【前回のあらすじ】


翔太不在の中、主人公は総司と裕香と共に藍屋に身を置きながら、これから起こるであろう騒乱について話し合う中。総司の新たな想いを知った主人公はその夜、高杉晋作と再会する。そこで、高杉に三味線を披露しているうちに、沖田との記憶を思い出す主人公。高杉の優しい言葉と、三味線の音色に癒されながら改めて、沖田への想いを抱かずにはいられなかった。


※沖田さんを攻略されていない方や、花エンドを攻略されていない方には、多少ネタバレになりますので、ご注意ください!

私の勝手な妄想話ではありますが…よかったらまた読んでやってくださいきらハート


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【沖田総司~花end後~】 第24話


文久三年七月四日──


総司くんの誕生日プレゼントを買う為に、私は京の町を散策していた。あれから、いつものようにひょっこり顔を出した慶喜さんや、秋斉さんに相談してみたところ、柄糸と刀袋が良いのではないかという意見を貰う。


今までは、意識して見たことが無かったけれど、慶喜さんから拝見させて貰った刀の柄の部分に巻かれた柄糸の綺麗な色合いを見て、一発でこれだと思い。町を行き交うお侍さん達の刀も参考にしながら、とあるお店の前に辿り着く。


「ここは…」


秋斉さんから教わった通りにやって来た刀屋さんは、よく素通りしていた店だった。開け放たれた引き戸を横目に店内へ足を進めると、すぐにやって来た店主らしき男性の、柔和な微笑みを受け止める。


「どない御用でっしゃろ?」

「あの、柄糸と刀袋を探しているんですけど…」

「へぇ。ほなら、ちびっと待っとって下さい」


男性は、微笑んだまま奥の部屋へと歩み去り、しばらくして両手に沢山の柄糸を持って戻って来た。それを、いったん棚の上に置いて風呂敷包みを私の前に大きく開き、その上に先ほどの柄糸を一本ずつ綺麗に並べてゆく。


「うわぁ…」


思わず、その色とりどりの柄糸を見て感嘆の息を漏らした。その後、男性はすぐにまた奥の部屋へ行き、今度は刀袋を持参して戻って来ると、柄糸の隣に並べていった。


「お勧めだけを持って参りました。どなたかへの贈り物でも選びに来はったんちゃうかな?思て」

「ありがとうございます!その通りです…」


やっぱりそやったか。と、満面の笑顔を見せる男性に大きく頷いて、私は一つずつ手に取りながら見定めて行った。


(総司くんに合う色は…やっぱり、この色だなぁ…)


それぞれ見比べて、何気なく選んだのは…


(…っ…)


沖田さんがよく気に入って羽織っていたあの、薄緑色だと思った。その時、背後から「御免」と、いう畏まったような低い声を聞いた。


「これは、佐々木様。お久しゅう御座いますね」

「店主も、元気そうで何よりや」


(ん?佐々木様…)


ふと、店主の視線を辿った先、見覚えのある横顔に一瞬、目を見開いた。


(あの人は、佐々木、えーと…名前が思い出せない…)


お座敷で、山南さんらと共に足を運んでくれたことがあったし、新選組隊士であることは知っている。目が合って、すぐに逸らすも特に声を掛けられることも無く、佐々木さんは、顎元に手を添えながら店内に並んでいる数々の刀を物色し、手に取って見定め始めた。


(どうしよう。知ってるのに声を掛けないのもなんだよね…でも、何て言おう?)


柄糸を手に取りながらも心の中で自問自答していると、小刀を手に私の傍へと歩み寄って来る佐々木さんの、少し躊躇ったような息遣いを耳にした。


「もしや、お前さんは藍屋の…」

「あ、はい」

「やはり、そうか」


顔を上げた先、佐々木さんの柔和な微笑みと目が合う。


「小太刀でも持つおつもりか?」

「いえ。友人への贈り物に…と、思って選んでいたところなんです」

「左様か」


そう言うと、佐々木さんは勘定を済ませ、購入したばかりの小太刀を脇に差す。


「それは、さぞかし喜ばれることやろう」

「そ、そう思います?」

「ああ。特に、柄の部分は使えば使うほど滑りやすうなるさかい。何本あっても困れへんよって」


言いながら私に微笑むと、佐々木さんは店主に挨拶をして店を後にした。


(意外と話しやすい人だったんだな、佐々木さんって。あ、名前聞き忘れちゃった…)


