと言い切った。
「…っ……」
(それって、それって…)
少し呆気に取られた様子の秋斉さんと目が合い、急激に頬が熱くなるのを感じながらただ俯くことしか出来ずにいたその時、背後から懐かしい声を耳にした。
(この声は…)
襖の向こうから聞こえて来た秋斉さんの名を呼ぶ柔和な声は、まさしく慶喜さんだ。
そしていつものように、「邪魔するよ」と、言って部屋の中へと入って来るその姿は、当たり前だけれどあの頃のままで。
「お早いお着きどしたな」
「ああ、野暮用が出来たもんでね」
あの頃と全く変わらない二人の会話に思わず顔が綻ぶも、慶喜さんも私のことを知らないのだという現実に、改めて気を引き締める。
「…ところで、この子らは?」
そんな慶喜さんの問いかけに一つ頷き、秋斉さんはこれまでのことを簡潔に説明した後、改めて私にここで働くことへの意気込みなどを尋ねて来た。
私はそれに大きく頷いて再び懇願すると、秋斉さんは穏やかな笑顔を浮かべながら、「明日からよろしゅう頼みます」と、言ってくれたのだった。
「ありがとうございます!秋斉さん…」
「……なにゆえ、わての名を…」
「あっ…」
(そうだった。まだ、お互いに名乗っていなかったんだった…)
再び訝しげに眉を顰める秋斉さんに、ここを教えてくれた方から秋斉さんの名前を聞いた…という苦しい嘘をつき、総司くんと苦笑し合いしながら簡単だけれど自己紹介を始めた。
勿論、総司くんは仮の名前で…。
きっと、総司くんなりに考えたのだろう。
ただ、“おのだそうじろう”と、ぎこちなく名乗った時は迂闊にも吹き出しそうになってしまったのだけれど…。
総司くんと顔を見合わせ、お互いに苦笑し合った後。
慶喜さんと秋斉さんも順に名乗り合ってくれて、心の中で二度目だとほくそ笑みながら聞いていると、不意に後ろ髪が揺れるのを感じ視線をそちらに向けた途端、慶喜さんの悪戯っぽい瞳と目が合った。
「綺麗な髪だね…」
「え、あ…ありがとうございます…」
「はにかんだ顔も可愛い。ここへ訪れる楽しみがもう一つ増えたよ」
髪に触れられていることよりも、慶喜さんの息遣いを間近に感じて懐かしさと恥ずかしさが綯交ぜになる中、秋斉さんの低く抑えたような声を耳にする。
「そないことは、座敷で言いなはれ」
「相変わらず堅いね、お前は…」
「あんさんが軽すぎるんや」
私は、俯きながらも二度と聞くことは出来ないはずの二人の会話を懐かしんでいた。その時、総司くんが秋斉さんを見やりながら言った。
「ついでに、私もここの護衛として雇って頂けませんか?」
「あんさんを…」
「はい。剣術なら誰にも負けない自信はありますし、雑用でも何でも受け持ちますから」
何かを考えるようにして総司くんを見やる秋斉さんに、今度は慶喜さんがにこやかに口を開く。
「丁度いいじゃないか。最近、この界隈でも騒動が多発しているから、用心棒でも雇えたらって言っていただろう?」
「そうはゆうたが…」
「おのだくんとか言ったな。早速、その腕前を拝見したいのだが」
慶喜さんの突然の申し出に、一瞬また二人で顔を見合わせた後、総司くんは小さく息をついて研ぎ澄まされたような眼で慶喜さんを見つめた。
「勿論です」
(…でも、どうやって?)
その余裕の横顔を見つめながらそんなことを考えていると、「庭へ行こうか」と、言う慶喜さんに連れられ、私達は庭先へと足を運んだ。
いつの間にかいなくなっていた秋斉さんが一刀携えて戻って来た後、総司くんは受け取った刀を抜き払い、私達を目前に少し距離を置いて素早く刀を振るい始めた。
(これは…。)
その姿は、私を庇いながら浪士らと斬り結んだ時と同じで、初めて沖田さんの殺陣を目にした時の驚きが甦った。
私にはよく分からないけれど、その隙の無い素晴らしい殺陣型に、隣にいる秋斉さんと慶喜さんも驚嘆の息を漏らす。
「…ほう」
「こりゃあ、頼れる用心棒を見つけたね」
秋斉さんの関心したような息と、慶喜さんの一言を聞いて私は思わず安堵した。これで、総司くんも傍にいられると…。
けれど、ほっとしたのもつかの間…
「しかし、見れば見る程沖田くんに似ているな」
「同感どす…」
そんなお二人の言葉に動揺しながらも、慌てて話を逸らす。
「あ、あの…総司く…じゃなかった…そうじろうくんも雇って頂けるのでしょうか?」
「しばらくは様子を視させて貰うが、そのつもりどす」
「良かったぁ…改めて、これからよろしくお願い致します!」
「ああ…」
私に微笑みながら頷いてくれたから、秋斉さんが真顔で総司くんを見つめていることに気付かないままで。
私は、「良かったね」と、優しい微笑みをくれる慶喜さんと共に、とりあえずの居場所を見つけられたことを素直に喜んでいた。
