マクスウェルの業績〜『いきいき物理マンガで冒険』第7話「歪んだ世界」裏話 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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さり「ファラデーさんの話、面白かったで〜す! 今度はファラデーさんを助けたマクスウェルさんの話も聞きたいですです!」

とっぴ「あー、あの変な人ね」

ろだん「そうそう、あの変人な」

むんく「違う、天才」

あかね「わたしも、ちょっと変な人ってイメージかなあ。でも、すごい人なんでしょう?」

ミオ「じゃあ、またマクスウェルさんのやったことを紹介しようか」

 

 

かのん「あー、この人がマクスウェルさん? 25歳で教授って、すごいわね」

ミオ「マクスウェルの業績の中でも一番はこれかな。ファラデーの磁力線・電気力線を数式化することで、新しい電磁気の場の理論を完成させ、電磁波の存在を予言した」

むんく「まさに、そう。マクスウェルの電磁方程式は、相対性理論が出た後も変わらなかった。ニュートンの運動法則は変えなくてはいけなかったのに。完璧な数式」

れん「どういう人なんですか。ファラデーさんの描いた矢印の絵を数式にしたんですよね」

しもん「なんか、想像がつきませんね」

ミオ「じゃあ、マクスウェルさんのやったことを、ざっくりと振り返ってみようか」

 

 

【マクスウェル James Clerk Maxwell 1831〜1879、スコットランド】

・エジンバラの名家の息子。小さい頃から数学的な才能を発揮。子供の間では「まぬけ」と呼ばれる。15際の時、卵型を描く方法について研究し、(子供は発表できないので)他の研究者に代理発表してもらった。「鉛筆といくつかの画鋲と紐を用いて描ける曲線」(楕円以外の曲線も楕円のやり方を複雑にすることで描けることを説明)

・1847年、エジンバラ大学に入学。

・1850年、ケンブリッジ大学に移る。ウィリアム・トムソン(のちのケルヴィン卿)と親交。後、トムソンに電気に関する本としてファラデーの『電気の実験的研究』を勧められる。

 寮で真夜中のジョギング日課を行い、奇人変人扱いされる。(午前2時〜2時半、2階の廊下を走り抜けて階段を降り、1階の廊下を走り抜けて階段を上がる。学生たちが目を覚まし、ブーツやヘアブラシを投げつけた)

 猫の宙返りに興味を持ち、2階から猫を投げ捨てているという噂が立つ。婚約者に弁明の手紙を送る。

 大学内でエリートクラブ<12使徒>に加入。

・1853年、ファラデーがタイムズと『科学アカデミー/アーセナル』誌に降霊会が欺瞞であることを暴く記事を発表。マクスウェルはそれを読んで感激する。

・1856年、マーシャル大学の物理学教授になる。

・1857年2月、ファラデーに論文「ファラデーの力線に関する考察」を送る。ファラデーは若い物理学者マクスウェルに尊敬と信頼を寄せ、親交が始まる。

・1860年、光の三原色を発見。論文を発表。土星の輪を粒子の集まりと見抜く。気体の分子運動論理論を成功。(ボルツマンとは独立の研究。のち、マクスウェルーボルツマン理論と呼ばれる)

・1964〜74年に研究し、理論を完成。電磁気の場の理論。電磁波の存在を予言。

・1871年、ケンブリッジ大学の実験物理学教授となり、キャベンディッシュ研究所を設立。

・マクスウェルは電磁波の実質的な媒質として、エーテルの存在を信じていた。エーテルの存在が否定されたのは、1905年のアインシュタインの特殊相対性理論の第1論文によるので、マクスウェルは知らないまま亡くなった。

・現在知られている、マクスウェルの4つの電磁方程式は、20くらいあるマクスウェルオリジナルの方程式を、のち、オリバー・ヘヴィサイトが4つにまとめたもので、マクスウェルが作ったものではない。

 

 

さり「まぬけって、ひどいです〜」

ひろじ「天才って、周りからはそういうふうに思われることが多いみたいだよ。アインシュタインも大学のときに<のろまな犬>っていわれていたし。たぶん、天才的な人って、頭の中でいろいろ考えているから、通常の会話ではぽかんとしていることが多いんじゃないかな。そういうのに、興味ないから。だから、凡人から見ると、何をいっても反応のにぶい<おばかさん>にう見えるんじゃないかな」

あかね「16歳のときに大学入学って、すごいわね」

ひろじ「うーんと、当時の事情もあるんだろうけど。兄貴分に当たるウィリアム・トムソンなんか、数学者の父を持ち、11歳でグラスゴー大学に入学してるからね。十代のときに発表した論文はやっぱり他の人が代理発表している」

