ミオ「今回は、ここ。紀元前3世紀。古代ギリシャ。獣の数字666の謎を探ろう」
れん「わたしも、聞いたことある。名前を数字にする魔術みたいなものでしょう?」
ミオ「そうだよ。たとえば、キリスト教の写本にはよく<99>という数字が書いてある」
かのん「99? 100に1つ足りないって意味?」
ミオ「アーメンを表す文字がギリシャ文字でAMHNで、それぞれの文字には数字が割り振られている。A=1、M=40、H=8、N=50。これを足すと?」
しもん「あっ、99になりますね」
れん「99って、キリスト教のお祈りの言葉アーメンを表す数字だったのね」
ミオ「こうやって、文字に数字を当てはめて神秘的なことを考えるのは、ゲマトリアと呼ばれた。どうしてゲマトリアと呼ばれるようになったのかは、よくわからないけどね」
ミオ「古代ギリシャには、インドと違って、数字を表す文字がなかった。だから、アルファベットの文字を数字の代わりに使ったんだ。Α(アルファ)、Β(ベータ)、Γ(ガンマ)、Δ(デルタ)、Ε(イプシロン)、F(スティグマ)、Ζ(ゼータ)、Η(エータ)、Θ(シータ)、Ι(イオタ)、Κ(カッパ)、Λ(ラムダ)、Μ(ミュー)、Ν(ニュー)、Ξ(クシー・グザイ)、Ο(オミクロン)、Π(パイ)、Q(コッパ)、P(ロー)、∑(シグマ)、Τ(タウ)、Υ(ユプシロン)、Φ(ファイ)、Χ(カイ)、Ψ(プサイ)、Ω(オメガ)、&(サンピ)の27文字(*1)に数字を振った。数字を表す時は、それぞれの文字にダッシュ記号を付けた。A'みたいに」
しもん「どういうふうに数字を振ったのかな?」
ミオ「単純だよ。最初の9文字に1〜9を、次の9文字に10〜90を、最後の9文字に100〜900を割り振ったんだ(*2)」
かのん「他の国はどうしたの? ギリシャ文字じゃないでしょ?」
ミオ「ヨーロッパの文字はだいたい似ているからね。似ていないヘブライ文字でも、同じように文字に数字を当てはめることは行われていた。悪名高い皇帝ネロ(ネロ・カエサル)をヘブライ語で書いて、その数字を合計すると666になる。これが<獣の数字>だよ。ネロが獣の数字の起源だとする人もいるけど、本当のところはよくわからない」
(*1)Q(コッパ)、&(サンピ)は対応するアルファベットがないので、別の文字を代用します。『数と数字』では、QとZ、『歴と占いの科学』では、Qと&。ここでは、『歴と占いの科学』で使われている文字を採用しました。
(*2)各文字の数字は、次の通り。
A=1、B=2、Γ=3,Δ=4,Ε=5、F=6、Z=7、H=8、Θ=9
I=10、K=20、Λ=30,M=40、N=50、Ξ=60、Ο=70、Π=80、Q=90
P=100、∑=200、T=300、Υ=400、Φ=500、Χ=600、Ψ=700、Ω=800、&=900
しもん「ゲマトリアって神秘的なものかと思っていたけど、アルファベットを数字代わりに使っていたなら、文字に数字を当てはめるのって、当たり前のことだったのかもしれませんね」
れん「そうね。いまでも、例えばスポーツ選手を背番号の数字で呼んだりするでしょ。それと似たようなものじゃないかな」
さり「昔の人は、文字や数字に神秘的な力があるって思っていたの?」
ミオ「地域によってどの数字が人気があるかは違うけど、古くから、そういうのはあったよ。西洋では奇数が幸運を呼ぶ数だとされた。とくに、3と7」
かのん「7不思議とか、ラッキー7とかいうもんね」
さり「5は? 5も奇数でしょ」
ミオ「5は東洋で人気があった数だよ。紀元前500年頃、ピタゴラスが訪れた東方で5が尊ばれているのを知って、西洋に神秘な数として5を持ち帰ったといわれている。ピタゴラス教団のシンボルは五芒星☆だからね」
さり「わあ、おもしろい! じゃあ、9は?」
ミオ「9は、やはり紀元前500年頃、ピタゴラス教団では不幸の印だとして恐れられていた。ヘブライ人は贖罪の日に9匹の羊を生贄にしたし、ダンテの『神曲』では9つの地獄が描かれている」
かのん「9は怖い数なんだね」
ミオ「そうとも限らない。ユダヤ人のカバラでは、ヘブライ語の真理エム・トEm-thは、ヘブライ語のアルファベットの数字で441になって、これを全部足すと9になる。だから、9は神の不変性を表す聖数と考えられた」
ミオ「カバラというのは、神の選民が神と宇宙を知るための秘法だよ。文字や数に神聖な力が秘められていて、その秘密を解くことで真理に達することができると考えた。ゲマトリアもその1つだね」
かのん「なんか、ややこしそうだね」
ミオ「文字と数をひねくりまわして複雑な計算を繰り返すのがカバラの秘法だ。ユダヤの神エホヴァ(ヤーウェ)はヘブライ語のゲマトリアで26になるから、26は聖数とされたけど、これはまだ簡単な計算で、聖書に出てくる名前をゲマトリアで解釈し直すとか、ややこしいことをいっぱいやっている」
れん「カバラはユダヤ教だけの秘術なの?」
ミオ「ううん。カバラの秘法はキリスト教にも受け継がれたから、その後長く、西洋で伝えられた。これが魔法の数秘術の基礎になっているし、錬金術にもつながっている。アリストテレスの4元素説を取り入れているけど、もとの4元素説と比べると、はるかに複雑でわかりにくくなっている。アリストテレスが知ったら、びっくりするだろうね」
さり「なんだか、へんな感じ。文字や数字をいろいろ調べて、自然のことが本当にわかるのかなあ」
かのん「うん。そうだよね。信じることと、起こることは違うもん」
ミオ「みんながみんなというわけじゃないけど、昔の人は本当に文字や数字には人智を超える秘密があると信じていた。だから、東洋でも、自分の本名は家族以外、だれにも明かさないという風習があったんだ。もし、本名がわかってしまうと、呪術で呪われるかもしれないから」
れん「古代の人は、そうやって世界を理解していたのかしら」
しもん「なんでも、ぼくらの価値観で判断すると、古い時代の発見や理論を、ちゃんと理解できないのかもしれませんね」
さり「そうかも。ねえ、ミオくん、今度は、その頃の人と話をしてみたいな」
ミオ「そうだね。それは、また、次の機会に」
【参考】
『数と数字』D.E.スミス、J.ギンズバーグ著 平田寛訳(世界教養全集30平凡社)
『歴と占いの科学』永田久著(新潮選書)
『数の歴史』ドゥニ・ゲージ著 藤原正彦監修(創元社)
『魔法』K.セリグマン著 平田寛訳(世界教養全集20平凡社)
『数学の歴史』ボイヤー著 加賀美鐵雄・浦野由有訳(朝倉書店)
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