さりと魔法の国〜その4 数の神秘(小学生以上) | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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さり「ここは・・・どこ? なんか、石の建物ばかり。みんな、カーテンみたいな服だし」

ミオくん「紀元(きげん)前530年頃のイタリアの町クロトン。イタリアにあるけど、このころはギリシャの領地(りょうち)だった」

れん「じゃあ、キリストさんが生まれるより前ね。ざっと・・・2500年くらい前かしら」

かのん「ほら、道ばたで地面に落書きしている人がいるよ。のんびりしてるね」

しもん「待ってください・・・三角形や五角形・・・なんか、算数の図形みたいですよ」

さり「もしもーし、すみませーん! 何をしてるんですか?」

落書きの人「うるさい子どもだな。あっちにいってなさい。私はいま、図形の問題を考えるのにいそがしい」

ミオ「そんなこといわないで、ちょっとだけつきあってよ、ピタゴラスさん」

しもん「えっ! ピタゴラスさんって・・・あの、ピタゴラスさん? 直角三角形の」

ピタゴラス「ほう、子どものくせに、私の研究を知っているのか。まったく、ミオくんがつれてくる子どもは、ふつうじゃないな」

ミオ「うん、たしかに、ちょっとかわってるかな」

さり「ミオくん、それ、いいすぎです」

 

 

ピタゴラス「で、なんのようだね。まさか、この三角形の秘密を?」

しもん「あの・・・辺の長さが3、4、5の三角形を描(か)くと、直角三角形になることでしょうか」

ピタゴラス「むむっ! わが教団のものにしか教えていないひみつを、どうして?」

さり「(小声で)ひみつって、なに?」

ミオ「しもんがいったことだよ。とくにじゅうようなものは、ひみつにされていたんだ。ピタゴラスさん、この子たちはだいじょうぶだから、教えてあげてよ」

ピタゴラス「ふうむ。では、とくべつだぞ。三角形の辺が3、4、5となるひみつは・・・」

さり「ひみつは・・・」

ピタゴラス「2は女をあらわす数。4はその平方(同じ数を2回かけた数。この場合は2×2で4)だ。また、3は男をあらわす数。そして、5は女の2と男の3を足した数、つまり男女の結婚をあらわす数だ。3と4で、かんぜんな世界をあらわす5となるのだ」

さり「はあ・・・」

かのん「何いってるの、この人?」

れん「本当にこの人がピタゴラスの定理のピタゴラスさん?」

 

 

しもん「3と4と5って、とくべつな数だったんですね」

ピタゴラス「そうだ。とくに5はかんぜんな数だ。正五角形の描き方も私がみつけた。(地面に☆の図を描いて)このペンタグラムは、私のしるしとしている。これは、私が東方の国で学んだことだ(*1)」

かのん「やっぱ、へんだよ」

ミオ「この時代はこれがあたりまえ。数学の研究はこんなに古い時代からはじまっていたけど、このころの人たちは数字に神秘(しんぴ)的なイメージを持っていたからね。ヨーロッパでは3や7は大事な数だとされていた」

さり「6や8や9は?」

ミオ「6は・・・もっとあと、キリスト教の聖書にでてくる666がけものの数、つまり悪魔の数としておそれられた。でも、これは、またの機会にしよう。ピタゴラスさんとその仲間は、9を不幸の数字としてきらっていたけど、これは一般にはひろまっていないかな」

れん「わたし、数学と科学って深くつながっているんだと思ってたけど、そうでもないのね」

ミオ「みんなの知っている科学は、この時代ではまだ生まれていない。にたような『自然哲学』という研究はあったけど、これは『科学』とは呼べないかな。『自然哲学』で有名なアリストテレスさんに会ってみる?」

かのん「ねえ、3と4と5で直角三角形っていったけど、三角定規の形って、ちょっとちがうよね」

しもん「そうですね。45度の方は、辺は1と1と・・・1.4かな」

ピタゴラス「なんだ、そのイッテンヨンというのは」

 

 

さり「小数です」

ピタゴラス「なんだ、それは」

さり「えーっと、1.4は・・・1と2の間の数で・・・」

ミオ「だめだめ。この時代にはまだ小数は発明されていない。小数が使われるようになったのは16世紀。ここから2000年ほど未来のことだよ」

しもん「ええと、正確にいうと、1.4じゃなくて、1.414・・・ええと、わりきれない数がずっとつづくはずです」

ピタゴラス「なんと! それは、秘(ひ)中の秘! その数のことはだれにもいうでないぞ!」

しもん「はあ・・・」

さり「どうしてですか?」

ピタゴラス「そのような、数でない数が存在することがわかれば、大混乱となるだろう」

 

 

れん「ひょっとして、ピタゴラスさん、無理数(むりすう)のことをいっているのかしら」

さり「むりすうって、何です?」

れん「まだ小学校じゃならわないけど、このあいだ、あかねさんに教えてもらったの。小数点以下の数字がえんえんと無限(むげん)につづく数だって」

ピタゴラス「だから、そんな数があってはならん!」

さり「なぜですか?」

ピタゴラス「数は1、2、3、4・・・と1ずつ増える。その間に1と2分の1や、1と3分の1などがある。しかし、辺が1と1でできる直角三角形のななめの辺の長さは、1より大きく2より小さいが、それを分数であらわすことができそうにないのだ。いや、まだ研究中だが・・・これはけっしてあってはならないことだ」

 

 

ミオ「この時代では、数は1、2、3・・・という整数(せいすう)や、整数のくみあわせでつくる分数しか、知られていなかった。そうでない数をみとめれば、数にたいする神秘的な信仰(しんこう)がくずれてしまうからね(*2)」

しもん「でも、ピタゴラスの定理(ていり)は、今でも使っています。直角三角形のたての辺の平方と、横の辺の平方を足すと、ななめの辺の平方に等しくなる、というやつですね」

れん「なにか、ふしぎな気分。魔法みたいな考え方をしているのに、ちゃんと数学の定理が発見されているのね」

さり「科学がはじまっていないけど、火薬や印刷を発明した中国みたい」

しもん「そういえば、にていますね。科学なしでも、いろんな発明や発見はできるんですね」

かのん「男と女の結婚かあ・・・よく考えたら、学校でならう算数もこんな感じだったら、楽しめるかもね」

れん「わたしはいやよ。ぜんぜん論理的じゃないもの。そんなのを学校でならうなんて、ぞっとしちゃう!」

ミオ「じゃ、つぎに行こうか」

かのん「わたし、悪魔の数字が、気になるなあ」

さり「あ、わたしもです!」

ミオ「行ってからの、お楽しみだよ。では、出発!」

 

 

(*1)ヨーロッパの文化では、5は特別な数とは考えられていなかった。5を特別な数と考えるのは、東方の国の人々の文化で、ピタゴラスはその国に出向いたとき、5の数についてのイメージを学んだといわれている。

(*2)分数で表すことのできない数を無理数という。ピタゴラス学派の人々にとって、無理数の存在は認めがたいものだった。直角二等辺三角形の斜めの辺の長さについては、門外不出の秘密とされたという。

 

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