場って何?〜『いきいき物理マンガで冒険』第7話「歪んだ世界」裏話2 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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さり「また、来ちゃいました〜」

れん「とっぴさんたちはお二人から場の話を聞いたんですよね。うらやましいわ」

とっぴ「えへへへ」

ミオ「場の理論のことは、まだまだ話し足りないことがある。もうちょっと、やってみる?」

ひろじ「そうだなあ。場の理論って、よく考えてみると、高校の物理にも登場する古典理論なんだけど、その重要な部分って、強調されていないし。いい機会かもしれないね」

しもん「それはうれしいです」

かのん「そもそもさ、場って、何なの?」

 

 

ミオ「これが、とっぴたちがいった<場の世界>。といっても、場の世界をとっぴたちが理解しやすいようにしたものだけどね」

あかね「わあ、なつかしいわ」

ろだん「空間が目に見えない歪みを持っているって、すげえよな」

ミオ「ファラデーさんの感覚がすごかったんだ。マクスウェルさんは、ファラデーさんが数学を知らなかったからこそ、場の理論を生み出したといっている」

かのん「うーん・・・なんだか、わからないけど」

 

 

ひろじ「これはファラデーの研究日誌に描いてある絵。磁石の周りに鉄粉をおいたときの絵だけど、ファラデーはこれを線で結んで、磁力線というイメージを得た。下の絵がそれだよ」

 

 

さり「うわあ、これ、ファラデーさんの直筆なんですか?」

ひろじ「そうだ。出版されているファラデーの研究日誌は、文字は活字に変えてあるけど、図版はそのまま載せているみたいだから」

さり「この絵を見てると、なんか磁石の間になんか生き物みたいなものがいっぱいいる感じがします」

ミオ「それそれ。ファラデーさん以外の研究者なら、数学を使って磁力をどう表現するかに集中するだろうけど、ファラデーさんは数学とか全然できない人だったからね。実験結果はこうやって図に描いて記録していた。もちろん、測れるものは測って、数値を記録しているけど、ファラデーさんの研究記録にいわゆる数式は一つもないよ」

とっぴ「数式がないのって、ぼく、うれしいな」

ろだん「ファラデーさんは実験の人だから、やっぱり理論より測定結果じゃないのか」

ミオ「当時の科学者もそう思っていた。だから、ファラデーさんが次々に見つける大発見については色眼鏡無しで驚嘆し、尊敬を集めた。でも、ファラデーの<場の理論>だけは、<高等教育を受けていない人の戯言>っていう扱いだったんだ。ファラデーさんは理論家としても、当時の誰よりも優れていたんだけどね」

 

 

とっぴ「あー、これ、なつかしいな」

あかね「そうね。ファラデーさんの<場の理論>って、実験の積み重ねから直感的に感じたものだったのね。新しい理論って、数式がなくても生まれるんだなあって、学んだわ」

ミオ「でも、他の研究者にはそれは伝わらない。他の人たちはファラデーのようなやり方では電気の実験をしてないし、数学で現象を理解しようとするのが基本姿勢だったから。ファラデーの場の理論は生まれてから長い間、誰にも見向きされなかったのは、数式化されていなかったからだよ」

むんく「だから、マクスウェルさんの数学の力が必要だった・・・」

ミオ「その通り。ファラデーさんの磁力線を数式化する試みは、好奇心旺盛なトムソンさん、つまりケルヴィン卿が先にやっていたけど、あの人はすぐに飽きちゃう人だからね。トムソンさんの勧めでマクスウェルさんはファラデーの本を研究し、トムソンのやりかけていた磁力線の数式化を引き継いだんだ。しかも、トムソンさんより深く」

 

 

れん「天才肌のマクスウェルさんも、ファラデーさんに手紙を出す時はどきどきしてたのね」

ミオ「ファラデーさんから返事が来た時は大喜びしてたよ。もともと、ファラデーさんは例の心霊現象の論文で、学生時代のマクスウェルさんあこがれの人になっていたからね」(*1)

ひろじ「ファラデーさんも、大いに喜んだんじゃないかな」

ミオ「もちろん。彼の力線の考えは、誰からも相手にされなかったからね。マクスウェルさんとは年齢がまるっきり離れているけど、年齢やキャリアを超えた友情が芽生えた。マクスウェルさんに数式の意味を教えてほしいと頼むくらいね」

