冒頭のイラストはアメリカの物理学者ベンジャミン・フランクリン。
一般には「凧揚げして雷から電気を取った人」として知られていますが、多才で物理学から政治まで、なんでもかんでも手を出した人。アメリカ独立運動の中心人物でもあります。
冗談好きで『アシモフの雑学コレクション』によれば、アメリカ独立宣言の起草の時、冗談を入れるかもしれないとメンバーから思われ、起草案に関わらせて貰えなかったとか。ペンシルバニアに世界初の図書館を設立したのもこの人。とにかく逸話が多い人です。
電気の話の冒頭では、ベンジャミン・フランクリンの話が欠かせません。
電気の流体論で、電流はプラスの電気が流れるとして最初にプラス・マイナスを定義した人。電流の流れと実際の自由電子の動きが食い違ってしまった原因はここから。運が良ければ、電子の電荷がプラスとして定義されていたかもしれません。
1.はちょっとした遊び。
身の回りの現象がほとんど電気現象であることを知ってもらうためです。
「サランラップ」という商品名を使っていますが、これにはちょっとしたわけがあります。
他のラップだと、静電気の効果が少ないんですね。
当のサランラップも、昔ほど静電気が起きません。推測ですが、最近のラップ(特に塩化ビニル製)は、どうも静電気を防止するためのなんらかの処置が成されているようです。(これは、自作霧箱の実験を続けている林ヒロさんからの情報です)
2.はとりあえずやるだけやっておく内容。すでに化学で学習済みの常識なので、確認だけです。よほどサボった人以外は、正解が書けます。
3.も半分くらいは化学で習っていますから、確認。ただし、絶縁体を誘電体と呼ぶのは物理だけですので、ここで紹介しておきます。
4.の電荷の保存は宇宙の4つの保存量の一つなのですが、扱いは最も簡単。練習もさほどいりません。
5.6.の静電誘導・誘電分極は重要な内容。
言葉だけでなく、どのような仕組みで生じる現象かをよく理解しておく必要があります。
「帯電体に近い側には異種の電荷が、遠い側には同種の電荷が現れる」という結果だけを覚えても、物理現象を理解したことにはなりません。
実際の静電気の現象は、単純には理解できないさまざまな要素が絡みます。机上の理論と実験の実際とが、見かけ上はまったく異なる結果になることもあります。
それは、高校の教科書で習う原理だけでは、静電気の現象のすべてを説明できないからです。
例えば、高電圧の時、尖った先から放電する先端放電現象は、実際の静電気の現象(高電圧が当たり前の現象です)ではあちらこちらで顔を出しますが、教科書にはいっさい触れられていません。
教える側も学ぶ側も、実験事実と理論の兼ね合いに慎重に、より謙虚になるべきでしょう。
7.の箔検電器の実験は、センター試験では花形で、非常によく出題されるのですが、理系の3年生が最後までよくわからないといって聞きに来るのが、この箔検電器問題なんですね。
原理は簡単なのですが、教科書や問題集の解答で「人が皿を指で触ると、指から電荷が逃げる」というような教え方をしているのが、混乱の原因です。なぜ、逃げる電荷は皿からではなく、箔から逃げるのか、という問題に明瞭に答えていないため、結局、実験結果を丸暗記するしかなくなります。
バカらしいことですね。
そうではなく、人間の体も高電圧の実験、つまり静電気の実験のレベルでは、導体として振る舞うのだということがわかっていれば、非常に簡単に理解できる実験です。
なお、この問題で箔検電器の最後の状態がどうなっているかは、電気の知識だけでは理解が困難です。
熱力学の第二法則を思い出しましょう。
水にインクを垂らすと、エントロピー増大則にしたがって、インクが拡散し、全体に薄く広がります。
電荷の分布も同じ法則に従うので、皿にあった電荷を引きつけていた力がなくなると、皿の電荷は金属部分全体にまんべんなく拡散します。
8.の電荷分離は、応用範囲の広い実験です。
これも、静電誘導と誘電分極の現象の本質的な違いがわかっていないと理解できません。
静電誘導は自由電子の移動、誘電分極は原子1個1個の分極が原因であることを、よく理解しておきましょう。
7.の三つめの絵が、先ほどいった話です。
箔検電器と人間が一体化すると、静電誘導現象により自由電子の再移動が起こり、帯電体にもっとも近い皿は今まで通り負電荷が、帯電体からもっとも遠い人間の足下に正電荷が現れます。箔検電器の箔は一体化した導体の中央部分に当たるので、自由電子の過不足はなくなり、電気的に中性になります。
まだ、電気現象の入口に入っただけですが、見えない電気を扱うのは戸惑いますね。
自由電子がどうだとか、電子分布がどうだとか、現在の知識でいかにもの説明をしていますが、ベンジャミン・フランクリンが電気の研究をしていたときには、まだ電子は発見されていません。だから、個々の現象の原因はほとんど何も分からないまま、手探りで研究がなされていました。
そういう状況の中で、イギリスのファラデー(ロンドンの貧民街育ちで数学はできない)、アイルランドのトムソン(グラスゴー大学の数学教授の息子で神童といわれた)、スコットランドのマクスウェル(領主の跡継ぎで14歳で数学の論文を発表)たちが、電磁気の研究を本質的なところへ導いていったのは、本当に素晴らしい業績です。
今、電子の存在を前提にして電気の理論が学べるのは、本当に恵まれているのですね。
関連事項
マクスウェルと光1~3原色の実験
マクスウェルと光2~猫の回転
マクスウェルと光3~テーブルターニング
静電気<物理ネコ教室3年>
電場と電位<物理ネコ教室3年>
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