さりとミオくんの魔法の国の冒険の5回め。前回「サリと魔法の国その4〜数の神秘」のつづきです。
ミオ「今度は占星術(せんせいじゅつ)だよ。まず、2世紀のギリシャ」
かのん「占星術って・・・サソリ座(ざ)のあなた、今日の運勢(うんせい)は?・・・みたいなの? 2世紀って・・・ええと、すごい昔だよね。そんな昔からあるの?」
ミオ「占星術自体はもっともっと昔からあるよ。紀元前(きげんぜん)18世紀ころのシュメールで生まれたんだ」
れん「それは大昔すぎて、イメージがわかないわ。2世紀だって、かなり昔だもの」
しもん「ええと・・・(ノートを何冊か見て)・・・あ、紀元前46年に、ローマ皇帝のシーザー(カエサル)が、今のカレンダーのもとになった『ユリウス暦(れき)』というのをはじめています。うるう年がとりいれられたカレンダーです」
れん「シーザーの時代から100年後ね」
ミオ「あ、いたいた! やほーっ!」
ミオ「プトレマイオスさん。天動説(てんどうせつ)の宇宙モデルを完成させた人だよ」
プトレマイオス「なんだね、私はあれこれといそがしいんだが。『アルマゲスト』と『テトラビブリオン』を出版(しゅっぱん)したばかりでね」
ミオ「『アルマゲスト』はプトレマイオスモデルについて書かれた天文学の本、『テトラビブリオン』は占星術の本だよ」
かのん「えーっ、占星術? この人、占い師なの?」
プトレマイオス「なんだ、この子たちは。しつれいな」
ミオ「あー、この子たち、まだ小っちゃいから、おおめに見てあげて」
かのん「うわ、なに、ミオくん、上から目線じゃん」
れん「プトレマイオス先生。本のこと、おしえていただけませんか。わたし、本が大好きなんです」
プトレマイオス「ふむ。礼儀(れいぎ)正しい子もいるな。まあ、いいだろう」
れん「じゃあ、まず、天文学の方からお聞かせねがえますか」
<プトレマイオスより前の天動説の宇宙モデル>
プトレマイオス「天球(てんきゅう)とともに一定のはやさでうごく星座(せいざ)は、たがいの位置(いち)がかわることはない。これは知っているかな」
かのん「天球って、なに?」
しもん「(ノートをめくって)昔の人は、空の星がとおくにある天球というものにはりついていると考えていたようです」
プトレマイオス「ところが、その天球の星座の間を、七つの星だけがさまよいすすむのだ。そこで、さまよう星、つまり惑星(わくせい)と呼ぶようになった」
かのん「七つ? ええと、惑星って、八つじゃなかった?・・・えへへ、めずらしく、わたし、おぼえたんだよ。じゅもんみたいにさ。すいきんちかもくどってんかい・・・水、金、地、火、木、土、天、海・・・やっぱり、八つだよ」
ミオ「ちがうちがう! このころは、宇宙は地球つまり大地を中心に回っていると考えていた。だから、惑星と考えられたのは、太陽、月、火星、水星、木星、金星、土星の七つだよ」
かのん「あれ? それ、曜日(ようび)ににてるね。日月火水木金・・・日だけちがうけど・・・あっ、日って、太陽だ!」
ミオ「そう。このころ考えられていた惑星の名前が、ローマ時代に、カレンダーの曜日の名前になったんだよ」
プトレマイオス「惑星の名は東方(*1)の伝統にならってつけたものだ。ギリシャではそれまで、水星は【またたく星】、金星は【夜明けのまえぶれ】【夕方の星】、火星は【火の星】、木星は【明るい星】、土星は【キラキラ星】と呼ばれていた。東方では惑星に彼らの神々の名をつけていたので、それにならい、東方の神々にあたるギリシャの神々の名をつけた。水星はヘルメス、金星はアフロディテ、火星はアレス、木星はゼウス、土星はクロノスだ」
れん「金星はビーナスじゃなかったかしら・・・」
