とっぴ「なんか、アメブロのアクセス数がすごく多かったみたいだね」
ひろじ「うん。昨日今日とどういうわけか突然多くなった。アメブロがサーバーを移行するというんで、メンテナンスがなかなか終わらなくて、アクセス解析もできないし、記事も書けない状態だった。さっき(22日夜遅く)開いてみたら、ようやく正常にもどっていたんだけど、よく見たらアクセス数が最近になく多くて。まあ、それはともかく、だからって、とっぴの機嫌がいいわけじゃないだろ?」
とっぴ「あたりまえじゃん。今日はね、ひさしぶりに『いきいき物理マンガで冒険』のときの話をしにきたんだよ。それで、うきうきしてんの!」
ひろじ「えっ、『冒険』?」(*)
あかね「『冒険』の裏話シリーズ、ボルツマンさんのところまでで、止まってるでしょ? みんなで話していて、あれ以来、更新されていないことに気がついたの」
ひろじ「そうか、そういえば、そうだねえ。じゃあ、ミオくんに来てもらって、ファラデーさんの裏話をやろうか」
とっぴ「さすが! 早いね!」
ミオ「ここが、ファラデーさんが仕事をしていた、イギリスの王立協会」
さり「うわあ、りっぱな建物ですです!」
ミオ「19世紀だから、建物はもう立派だよ。自動車はまだフォードさんが作っている最中だから、イギリスでもアメリカでも、馬車が基本的な乗り物だ。馬糞公害が問題になっていた頃だよ。ちょうど、シャーロック・ホームズに出てくる時代だね」
あかね「そうか、今は排気ガスでの公害だけど、馬車の時代にも公害があったのね」
ミオ「ロンドンの空気は今より悪かった。産業革命の工場の出す煤塵で、スモッグがよく発生していたからね。<霧のロンドン>って、じつは<スモッグのロンドン>なんだ」
ろだん「待てよ。ここって、たしかファラデーさんの話の最後の方でおとづれたんじゃなかったっけ」
ミオ「よく覚えているね。その通り。じゃあ、あのときの順に訪れようか」
ひろじ「うん、それがいいだろうね」
あかね「わあ、なつかしい! あれ、少年時代のファラデーさんだよね」
さり「わあ、かわいいです!」
ミオ「この頃のファラデーさんは家が貧しくて、製本屋さんで働きながら、そこの本を読んで勉強していた。製本の技術を覚えるのが早くて、その製本屋さんではかなり期待されていたみたいだね」
ひろじ「じつはファラデーが講演を聞きに行ったデイビーは、当時一番人気のあった科学者の一人なんだけど、デイビーもそれほど裕福でない家に生まれて、科学者になった人なんだ」
とっぴ「えー、そうなの?」
ひろじ「だから、ファラデーがデイビーの講演録のノートを製本してデイビーに見せて弟子入りしようとしたとき、デイビーは科学では食べていくのが大変だからやめておけ、みたいな忠告をしているし、最初は弟子入りを断っているんだ」
ろだん「デイビーさんも、苦労人なんだな」
ひろじ「たしか、その後、いくつかの偶然が重なって、デイビーがファラデーに手伝いに来てくれと連絡して、弟子入りすることになったはずだよ」
ミオ「うん。ひとつは、実験の失敗で一時的に目がよく見えなくなって、ノートが取れなくなった。それと、デイビーさんが雇っていた試験管洗い人が喧嘩してクビになっている。だから、デイビーさんはやむを得ず、一度は断ったファラデーに手紙を送り、手伝ってもらうことにしたんだ」
さり「奇跡みたいです!」
ひろじ「ファラデーはデイビーのところで研究を手伝った後、本格的に手伝うようになるまで、ずいぶん葛藤があっただろうね。製本の仕事は親方に見込まれていたけど、ファラデー自身の興味は強く科学の世界に惹かれていたから・・・」
ひろじ「ここがファラデーが努めていた製本屋さん。<製本屋リーボウ>の資料はどこにも残っていなかったから、しかたなく、当時の建物の中からそれっぽい雰囲気のものを選んで代用したよ」
ろだん「ここの二階で実験してたのか」
ミオ「実験といっても、装置は全部手作りだからね。ファラデーさんはそういう意味でもすごいよ」
むんく「この照明はガス燈?」
ミオ「もちろん。このちょっと後にエジソンが電球を発明するけどね。そもそも、エジソンよりさきにイギリスのスワンという発明家が白熱電球を発明しているけど。エジソンがそれを買い取って事業化し、フィラメントなどに改良を加えて長時間点灯するようにして、ようやく商売になった。それまでは、照明といえばガス燈だったんだよ」
ミオ「ファラデーさんは、電磁誘導の発見だけでなく、世界初の電動モーターの原理も発見している。でも、それ以上に重要なのが、理論物理に与えた影響だよ。ファラデーさんは、現代物理学につながる空間を扱う<場の理論>を発見しているんだ」
