れん「町のふんいきがずいぶんちがうね。高い建物(たてもの)もあるし」
しもん「(ノートを見て)17世紀というと・・・ガリレオの宗教裁判(しゅうきょうさいばん)があったころですね」
かのん「あーっ、ガリレオさんね。まえにピサの斜塔のそばで会ったよ」(*1)
「なんだね、きみたちは? あの気むずかしいガリレオ氏の友人なのか?」
ケプラー「おう、ミオくんか。久しぶりだな。(*2)そうすると、この子たちは、きみの友だちか。前に会ったときは、べつの子たちだったね」
ミオ「あのときは、とっぴたち。きょうの子たちは、とっぴの友だちだよ」
ケプラー「それはそれは。きょうは何の用だね」
さり「わたしたち、占星術(せんせいじゅつ)について知りたいんです!」
かのん「うわ、さり、直球(ちょっきゅう)!」
れん「さり、ケプラーさんなら、わたしも名前は知ってるわ。ケプラーの法則。惑星(わくせい)の法則を見つけた人よ。占星術なんていったら、気分をわるくするわよ」
ケプラー「なに、かまわんよ。私は占星術もやるからね」
しもん「それは本当ですか?」
ケプラー「もちろんだ。私はまず、占星術で有名(ゆうめい)になったんだ。私のつくる占い暦(こよみ)は、よく当たると評判(ひょうばん)で、よく売れる」
かのん「うわあ、この人、科学者なのに、占いしてるって!」
れん「かのん、ちょっと、そんないいかたしちゃ、だめよ」
ケプラー「その通りだから、かまわんよ」
さり「ケプラーさんも、プトレマイオスさんみたいに、占星術を信じているんですか?」
かのん「いまの笑い方、なんか、ありそう」
ケプラー「ガリレオ氏の知りあいなら、話してもいいだろう。私はわかいころから、宇宙が数学的に調和(ちょうわ)がとれていることを証明(しょうめい)したかったんだ」
れん「ちょうわ、ですか?」
ケプラー「そうだ。さいしょは5つの正多面体(せいためんたい)と5つの惑星(わくせい)の軌道(きどう)の間に、何らかの調和があると考え『宇宙の神秘(しんぴ)』を書いた」
れん「そんなの、関係するんですか? 関係があるとは思えませんが」
かのん「うわっ、れんの方がわたしより、きついこといってるよ」
ケプラー「私にとっては、数学的な調和が一番だったんだ。円や球、正多面体といった、美しい数学的な図形が、宇宙をささえているはずだと」
れん「だった?」
ケプラー「ティコが惑星のうごきを観測(かんそく)したデータを分析(ぶんせき)したところ、円や球では説明できないことがわかったんだ。だ円なら、うまくいくことがわかり、私はティコのデータを優先(ゆうせん)したんだ。それを『新しい天文学』にまとめた。惑星はだ円軌道(きどう)を回り、同じ時間に同じ面積(めんせき)をえがく、とね」
れん「ますます信じられません。そんなすごい研究をした人が、占星術を信じているなんて・・・」
ケプラー「おろかな娘(むすめ)がかせいだ金で、かしこいがびんぼうな母をやしなっている」
かのん「は? むすめが母をって、何?」
れん「ひょっとしたら、むすめが占星術で、母が天文学、ですか?」
ケプラー「そうだ。正直(しょうじき)なところ、私の占い暦(こよみ)は、評判(ひょうばん)ほど当たっていない。最初の占い暦で、冷害(れいがい)とトルコ軍の侵略(しんりゃく)を当てたくらいかな。まあ、それで私の占い暦が売れるようになったんだがね」
かのん「まさか、霊感(れいかん)があるんですか?」
ケプラー「ばかな。知識(ちしき)と偶然(ぐうぜん)だ。私は気象について私なりの知識があったから、冷害はありそうだと思ったんだ。トルコ軍は、まあ、たまたまかな」
かのん「そんなこと、ばらしちゃって、だいじょうぶなの?」
ケプラー「まあ、ナイショだぞ。占い暦が売れなくなると、天文学の研究がつづけられなくなるからな」
さり「あのー、占星術は、もともと天動説(てんどうせつ)から生まれたんでしょ。地球の方がうごいているってわかったら、占星術を信じる人って、いなくなっちゃうんじゃ・・・」
ケプラー「占星術師たちは、星のうごきのことなど、自分では何もわからない。コペルニクス、ガリレオ、そして私の研究(けんきゅう)で占星術師はこまっているだろうな。私たちの天文学は教会にとっての脅威(きょうい)だが、占星術師にとっても同じだよ。おそらく、あと何十年かしたら、新しい天文学が世界の常識(じょうしき)になり、教会も占星術師も、それにしたがわなくてはならなくなるだろう」