ミオ「(こっそりと)それは、ローマの神さまの名前。いまみんなが知っている惑星の名前は、ローマでつけられた名前がもとになっているんだ」
れん「ああ、そうなのね」
(*1)東方=バビロニア
プトレマイオス「わたしのモデルは、いままでのモデルがじっさいの星のうごきを正しく予測(よそく)できないので、数学的につくったものだ」
れん「それはどういうことですか」
プトレマイオス「何月何日の夜に惑星(わくせい)がどこにあるか、正確(せいかく)にわからない、ということだ。もっとだめだったのは、火星(かせい)などの惑星がある時期(じき)、星座(せいざ)の中で、普段のうごき【順行(じゅんこう)】とは逆(ぎゃく)にすすむ【逆行(ぎゃっこう)】という現象(げんしょう)があるのだが・・・それが、説明(せつめい)できないことだな」
しもん「あー、それ、知ってます! 昔の人は、火星が逆行するとき、大きな戦争や災(わざわ)いがおきるって、信じていたんですよね」
さり「わあ、知りたい! 逆行って、どうやって説明するんですか?」
プトレマイオス「わたしは、惑星は目に見えない回転する球にくっついていて、球とともに回りながら、大地の回りを回ると考えたのだ。この球を周転円(しゅうてんえん:周天球ともいう)と名づけた」
さり「おもしろそう! でも、こうすると、どうして逆行するのかしら」
れん「たぶん、こうよ」
プトレマイオス「そのとおり。きみは、なかなか論理的(ろんりてき)にものが考えられるようだな」
れん「ありがとうございます」
かのん「ちょっと、れん! ひとりだけいいカッコしないで!」
さり「すごいね、これ! ほんとは地球の方がが太陽のまわりをうごいているのに、地球が止まっていると考えても、星の動きが説明できるなんて!」
プトレマイオス「なにをばかげたことを! 大地がうごくわけなかろう。たしかに、昔、アリスタルコスという自然哲学者(しぜんてつがくしゃ)が、そのような説を考えたと伝えられているが」
かのん「わたし、占星術(せんせいじゅつ)のこと、聞きたいよ!」
プトレマイオス「いいだろう。占星術の歴史(れきし)は古い。数百年にわたる占星術の知識をまとめておく必要があると考えたのだ。ホロスコープも、生まれた日ではなく、受胎(じゅたい)の日を基礎(きそ)に計算(けいさん)すべきだと」
しもん「すごいですね。てっていしていますね」
プトレマイオス「占星術でもっともたいせつな獣帯(じゅうたい)(*2)の12星座は、もともと東方の生活に合わせて名づけられたものだ。ギリシャでも、それと同様に、ギリシャの生活に合うように、いくつかの星座の名をかえた」
さり「おもしろそう! どういうことです?」
プトレマイオス「3月21日から4月20日は、ヒツジの子が生まれる時期(じき)だ。だから、この時期(じき)に天球上で太陽のうしろにある星座をオヒツジ座と名づけた」
かのん「えーっ、そういうことなの! じゃ、つぎのおうし座は?」
プトレマイオス「4月21日から5月20日は、オウシが相手をさがす時期だから、オウシ座とした」
さり「えーと、つぎは・・・」
しもん「(ノートを見て)フタゴ座です。5月21日から6月21日。その次がカニ座で、6月22日から7月22日」
プトレマイオス「双子(ふたご)は、ギリシャでは男女のカップルと考えた。この時期は結婚(けっこん)によい時期だから、ちょうどよい。(*3)カニ座は、ムギの収穫期(しゅうかくき)だから、ムギの穂(ほ)をかりとるハサミをもつカニがふさわしい」
れん「ええと、つぎは何だったかしら。わたし、星座占(うらな)いとか、あまり興味(きょうみ)がなくて」