 

れん「あの、ファラデーさんと霊のことでお話した時、わたしたちを案内してくれたAIがマーくんだったでしょ。あのマーくんって、マクスウェルさんのAIなの?」(*1)

ミオ「そだよ」

れん「やっぱり! なんだか、ファラデーさんのことをすごく尊敬してたから」

ろだん「待てよ。たしか、そのへんの話、前にやったことがあるような」(*2)

とっぴ「あのさあ、むかし、みんなで猫の宙返りのこと調べたときにも、マクスウェルさんが登場したよね」(*3)

ひろじ「うん。猫の宙返りを物理学的に考察した記事だね」

ろだん「色の理論も、マクスウェルさんだったよな。これも、前にやった。三原色がRGBというの、発見したのマクスウェルさんだった。どの色が基本かって、いろんな科学者がああでもないこうでもないって調べて、それでも決着がつかなくてさ。それを、他の人が思いつかない、簡単な実験で見つけ出したって、すごいよな」(*4)

かのん「そうなの? 色の三原色って、コンピューターとかスマホの画面を作っているRGBのことでしょ? 見つけるのそんなに難しかったの?」

ミオ「まあ、そっちの記事を読んでみて」

れん「ボルツマンと気体分子運動論って、もしかして、<でたらめの国>に出てきた<マクスウェルの悪魔>って、このマクスウェルさんが考えたの?」

ミオ「もち、そうだよ。エントロピーの法則のアンチテーゼ。ボルツマンさんとマクスウェルさんは、別々に同じ研究をしたんだ」

あかね「電磁気の理論は、マクスウェルさんの最大の功績ね」

ミオ「ああ。ファラデーの力線を数式で表すのは、他の科学者ではトムソンがちょっとやったっきり。他の科学者は不可能だと考えていたし、そもそも場の理論を、数学のできないファラデーのお遊びくらいにしか考えていなかったからね」

むんく「マクスウェルさんの偉大さはそこにある。でも、4つにまとめたのは別の人?」

ミオ「マクスウェルさんは天才だから、思いついたままに数式を書き散らかした。だから、それぞれの数式の間の厳密な関係には関心をもたなかった。それを研究して、すっきりした4つの方程式にまとめなおしたのが、ヘヴィサイトさんだよ」

とっぴ「なんか、不思議だなあ。エーテルって、古い考えなんでしょ? それを信じていたマクスウェルさんが作った方程式が、アインシュタインの新しい物理学と矛盾しないなんてさ」

ミオ「まあ、そこが天才だからね。マクスウェルは物理的な直感でどんどん数式を生み出していったんだ。決して数学的な計算で見つけたわけじゃない。相対性理論以前の物理学は相対性理論の枠組みから外れているから、ニュートンの運動方程式も、相対性理論に当てはめる時は、本質的な変更をしなくちゃいけなかった。でも、マクスウェルの電磁方程式は新しい相対性理論のローレンツ変換が使えるくらい、本質的だったんだ。マクスウェルやファラデーの物理的な直感がすぐれていた証拠だと思うよ」

むんく「ぼくもそう思う・・・」

とっぴ「じゃあ、ぼくも直感で新しい理論作ったら、マクスウェルさんみたいに有名になれるかな」

あかね「無理無理無理ーッ!」

とっぴ「・・・ぼくの直感も、なかなかのものだと、思うんだけど・・・」

 

(*1)KIndle版の電子本『さりと12のひみつ』(日本評論社ebooks)「霊のひみつ」を御覧ください。

(*2)マクスウェルと光3~テーブルターニングを御覧ください。

(*3)マクスウェルと光2~猫の回転を御覧ください。

(*4)マクスウェルと光1~3原色の実験

 

 

【主な参考文献】

『科学技術人名辞典』アシモフ著、皆川義雄訳(共立出版)

『物理学を変えた二人の男ーファラデー、マクスウェル、場の発見』ナンシー・フォーブス、ベイジル・メイボン著、米沢富美子、米沢恵美訳(岩波書店)

『ファラデーの生涯』スーチン著、小出昭一郎、田村保子訳(東京図書)

『マクスウェルの生涯』カルツェフ著、早川三男、金田一真澄訳(東京図書)

『幽霊を捕まえようとした科学者たち』デボラ・プラム著、鈴木恵訳(文春文庫)

『ものの見方考え方』第2集手品・トリック・超能力、ものの見方研究会編(季節社)

 

 

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