さりと魔法の国その8〜医学と魔法2(小学生以上) | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 上のイラストはジェンナー。世界で初めて、ワクチンを開発し、天然痘に対抗した人です。

 

 2019年に始まった新型コロナのパンデミックで、2020年にようやくワクチン接種が始まりました。新しいタイプのワクチンなので、副反応が心配ですが、ワクチンの最初は、根拠なく行われていた天然痘のウミを接種するというもので、その副反応は比べものにならないくらい、恐ろしいものでした。

 天然痘にかかって死ぬか、ワクチン(このときは、まだこの言葉は生まれていません)で死ぬかという究極の選択。ワクチンの死亡率の方が低かったので、決死の選択でワクチンを接種しました。(本文をご覧ください)

 

 ジェンナーの開発した種痘(この名称がのちにワクチンの語源になりました。以下の本文をご覧ください)は、天然痘でなく、牛の似た病気、牛痘にかかった人のウミを利用したものです。安全性はそれまでのものに比べて高く、ジェンナーのおかげで人類は天然痘を一掃することができました。

 

 ちなみに、これらのワクチンは、生ワクチンといわれるもので、弱めウイルスを接種して免疫を作り、強い細菌に抗しようというもの。ですから、ワクチンを接種することでその病気になってしまうというリスクがありました。

 現在、日本で接種されているファイザー社、モデルナ社のワクチンはメッセンジャーRNAワクチンと呼ばれる、今までとは違うタイプのワクチンなので、 副反応はあるものの、生ワクチンのように接種した後にその病気にかかってしまうということはありません。

 

 前置きが長くなってしまいました。

 今回は、医学と魔法第2回です。

 

 

ミオ「さあ、ついたよ。17世紀。もう、ガリレオさんが『星界の報告』を出版した後だね。ガリレオさんの宗教裁判より、少し前だね」

れん「あれから100年くらい後なのね。ここは・・・」

ミオ「ロンドンだよ。あ、あそこにあの人がいる! やほー!」

中年紳士「何か用かね。悪いが、疲れているんだ。人体についての新理論を本にまとめ、出版したばかりでね」

さり「うわあ、ぜひぜひ、聞きたいです、その本のお話!」

中年紳士「ほう、私の本に興味があるのか。私がだれか、知っているのかな」

ミオ「この人はハーヴェイさんだよ。王立医学校の解剖学の教授。この子たちは、ちょっと、未来から連れてきました。ハーヴェイさんに会わせたくて」

さり「わたしたち、医学のことが知りたいんです!」

ハーヴェイ「それなら、医学はこれから大いに変わる。私のこの本が、新しい医学をつくるはずだ」

かのん「(本を見て)なんだか薄っぺらい本ね。紙も安っぽいし」

れん「かのん、失礼よ!」

ハーヴェイ「まあ、予算の都合で、本当だから仕方がない。だが、内容はすごいぞ」

ミオ「本のタイトルは『動物における心臓の運動と血液に関する解剖学的試論』・・・もっと簡単に『心臓と血液の運動について』と呼ばれることもある」

しもん「本のタイトルからすると、心臓と血液の関係の話みたいですけど、どういう内容なんでしょうか」

ハーヴェイ「ガレノスは血液は潮汐のように血管の中をいったりきたりしているというが、心臓を解剖してみると、心臓が収縮するときに血液を動脈に押しだし、それが静脈に行って、ふたたび心臓にもどってくると考えざるをえない。すなわち、血液は心臓の動きにより、体内を循環しているのだ」

れん「それ、ハーヴェイさんが発見したんですか! そんな方に出会えるなんて、感激です!」

ハーヴェイ「ほほう、その重要さがわかるかね。ただ、血管を見ると、動脈と静脈は直接つながっていないようだ。どこかで動脈から静脈へつながる道があるはずなんだが」

ミオ「(こっそりと)それはね、30年くらい後に、イタリアのマルピーギが毛細血管を発見することで解決したんだ」

れん「もう、4元素とか4体液とかは出てこないのね。錬金術は滅びたのかしら」

ミオ「マルピーギが毛細血管を発見した翌年、シルビウスが4体液説を否定し、酸と塩基のバランスで健康が決まるといった。医学からは錬金術が追い出されたけど、錬金術その物はまだまだ残っているよ。それはまた、別の機会に見てみよう。じゃあ、次ね(時計をカチリと鳴らす)」

