【前回のあらすじ】
翔太と裕香の安否を気に掛けながらも、二人は藍屋の置屋を訪れた。しかし、主人公との記憶が無い置屋の面々に、二人は戸惑いながらも何とか藍屋に身を置くことになる。一方、翔太と裕香は龍馬たちが立ち入っていた亀山社中の事務所の一つである酢屋へと出向き、龍馬との対決に負けた翔太は、裕香を連れて藍屋の置屋を目指したのだった。
※沖田さんを攻略されていない方や、花エンドを攻略されていない方には、多少ネタバレになりますので、ご注意ください!
私の勝手な妄想話ではありますが…よかったらまた読んでやってください
第1話
第2話
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第10話
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第13話
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第17話
【沖田総司~花end後~】第18話
あれから、私達は野暮用へ向かうという慶喜さんを見送り、初めてここを訪れた頃のように花里ちゃんから説明を受けながら置屋と揚屋を案内され、総司くんと離れた後、先輩花魁たちへの挨拶を済ませ。
総司くんはというと、藍屋の用心棒としてお侍のように刀を携え、藍屋付近や島原界隈を見回ったり、番頭さんと共に雑用を熟し始めていた。
「と、こないな感じどすけど、何か分かれへん事があれば遠慮なくわてにゆうてな」
「ありがとう、花里ちゃん」
置屋の玄関をくぐり、土間に腰掛け草履を脱ぎながら、花里ちゃんは小さく息をついて微笑んだ。
(…遠慮なくゆうてな、か…。)
私と翔太くんがこの時代にタイムスリップした後、慶喜さんに連れられてここへ来た時も、花里ちゃんは同じように私に接してくれた。
今回も、あの頃と変わらない優しい微笑みが私に向けられている。
(…嬉しいな)
もう、二度と会えないと思っていた人。
そう考えると、とても感慨深くて思わず涙が出そうなほどの感情が込み上げて来る。
「どないしたん?」
「え、ううん。何でもないよ」
「ほな、わてはこれからお使いがあるさかい、また後でな」
「うん、ありがとう」
胸元で小さく手を振って、二階へと上がって行く彼女を見送り、自分も部屋へ戻ろうとしたその時。暖簾の先に、見覚えのある足元が映りこんだ。
(…??)
次の瞬間、
「ああっ!!」
暖簾をくぐって顔を出したその相手が、翔太くんと裕香であることを認識した途端、嬉しさから思わず二人に身を寄せ。それぞれが何かを口にしながらお互いの無事を目で、指先で感じ合う。
「良かった!この時代にいてくれて!何より、二人が一緒に居てくれて…」
「ああ、それだけが救いだったよ」
改めて、翔太くんと裕香であることを確認していると、今度は裕香が心配そうに口を開いた。
「…総司くんは?」
「一緒にいるよ!今は、ここを留守にしているみたいだけど」
「そっか、それを聞いて安心した」
薄らと微笑む裕香にそう言い返すと、次いで翔太くんの真剣な視線と目が合う。
「少し、そこまで出られるか?」
その眼差しに頷きかえし、私達は、以前も翔太くんと内緒話をする時によく使用した路地裏へと足を運び、これまでのことや、これからどうして行きたいかなどを話し合った。
私達を探していた最中、偶然にも龍馬さんに出会ったことから、あの頃のように龍馬さんの下で一緒に世直しの旅に出る為に、裕香と離れなければならなくなったこと。
こちらからは、また新造としてここに置いて貰えるようになったこと。総司くんが、現在“おのだそうじろう”と、改名し、藍屋の用心棒としてここに身を寄せるようになったことなど。
「あたしも、ここに置いて貰えるだろうか…」
「秋斉さんに聞いてみないと分からないけど、何とか一緒に置いて貰えるようにお願いしてみよう」
「うん。でも、もしも…雇って貰えたとしても、あたしに勤まるかどうか…」
「大丈夫、藍屋の人達はみんな良い人ばかりだし。私だって出来たんだから」
不安そうに俯く裕香に寄り添いながら優しく声を掛ける。
「そうだね。あんたに出来たなら、あたしにも出来るか」
「…あのねぇ」
「うそうそ、ごめん」
少しぎこちないながらも、おどけた顔で言う裕香にふくれっ面を返し、今度はお互いに声を出して笑い合う。
