読んだり観たり聴いたりしたもの -170ページ目

誰がどうやってコンピュータを創ったのか?/星野力

コンピュータサイエンスの専門家である著者が、すべて一次資料のみを当たってまとめ上げた、初期のコンピュータ=計算機開発史の金字塔。

現代文明がコンピュータを礎として築かれ、そして機能していることは、誰でも知っている。しかし、その偉大なる電子計算機を、我々はどのようにして得たのか。その開発史は意外にももやに包まれている。博識な人ならば、ENIAC・バベッジ・チューリング・ノイマンなどの単語が挙がるだろう、この混沌とした計算機開発史の初期である19世紀~20世紀中盤までの史実を、専門家が丹念にたどったところに大きな意義がある。

コンピュータの意義と歴史を再認識するのに有用というだけでなく、専門書ではあるが、「そもそもコンピュータとはなにか?」という疑問をもつ一般の方にも薦めたい。全くの素人だとしても大学教養程度の知識で十分読みこなせると思う。今この瞬間にもすぐ横で動いている、小さな箱の正体とその歴史を知ってほしい。

著者: 星野 力
タイトル: 誰がどうやってコンピュータを創ったのか?

M-1グランプリ2004 決勝戦/ABC

決勝の途中から観た。有名なM-1だが、実は観るのは初めてだった。

M-1!と力んだところで、結局多数の芸人がネタを繰り広げる以外に付加要素も無いわけで、通常のお笑い番組にくらべ、根本的に異なることはない。スポーツのような対戦型競技でもないし、その場に集めてリアルに延々と芸を並べてから審査する意味がどれほどあるのか分からない。視聴者にとってはネタが観られればどっちでも良いわけで、ライブで対戦というプレッシャを与えて、よれた芸を見せられるぐらいなら、録画の方が幾分マシかも知れない。めいめいの芸人が、今年一番というネタの収録ビデオを持参して競えば、また面白いのではないか。
何らかの雰囲気を味わいたい、という要求が視聴者にも、きっとあるのだろう。

優勝はアンタッチャブルだった。コンビ結成から10年目は、出場資格のリミットらしく、その最後のチャンスに優勝をつかんだとのことだった。

とりあえず、彼ら以外の芸人は、勢いもパワーもイマイチだったので、この審査結果は納得だ。ところで、各審査員が100点の持ち点を、1点単位で評価し、その合計で競う方式だったのだが、1点単位とは細かいものだと思った。

審査員の小朝も指摘していたが、場に飲まれてか、芸のテンポが速い。速すぎてかんだり、間違えたり、せっかくの間が消えてしまって、面白さを損ねていると感じたコンビが多数いた。特に麒麟や笑い飯など上位に食い込んだ連中は、みな、テンポが悪くなっていたので非常に残念だ。もともとテンポの速いアンタッチャブルは、そのへん有利だったのかも知れない、と今更ながら思った。

普段あまり芸能番組を観ないので、初めて見る芸人も何組かいた。準優勝(?)した、南海キャンディーズもその一組で、初見だった。非常に興味深いコンビだった。ネタもそこそこ面白かった。低い声でぼそぼそしゃべる天然女性ボケに、ソフトに高音でつっこむ男性という取り合わせは珍しいのかも。ただ、こんな雰囲気はどこかで見たなと、よく考えてみたら、つっこみ具合がちょっとキングオブコメディーに似ている、と思い当たった。奥さんは、飛び石連休に似ていると言っていた。それも言えているかも知れない。また観たいと思うコンビだ。今後に期待したい。

地球大進化/NHK

昨夜、総集編らしき回を見た。
実は総集編だとは知らず、新しい話題があると思っていたので残念だった。総集編ならそれでもいいが、番組中で山崎努の心配をじっくり検証するような構成があっても良かったと思う。

それも、人為の及ばない脅威について映像をつくってくれたら面白かったろうとおもう。番組中では、CO2排出にちらっと触れただけだった。しかし、その時代の覇者は必ず滅ぶ、という理を持ち出しておいて、人間について語る際に、「奢り」と「CO2」のみでは、いくらなんでも寂しい。人為に限っても温暖化より人口問題の方がよほど深刻な筈だし、人為の及ばない、小惑星衝突、氷河期からはじまって、海洋蒸発、太陽寿命、はてはヒートデスまでいくらでもよりどりみどりだろうに。