 

 

さり「お城みたいなものがあるわ。ここは、どこかしら」

ミオ「18世紀のフランス。もう、ニュートンの有名な本『プリンキピア』が出版されて、50年以上たっている。あれはシレー城。あの人がいるはずだけど・・・あ、いた、あそこ!」

貴婦人「あら、かわいいお客様方ね」

しもん「うわあ、すごい美人!」

貴婦人「あらあら、小さいのに、お口の上手な殿方(とのがた)でいらっしゃること」

しもん「(真っ赤になって)は、は、はい」

かのん「なあに、しもん、てれちゃって!」

ミオ「こちらは、エミリー・デュ・シャトレさん。この時代にはめずらしい、若いころから男まさりで剣も振るえて、学問もできる人だよ。この時期だと、ニュートンさんの本をフランス語に訳しているかな」

かのん「ベルばらのオスカルみたいな人だね。本当にいたんだ、こういうかっこいい女の人」

エミリー「ありがとう。それに、よくご存じですこと。ニュートンの『プリンキピア』は偉大な本なので、フランスの人にもぜひ読んでいただきたいの」

れん「わたしたち、ミオくんといっしょに、未来から来たんです。でも、この時代に、こんな女性がいらっしゃったなんて、びっくりしました!」

ミオ「エミリーさんの科学の功績は、とっぴたちがくわしいよ。(*1)一番の功績は、運動エネルギーの数式を実験によって決定して、イギリスとドイツの科学者の論争に終止符を打ったことだね。他の高名な科学者ができないことを、エミリーさんが若い科学者を集めて実験させ、決着をつけたんだ」

 

 

(*1)別記事「エネルギーとロマンス」をご覧ください。関連記事にリンクを置きました。

 

 

さり「すごいすごいすごいです!」

エミリー「ありがとう。そういっていただけると、光栄ですわ」

かのん「あのう、でもさ〜、ミオくん」

ミオ「うん、なに?」

かのん「今、わたしたち、医者と魔法の関係を調べているんだよね。エミリーさんも、医者なの?」

ミオ「ううん、そうじゃないけど、エミリーさんに会ってもらうのが、この時代の医療を知るのに、いちばんいいかなって思って」

しもん「それは、どういうことでしょう」

エミリー「それなら、話した方がよさそうね。わたし、妊娠しているの。いろんな方々とおつきあいしたから、どなたの子どもかはわからないけど・・・でも、一番好きなあの方の子どもだといいと願っているわ」

れん「・・・いろんな方とおつきあい・・・すごく、進歩的な方ですね。わたし、ちょっとわかりませんけど」

かのん「ねえねえ、<あの方>って、だれかな」

れん「そんなこと聞いたら、失礼でしょ」

しもん「そうですね。ぼくも興味がありますけど、とても聞けません・・・」

エミリー「あらあら、みなさん、なにをこそこそオハナシされていますの?」

さり「みんな、エミリーさんの<あの方>が、だれなのか、知りたいんですです!」

かのん「うわっ、いった!」

れん「さりったら・・・」

しもん「さすが、あいかわらず、空気読まないですね」

エミリー「かまいませんよ。ええと、ご存じですかしら。あの方は哲学者ですのよ。ヴォルテールさん」

れん「えっ、あの、有名な、ヴォルテールなんですか!」

エミリー「彼をご存じなのね。うれしいわ。でも、たぶん、彼ともこれでお別れね。妊娠してしまったから」

かのん「え? どうして?」

エミリー「出産は命がけよ。40歳での出産は特に・・・20年前にも妊娠したけど、その時でさえ危険だったから」

さり「なぜなぜです? 赤ちゃんを産むのが危険なんて!」

ミオ「(小声で)この時代は、ヨーロッパでは、医師も看護婦も、手を洗う習慣がなかった。外科手術や出産のとき、感染症で亡くなる人がいっぱいいたんだ。村の産婆さんにまかせて自然出産する方が安全だった時代なんだよ」

れん「あ・・・それじゃあ、細菌のことがわかったのって・・・」

ミオ「19世紀の後半だよ。パスツールが1846年に論文を書いて、その後、細菌が病気の原因になっているって考えが広まった。だから、それまでは手術で手を消毒するなんてことは、思いもよらないことだったんだ」

