【前回のあらすじ】


島原大門付近の千頭屋の花魁が狙われた騒動に関わることで、総司は沖田との対面を果たし。翔太は龍馬との関わりについて考えあぐねる日々を送り。主人公は、沖田に心を乱されながらも、改めて総司の想いに応えようとしていた。


※沖田さんを攻略されていない方や、花エンドを攻略されていない方には、多少ネタバレになりますので、ご注意ください!

私の勝手な妄想話ではありますが…よかったらまた読んでやってくださいきらハート


第1話 第2話 第3話 第4話 第5話 第6話 第7話 第8話 第9話 第10話 第11話 第12話 第13話 第14話 第15話 第16話 第17話 第18話 第19話 第20話 第21話



【沖田総司~花end後~】 第22話


その後間もなくして、部屋へと戻る総司くんを見送った後、私達はすぐに布団を敷いて横になった。その途端、背中からジーンとした気怠さを感じ、すぐに眠りにつく裕香の寝息を聞きながら、改めてあの頃の記憶を辿っていた。


翔太くんの行方も、現代へ帰る方法も分からないまま。不安な日々を送っていた私の心を癒してくれたのは、沖田さんの優しい笑顔だった。


お座敷でしか会うことが叶わなかった時、私はいつも、沖田さんが来てくれるのをずっと待つことしか出来なくて。会えない日が続くと、何かあったのではないかと不安になったりもした。


それでも、さっきのように会うことが出来た夜は、とても嬉しくて…



『貴女に会えるのなら、毎晩のように通ってもいい。そう、思えました』



ふと、思い出してしまう先程の言葉。

あの頃もそうだったけれど、沖田さんはさりげなく想いを伝えてくれる時がある。


そんな沖田さんのことをよく知らなかった私は、ただ緊張するだけだったけれど、現在は違う。沖田さんの全てを知り尽くしている今、どのように付き合って行けば良いのか分かる。



『万が一の時は、はっきりと言わせて貰うから。この温もりは僕だけのものだと…』



私の好きな人は総司くんなのだと思いながらも、複雑な想いは解消できないまま。ふと、溜息を漏らしたその時、隣で眠っていた裕香の少し抑えたような声を聞いた。


そのほとんどが何を言っているのか分からないけれど、寝言だと思った次の瞬間、危機迫ったようにはっきりと翔太くんの名を呟いた。


(裕香……)


怖い夢でも見ているのだろうか、眉間に皺を寄せ少し苦しげに見える。


(起こしたほうがいいかな…?)


そう思った。刹那、突然上体を起こし、目を大きく見開いてすぐに誰かを探すかのように周りをきょろきょろと見回す裕香に声を掛けた。


「ちょ、裕香…」

「翔太はっ!?」

「え…」

「あ、あれ…?」

「大丈夫?!」


今度は、裕香の腕を支えるようにして言うと、彼女は私を見つめながら悲愴な面持ちで大きく息をついた。


「…すっごいリアルな夢を見ちゃった」

「どんな?」

「さっきまで隣にいた翔太が、急にいなくなっちゃって…で、どこを探しても見つけられなくて…」


膝を抱えながら、少し肩を震わせる裕香の手をしっかりと握りしめる。


「会いたい。翔太に、会いたい…」


次いで、膝に顔を埋めるようにして微かな息を零す裕香の、か細い肩を両手で抱き寄せた。翔太くんの代わりに…


「不安だよね…」

「不安なんてもんじゃない。いつも傍にいて欲しいし……ほんとは、家にも帰りたい…」


こんなに弱い裕香を見るのは初めてだった。明るくてしっかり者というイメージが強かったから、余計にそう思える。


初めてタイムスリップして間もない頃と同様、これまで生きてゆく為に必死だったし、どこか非常事態だと割り切っていたからか、頭の隅に追いやっていた不安が一気に溢れ出るのを感じながら、私は裕香の悲しみを受け止めていた。


あの頃の、弱い自分を思い出しながら…


 ・

 ・

 ・

 ・


数日後。


共にお休みを貰えた私達は、京の町を散策していた。裕香の、美味しい物が食べたいという一言が発端で、最終目的地を茶屋と定めながらも、まずは満開に咲き乱れているであろう桜並木を訪れた。





「わぁー、すごぉぉい!」


裕香の感嘆の声に、私と総司くんは顔を見合わせ微笑み合う。懐かしいという言葉が適切だろうか、再び訪れたここの桜並木は想像以上の満開期を迎えており。


当時、秋斉さんに連れられて呉服屋へ向かう途中、初めてこの場所を訪れた時もこんなふうに綺麗に咲いていたことを思い出し、懐かしさでいっぱいになっていた。その時、不意に袖を引かれた。


「ねぇ、あの人って確か…」

「え?」


裕香の視線の先、桜の木を見上げながらこちらへやって来る桝屋さんの姿を見とめた。


「あれは、桝屋さん…」


言いながら、隣にいる総司くんのぎこちない笑顔に苦笑し、再び桝屋さんに視線を向ける。


(気付いた…)