「じゃあ、今すぐ掛け合いに行こう!」
それから、私は二人を連れて再び秋斉さんの部屋を訪れた。
そして、二人が探していた友人であることを伝え、図々しいながらもその友人の一人を同じ新造として雇って貰えないかということを話すと、黙ったまま私達を交互に見やっていた秋斉さんが、裕香に視線を向けながら厳かに口を開いた。
「ほな、三味線や舞を嗜んだことは?」
「え、あ…三味線に触れたことも無いし、舞踊もやったことありません…」
「左様か…」
秋斉さんの厳しく細められる眼に、少したじろぐ裕香。
渇き始めたその場を取り繕うかのように、熱意を込めて一声掛ける。
「秋斉さん、あの…裕香の面倒はちゃんと私が看ますから何とか、ここに置いて頂けないでしょうか…」
「………」
目を細めたままの秋斉さんに、今度は翔太くんが真剣な眼差しで訴えかけた。
「俺からもお願いします!なんていうか、初対面なのにこんな図々しいことをお願いするのは心苦しいのですが……裕香も○○と同じように、いやそれ以上に器量がいいし、順応力は高いほうだと思うので、きっと期待に応えてくれると思います」
「翔太…」
真剣な口調で話す翔太くんの横顔を見つめながら、裕香がぽつりと呟いた。
「そないにまで必死にならはって…何か特別な事情があるようやね」
「え…」
そんな秋斉さんの言葉に私達は少し呆気に取られ、お互いに目配せを交わし合う。
「その事情とやらが何なのかは分かれへんけど、この際や。一人預かるんも二人預かるんも同じこと」
「じゃあ、こいつもここに置いて頂けるんですか?」
「生憎、これ以上部屋を用意することは出来ひんさかい。○○はんと同じ部屋でええのなら…」
「あ、ありがとうございます!」
何となく、私達の心の中を見透かされているような感じは否めなかったけれど、満面の笑顔でお礼を言う翔太くんの横顔を見やりながら、私も裕香もほっと安堵の息を零した。
その後、再び龍馬さんの下へ戻るという翔太くんを見送る為、大門まで足を運んでいた。
「裕香のこと、くれぐれもよろしくな」
「任せて」
「あとどれくらい滞在するのか分からないけど、京を離れる前に龍馬さん達も連れてまた来るよ」
「うん、楽しみにしてる。翔太くんも、気を付けてね」
「ああ。それと、」
私との会話を終えた後、翔太くんは裕香を見つめながら少し照れたように言った。
「裕香…」
「何?」
「あのさ……いや、やっぱ何でもない」
「…翔太?」
「なんつーか、○○もそうだけど、お前も我慢し過ぎるなよ」
そう言うと翔太くんは柔和な笑顔で、「じゃあまたな」と言い私達に背を向けた。
これで何度目だろうか。
こうして、翔太くんの背中を見送るのは…。
あの頃も、現代に戻る為に探し回っていたカメラの情報や、お互いに関わった偉人達とのことを話す為に何度も足を運んでくれていた。
今は、あの頃よりも一回りも二回りも逞しく感じられる。
「行っちゃった…」
「…裕香」
「翔太は、大丈夫なんだよね?」
「え?」
「坂本龍馬と一緒にいても…」
見えなくなった後ろ姿。
裕香の呟きに、私はどう返していいか戸惑いを覚えた。
龍馬さんは剣の達人だし、その弟子のような翔太くんも同じくらいの腕を身につけている。だから、大丈夫だと言いたい。
けれど、あの頃とは違う展開が待ち受けているかもしれないということを考えると、断言することも出来ずにいた。
それでも…
「大丈夫だよ!翔太くんは、あの龍馬さんから右腕にしたいくらいだって言われたことがあるんだから」
「うん、それは私も聞いたし。実際にその腕を見たから…でも、」
───もしものことがあったら…。
離れていることへの不安は計り知れない。
「翔太くんを信じよう…」
「…そうだね。今はそうするしかないんだもんね」
「龍馬さんの周りも、強い人ばかりだし。暇を貰えたらこちらからも会いに行こう!」
明るく顔を覗き込むようにして言うと、裕香は泣き笑いのような顔で大きく頷いた。
もう一度、二人で翔太くんが去って行った方を見やり、置屋へ戻ろうと振り返ろうとしたその時。右肩に小さな衝撃を受けて一瞬、裕香に凭れ掛かった。
「…っと、すまない」
「いえ、こちらこそ…」
(ん?この声は…)
どこか聞き覚えのある低く落ち着いた声に答えてすぐ、私の横を足早に通り過ぎて行く袴姿の男性を見やる。
(ひ、土方さん!?)