かのん「うわあ、たいへんだよ。この時代のお医者さんって、いったい、何だったの?」

しもん「この時代は、医者にかからないほうが、長生きできたのかもしれませんね・・・」

ミオ「じゃ、次にいってみようか(時計をカチリと鳴らす)」

 

 

しもん「ここは・・・ロンドンですか」

ミオ「そう、18世紀後半のロンドン。あ、いたいた。もしも〜し、ジェンナーさん!」

れん「えっ、ジェンナー?」

ジェンナー「いかにも、私がジェンナーだが」

れん「ジェンナーさんって、天然痘(てんねんとう)のワクチンを思いついた人ですよね!」

ジェンナー「ワクチン? ああ、ヴァッキナエのことか。牛痘(ぎゅうとう)の接種(せっしゅ)のことだね」

ミオ「ワクチンって、もともとジェンナーさんの牛痘の接種を表した言葉なんだよ。ラテン語でヴァリオラ・ヴァッキナエと命名して、それが、ヴァクシネーションと呼ばれるようになり、ヴァクシンつまりワクチンの語源になった」

さり「天然痘のワクチンなんて、どうやって作ったんですか」

ジェンナー「古くから、トルコでは天然痘にかかった人のウミを健康な人の腕に傷をつけてなすりつけるという療法(りょうほう)があった。それはもっと昔にはもっと東方の国で行われていたやり方だというが」

かのん「東方の国って?」

ミオ「中国だよ。でも、このやり方は危険ととなり合わせだった。運がよければ接種をうけた人は天然痘にかからなかったけど、接種のために天然痘にかかって死んでしまう人もいたんだ」

かのん「コワイよ、それ」

ジェンナー「わが国でもそのやり方が伝わり、天然痘の接種がさかんになった。だが、やはり、接種により天然痘にかかってしまい、死んでしまう人が後を絶たなかった」

しもん「命がけのワクチン接種ですね」

ジェンナー「私が若い頃、医者の手伝いをしていたとき、そこをおとずれたウシの乳しぼりが、牛痘にかかったあとは天然痘にはかからないというのを聞いたんだ。乳しぼりをする人の間では、それが常識だった。それで気がついたんだ。牛痘は天然痘とよく似た病気だから、ひょっとすると、乳しぼりたちのいうことが正しいかもしれないと」(*2)

さり「じゃあ、うわさ話で、ワクチンをつくったんですか?」

ジェンナー「牛痘のウミを傷口になすりつけ、一定期間おいた後に天然痘のウミをなすりつけたが、発症しなかったのだ。牛痘による免疫が、天然痘に効いたのだよ」

かのん「それ・・・うまくいかなかったら、その人、天然痘で・・・」

れん「私たちの時代じゃ、許されない実験よ、それ」

しもん「すごく非難されたんじゃないですか?」

ジェンナー「たしかにひどく非難されたが、そういう理由より、ウシのウミを人間に植え付けるのはけしからんという非難が多かった。そんなことをしたら、ウシになってしまうと」

れん「18世紀って、もっと理性的な時代だと思っていたけど・・・」

かのん「そんなこといってたら、牛肉のステーキ食べたら、みんなウシになっちゃうじゃん!」

ジェンナー「ははは、まさにその通りだ。まったく、迷信というのは手に負えないよ」

さり「迷信って、魔法を信じるみたいなものですか」

ジェンナー「その通りだ。牛痘の接種は効果があったから、そういう迷信も、だんだん下火になっていったがね」

れん「でも、お医者さんは昔ほど、魔法みたいな考えはしなくなってきてるみたいね」

ミオ「そうでもないよ。じゃあ、次に行ってみよう(時計をカチリと鳴らす)」

 

(*2)ジェンナーが若いころ下働きをしていた医院でのエピソードは、種痘(しゅとう)誕生に関わる、もっとも有名なエピソードです。真偽の程はわかりません。ただし、仮にこういうことがなかったとしても、乳しぼりの人たちの間で牛痘にかかった人は天然痘にかからないという話は、常識として伝わっていたので、ジェンナーは似たような状況でこの知識を得たと思われます。

 

 