(*2)太陽の通る道(黄道こうどう)に12の生き物の星座をおいたので、このように呼ばれる。しかし、じっさいには、ほかの星座もあるので、獣帯(じゅうたい)の星座数は12より多い。
(*3)6月が結婚シーズンというのは、ヨーロッパでは「ジューン・ブライド(6月の花嫁)」として定着(ていちゃく)している。日本もその影響(えいきょう)をうけている。
しもん「じゃあ、あとぜんぶ、いいますね。7月23日から8月22日が、シシ座。8月23日から9月22日が、オトメ座。9月23日から10月21日がテンビン座。10月22日から11月21日がサソリ座。12月22日から1月19日がヤギ座。1月20日から2月18日がミズガメ座。2月19日から3月20日がウオ座です」(*4)
プトレマイオス「シシ座は、王がライオン狩りをする時期だったから。オトメ座はムギの穂(ほ)をもつおとめ。ムギなどの穀物(こくもつ)が収穫(しゅうかく)できる時期だ。テンビン座も、穀物をはかるテンビンで、やはり収穫をあらわす。テンビン座はもともと「ハサミ」とよばれ、つぎのサソリ座の一部だったから、同じく収穫をあらわすのだろう。冬の三つの星座はどれも水にかかわる星座で、東方バビロニアは雨期(うき)にあたることをしめしている」
かのん「冬の三つって、ヤギとミズガメとウオ・・・ミズガメとウオは水にかんけいするのわかるけど・・・ヤギは?」
プトレマイオス「ヤギ座は魚の尾をもつやぎで、東方の人が信じる動物だ」
しもん「あ、そうです。たしか、占星術のやぎ座のやぎは、魚みたいなやぎですよ。ドラゴンやユニコーンみたいな、空想上の動物だと思います」
れん「じゃあ、12星座は、占星術というより、カレンダーのかわりだったのね」
ミオ「それが、だんだん変わっていったんだ。天の星座が、地上の世界の運命(うんめい)をきめていると思うようになっていった」
プトレマイオス「うむ。占星術が東方から伝わったばかりのころは、ギリシャで占星術を信じる者はなかった。が、やがて、ギリシャでもローマでも、占星術が広まったのだ。数百年にわたる占星術の知識は膨大だ。それが失われないようにするため、私は『テトラビブリオン』を書いたのだ」
ミオ「プトレマイオスの『アルマゲスト』は中世(ちゅうせい)では教会につよく支持(しじ)されたし、『テトラビブリオン』は占星術師(せんせいじゅつし)たちのバイブルになった」
かのん「へえ、どっちもすごい本なんだ」
プトレマイオス「正確な天文学がなければ、せいみつな占星術、たとえばホロスコープは不可能だ」
れん「でも、占星術が天文学を生んだとかいう人がいるけど、それはウソだってわかったわ。さいしょに天文学があって、それが占星術につかわれたのね」
さり「じゃあ・・・天文学で地球の方がうごいているってわかったら、占星術もなくなっちゃうのかな」
れん「そうね。コペルニクスやガリレオの時代のあとは、占星術はどうなったのかしら」
かのん「でも、わたしたちの時代でも、毎朝テレビで、ナントカ座の人はどうたらって、やってるじゃん」
しもん「ガリレオの時代の占星術って、どうなんでしょう」
ミオ「それなら、これからそこへ行ってみようか」
さり「やった! きょうのミオくん、サービスいいね!」
ミオ「うん、いままでの冒険では、ずいぶん助けられたからね。(*6)じゃ、行くよ」(カチリ)
さりと魔法の国その6へつづく。
(*4)これらの星占いの星座の日付は、資料によって1〜2日ていどのずれがある。
(*6)さりたちとミオくんの冒険は、電子本『さりと12のひみつ』でご覧ください。リンクはこのあとの「お知らせ」にあるバナーで。
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