マクスウェルと光その2〜猫の回転 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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猫の回転01
 

とっぴ「オヤァイ! また来たよ」
あかね「へんな挨拶やめてよ、とっぴ」
とっぴ「いいじゃん! あれ? ひろじさん、その猫は?」
ひろじ「うん、うちの猫のレオだよ。ちょっと、実験に協力してもらおうかなと」
ろだん「猫の実験?」

ひろじ「マクスウェルが【猫の回転】と呼んだ実験だよ。猫が空中で半回転して地面にたつ仕組みを熱心に研究した。大学生のときにファラデーの【テーブルターニングについて】という論文を雑誌で読んで感銘を受け、自分の猫の実験には、そのパロディで【猫の回転:キャットターニング】と名づけたんだって」
あかね「へえ、なんにでも興味を持つ人なのね。まるで、とっ・・・」
とっぴ「え? なになに?」
あかね「なんでもないわ」

ひろじ「マクスウェルは大学時代、毎日、真夜中の2時まで読書したあと、寄宿舎の廊下を全力疾走して階段を登ったり降りたりしたから、へんなやつだと思われてたんだろう。猫の実験を始めたら、【マクスウェルは猫が四足で着地できない方法を発見し、窓から猫を放り出している】という噂が立ったんだって」
あかね「ひどい!」
とっぴ「ただの噂だよ。そんなことするわけないじゃん」
ひろじ「うん、マクスウェルも後年、妻への手紙でとんだ誤解だと弁解しているね。たぶん、夫人が噂を聞いて嫌な顔をしたんだろう」

とっぴ「ぼく、テーブルターニングのことも気になるな。テーブルが回転するって、なんなの?」
ひろじ「当時、流行っていた降霊術の一種だよ。日本でもこれが船乗り経由で輸入されて、こっくりさんになった」
とっぴ「わ、それ、詳しく聞きたいな」
ろだん「それより、今日はこっちだ。せっかく猫もいるんだから【猫の回転】の方をやろうぜ。実験ができるだろ!」
あかね「わ、ろだん、やる気まんまんね。ひろじさん、猫のレオちゃん、借りていいですか?」
ひろじ「うちの猫は人見知りが激しいから、なついたら、ね。・・・お、ろだんくんにはなついてるな。抱かれても、嫌がらない」

ろだん「へへ。じゃ、ちょっと、実験させてくれよ、レオちゃん・・・ほらっ(手を離す)」
とっぴ「わ、すごい!」
あかね「あっという間に、体を回転させたわ」
むんく「・・・いまの、連続写真で取ってみた(一番上のイラストを参照)」
一同「おお~!」
ろだん「どうなってるんだ?」
あかね「向きが変わったんだから、何かが猫の体を回転させる向きに力を加えたのよ」
とっぴ「ん~、そんな風に見えなかったけどな」

むんく「作用反作用・・・」
あかね「そうよ、ろだん、猫から手を離すとき、猫の後ろ足で手を押されなかった? その反作用で猫の足を手が押して、それが猫の体の回転を生んだんじゃない?」
ろだん「よく、覚えてないな。もう一回やってみようか。ほら、レオ、こっちおいで」
レオ「ニャア」
ろだん「よしよし・・・じゃあ、今度は両手で背中を支えて、と。これで、手を引けば、足で手を蹴られることもない」

とっぴ「あかねの説が正しいなら、猫は背中からどすん、だね」
あかね「あ、ちょっとかわいそうな・・・ろだん、あまり高くから落とさないで」
ろだん「あんまり低いと、回転するヒマもないぜ・・・じゃ、このくらいで・・・えいっ」
あかね「あっ」
とっぴ「さっきと同じだ。半回転して、立った・・・」
むんく「あかねとぼくの予想・・・はずれ」
あかね「うーん・・・どうして? 間違ってないと思ったんだけど・・・」
ろだん「もう一回、やってみよう・・・同じだな」
とっぴ「あ・・・!」

あかね「もう、急に大声出さないでよ」
とっぴ「この写真・・・途中で、前足がのびてるよね」
ろだん「うん。そうだな」
あかね「それが、どうしたの」
とっぴ「前にね、回転椅子に座って、足を床から離した状態で、体を回せるかどうか試したことがあったんだ。ちょっと、やってみるよ」

ろだん「じゃ、この椅子に乗って・・・どうするんだ?」
あかね「床から足が浮いているんじゃ、床を蹴れないから、回転できないわよ」
とっぴ「うふふ、見てて・・・」
あかね「あっ!」
ろだん「回転した・・・」
とっぴ「へへん! どう!」
むんく「どうして回転する?」

とっぴ「あ・・・いや、その・・・わかんない」
あかね「なによ、それ」
ろだん「待て待て、おれもやってみる。とっぴ、椅子変わって。まず、手と足を縮めて上半身と下半身を逆方向にひねり・・・両手を前につきだす・・・」
 

猫の回転02
 

とっぴ「そう、そう」
ろだん「つぎに、上半身と下半身のひねりをもどすと・・・あっ!」

 

猫の回転03
 

あかね「下半身の方がたくさん回転するわ!」
ろだん「最後に両手を引っ込めてもとの上体にもどすと・・・体は止まるけど、向きが変わってる! たしかに回転してるぞ」

とっぴ「どう? どう?」
ろだん「すげえぜ、とっぴ!」
あかね「どうして、回転できるの?」
とっぴ「いや・・・あの、椅子に摩擦があって、その反作用で回転できるんだと思ってたんだけど・・・」
あかね「え? それじゃ、わたしと同じ考えじゃない!」
とっぴ「そうなるかな・・・」