れん「ここは、どこ?」

ミオ「やはり18世紀、さっきと同じ頃のウィーンだよ。音楽の都。あの医院をのぞいてみよう」

さり「寝てるのは患者さんかな? 立ってる人が、手を患者さんの体に当ててる」

医者「きみたち、勝手に入ってきちゃいかんぞ。今、動物磁気での治療中だ」

さり「え? どうぶつ・・・じき?」

ミオ「今評判のあなたの新しい治療方法、ちょっと見学させてね、メスメルさん」

メスメル「ほう、それはよい心がけだな。特別に許可しよう」

れん「動物磁気って、何ですか?」

メスメル「最初は本物の磁石を患者の体に当てて動かすことで、医療効果があることに気がついたのだ」

かのん「あ、ほら、磁石を体にくっつけて肩こりなんかを治すアレじゃない? こんなに古くからあったんだ」

メスメル「ところが、磁石を使わなくても、素手を患者の体に当てて動かすだけで、同じ効果があることがわかった。これを私は動物磁気と命名したのである」

しもん「なんだか、心霊治療みたいですね」

ミオ「メスメルさんは、神秘論者で、魔法みたいなものを信じていた人だよ。磁石を使った治療も、手かざしでの治療も、神秘的な効果をめざしたものなんだ」

メスメル「その通り。これが私の<科学的>なやり方だ。どの病気にも効果があるということではないが、いくつかの例ではかなりの効果が認められた。なのに、最近は私のことをイカサマ師呼ばわりするやからが多く、困っているとこだ」

れん「動物磁気なんてないっていう人も多かったんですね」

ミオ「(こっそりと)化学者のラボアジェさんとか物理学者のフランクリンさんは、動物磁気は根拠がないって、強く批判してるんだ」

れん「わたしも、そう思うわ」

メスメル「では、わたしの方法で病気が治るのは、どういう理由だと思う? 実際に効果のあるケースがあるのだ」

れん「それは・・・」

かのん「こっそり、別の薬を飲んでる、とか?」

しもん「それはないでしょう。不思議ですね」

ミオ「フランクリンさんはメスメルさんの治療について、こういっているよ。精神が肉体に及ぼす影響はある。精神に不調があれば、肉体も病気を起こしやすくなる。逆に、精神的な面から病気が治ることもあるだろう、って」

かのん「あー・・・それ、どういうこと?」

れん「プラシーボ効果よ! 患者が受けている治療を効果があると思うことで、本当に病気が治るっていう、不思議な現象」

しもん「あ、<病は気から>っていう、ことわざですね」

ミオ「メスメルさんの神秘的な治療法は、やがて、催眠療法につながっていった。そういう意味では、新しい科学ともいえるね」

かのん「何が幸いするか、わかんないね〜」

ミオ「じゃあ、最後に19世紀のあけぼのに行ってみよう(時計をカチリと鳴らす)」

 

 

かのん「ここは・・・どこかな」

しもん「なんか、イギリスっぽいですね」

ミオ「その通り、あの人に会いに来たんだ。1800年のイギリス。あ、いたいた! おーい、デーヴィーさん!」

さり「デーヴィーさん? どこかで、聞いたことがあるような・・・」

ミオ「とっぴたちが会ったことがあるからね。ファラデーさんの化学のお師匠さん。この時代の、人気№1化学者だよ」(*3)

デーヴィー「ファラデーくんの知り合いかね。まあ、それなら歓迎しよう」

ミオ「この人はね、ちょっと危ない趣味があるんだ」

さり「あぶないしゅみって、何ですです?」

ミオ「新しい気体が見つかると、自分でにおいを嗅いで、人体にどんな影響があるのか、調べるという趣味だよ」

れん「ええっ、それ、危険ですよ。場合によっては、死んじゃうかも」

デーヴィー「なんでも、体験しなければわからないだろう? ちょっと前に、へんな気体を発見した。それを吸うと、めまいがして、酒に酔ったような感じになる。人に言われたことを信じやすくなるし、ちょっとしたことで笑ったり泣いたり、感情的なふるまいが大げさになる。それで、笑気(しょうき)と呼ぶようになったんだ」