時代の覇者は必滅である、という理に対して、人間には言語がある、文明がある、という主張もどこか歯切れが悪い。人間の生物学的進化の話が、社会的に微妙な問題を多数含むものであったとしても、それに全く触れないのもどうかと思うし、いまだ人間が弱者たり得る宇宙という名のフロンティアの存在について全くコメントがないのはどういう訳なのだろうか。

結局は番組の主眼が違うのだ、ということだが、一応感想だけ書いてみた。

尚、この番組内容の分野に興味がある人には、若干専門書寄りになってしかも地学中心ではあるが「全地球史解読」が大変面白いと思うので、お薦めしておく。この本の内容は、またそのうち書こうと思う。

著者: 熊沢 峰夫, 伊藤 孝士, 吉田 茂生
タイトル: 全地球史解読

地中生命の驚異―秘められた自然誌/D・W・ウォルフ

2004年1月17日読了。

最近は「進化」を知らない小学生もいるようだが、普通、我々人間は進化の最先端であり、この地球を支配していると認識しているものだ。むしろ、そうしたことを考えることすら必要ない立場にいるのだ、とする指摘もできよう。

しかし、生命の本質には、いまだ誰も触れたことがないのだ。我々が頂点である、と言い切る根拠は、本人たちの儚い願望を除いては、どこにもない。

例えば、生命の支配者たる資質を、繁殖により増加したそのタンパク質の総量をもって決するのなら、現在の地球上では支配者はウシである。人間という種が、ウシの生殖をひたすら合理的にサポートする為に進化した下僕であるのではないかと言う疑問が浮かんだとしても、倫理などという身勝手な理屈にたよらねば、合理的にそれを排除することはできないことは明らかである。

しかし、このような議論すら、釈迦の掌の上の遊びだったと思わせる内容が、この本には書いてある。

地球の薄皮の上に張り付いている生命などは飾りに過ぎず、本当に生命が栄えているのは、広大な地中においてではないのか?こうした疑問を生み出すような発見が、近年相次いでいるのだ。現在、地中生命の質量の総量は、地上生命に匹敵もしくは凌駕すると見積もられている。こうした地中生命に関する調査研究はまだその緒についたばかりだが、その一端に触れるだけでも非常に興味深い。

人間社会がもたらす環境破壊に対して、地球環境を守るなどという大風呂敷を広げても、無意識に意味のない優越性が漂い、本気に取り組む人も少ないのではないか。むしろ、もっと的確に、人間の生存環境を死守しよう、とすべきだろう。人間という種は決して地球生命の支配者などではないし、生命全体から見ればわずかな表層のいくつかの種を道連れに人間が絶滅することはあっても、生命を根絶やしにするなどと言うことは、このか弱い進化した猿ごとにきは不可能なのだから。

著者: デヴィッド・W. ウォルフ, David W. Wolf, 長野 敬, 赤松 真紀
タイトル: 地中生命の驚異―秘められた自然誌

朽ちる散る落ちる/森博嗣

2004年1月7日読了。

森ミステリーVシリーズの9冊目。Vシリーズ自体の感想は、またに譲ろう。

帯のキャッチが「地下密室+宇宙密室」となっている。宇宙密室というのもまた微妙な言葉だ。

前作にある土井超音波研究所での事件の続編という形になっている。事件解決からしばらくたった後、という設定だった気がする。

この話では、珍しく、かなり濃厚にスパイ小説のような展開が描かれる。ひょっとすると好き嫌いの分かれるところかも知れないが、割合面白く読めた。
これまでのシリーズや短編などで描かれた人物や設定が、次作のシリーズ最終巻に向かって収斂してくるような、そんな気配を感じさせる作品だ。

そのため、順番に読んできた愛読者には、シリーズを通しての謎(?)をいろいろ推理する楽しみが与えられる。このシリーズって、もしかして…なのでは?!と気づく楽しみが与えられるのだ。でも、あの話では…と書かれていたから、そんな訳無いだろう。いやまて。と、シリーズファンが2人も集まればいくらでも時間をつぶせるだろう。