そんなふうに思いながら再び品定めをし始めた時のこと。奥からやって来た、二十代前半くらいの女性に一瞬、目を奪われた。


(うわ、綺麗な人…)


女の私から見ても、とても魅力的に見えるその女性は店主のことを、「お父様」と、呼び、何やら伝えにやって来た様子が見て取れる。少し離れた場所から漏れ聞こえてくる、“芹沢さま”という言葉に反応してしまうも、なるべく聞かないように気を逸らしていた。



やがて、値段も考慮しつつ選んだ柄糸と刀袋を購入して店を出た。


次いで、いつもの道を戻り始めて間もなく。遠方からやって来る新見さんと芹沢さんの姿を見つけ、思わず近くの茶屋へと身を顰めた。


「ふぅ。面倒なことに巻き込まれるのはもうたくさん…」


ついこの間、藍屋で起こってしまった乱闘騒動。じきに、芹沢さん達が騒動を起こすだろうと懸念していたのだけれど、総司くんの護衛も空しく、一週間の営業停止処分を避けることは出来なかったのだった。


茶屋の娘さんに声を掛けられ、慌てながらも芹沢さん達が通り過ぎるのをただひたすら待ち。その後、何となく気になってお二人の行方を追うと、先程の刀屋へ入って行くのを確認した。


(そういえば、さっき芹沢さんがどうとかって言ってたっけ。お二人は芹沢さん達を待っていたのかな…)



既に、新撰組内部で燻り始めていた一つの騒乱。

それが、後に私達を巻き込み、ある事件へと発展してしまうということを、この時の私はまだ知らなかった。


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誕生日プレゼントを買いに行ったあの日から、四日後の宵五つ半(午後10時半頃)。


「うわぁ、星がきれーい…」


お座敷を終え、裕香と共に置屋へと戻る帰り道。

夜空に散りばめられたような星々を見上げながら、どちらからともなく今日の楽しかった一時を振り返る。


「この日を迎えるまでいろいろと大変だったけど、総司くんも喜んでくれてたみたいで良かったよね」

「うん。すごくびっくりしたような顔をしてたけど」


微笑みながら言う裕香に、笑顔で頷き返した。



朝餉の後、裕香と花里ちゃんと一緒に甘酒とお団子を拵え、秋斉さんの声掛けで集まってくれたみんなと共に、主役である総司くんを迎え入れた。


最初、きょとんとした顔で私と裕香を交互に見ていた総司くんだったけれど、みんなからの「おめでとう」と、言う声に少し照れくさそうな微笑みを返していた。


二日前、まだ京都にいるうちに事情を説明していた翔太くんからも、“当日は遠い下関の地から祝っている”との手紙が届き。


秋斉さん達に“誕生日”の説明をした後、どうして生まれた日にお祝いするのかを問われた私は、勝手ながら“小さい頃に思いついた遊びの一つ”なのだと、苦しい嘘をついた。何となく、秋斉さんの厳かな視線を感じながらも、最後はそれぞれが納得し賛同してくれたのだった。



「けどさ、元旦を迎えると共に年を数えるとはね。しかも、ケーキ食べたり、プレゼント渡したりする習慣も無いなんてさ…」

「そうだね。いつの時代から誕生日を祝うようになったんだろうね」


不貞腐れたように言う裕香に苦笑を返し、辿り着いた置屋の暖簾を避けながら玄関を潜ろうとして、


「…っと、」

「あ、ごめんなさい!」

「こちらこそ!」


ぶつかりそうになった総司くんと顔を見合わせ、すぐにお互いを確認して苦笑いを浮かべた。そして、誰からともなく「お疲れさま」と、声を掛け合うと総司くんは、私達を交互に見ながら言った。