むんく「・・・椅子の摩擦、そんなにあるかな」
ろだん「やってみれば、わかるさ。摩擦を0にすればいいんだろ」
とっぴ「ええーっ、そんなこと、できるの?」
ろだん「こうするんだ(飛び上がってから、空中で一連の動作をする)」
むんく「向き、変わった!」
とっぴ「やった! ろだん、すごい!」

あかね「でも、どうしてなんだろ」
とっぴ「ねえねえ、両手を縮めたときと、のばしたときで、体の回転しやすさが違うよ、ほら、やってみて」
ろだん「本当だ。まてよ、そうだ、フィギュアスケートで、スピンするとき、そうだったな。最初、手を伸ばして回転していて、手を縮めると回転が速くなる」
あかね「あ、そうか!」
とっぴ「ええと・・・だから・・・」

あかね「最初に体をひねったときは手も足も縮めているから、上半身と下半身はどちらも同じくらい回転しやすくて、同じ角度だけ逆向きに回転するわね」
むんく「うん、うん」
 

猫の回転02

 

あかね「でも、両手を伸ばしてからひねりをもどすと、上半身の方は回転しにくいから、あまり回転せず、回転しやすい下半身がたくさん回転する。両手と両足がそろったときにひねりがなくなって、最初の上体にもどるけど、体の向いている向きは、この図の青い矢印の分だけ、変わっていることになるわ」
 

猫の回転03

 

とっぴ「あーっ、そうか!」

あかね「むんくの取った写真を見ると、似たような動きをしているわよ。上半身と下半身を逆向きにひねって、すぐに両手を前に出し・・・そのあと、両手がすこし戻る間に、下半身は大きく回転して・・・体の向きが反転している!」
 

猫の回転01
 

ろだん「なるほど! その通りだな!」
とっぴ「ね、ね、みんなでぼくを持ち上げてみて。背中を下にしてさ。ぼくもレオみたいに、すっくと半回転して立てるかもよ!」
あかね「いいけど・・・知らないわよ」
ろだん「まあ、本人がやりたいんだから、やらしてやろうぜ。危険だから、高くはしないぞ」
むんく「・・・」
とっぴ「わくわく」
ろだん「ほら、1、2の、3!」
とっぴ「(どすん!)いてててて!」

むんく「やっぱり、背中から落ちた・・・」
とっぴ「え、どうして? やり方はあってるはずなのに」
あかね「猫と人間の反射神経の差じゃないの? ・・・とくに、とっぴは鈍いから・・・」
とっぴ「悔しいなあ・・・そういえば、猫って、高いところから落ちても平気だっていうけど、これは、どうなんだろう。いくら半回転して足が下になっても、高ければ衝突のショックも大きいだろうし、ケガしちゃうんじゃないのかなあ」

あかね「うーん・・・どうかしら。たしかに、それはそうね。レオで実験するのはかわいそうだから、とっぴ、もう一度、高いところからやってみて」
とっぴ「え・・・鬼!」
あかね「冗談よ」
とっぴ「・・・冗談に聞こえなかったよ」

あかね「ひろじさん、猫って、本当に高いところから落ちてもだいじょうぶなの?」
ひろじ「今回は出番がないかと思っていた。さすが科探隊だなあ。半回転の理屈は、ほとんどきみたちが議論した通りだよ。物理では角運動量の保存則と、慣性モーメントで考えることができる。この猫の回転では、最初から最後まで、猫の角運動量はずっと0のまま保たれていて、向きだけが変わるんだよ。・・・ところで、最後の質問だけど、猫だって、あまりに高いところから落ちるとケガをするよ。でも、物体が空気中を落下するときは、最終速度というのがあるだろ」
あかね「雨粒が落ちるときの運動ね。空気抵抗を受けて加速がにぶり、最後は重力と空気抵抗力が釣り合うところで最終速度になるっていう」

とっぴ「あかね、すらすらと出るね」
ひろじ「その通り。体が大きいと、表面積に比べて体積がより大きくなり、質量もそれに比例して大きくなる。数学的には、大きさが2倍になると、面積は4倍になるけど、体積は8倍になるからね。空気抵抗力は面積できまり、重力は質量すなわち体積で決まるから、体の大きなものほど、最終速度は速くなる」
とっぴ「そっか! 猫は人間より小さいから、最終速度は人間より小さくなる・・・」
ろだん「猫の方が同じ高さから落としてもケガしにくいんだ」

ひろじ「ふつうに猫を落とす高さでは、まだ最終速度には達していないけど、猫の方が人間より地面に達したときの速度が遅いことは想像できる。さらにいえば、猫は落ちるとき、全身の毛を逆立ててふくらみ、四肢の指を大きく広げて、水かきのような皮膚をのばして空気抵抗を増やす。自分の体をパラシュート化するわけだ」
ろだん「なるほど、そういえば、落下中の指先が開いているな」
あかね「あー、なんだか、すっきりした!」
とっぴ「ぼく、まだもやもやするよ。テーブルターニングって、なんだったのさ!」
ひろじ「レオが家に帰りたがっているから、それは、また次ね。バイバーイ」
 
 
※この実験の詳細は『いきいき物理マンガで実験』に掲載しました。ぜひご覧ください『いきいき物理マンガで冒険』もよろしく。本については下方のリンクをご利用ください。
 
 
 

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