電子と幽霊その2 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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ファラデー

 
 
とっぴー
とっぴ「【心霊研究協会(SPR)】って、どんな会だったのかな。ノーベル賞をもらった科学者もいたんでしょ」
ひろじ「核となる数人の人が周りの人たちを巻き込んで広げた運動だね。最初イギリスで生まれ、次にアメリカで【アメリカ心霊研究協会(ASPR)】が設立された。名探偵ホームズシリーズで有名なイギリスの小説家コナン・ドイルや、トム・ソーヤを書いたアメリカの小説家マーク・トウェインも、会員だった」
むんく「すごい」
あかね「意外だなあ。わたし、ホームズ好きなのに」
ひろじ「【SPR】には当初のメンバーや科学者以外にも、霊媒を職業とする人たちも参加していた。でも、しばらくして不協和音が生じたようだね」
 
あかね
あかね「どうしたの」
ひろじ「創設メンバーが霊媒のイカサマを次々に暴いていったので、職業霊媒や心霊現象を純粋に信じる人たちが怒って、大量に脱退したんだ。コナン・ドイルもその一人だね」
あかね「ホームズみたいに推理すればよかったのに」
ひろじ「ドイルは少女が撮ったあからさまに怪しげな妖精の写真を本物だと信じ込んでいたくらいだからね。ドイルはいたいけな少女がウソをつくはずがないといった。こういう誤解は今でもよくあるけど、子どもだって、平気でウソをつくことがある。偉大なホームズに比べると、生みの親の方はホームズほど冷静で客観的な推理力はなかったんじゃないかな」
とっぴ「【SPR】の人たちは心霊現象が好きなのに、霊媒がインチキをすると思ったんだ」
あかね「違うと思うな。たぶん、心霊現象を本気で信じていたからこそ、インチキをする霊媒が許せなかったのよ。もちろん、わたしはすべての霊媒がインチキだと思うけど」
 
とっぴー
とっぴ「あかねはキビシイなあ。イカサマを暴いたのはやっぱり、科学者だったの」
ひろじ「ところが、そうでもない。むしろ会に関わっていた科学者たちは騙されやすい方だった。イカサマを暴いたのは心霊研究を本職とする人や、奇術師、それに、同業者の霊媒だった。科学者では、イカサマ暴きで活躍したのはファラデーかな」
あかね「ファラデーって・・・あのファラデー? 電磁誘導の法則の」
むんく「それだけじゃない。電場や磁場もファラデー。場の理論の基礎を築いた人だ」
ひろじ「その通り。ファラデーは貧しい少年時代に印刷工をしながら、化学者デービーに弟子入りして、ほとんど独学で電磁気の研究をした。高等教育を受けていないので、数学の能力は小学生以下だけど、豊かなイメージ力で、真空が物理的な特性を持っているという、誰も思いつかない発想をした」
あかね「ここにも、見えないものに挑んだ人がいたのね」
とっぴ「そうか、電子も見えないけど、電場や磁場なんて、もっと実体がつかめない幽霊みたいなものだもんな」
 
ろだん
ろだん「どうだい、むんく。数学なんかできなくたって、実験で偉大な発見をしたんだってよ」
むんく「ぼくは、数式で表せないものは、認めない・・・」
ひろじ「ふたりとも、極端だなあ。そうだ、ファラデーの場の理論が認められるようになったのはどうしてだと思う?」
ろだん「実験が完璧だったからさ」
むんく「・・・」
ひろじ「ファラデーの場の理論は長い間、誰にも認められなかった。ファラデーが様々な発見をして、大科学者だと認められるようになってからもね」
あかね「えっ、そうなの」
ひろじ「ところが、ただ一人、場の理論に強く惹かれた研究者がいた。当時まだ若手だった、マクスウェルだ」
あかね「あーっ、電磁方程式のマクスウェルさんね。【空の青、海の青】のときお世話になった・・・」
とっぴ「あの人、おじいさんだったよ」
ひろじ「どんな人でも若いときはあるよ。マクスウェルはファラデーの場の理論を数式化して、あらゆる電磁気現象を4つの方程式にまとめることに成功した。これがマクスウェルの電磁方程式だ」
 