かのん「へえ、なんか楽しそう。ドラッグパーティみたいなものかな」

れん「それは違法でしょ!」

かのん「いひひ」

デーヴィー「この笑気ガスは、人間の痛覚を麻痺させる効用があった。麻酔薬として、使えることがわかったんだ。歯の治療は苦痛を伴うが、この笑気ガスを使うと、患者が笑っているうちに治療を無痛で終えられる。手前味噌になるが、医学の革命といっていいできごとだ。ただ、笑気ガスを吸っていい気分になるパーティーが流行したのは、予想外だったが」

さり「えっと、麻酔っていうことは・・・デーヴィーさんが笑気ガスを見つけるまでは、麻酔なしで歯の治療をしてたんですか? それ、コワイですです!」

ミオ「そうだよ」

れん「ちょっと、待って。じゃあ、全身麻酔の手術って、この頃はまだ、行われていないの?」

ミオ「(耳打ちして)そうだよ。ヨーロッパで全身麻酔の手術が成功したのは1846年。もっと後のことだ。それまでも、昔ながらの麻酔が局所的に行われていたけど、ほとんど役に立たなかった。外科手術は麻酔なしで、痛みに叫ぶ患者の体を押さえつけて行われるのが普通だったんだ」

かのん「うわあ、だめ! 想像するだけで気絶しそう!」

さり「魔法みたいな考えがなくなっても、すぐに現代みたいな医学になったわけじゃないんですね。意外ですです」

 

しもん「そういえば、ぼくのノートにその話が記録してありましたよ・・・あ、これだ! 世界初全身麻酔手術を成功させたのは、日本人の華岡青洲(はなおかせいしゅう)で、1804年のことです」

ミオ「うん、今から4年後のことだね」

かのん「えーっ、日本の方がヨーロッパより、40年もはやいじゃん!」

しもん「たぶん、中国ではもっと昔から針麻酔とかがあったと思いますけど、現代医学にはつながっていませんね」

れん「麻酔ができるようになってようやく、現代の外科手術とつながるのね。19世紀の中頃だったなんて、びっくりだわ。もっと昔にできるようになっていたと思っていたから」

ミオ「医学の科学革命は、たぶんハーヴェイの血液循環理論から始まるんだけど、きみたちが知っているお医者さんのイメージは、19世紀後半に生まれたものだよ。細菌やウイルスの知識も、この頃はあやしかったから」

れん「医学から魔法がぬけたら、すぐに現代みたいな医学になったかと思っていたけど、そうじゃなかったのね・・・」

かのん「でも、麻酔ができるようになって、安心して手術とか受けられるようになったんじゃない?」

さり「あ、感染症はどうなったのかな」

ミオ「細菌が伝染病の原因だというのは、19世紀後半にパスツールが論文を書いて広まった。病院で消毒が有効だとわかったのは、19世紀の半ば、全身麻酔の手術と同じ1846年だよ。ウイーンの病院で、医師たちの手を石けんで洗ったグループと、塩素化合物の液で洗ったグループを比較して、感染症でなくなる妊婦の数に違いがあることがわかった。それ以来、医師たちが塩素化合物などの消毒液で殺菌する習慣が生まれて、妊婦の死亡率が下がったんだ」

さり「じゃあ、ほんとうに、最近のことなんだね」

ミオ「そうだよ。エミリーさんの時代にはそれがなかったから、エミリーさんは子どもを産んだ後、感染症で亡くなったから」

みんな「えーっ!」

ミオ「手術の時に医師が消毒するといいということは、1865年に、イギリスの外科医リスターが、パスツールの理論を実践してから広まったんだ。だから、みんなの時代の医学は、このときに一通り完成したといってもいいだろうね」

れん「医学が今の形になったのって、百数十年前のことなのね・・・」

かのん「わたし、昔のお医者さんにかかるの、やだなあ・・・」

しもん「ぼくも。なんか、死と隣り合わせの治療って、文学的ですけど、実際自分がその立場にいたら、嫌ですよ!」

れん「医学とつながりが深い、化学の世界はどうなのかしら。今までの話でも、あまり化学の話が出てこなかったけど・・・」

さり「そういえば、そうですね!」

ミオ「じゃあ、それは、次の機会に・・・医学以上に、驚くかもしれないけど・・・」

さり「わーっ、楽しみです!」

ミオ「じゃあ、またね」

 

つづく

 

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