「こっち来るよ…」

「うん…」


裕香の少し顰めたような声に答え、いつものように柔和な笑みを浮かべながらこちらへ歩み寄って来た桝屋さんと挨拶を交わし合う。


「こんにちは…」

「こないなところで、あんさんらに会えるとは…」


桝屋さんは、私と裕香を交互に見やりながらそう言い、次いで総司くんを見つめながら少し訝しげに眉を顰めた。


「こちらは、何方はんどす?」

「あ、あの…」


戸惑う私の隣で総司くんが例の名を告げ、藍屋の用心棒を務めていることなどを話して聞かせる。


「以後、お見知りおきを…」

「なるほど、そうどしたか」


総司くんの言葉に一つ頷き、桝屋さんはゆっくりと瞬きをして瞳を細めた。


(桝屋さんの視線が気になる…)


短くも長い沈黙。

何となく、その気まずい雰囲気に耐えかねて私は、なんとかその場を取り繕おうと話を切り出した。


「桝屋さんの方こそ、どうしてここに?」

「ほんのちびっとばかし、癒されに来ました。桜の花に…」


そんな桝屋さんの言葉に、きょとんとする裕香を横目に私と総司くんはまた顔を見わせ合う。桝屋さんの素性を知っているからこそ、どんな言葉を返せば良いのか考えてしまう…


それでも、私は思ったままに言葉を投げかけた。


「…あまり無理をしないで、また何かあったら足を運んで下さいね。その、なんのお役にも立てませんが…」


一瞬、私を見つめる桝屋さんの瞳が大きく揺れた。次いで、泣き笑いのような表情を浮かべながら頷いてくれたのだった。




その後、桝屋さんと別れた私達は、お目当ての茶屋へとやって来ていた。ここは、私が初めて入った茶屋で、お茶とお団子のセットがお勧めだったりする。


「こう見るとさ、時代劇のセットって割と忠実に描かれてるんだね。ここも時代劇のセットみたいだもん…」

「ふふ、そうだね」


周りを見渡しながら呟く裕香に笑顔を返し、隣にいる総司くんの嬉しそうな横顔を目にしてふと、あの頃の沖田さんを思い出す。


いつだったか、非番中の沖田さんとばったり会って、このお店へと誘われて…



『ここのお団子は、絶品なんですよ』



楽しげに微笑いながら言う、沖田さんの笑顔に見惚れていた。その時と同じ笑顔のまま、総司くんは裕香と同じように店内を見渡す。


「懐かしいなぁ。ここのお団子、よく食べに来たっけ…」

「一緒に来たこともあったよね」

「ああ、偶然の出会いに感謝していた…」

「…っ…」


ふと、見つめ合い、すぐに視線を逸らし合った途端、裕香のわざとらしい咳払いを聞いた。


「はいはい、またもや御馳走さまッ。つーか、そういう会話は二人だけの時にどーぞ」


少し呆気に取られたような表情で言う裕香に、私達はまた顔を見合わせ苦笑を漏らす。それでも、そんな楽しい機会は二度とやって来なくて、総司くんの言う通り、偶然の出会いが無ければ得られなかった貴重な時間だった。



やがて、やって来たお団子を頬張り、私達はほぼ同時に感嘆の息を漏らした。


「何これ、めっちゃ美味しいんだけど」

「でしょう?」


裕香の言葉に頷いて、同じように頬を綻ばしながらお団子を頬張っている総司くんの嬉しそうな顔を見つめる。その子供のような食べ方に、やっぱり笑みを堪えきれずにいた。


その時、玄関の方から聞き慣れた声を耳にしてそちらに目を向けると、玄関付近に設置された長椅子に腰掛ける翔太くんと龍馬さんの姿を見つける。


「あ!」


思わず目を見開いて驚愕の声を漏らす私に、いち早く気付いた総司くんと、何事かを尋ねて来る裕香を見やりながらも、私は立ち上がり彼らに聞こえるように声を掛けた。


「翔太くん!」

「えッ…」


私の声に驚愕しながら後ろを振り返る裕香を横目に、こちらに気付き、急いで駆け寄って来る翔太くんに小さく手を振った。


「さっき、お前ら宛に手紙を出したところだったんだけど…あ、ちょっと待ってて…」


翔太くんは、龍馬さんの元へ歩み寄り何かを告げて再びこちらへ戻って来ると、裕香の隣に腰掛け言った。


「この後、京を出立することになったんだ」

「そう、なんだ…」


翔太くんの言葉を受け、裕香が寂しげな表情で呟いた。そんな裕香に、翔太くんは逆にふくれっ面を返す。


「だから、置屋を訪ねたんだけど、出かけて留守だって言われてさ」

「え、来てくれたの…?」

「ああ、ここで会えて良かったよ」


二人の会話を聞きながら、総司くんと微笑み合い。どんどん裕香の頬が赤くなってゆくのを見て、また入れ違いにならずに済んで良かったと、改めてここで会えたことに感謝した。