ミオ「ケプラーさんは占星術師でもあったから、のちの時代の占星術師たちにとってのヒーローなんだけどね」
かのん「でも、ぜんぜん、そんなんじゃないじゃん。科学の人だよ」
ミオ「この時代は、魔法と科学が入れかわる時代だよ。中世には、占星術は科学と同じものだったから、それを迷信(めいしん)みたいに考える人はほとんどいなかった。でも、このあと、18世紀にニュートンが万有引力(ばんゆういんりょく)を発見し、科学時代に入っていくと、占星術を信じる人はどんどん少なくなっていく。まあ、ニュートンは、こっそり錬金術(れんきんじゅつ)もやっていたけどね」
ケプラー「まだまだ、この世界はばかばかしい魔法を信じている。私の母親は、魔女裁判(まじょさいばん)にかけられた。助け出すのに、ほんとうに苦労(くろう)したよ」
かのん「えーっ、魔女裁判って、魔女が火あぶりにされちゃうアレでしょ?」
さり「お母さん、助け出せてよかったです!」
ケプラー「ありがとう。たいへんだったが、ひとつだけいいこともあった。この裁判中に、私は3つめの法則を見つけることができたからね。ちょうど、その少し前に、対数(たいすう)という新しい数学が発明され、それを使って、惑星(わくせい)の公転周期(こうてんしゅうき)と太陽からの平均距離(へいきんきょり)の間に数学的な法則があることを見つけられたんだ」
ミオ「魔女裁判が終わるまで、あと100年はかかるよ。それに、100年後には、占星術にとって、決定的(けっていてき)なできごとが起きる」
さり「何なの?」
かのん「何だろ?」
しもん「100年後っていうと18世紀ですね。ニュートンの万有引力の法則ですか?」
れん「もう、地動説が常識(じょうしき)になっている時代よね」
ミオ「1781年に、ハーシェルが天王星(てんのうせい)を発見するんだ」
かのん「え? それがどうかしたの?」
れん「そうか! それは大事件よ! だって、ほら、プトレマイオスさんがいっていた惑星(わくせい)って、月と太陽以外は、5つの惑星だったでしょ。ケプラーさんも5つの惑星といっていたし」
しもん「そうです! 占星術は古い時代に生まれたものだから、5つの惑星と月と太陽だけでうらないます。でも、それ以外の惑星があるってわかったんだから、たいへんなことになりますよ。それまで、天王星があったのに、それを無視(むし)してきたんだから、それまでの占星術はみんなうそっぱちということになっちゃいます」
れん「そうよ。それに、そのあと、海王星(かいおうせい)も発見されるし、冥王星(めいおうせい)も・・・」
しもん「冥王星は、長い間、惑星と考えられていましたけど、観測がすすんで、惑星じゃないことになりました」
さり「でも、いまでも、占星術を信じる人はいるよ」
ミオ「17世紀まで占星術も学問だと考えられていて、大学でも教えられていたけど、18世紀にはどんどん消えていった。大学での最後の占星術の講義は1816年だった。19世紀には、占星術はもう科学や学問と同じではない、オカルトなものと、みんなが思うようになったんだ」
れん「いま21世紀だから・・・占星術がオカルトになったのは、200年くらい前ってことね」
かのん「でもさ、さりがいうみたいに、今でも占星術信じている人、いっぱいいるんじゃない? アメリカでは大統領(だいとうりょう)が占星術を信じてたことがあるって、聞いたことがあるよ」
ミオ「アメリカは裁判(さいばん)社会だからね。1914年にニューヨークの裁判で、占星術は科学だって判決(はんけつ)がおりたために、それ以来、アメリカでは占星術をサギだっていえなくなったんだ。アメリカは世界で最大の国だし、優秀(ゆうしゅう)な科学者の数も圧倒的(あっとうてき)に多いけど、いまだに中世(ちゅうせい)をひきずっている国でもあるんだ」
さり「ふしぎな国だね」
かのん「あっ! わかっちゃった!」
しもん「なんですか」
かのん「ミオくんがいってた『魔法の国』って、アメリカのことじゃないの?」
ミオ「いやあ、そういうつもりでいったんじゃないけど・・・」
かのん「じゃ、つぎはアメリカだよね! わたし、自由の女神、見た〜い!」
ミオ「ぼくを、ツアーガイドかなんかだと思ってない?」
次回につづく。
(*1)さりたちとミオくんの冒険は、電子本『さりと12のひみつ』でご覧ください。
(*2)とっぴたちとミオくんの冒険『いきいき物理マンガで冒険』でご覧ください。
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