かのん「自分の孫くらいの人に、算数教えてって頼むおじいさんって感じ? それ、すごい勇気いるよね」

ミオ「でも、マクスウェルさんにとっても、ファラデーさんとの文通はすごい刺激になった。よく<マクスウェルの電磁方程式が電磁波を予言した>といわれるけど、ファラデーさんとの文通を見ると、物理的な直感で場の変化が伝わるのに時間がかかるはずだというファラデーの考えを聞いて、マクスウェルがかなり初期の段階から電磁波の存在を信じていたことがわかる。独自の発想で、空間を満たすエーテルに渦がいっぱいできて、その渦で電磁波が伝わるモデルも考えているんだ。これは失敗するけどね」

 

(*1)マクスウェルと光3~テーブルターニング

 

 

さり「まだわからないんですけど、場の波って、どういうことなんです?」

とっぴ「えっとね、それはね、場がほら、こんにゃくみたいにプルプル震えるってことでさ・・・」

あかね「あっ、ちょっと、とっぴ、それはわたしが説明するから。ほら、このシーンを見て」

かのん「あかねさん、こんなふうに暴れることもあるのね〜」

れん「場がゴムみたいに震えるシーンですよね?」

あかね「そうよ。このシーンは、ファラデーさんの描いた力線が、ただの矢印じゃなくて、それ自身が伸び縮みするゴムみたいな性質を持っているってことを示してるの」

さり「あっ、そうすると、物体と物体の間にある空間、つまり、隙間が、ただの隙間じゃないってことですか」

あかね「そう! 空間の揺れこそが、電磁波だって話よ」

しもん「ええと、波が揺れて伝わるっていうことは、揺れのエネルギーも伝わるってことですよね。ということは、空間は力を伝えるだけじゃなくて、エネルギーを貯めることもできるってことですか」

むんく「そうなる。電場や磁場はエネルギーを貯める。高校でも、空間のエネルギーを扱うから、今ではわりと基本的な考え方になっている」

とっぴ「あれ? そうだっけ?」

あかね「コンデンサーのエネルギーって、まさにそれじゃない。あれって、極板の間の空間に貯められた場のエネルギーでしょ?」

ミオ「その通り。コンデンサーのエネルギーもコイルのエネルギーも、場のエネルギーだよ。じつは、重力の位置エネルギーも、重力場のエネルギーだ」

ろだん「しもん、すごいな、おまえ。空間がエネルギーを貯めることに、よく気がついたな」

しもん「あー、ちょっと思っただけです。たくさんメモっているうちに、ふと」

 

 

かのん「ねえねえ、電磁波の話って、どうなったの? ファラデーさんの場の理論とマクスウェルさんの電磁方程式で、空間が波打つってわかったとして、そんなこと、どうやって調べたわけ?」

ろだん「ああ、それなら、こっちのシーンを見ろよ。ヘルツって人がマクスウェルの電磁波を検出したときの再現実験だ」

あかね「発生した火花による電磁場の変動が、遠くの場所に届いていて、そこでまた火花を散らすっていう実験ね。この図だけだと、場が本当にあるかどうかわからないって、ろだんが指摘したよね」

れん「どういうことですか?」

ろだん「場の理論っていうのは、場というものが本当に実在して、ゴムやプリンみたいに力を加えるとプルプル揺れるっていうものだ。この実験で遠くの場所に火花が飛んだからといって、途中の空間がぷるぷる揺れているってことはわかんないと思ったのさ」

れん「あっ、そうか!」

さり「それじゃ、どうやってそれを調べたんです? すごく興味あります!」

ろだん「詳しいことは、本編を読んでくれ。ざっくりいうと、本当に場があって波があるなら、波の性質を示す現象が見つかるはずだ。定常波や干渉っていう現象は、波の特徴だからな。ヘルツはそれをこの装置でやったんだよ」

さり「わあ、すごいです!」

とっぴ「えへん。ぼくたち、すごいでしょ?」

 