むんく
むんく「よく、覚えてる。電磁方程式を解いたら、電磁気の波の式が出てきた。それが電磁波、つまり光だった・・・」
ひろじ「そう! ヘルツがそれをもとに電磁波の検出に成功して、ファラデーとマクスウェルの場の理論の正しさが立証された。現代の電波文明・・・ラジオ・テレビ・携帯電話(スマホ)は、ここから発展したんだ」
あかね「実験家と理論家が協力すると、すごいことになるのね。ろだんとむんくも、もう少し仲良くしたら?」
ろだん「べつに、仲が悪いわけじゃないぜ」
むんく「・・・うん」
 
とっぴー
とっぴ「あーっ、そうだ、ファラデーは何を調査したの? ほら、心霊の」
ひろじ「彼は当時流行っていたテーブル・トーキング(テーブル・ターニングともいう)を綿密に調べた。そして、決定版ともいえる科学論文を発表しているよ」
とっぴ「テーブル・・・それ、何?」
ひろじ「日本のこっくりさんと同じものだよ。何人かで一つのテーブルに手を乗せ、降霊術を行う。そこでいろいろ質問すると、テーブルががたがたと動いて質問に答える、というものだ」
あかね「うーん、信じられない」
ろだん「今度、やってみようぜ。実験すればホントかウソかわかるさ。・・・待てよ、でも降霊術をそのまま試したんじゃ実験にならないな・・・ファラデーはどうやって調べたんだろう」
ひろじ「ファラデーは板と板の間にローラーを挟んだ装置を作って、ほんのちょっとの力でも板が自在に動くようにした。それを囲んだ人たちが手を乗せると、質問に応じて板が動いたんだ。降霊術なしでもね」
とっぴ「・・・誰かがわざと動かしてたの?」
ひろじ「いや。ファラデーは板が質問に答えるように動くのは、一人一人の筋肉の不随意運動だと見抜いたんだ。本人の意志とは無関係に、筋肉が反応してしまうという現象だね」
とっぴ「へええ!」
ひろじ「日本でも妖怪博士といわれた井上円了が【狐狗狸のこと】という本で、こっくりさんの秘密をファラデーの論法で説明している」
ろだん「すげえな。おい、とっぴ、こんどミオくんに頼んでファラデーを呼んでもらおうぜ。おれ、ファラデーに弟子入りする!」
とっぴ「ミオくん、気まぐれだから、どうかなあ」
 
あかね
あかね「わたし、ちょっと【心霊研究協会】って誤解していたみたい。創設メンバーは科学者ではなかったけど、研究に当たっては客観的な態度で臨んでいたのね。科学者たちが見抜けないウソを見抜いているんだもの」
ろだん「待てよ、態度はともかく、方法はどうかな。聞いた限りでは、ファラデーみたいに厳格な実験をしているとは思えないぜ。ノーベル賞をもらうような科学者だからって、霊媒を調べるときに科学的な方法を使っていたとは思えない。調べる対象は物じゃなく、人間だからな」
ひろじ「さすがろだんくん、鋭いところを付くね。彼らの調査は決して科学的とはいえない。霊媒が行う降霊術や千里眼を、霊媒が提示する条件のもとで行うのは、電子や電磁波の実験とは根本的に違う。科学の実験では、実験の条件を自在に変えることができるから、必要に応じて必要な種類の実験を追加して、謎の正体を探ることができるけど、心霊現象の研究は条件を自在にコントロールできないからね。そこに霊媒のインチキが入り込む余地が残されてしまう」
とっぴ「そっか、研究対象は・・・物じゃなくて、人間なんだ」
ひろじ「だから、物を対象としてきた科学者は、霊媒を相手にしたときには意外に簡単に騙されてしまう。電子や電磁波は、人間にウソをつかないからね」
あかね「そうねえ」
ひろじ「クルックスやリシェたち有名な科学者が騙された霊媒たちのインチキを暴いたのが他のメンバーや、奇術師のフーディニだったのが、象徴的かな。そうそう、アメリカの【ASPR】では、初代会長になった天文学者のニューカムが、創設メンバーの期待を裏切り、テレパシーを否定する論文をサイエンスに投稿して、一騒ぎあったそうだね。アメリカの方が、イギリスの本家より、ゴーストバスターズとしては、より過激だったのかな」
 