それから、翔太くんは今後の予定を簡潔に話してくれた。もう一人同伴するという土佐藩士を待ってから京を発ち、二週間ほどかけて辿り着いた江戸で用事を済ませた後、再び京へ戻りすぐに大阪へ向かうことになるだろう、と。


「思い出す限りだけど、ここまではあの頃と同じ展開を迎えている」

「そうか…」


総司くんは翔太くんの話に頷くと、今度はこちらに起こった出来事について話し始めた。あれから、それぞれが自分の役割を熟せるようになったことや、新撰組との出会いがあったことを。


すると、翔太くんは苦笑を浮かべながら言った。


「…複雑だな。そっちも」

「でも、こればかりは避けて通れないからね」


そんな翔太くんに、総司くんも苦笑いを返す。次いで、何かを言いたげだった裕香が、少し躊躇いがちに口を開いた。


「じゃあ、京都へ戻って来るのは…」

「何事もなければ、たぶん…」


翔太くんは少し考えあぐねた後、一ヶ月後には戻って来られる筈だと返答し。次いで、少し悪戯っぽい笑みを浮かべながら、不安そうに俯く裕香の顔を覗き込むようにして言った。


「心配してくれてるのか?」

「ぜ、全然ッ。そんなのしてるわけないじゃん…」


そう返す裕香の頬は薄らと赤くて、そんな裕香に翔太くんはどこか満足げな笑みを浮かべている。きっと、翔太くんも、彼女の言いたいことが分かっているのだろう。


恥ずかしそうにでも、どこか嬉しそうに俯いている裕香を可愛いと思っていた。その時、龍馬さんの翔太くんを呼ぶ声にそれぞれが視線を向けた。


「団子が来たが、どないするがじゃ?」

「あ、今行きます!」


そう言って、龍馬さんの元へ戻ろうとする翔太くんの袖に裕香の手が伸び、


「翔太…」

「ん?」


袖を掴まれていることに気付いた翔太くんは、裕香を見おろしながら不思議そうに小首を傾げた。そして、自分も挨拶すると、言って立ち上がる裕香に微笑むと、裕香を優しく誘うようにして龍馬さんのいる方へと歩いてゆく。


と、次の瞬間、差し出された手の平に一瞬、ハッとするもすぐに柔和な瞳と目が合い…


「僕達も行こう」

「…うん」


その手を取って、裕香と同じように誘われながら翔太くん達を追い掛けた。


「おまんはいつぞやの。裕香、ゆうたか?」

「はい」

「元気そうで何よりじゃ」

「龍馬さんも…」


龍馬さんは、はにかんだままの裕香や私達に、「わしらがついちゅう。やき(だから)、翔太のことは心配せんでえい」と、あの頃とまったく変わらぬ明るい笑顔で言ってくれる。


そんな他愛もない会話がやっぱり懐かしくて、私は、大きく頷くと同時に龍馬さんの優しい笑顔を目に焼き付けていた。




その後、先に店を出た翔太くん達を見送り、私達も置屋へ戻ろうと来た道を戻り始めて間もなく。不意に立ち止まり、少し訝しげな眼差しで周囲を気にし始める総司くんに声を掛けた。


「…どうかした?」

「いや、何でもない」


いつものように微笑みながらそう言って、私と裕香の前を歩き始める総司くんの背中を追い掛ける。追い掛けながらも、総司くんが視線を送っていた方に今一度、目を向けてみた。


(…誰もいない、よね。)


「何やってんの?置いてくぞー」

「あ、ごめん」


何となく気になりつつも、私を呼ぶ裕香の声を受け、こちらを振り向いたままの二人の元へ駆け寄って行った。


 ・

 ・

 ・

 ・


「やはりあの男、只者では無さそうだ」

「そのようですね」


狭い路地裏に身を隠したまま、沖田は原田の呟きに静かに頷いた。捕物後、屯所へ戻る途中だった十番隊と出くわした沖田は、原田と共に彼らを見とめていた。


「確か、“おのだそうじろう”とか、名乗っていたか?」

「ええ」

「それにしても、見れば見るほど似ているよな。お前に…」


そう言って踵を返し、足早に歩き出す原田を追い掛けながら、沖田は先ほどまでの光景を思い返していた。自分にそうしてくれていたように、おのだと名乗った男にも楽しげに寄り添っていた、彼女の可憐な笑顔を。


(…もしや、あの方の…)


今回ばかりは、自分の勘が外れてくれれば良い。沖田は、苦笑を漏らすと冷やかに瞳を細めた。




【第23話へ続く】




~あとがき~


お粗末さまでしたあせる


今回は、裕香と主人公の想いを中心に描いてみました。そして、本編とは違って、沖田さんの方が主人公ちゃんと総司くんの間柄に頭を悩ませる、という展開に。


翔太くんと、裕香の恋の行方も書いてて楽しいですし。沖田さんが総司くんに嫉妬…なんつーのも良いかな?なんて…


しかし、俊太郎さま花エンド後と、時代や設定は違えど…なんとなーく、混ざってしまいそうで怖いw



でもって、風邪やら、インフルやら、ノロやらが流行っています!


予防だけはしっかりしたいですねあせる