「早速、巻き直してみた」


言いながら一刀腰元から抜き取り、柄の部分が良く見えるようにこちらに差し出すと、私達はそれに触れながら思わず感嘆の息を零した。





「いいじゃん、以前の黒よりずっと綺麗だよぉ!」


裕香の言う通り、薄緑が鮮やかに刀を際立たせているように見える。次いで、「改めて、今日はありがとう」と、言って嬉しそうに微笑む総司くんに、裕香と一緒に微笑み返す。


「じゃあ、最後の見廻りに行って参ります」

「気を付けて行ってらっしゃい」


再び刀を腰元に戻し、颯爽と玄関を後にする総司くんを送り出し、私達は寝支度を整える為に部屋へと戻った。





化粧を落とし、新しい襦袢に着替え。寝支度を整えて布団の上に寝転がる裕香の、安堵したような息を聞く。


「はぁー。今日もおちかれさん」

「ふふ、お疲れ様」


鏡台の前、髪を梳かしながら鏡越しにそう答えると、裕香は天井を見つめながらぽつりと呟いた。


「けどさぁ、彼氏の誕生日だってのに…」

「ん…?」


ふと、手を止め背後を振り返ると、裕香は寝ころんだままこちらに体を向けながら少し複雑そうな表情を浮かべていた。


「こんな日ぐらい、二人でゆっくり出来たら良かったのにと、思ってさ」

「…ありがと、裕香」

「いやマジで。あたしがあんたの立場だったら、藍屋さんに頼み込んでた」


確かに、二人だけでお祝いしたいと思ったこともあるけれど、みんなから祝福されて嬉しそうにしていた総司くんの笑顔を目にして、やっぱりみんなにも声を掛けて良かったと思えた。


「明日、お座敷までの間、二人だけで過ごせるし…」


言いながら、寝支度を整え終えた私は、裕香の隣に敷かれた布団に横になり。つらりと揺れる行燈の灯りを見つめた。


しばしの沈黙が流れる中、


「ねぇ、一つ聞いていい?」

「ん?」


その後の、裕香からの問いかけに一瞬、驚愕の息を漏らしながら右肘をついて上体を起こす。


「な、何をいきなり!?」

「いやぁ、じつはそのへんのところも気になってたからさ」


裕香の言う、“そのへんのところ”というのは、きっとこの時代へ飛ばされていなければ、旅館にて夜中に女子だけで盛り上がっていたであろう内容のことで。今までは、ここでの新たな生活に慣れる為に必死だったから、こんな話をする余裕は無かったのだけれど…


「で?」

「で、って…?」

「キスはもう済んでるよね?」

「…う、うん」


にやにやしながら尋ねて来る裕香に苦笑を返すも、それ以上は中途半端に終わっていることを話すと裕香はいつにない真面目な表情で呟いた。


「まぁ、人ぞれぞれかもしれないけど…総司くんも男だ。内心はそれ以上進みたいと思ってるはず」

「…そう、なのかな…」

「え、なに?まさか拒んでるとか?」

「そういう訳じゃ…ないけど…」


答えながら再び横になり、まだ何か話し続けている裕香の声に耳を傾けながらも、ふと思い出すのは沖田さんとの一夜だった。



私を抱きしめながらも、しなやかな指先が、私の名を囁く声が微かに震えていた。そんな沖田さんの真意と志を知って、私も自分の想いを胸にしまい込み…


結局、沖田さんがそれ以上私を求めることは無かった。



「…って、おーい?」

「え?」

「もしかして、聞いてなかったとか言うんじゃないよね」

「ご、ごめん。沖田さんとの記憶を思い出して…」


少し呆れたように言う裕香に謝った後、私は少し躊躇いながらも、心の隅で燻っていたもう一つの悩みを打ち明けた。


「あとね…」

「ん?」

「プレゼントを買いに行った時ね、総司くんのことを思い浮かべていたはずなのに…」

「…はずなのに?」


心配そうに尋ねて来る裕香に、複雑な想いを告げた。数々の柄糸を目にした時、真っ先に沖田さん色を選んでいたことを…


「でも、それは浮気にならないし仕方がないよ。その件に関しては、総司くんも気にするなって言ってくれたんでしょう?」

「うん…」

「まぁ、二度と会えないって思ってた沖田総司とまた出逢っちゃったんだから、複雑な気持ちは分かるけど。二人共気にし過ぎだと思うよ」

「………」


黙り込む私に、裕香は態勢をこちらに向けながら大きく息をついた。


「じゃあさ、今、この時代に存在する沖田総司は、同姓同名の別人だと思えばいい」

「…同姓同名の、別人?」

「そう。あんたと沖田さんが歩み寄ったからこそ、付き合いが始まった。でも、今回は総司くんがいるんだから、沖田さんからの想いを受け止めない限り、あの頃と同じ展開になることはないわけで…」