とっぴー
とっぴ「でもさ、それだけ真剣に心霊現象を研究し続けたのなら、何かほんの少しでも、それらしい結果は出なかったの?」
あかね「わたしも気になるわ。もちろん、わたしは否定派だけど・・・」
ひろじ「創設メンバーは精力的に活動し、ありとあらゆる心霊現象や超常現象に挑んでいった。事故や病気などで、創設メンバーは少しずつ減っていく。彼らが人生をかけて
研究した心霊現象の結果は・・・実りのないものだった。研究すればするほど、次々にイカサマとインチキが暴かれ、真実に違いないと思われる心霊現象の事例はどんどん減っていった・・・」
ろだん「・・・ツライな・・・」
ひろじ「これはぼくの印象なので、人によっては違う見方になるかもしれないけど、彼らは一生をかけて信じたものを真摯な態度で研究した結果、それが存在しないことを感じ取ったんじゃないかな」
 
あかね
あかね「・・・あの、ちょっとだけ、知りたいことがあるんだけど」
ひろじ「何?」
あかね「【SPR】の創設メンバーの名前を教えてほしいの。せめて、名前を知っておきたいと思って・・・」
ひろじ「イギリスの哲学者ヘンリー・シジウィック、詩人のフレデリック・マイヤーズ、心霊研究家エドマンド・ガーニー、ヘンリーの妹で数学者のエレナー・シジウィック。その妹はレーリーの妻で、弟はイギリスの首相になった。彼らがイギリスの本家【SPR】の創設メンバーだよ。アメリカの心理学者のウィリアム・ジェームズは【ASPR】の創設メンバーで、幽霊譚【ねじの回転】を書いた作家ヘンリー・ジェームズの兄だね」
 
ろだん
ろだん「【ねじの回転】なら読んだことあるぜ。幽霊から小さな子どもたちを守ろうとする家庭教師の話だよな」
ひろじ「意外といっては失礼だけど、ろだんくんはいまどきの高校生とは思えないくらい、いろんな本を読んでるね。そういえば、宮沢賢治の詩も知ってたなあ」
とっぴ「あれはぼくも知ってる。教科書にあったからね」
あかね「もう、今はそういう話じゃないでしょ。デリカシーがないわね」
とっぴ「あかね、ヘンだよ。最初はバカにしていたくせに」
あかね「今でも信じないわよ、心霊現象なんて。でも、挑んだ人たちの気持ちまで否定はできないもん」
とっぴ「でもさ、なんかわりきれないなあ」
ろだん「何が、だよ」
とっぴ「今でも、UFOとか、超能力とか、降霊術とは違うけど、似たような話はいっぱいあるじゃん。科学がこんなに発達した今の世の中なのにさ」
あかね「・・・」
 
むんく
むんく「それ、違う」
ろだん「え?」
むんく「科学はまだ、そんなには発達していない。だから、次々といろんなフシギが現れてくる」
ひろじ「ふうん、むんくくんは、おもしろい見方をするなあ。たしかにそうかもしれないね。科学の世界でも、常温核融合とか、重合水とか、フシギな幽霊が次々に現れては消えていってる」
とっぴ「真実を追究するのって、キビシイなあ」
ろだん「だから、おもしろいんじゃないかな。ファラデーなんて、科学の実験をいくらしたって、お金を稼げるわけじゃなかったんだろ。おれもファラデーみたいになりたい」
あかね「ろだんくん、今日はなんか、ステキ」
ろだん「よせよ。照れるよ」
むんく「ろだんが実験して何か見つけたら、ぼくが数式にしてあげるよ」
ひろじ「ファラデーとマクスウェルみたいに、タッグを組めるといいね」
とっぴ「あ、ぼくも混ぜて」
あかね「わたしも!」
ひろじ「じゃ、今日はこのくらいにしておこう。科学と非科学の狭間にあるテーマは、興味深いけど、扱いが難しいからね」
とっぴ「でも、また、来るよ」
ひろじ「・・・ミオくんに代理を頼もうかな・・・」


【註】電子と幽霊その1・その2のSPRに関するエピソードは主に【幽霊を捕まえようとした科学者たち】(デボラ・プラム)に寄りました。
※【電子と幽霊その1】は、本稿【その2】との関連で、初出の記事に大幅に追加修正を行いましたので、そちらと合わせてご覧ください。

 
 
 

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