その見覚えのある背中を見つめながら呆けていると、少し遅れて涼やかな声を耳にした。
「それだけですか…」
(えっ…)
それは、忘れもしない。
私が一生を捧げ、愛した人の声…
ゆっくりと振り返った先に、その人の凛々しい姿があった。
「あ…ぁ……」
(沖田…さん…)
「御怪我はありませんでしたか?」
「もしや…お、おっ(きた)?!」
呆然としている私に、いつもの笑顔で問いかける沖田さんを指差しながら、裕香が驚愕の声を上げた。
「お?」
「いえ、何でも無いんです!あの、怪我もしていませんので…だ、大丈夫です」
お互いに初対面でなければいけないのだということを思い出し、慌てて裕香の口許を押さえ込みながら、不思議そうに小首を傾げる沖田さんに弁明すると、沖田さんは小さくなる土方さんの方を見やり、また私達に視線を戻し言った。
「それなら良かった。火急の用につき、無礼をお許し下さい」
「………」
では。と、言って私達に一礼し、踵を返して土方さんの後を追い掛けるように足早に歩き去っていく。
(沖田さん…なんだよね…)
まだ呆然とする意識の中で、私達はその小さくなる背中を見送り声を震わせ合う。
「い、今の人、総司くんにそっくりだった……ってことは、もしかして。いや、もしかしなくてもあの沖田総司?!」
「うん…」
裕香の問いかけに、小さく頷き返し。もう一人の少し威厳めいた眼差しの人が、土方歳三であることを話すと、裕香は改めて大きな溜息をついた。
「はぁー、ということは…」
「…うん」
「ねぇ、それってヤバくない?」
二人の対面は勿論、土方さん達との対面もあり得るわけで…
総司くんと一緒にいられることを嬉しいと思いながらも、新選組が活躍していた時代へ飛ばされてしまったことで、前世の自分との対面は避けられないという運命に付きまとわれる。
「総司くんも、きっと承知の上だったんだと思う…」
「…そっか。だけど、それでもあんたの傍が良かったってことだよね」
そう言って苦笑する裕香に、同じように苦笑を返す。
藍屋に身を預けながら、現代へ戻る為の方法を見つけ出さなければならない。それだけでも大変なことなのに、総司くんへの想いと沖田さんへの想いが綯交ぜになりつつあり…。
一波乱、いや。
それだけでは済まないだろうこれからのことを考えると、大きな溜息を漏らさずにはいられなかった。
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夕刻。
あれから、私達は花里ちゃんと共にいつもの呉服屋さんへと出向き、着物を新調して貰った後。出来上がりを楽しみにしつつ、お座敷へ出る準備をしていた。
「花里やけど、入ってもええ?」
「どうぞ!」
手伝いに来た。という花里ちゃんを迎え入れ、彼女に甘えながら二人して裕香の着付けを整え始める。
「次からは、何とか自分で着られそう…」
「せやけど、一人で着られへんとは…あんさん、どない育ち方をしはったん?」
「あ、あはは…それは何て言うか…」
(まさか、現代では着物を着る機会があまり無いから…なんて言えないよね…)
苦笑する裕香と、少し呆れ顔の花里ちゃんを交互に見やりながらも、私はまた心の中で自分が初めてここへやって来た時のことを懐かしく振り返った。
あの頃、新選組屯所にて永倉さんから着物をお借りした時は簡単に羽織った程度だったけれど、ここできちんと着付けることになった時は、秋斉さんや菖蒲さん達からも同じことを言われて…。
改めて懐かしさでいっぱいになりながらも、着付け後。同じように化粧を済ませ、私達は花里ちゃんの後を追うようにして、他の新造仲間や姐さん方と置屋を出た。
「な、なんか…ものすっごくドキドキしてきた…」
「さっき、花里ちゃんが言っていた通り、最初はお客様の案内とかお酌くらいだから」
「う、うん…」
そのドキドキ感もよく分かる。
私も、初めて花里ちゃんや菖蒲姐さん達と共にした時、言い表せないほどの不安と緊張感に胸を高鳴らせていたから。
やがて、辿り着いた揚屋の玄関をくぐり。
名代を務める為に、裕香と私はそのお座敷へと急いだ。
(久しぶりのお座敷…)
膝をつきながらいつものように声を掛け、ゆっくりと障子を開けたその先に、あの人の秀麗な横顔があった。
~あとがき~
何だかんだと、17話からだいぶ経ってしまっていましたが、ようやく続き…アップとなりました
今年の春からは忙しくなるだろうと思っていたのですが、想像以上で。僕ちんの小学校の件も、他にもいろいろ重なって
やっとこ、書く時間が取れ始めた感じです
とうとう、主人公と沖田さんとの対面があり、翔太くんは再び龍馬さんとの世直し旅が始まる。先輩新造として、裕香と接する中。
秋斉さんをはじめ、他の旦那様達との時間や、総司くんとの時間。でもって、総司くんと沖田さんとの対面…。
などなど…
現代へ戻ることが最終目標としても、その間の“それぞれの想い”を、なるべく色濃く描いていけたらいいなぁ…なんて
今回、総司くんの出番は無かったのですが
裕香と総司くんがあの時代に関わることにより、少しだけ本編と違う展開になってゆく。それによる、もう一つの艶の世界を素敵に描いていけたらなぁって思っとります
でもって、お座敷で待っていてくれたのは、いったい誰なのか?
(///∇//)
ちなみに、貴女は誰を想像しましたか?