ミオ「そう、マクスウェルの理論はファラデーの場の理論を数式化したものだからね。そして、マクスウェルの理論によって電磁波が予言・発見され、現代文明を作った」
ろだん「そうだな。ファラデーさんが研究者にならなかったら、世界は今でも電気のない時代だったかもしれないぜ」
ミオ「誰かがやらなくても、他の誰かがやるのが、科学の世界だ。でも、ファラデーがいなかったら、電気文明は100年は遅れていただろうね。ファラデーがいてマクスウェルの理論が生まれたんだから」
ろだん「これこれ! なんだか、すごいところ見ちゃったよな〜」
さり「何なんですか?」
あかね「デイビーさんのところに弟子入りして、科学の世界に入ったファラデーさんが、正式に王立協会の会員に推薦されたのよ。でも・・・」
さり「でも?」
あかね「デイビーさんが大反対して、会員になれなくなりそうだったの」
さり「えーっ、デイビーさんって、ファラデーさんのお師匠さんなんでしょ?」
ろだん「そうなんだけど、ちょっといろいろあったみたいでさ。おれたちも詳しいことはあんまり知らないんだけど」
ひろじ「ざっくりいうと、デイビーがファラデーの才能に嫉妬したから、といわれている。でも、ことの発端はファラデーの勇み足だから、一方的にファラデーを避難するのもどうかなあ」
とっぴ「ええと・・・どういうことだっけ?」
ひろじ「ファラデーがモーターの実験に成功したことが発端だといわれている。もともと、そのモーターの基本的なアイディアは、デイビーのところに遊びに来た知人の研究者が話したもので、ファラデーもその話を聞いていたんだ。その話にインスピレーションをもらって、ファラデーが開発・成功させた直流モーター(ファラデーモーターと呼ばれる)について、デイビーが知人の研究を勝手に盗んだと激怒したんだ。ファラデーが断りなく自分の研究として発表したから、研究者の道義に反すると。それ以降、二人の関係は急速に悪化していったということだよ」
ひろじ「ファラデーを会員にという話も、ファラデーの友人たちが画策して始めたことなんだけど、デイビーはその話を聞いてなくて、さらに揉めた。しかも、そのとき、デイビーは王立協会の会長をしていた。つまり、トップが反対したんだ」
さり「じゃあ、だめだったんですか」
ひろじ「そこが民主的なところだろうな。デイビーは賛同者を得るために暗躍したけど、結局、ファラデーは選ばれた。反対票を投じたのはデイビーだけだったというよ」
あかね「さすが、ヨーロッパね。コネが効くアジアとは違うわ」
ひろじ「デイビーとファラデーの関係は、本当に複雑だよ。お互いを認め、尊敬する部分と、お互いをうとましく思う部分が、相反している。人間の関係って、不思議だよね。これほど激しかった二人の関係なのに、ファラデーは最後までデイビーへの感謝の気持ちを忘れなかったし、デイビーも自分が会長を退く時、ファラデーを王立協会の実験室長に推薦している」
とっぴ「なんかさあ、みんな、むつかしく考えすぎてるんじゃない? 相手が人間だからややこしくなるんで、自然現象を相手にしているときは、そういうの関係ないじゃん。だから、科学が好きなんじゃないの、デイビーさんもファラデーさんもみんなも?」
とっぴ「ほら、これこれ。ファラデーさんが製本した手製のデイビーさんの講演録。これ見たデイビーさんがどんなに感激したか、なんとなくわからない?」
あかね「そうねえ」
むんく「うん、うん」
ろだん「・・・だなあ」
さり「わたし、<場の理論>って、なんだか、すごく興味がわいてきました! 今日は、その話はないんですか?」
あかね「それは、次のマクスウェルさんの話の時になるかな。<場の理論>がテーマだから」
さり「うわあっ、それ、待ち遠しいです! 今度は、他のみんなも連れてきていいですか?」
とっぴ「いいんじゃない? ミオくん?」
ミオ「いいよ。・・・と、ぼくは今日はこのへんで。また、急ぎの仕事が入りそうだから、いったん帰るね」
さり「約束ですよ〜!」
(*)『いきいき物理マンガで冒険〜ミオくんとなんでも科学探究隊・理論編』アマゾンのページへのリンクが関連記事の下の方にありますので、ご利用ください。第一話が無料でお試し読みできます。
【主な参考文献】
『物理学を変えた二人の男ーファラデー、マクスウェル、場の発見』ナンシー・フォーブス、ベイジル・メイボン著、米沢富美子、米沢恵美訳(岩波書店)
『ファラデーの生涯』スーチン著、小出昭一郎、田村保子訳(東京図書)
『マクスウェルの生涯』カルツェフ著、早川三男、金田一真澄訳(東京図書)
(※)参考文献を追加しました。
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