それは、いつも私が考えていたことであり、私自身もそう思うように努力していた。けれど、あの頃と寸分も違わぬ笑顔で私に微笑む沖田さんを、意識せずにはいられないのだということを伝えると、裕香は天井を見つめながら囁くように言う。


「…その想いを100パーセント理解することは出来ないけど、あんたは総司くんを…というより、あの頃好きだった沖田総司を信じて、支えて行ったらいい」

「………」

「と、あたしは思うんだけどね」


この時代を生きる沖田総司は、あの時、私が愛した沖田さんであるという事実は変えられないけれど、私を愛し共に生きてくれた沖田さんは現代に生まれ変わり、私を探し続けていてくれた総司くんしかいないのだ、と。



『貴女を、探していたような気がします…』



どこか不安そうに微笑む総司くんの顔が、みるみる翳んで見え始め。私は、止めど無く溢れ出る涙を止められないまま、素直な想いを告げた。



『あなたに…会いたかった…』



あの日、私達は出会うべくして出会った。

互いの“会いたい”と、願う気持ちが引き寄せた奇跡…



「そう、だね」

「そうだよ」


呟き、ゆっくりと視線を裕香に向けると裕香も、同じように視線をこちらに向けた。


これからも、きっとこの時代にいる限り躊躇いの心は消せないだろう。けれど、二度と会えないと思っていた沖田さんとの再会も、きっと奇跡という名の運命だったに違いない。


「…裕香も、強くなったね」

「トイレとかお風呂とか、不満を挙げたらきりがないけどぉー。この時代も、悪くないって今は思える」

「そっか…」

「何度も言うけどさ、翔太も命懸けで頑張ってるから。あたしも頑張らないとなって…」


囁くように言うと、裕香は“節約しなきゃね”と、呟きながら行燈の灯りを吹き消した。次いで、お互いに寝る前の挨拶を交わし合う。


明日も頑張ろうね、と。



現代にいた時でさえ、人の命は儚いと感じていた。訃報はいつも突然で、それを聞いた時はもう、既に“もっと会って話しておけば良かった”と、後悔するしかなかったから。


私と関わる全ての人との時間は、永遠ではない。生と死は隣り合わせだと、この時代で嫌って言うほど思い知らされたんだった。



“全ては日本の為に”


彼らの志を知って、身震いを受けたことを思い出す。思想は違っても、結局はみんな同じ理念の元、必死に生きていたことを…


そして、翔太くんと総司くんの、“あの頃の失敗を二度と繰り返さない”と、いう言葉を思い出し、私は改めて、これから起こるであろう出来事を受け入れる覚悟を決めた。


何より、あの頃叶えられなかった沖田さんとの、掛け替えのない時を取り戻したいと考えていた。


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翌朝。


いつものように掃除と朝餉を終えた私は、薄めのお化粧をし、総司くんが良いと言ってくれた着物を纏った後、置屋の玄関先で総司くんが来るのを待っていた。


(少し暑いけど、晴れてくれて良かったぁ。)


晴天に恵まれたことに感謝し、今日行く予定の名所を思い描いていた。その時、


「おでかけどすか?」

「え…」


その声に振り返ると、柔和な微笑みを浮かべながらこちらにやって来る秋斉さんを見とめた。


「ちょっと、そうじろうくんと京の町を散策しようと思いまして」

「おのだはんと?」

「はい」

「そやった。あんさんらは、恋仲どしたな」

「こ、恋仲…」


思わず恥ずかしくなって、俯きながら黙り込む私の頭上で微笑んだような秋斉さんの息を聞く。次いで、顔を上げた先、同じく優しい微笑みを浮かべながらこちらへやってくる総司くんを迎え入れた。


いつもの着物の上から青紫色の羽織を纏ったその装いが、男らしさを際立たせており。腰元にはあの刀がしっかりと携えられている。


「ごめん、遅くなってしまって…」

「ううん」


お互いに微笑み合い、改めて出かけることを伝えると秋斉さんは、「気ぃつけて、行っといでやす」と、いつもの笑顔で私達を送り出してくれたのだった。




大門を出て、最初の目的地である茶屋を目指し歩く中。さっきから気になっていた初めて見る羽織について尋ねると、総司くんはチラリと私を見下ろした後、微笑みながら真っ直ぐ前方を見つめ言った。