こうして、何とか藍屋に置いて貰えるようになった私達は、あの頃の気持ちを抱いたまま再び彼らと共に生きて行くことになったのだった。
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*翔太SIDE*
あれから、俺達は亀山社中(後の海援隊)の事務所でもある酢屋へと案内され、早速、龍馬さんと手合せをする為に庭先へと足を運んでいた。
「翔太…」
「大丈夫、龍馬さんとは何度も手合せしているし」
不安がる裕香に微笑んで、先に竹刀を携えて俺を待つ龍馬さんの目前へと歩み出る。
竹刀を左脇に携えながら向い合せに腰を据え、やがてゆっくりと竹刀を合わせた後、長次郎さんの一声により、お互いに間合いを置きながらじりじりと足を進めた。刹那、
俺はまず、龍馬さんの竹刀を振り払い周り込んで足払いを試みた。
龍馬さんはそれを軽々と避け、再び袈裟懸けで振り払う俺の竹刀を受け止めた後も、軽く合わせて薙ぎ払って来る。
「くっ…」
次いで真っ向から振り払い、何度も何度も斬り結ぶ中。頭上で振り下ろされた竹刀を左腕で受け止め、一瞬遅れて龍馬さんの胴を取った。
「そこまで!」
長次郎さんの声で、お互いに小脇に竹刀を納めながら挨拶を交わす。
「なかなかの腕前じゃ。あんだけ意気込んだだけのことはあるのう」
「ありがとう…ございます」
「やけんど、やはりあの子は別宅に身を置いた方がえいと思うんじゃ」
「………」
俯きがちな裕香を横目で見やりながら、その言葉の意味をもう一度考え直してみた。
佐幕派からすれば坂本龍馬は不逞浪士として名高い。あの頃のように龍馬さんの傍にいる俺達も、いずれはその仲間として敵対されることになる。
でもそれは覚悟のうえだったし、今の俺なら裕香を守ってやれるという自信はあった。いや、今でもある。
けれど、もしものことを考えると龍馬さんの言葉も無視出来ないと改めて思わされ…。
「おんしの気持ちは分からんでもない」
「龍馬さん…」
「わしにも、あない可愛い女房がおったら同じように考えるじゃろうから」
「え、違いますよ!あいつは、俺の……友人です…」
女房という言葉に赤面しながらも、慌ててそういう関係では無いことを告げると、龍馬さんは片眉を上げながら俺に囁いた。
「わしは、てっきりおんしの女房やと思っちょったが…」
「…いやその、何て言うか……」
「なんじゃ、惚れちゅうがまだ想いを告げられん。そないところか?」
軽く肘鉄を食らい、脇腹を抑え込みながら照れ隠しのように笑みを浮かべるも、龍馬さんはまた真剣な表情で静かに話し始める。
「やったら尚更じゃ。わしらと共に来るゆうのなら、どこか安全な場所に身を置いて貰うほかない」
「………」
「どちらか選べ」
「……はい」
いつもの笑顔を見せると、龍馬さんは俺の肩をぽんっと一つ叩いて、その場を後にした。
その大きな背中を見送って、俺達の手合せを見物していた同志の皆さんらもその場を去りゆく中、相変わらず不安そうに俯き加減な裕香の元へと歩み寄る。
「今の勝負は、どちらが勝ったの?」
「……俺の負けだ」
「そっか…」
更に俯く裕香の隣に腰を下ろし、龍馬さんから言われたことも念頭に置きながら、俺達は再び真剣に話し合った。
今後、どうすることが一番なのかを…。
そして、しばらくの沈黙の後。
先に口を開いたのは裕香からだった。
「やっぱり…島原へ行くね」
「裕香…」
「あたしも、龍馬さんの言う通りだと思うから…」
少し震える声と、ギュッと握りしめられた拳を目にして、俺は堪らずその小さな肩を抱き寄せた。
「ごめんな…」
「謝らないで。それに、○○のいた…何て言ったか忘れちゃったけど…そこなら…」
「あ、」
その一言に、今更ながらハッとした。
「そっか、龍馬さんと出会って藍屋の存在を忘れてたよ!」
両肩に手を添えたまま、再び裕香の顔を覗き込むようにして言うと、龍馬さんに事情を説明してすぐに俺達は島原を目指した。
あいつらも同じ時代にいると信じ、出来れば藍屋に居てくれることを願いながら…。
~あとがき~
なにやら、男子二人は何気に告白めいたことを呟きw
主人公と翔太くんにとっては二度目の文久三年へ。そして、総司くんと裕香ちゃんにとっては初めての幕末時代…。
これから、4人で手分けして現代へ戻る方法を探し出しながらも、それぞれの想いを抱きながら周りの人達と生きて行くことに
お話は、本編と同じように進みつつ、総司くんと裕香の存在も上手いこと使い分けながら今後も書いていけたらなぁ…などと、思っちょりますw
そして、質問に対する答えをありがとうございました!別記事にて書かせて頂きましたが、とても参考になりました!今後も、こげな私ではありますが…よろしくです!!
今日も、遊びに来て下さってありがとうございました