一通り、静電場の世界を見てきましたが、もう一つ重要なことがあります。
静電遮蔽ですね。
イギリスのファラデーが考え出した電気力線は、静電気の現象を直感的に理解するには最高の武器です。
電気力線はプラスから出てマイナスに入る。
電気力線は導体表面に垂直になる。
電気力線は電荷の量に比例する。
ファラデーの見つけたこれらの性質を追うだけで、計算によらなくても静電気の現象はかなり理解できます。静電遮蔽は特にそうですね。
ぼくのプリントでは、静電遮蔽で一項目作ってあります。
なぜ、静電遮蔽にわざわざ授業プリントのスペースを割いているかというと、このあたりの内容が教科書で非常に乏しいからです。静電遮蔽は電場の知識で見直すことで、より理解できるようになりますが。教科書の例はごくわずかで、静電気の現象としてもっとも身近な落雷現象を取り上げることがありません。非常に残念なことです。
正しい知識があれば落雷で命を落とすこともない。
このプリントは、それを意識して作っています。
では、プリントをご覧ください。
3の導体表面の電荷分布についての知識は、高校、大学を問わず、いわゆる「教科書」にはほとんど書かれていません。
困ったものです。
電荷がお互いに押し合う結果、とがったところに電荷が集中するので、その周辺の電場が強くなります。
落雷との関係では最重要の内容になります。
NHKの古い科学番組「ウルトラアイ」で、落雷現象が特集されたことがありました。そのVTRはぼくも録画してあって、今でも使っていますが、残念ながら間違いも多い。
雷の高電圧では、人間の体も金属もほとんど同じ導体なのですが、そのへんがきちんと押さえられていません。
金属を持っているから雷が落ちるわけではなく、とがっているから落ちるのだ、という根本的な原因については、授業で話すしかないですね。
ときどき、ゴルフをしている人に落雷することがありますが、あれはゴルフクラブが金属製だからそこに落雷したのではなく、振り上げたゴルフクラブが尖っていたからなんですね。この辺の説明は、NHKの科学番組ではまったくなされていませんでした。
でも、このNHKの番組には一つだけいいことがあって、雷が落ちるときの様子を特別な技術で映像化しています。なんと、雷が落ちる人の体から、天の雲に向かって、「お迎え放電」と呼ばれるイオン流ができているという話です。
これは、尖端放電と同様な現象です。
尖ったところには、電荷が集中します。それは、電荷が押し合った結果なのですが、高校の教科書にはこの説明は載っていません。
電荷が集中した結果、尖ったところのまわりの電場もまた強くなります。
当然ながら、そのあたりの空気は強い電場の影響を受けて、イオン化します。そうすると、電荷の移動が可能になり、電流が流れる条件ができるんですね。
VTRでは、雷雲と人間の体から放電流が伸び、それがつながった瞬間に大電流が流れ「落雷」になるという説明がありました。
昔のアニメによくあった、天から降ってくる雷をひょいと避ける、というのが、不可能であることは、この実験を見るとよくわかります。
では、静電遮蔽を電場の知識で見直す内容をご覧ください。
こんな感じです。
2の静電遮蔽のしくみは、大切なので少し繰り返しておきます。
電場に導体を置くと、自由電子が電場から力を受けて移動します。その結果、導体の表面に電子過剰の場所と電子不足の場所ができ、負、正に帯電します。この新しく現れた電荷の組が作る新しい電場が、もともとの電場を打ち消すので、金属内部は電場0になります。これは金属の塊でなくても、金網のように電気的につながった箱ならまったく同様に生じる現象です。
3にあるように、導体の尖ったところには電荷が集中します。電荷同士が押し合った結果、尖った場所の電荷密度が高くなるのですが、その結果、そのまわりには電気力線が集中することになり、強い電場ができます。
金属屋根がある小屋は安全そうですが、危険です。
アース線の施工がなされていない手作りの小屋がありますので、気をつけてください。
屋根から地面に金属線が伸びているのが、アースです。本来は専門の技術を持った人が工事しないといけないことになっています。(当然ですね)
落雷については、これだけでは十分ではないでしょう。特に、木の下にいると危ないというのがわかりにくい。
木の幹は基本的に大部分が絶縁体でできています。水の通る導管は表面近くにあるので、そこだけ導体とも考えられますが、やはり基本的には絶縁体と考えた方がいいでしょう。
それに対し、木の葉は導体です。
すると、木は絶縁体の幹に導体の葉が乗っかった形になるので、ちょうど、アースのとれていない金属屋根の小屋と同じになります。
その下に導体の人間が立っていると・・・
落雷の問題の詳しい解説図をご覧ください。
なお、実際の雷雲の下側は負に帯電していますが、ここでは単純化するために正に帯電しているものとして描いています。本質的な部分は変わらないからです。
こんな感じですね。
電気力線を書いてみると一目瞭然。
「寄らば大樹の陰」は危険です。
なお、今でも落雷の事件を伝えるニュースで、身につけていた腕時計や金属に落雷があったというケースがありますが、明らかな間違いです。落雷があったとき、抵抗値のより少ない金属部分は大電流が流れ、当然ジュール熱も大きいので、金属を身につけていた肉体は焦げます。それを見て、そこに落雷があったと判断したものでしょうか。
落雷は導体の尖ったところで発生しますので、金属を身につけていなくても、まわりになにもない野原で突っ立っているのは危険きわまりない。
じゃあ、尖らずに平ぺったくなっていればいいと、地面に寝転ぶのはどうでしょうか。
これはこれで、危ない。
木などに落雷した場合、大電流が地表を伝って四方へ流れます。寝転がっていると、その電流の直撃を受ける可能性があるからです。
体を丸くして、尖らないようにする、というのは、結局、しゃがんだ姿勢をとる、ということになります。
でも、一番安全なのは、静電遮蔽された場所の中にいることですので、マイカーがあれば、その中に逃げ込むのが、もっとも安全ですね。
ただし、それもタイミングがありますので、気をつけてください。別記事「クルマに雷が落ちた」をご覧あれ。
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