「お前はもっと貫禄を醸し出した方が良いって、ついさっき、真田さんからこの羽織を戴いたんだ」

「真田さんから?」

「見た目、少しでも強く見えた方が相手も下手に手は出さないだろうからと…」


藍屋の番頭さんの中でも一番の古株である真田さんは、少し強面だけれど、とても面倒見の良い優しい男性で、総司くんのことを「自分の息子のようだ」と、言って接していたのを思い出す。


「気持ちは有難いけれど、少し派手過ぎるような…」

「ふふ、確かに。でも、大人っぽく見えるしその色も結構似合ってる」


照れ笑いを浮かべる総司くんに微笑み、そっと絡め取られた手に微かな熱を感じると同時に、もう片方の手を総司くんの逞しい腕に添える。


すぐ傍に楽しげな笑顔があり、その優しい温もりに包まれながら改めて、昨日、みんなの前で言えなかったことを尋ねてみた。“もしも、現代にいたらどこで何がしたかったか”と、いう私からの質問に、総司くんは、前方を見つめたまま何かを考えるように瞳を細めると一瞬、歩みを止め私の耳元で囁いた。


(…えっ…)


その、いつもよりも大胆な物言いに恥ずかしくなって俯くと、


「場所はどこでも。二人きりになれるなら」
「…っ…」


尚も投げかけられる何気ない一言に勝手な妄想だけが膨らんでゆく。そのストレートな物言いと、裕香の、“総司くんも男だ”と、いう言葉が頭の中でリバースして、ますます顔を上げづらくなる。



“一晩中、抱きしめていたかった”



付き合っている者同士が素直な想いを伝え合うのは当たり前のことだし、私もそれ以上にいつも総司くんを感じていたいと思っていたことを告げると、総司くんは嬉しそうな笑みを浮かべた。


「それなら、あそこの旅籠屋で…」
「え…っ…」


(それって…)


左側に堂々と建つ立派な旅籠屋さんを確認しながら、独り勝手にその後に続く言葉を想像して俯いた。次の瞬間、総司くんの楽しげな顔が目前に迫り、


「冗談ですよ」
「なッ…っ…」


少しふくれっ面を返すと、総司くんは尚も楽しそうに微笑いながら私の手を優しく握り直した。そして、総司くんは仕切り直すように言葉を繋ぎ、地元の海や、思い出の場所へ私を案内したかったと、少しはにかんだように微笑む。


まるで、あの頃の沖田さんと一緒にいるような錯覚を受ける。沖田さんの、ふとした仕草や、何気ない言葉にいつもドキドキさせられていた。そう、あの頃の沖田さんとの思い出だけが、私の全てなんだ。


改めてそんなふうに思いながら、手はそのままに、再び総司くんの腕に寄り添い歩いた。




しばらくお互いの温もりを感じ合いながら通い慣れた道をゆく。想い出の場所を見つけては、懐かしくあの頃を思い返す中。私にとって思い出したくない記憶の一つである、あの人の家の前に来ていた。


「ここって、お梅さんの…」

「ああ」

「やっぱり、沖田さんのことを追い掛けているのかな…」

「あの方は、人をからかうのが好きだっただけで…」


総司くんがまた何かを口にしようとした。刹那、いきなり開いた門の向こうから現れた見知った顔ぶれに一瞬、言葉を失うと同時にその場に佇み、


(あ…)


そんな私達を見とめた沖田さんの、驚愕したような瞳から目が離せなくなっていた。





【第25話へ続く】





~あとがき~


総司くんへの誕生日プレゼント…

何にしようか、すんごく迷いました。


何気に必需品である刀を調べていたところ、柄糸と刀袋、房紐などが良いかなーと、思って音譜


にしても、再び顔を合わせた総司くんと沖田さんあせる

総司くんは前世の自分と、どんなふうに向き合い。土方さん達と関わってゆくのか…


でもって、彼らの周りで起ころうとしている様々な騒動も、本編には無かった出来事も含め、史実を基に描いて行く予定です。


もう、佐々木…と、聞いて、“あの事件のことだな?”と、新選組の史実に詳しい方なら分かるかと思いますがw


今回、沖田さんや総司くんの出番はほとんど無かったですけんども、この女子だけの会話は結構重要なので音譜


三角関係の行方は、次回以降でしっかり描いて行くということでドキドキ


今回も、遊びに来て下さってありがとうございましたラブラブ!