さり「場の理論って、なんだかすごい発明だって、思えてきましたです」

ミオ「まさにその通り。ファラデーさんとマクスウェルさんが、物理学の対象を劇的に拡げたんだ。それまでは物理学の対象は物体だけだった。でも、二人の場の理論により、物理学の対象に空間が加わった。これによって、物理学は本当に宇宙全部を扱える学問になったんだ」

とっぴ「そっか、物体だけだと、宇宙全部とはいえないもんね」

かのん「なんにもない空間を扱うって、わたしはなんか、ピンとこないなあ。水の波だって水があって伝わるんだし、音だって、空気があって伝わるんでしょ? 電磁波は、何を伝わっているの?」

ミオ「マクスウェルさんは、宇宙空間を光が伝わってくることから、宇宙をなんらかの媒質が満たしていると考えた。それをギリシャ時代に天の物質として考えらていた<エーテル>として、電磁波の媒質はエーテルだと信じた。19世紀の他の物理学者もそう考え、電磁波が発見されると、今度は電磁波の媒質探しが始まったんだ」

あかね「たしか、エーテルって、見つからなかったんじゃなかったかしら?」

ミオ「うん。それがまさに、19世紀までの古典物理学と20世紀からの現代物理学を分けるエポックだった。天才マクスウェルさんも、その点では古典物理学の世界の人だったんだよ。最後までエーテルの存在を疑わなかったからね。エーテルが存在しないってわかったのは、マクスウェルさんが死んでから30年近く後のことだから」

 

しもん「<場の理論>って、すごく不思議な、新しい物理学に見えるんだけど、最初にひろじさんが<古典理論>っていってましたよね? 今のミオくんも、マクスウェルさんが古典物理学の世界の人だっていうし。<場の理論>は、もう、古い理論なんですか?」

ひろじ「一般にはあまり知られていないのが<場の理論>で、その空間を扱うっていう考え方自体は、すごく目新しく思えるけどね。古典物理学は19世紀のマクスウェルの電磁方程式まで、現代物理学は20世紀の相対性理論と量子力学から、というのが物理学の常識だよ」

とっぴ「ええ〜っ! 場の理論って、古い理論だったの?」

ミオ「現代物理学では、場を量子化して粒子として考えたりする。もちろん、場の理論が消えちゃったわけじゃないけどね」

とっぴ「場が粒子?」

ミオ「うん。電磁場を粒子として捉えたものが光子、つまり光の粒子、つまり電磁波の粒子。原子核内で陽子と中性子をつなぐ核力の場も、中間子という粒子で考える。ファラデーとマクスウェルが空間を物理的存在と考えたのが、古典物理学の最終段階だった。でも、ファラデー自身はマクスウェルのようにエーテルを信じていたかどうかはわからない。彼にとっては、空間を埋める磁力線や力線ことが物理的な実体だったから。そういう意味では、ファラデーの方が現在の場の理論、つまり、エーテルじゃなく、空間自体の電磁気的な揺れが電磁波であるという考えの元祖だろうね」

とっぴ「へえ、マクスウェルさんよりファラデーさんの考え方の方が先に行ってたわけ?」

ミオ「マクスウェルさんも電磁方程式のせいで、数学に偏った天才みたいにいわれるけど、ぜんぜんそうじゃない。物理的な直感を数式に表すという方法論で研究していた人だ。だから、電磁方程式も、思いつくままたくさん作った。当時の物理学の常識では波を伝える媒質は不可欠だったから、マクスウェルがエーテルを考えたのは、無理もないんだ。ただ、ファラデーはそういう科学界の常識にはとらわれず、自分の実験で得た発想を大切にしていたから、媒質を考えなくても、自分の描いた力線がなにかの性質をもっていると、ばくぜんと考えていたんだろうね」

あかね「場の理論って、電磁場や重力場だけじゃなく、いろんな力の場があるんでしょ?」

ひろじ「うん、重力場の揺れは重力波として光速で伝わるはずだと考えられていて、世界中の研究者が探している。でも、すごく弱いエネルギー波だから、かんたんには見つからないんだ」

さり「じゃあ、重力の粒子もありますか?」

ミオ「あるよ。まだ見つかってないけどね、ふふふ」

とっぴ「あっ、ミオくん、知ってるね?」

ミオ「今はまだ、ナイショ。未来の知識はきみたちには教えられないから」

とっぴ「ケチ!」

 

 

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