本書の、本当の殺人ミステリー部分は、ほとんど肩すかしだろう。しかし、そんな事は気にせず、おおらかに楽しめばよい作品である。殺人ミステリー部分は、無理に存在しなくてもよかったかもしれないが、まあ、合っても気にならない程度だ。これはVシリーズ共通の感想でもある。Vシリーズはお話部分を楽しむ小説であって、ミステリの存在は、きっと何らかの古き契約の履行なのだろう、と思うことにしている。もしくは、表現に制約を課すことによる型式芸術なのかも。

著者: 森 博嗣
タイトル: 朽ちる散る落ちる

13leaves/fra-foa

fra-foaはボーカルの三上ちさ子を擁する仙台出身の男女4人のバンド。その2ndアルバム。2004年末現在、バンドは活動を休止し、メンバーは主にソロ活動をメインに行っている模様。ファンクラブの募集を停止しているところを見ると、ライブなどを除いてfra-foaとしての活動再開の予定は無さそうだ。

このアルバム収録曲でもっとも好きなのは、3曲目の「blind star」。

このバンドを知ったのは、2000年暮れ頃だったか、PopJamに出演した時が初めてだった。演奏したのは、1stアルバムに収録の、「澄み渡る空,その向こうに僕が見たもの。」多分、fra-foaでもっとも有名かつ人気のある曲では無いだろうか。聴いた時、背中がゾわっとした事をよく覚えている。決して洗練された音楽ではないし、当時の歌も演奏もそううまくはなかった。とても荒削りだったが、とても琴線に触れた。ストレートで痛々しく青臭い「何も分かっちゃいない若造の」詩だったが、それゆえ素直な言葉にぐっと来た。三上の振り絞るような歌い方もマッチしていた。程なくして1stアルバムを購入したのだった。

2ndアルバムになって、楽曲と演奏が、前作から比較にならないほど洗練されていた。青臭さが抜けた分、メッセージ性は落ちただろうが、音楽性は遙かに高まったので、自分としては此方の方が好みでよく聴く。

しかし、その2ndアルバムでも、もっとも青臭くメッセージ性が強い「blind star」がお気に入りな訳なのではあるが。聴くたびに、これほど力づけられる歌も珍しい。もちろん聴き手の好みが非常に影響するとは思う。

悲しみは過去に捨ててきた
痛みなど忘れてしまった
日々新しい私で歩いていこう

このサビを聴いてどう思うか。格好いい!これが第一印象である。よし俺も、という気分になるかどうか。基本的に単純なので、前向きな意志が好きなのである。それも、辛いけど頑張ろう、悲しみを乗り越えよう、などという百凡の詩とは訳が違う。創作の名に値する痺れるような超越性。逆に、こうしたものが割り切れない人にはお薦めできない歌だろうが。

アーティスト: fra-foa
タイトル: 13leaves

生涯最高の失敗/田中耕一

2004年1月8日読了。

ノーベル化学賞受賞者でかつサラリーマンの自伝および講演録とインタビューで構成された本。時の人となった著者の、数ある紹介本との決定的な違いは、自著である、と言う点。美化するでもなく、上っ面をなでるだけでもなく、著者の本音が静かに語られる。

いきなりスポットライトの元へ放り出された一主任の、ノーベル賞どたばた顛末記も面白いが、著者の心情変化と受賞を機に生まれる決意が胸を打つ。

生涯一技術者。その言葉に込められた、我々の技術が社会を動かしているんだという理系技術者の矜持と、そして純粋に科学技術に対する愛と信頼が、静かに伝わってくるのだ。

著者: 田中 耕一
タイトル: 生涯最高の失敗

うる星やつら/高橋留美子

超有名な国民的少年(?)漫画。

読み返すと、初期にはかなり生々しい描写や表現が多い。この辺の初期からずっとサンデーで連載していたのだろうか?それとも四半世紀の間にサンデーの対象読者が変わったのか。ともかく、中学生になり、サンデーを購入し始めた時には、連載は終了していた。だから、むしろリアルタイムに体験したのはアニメーションであり、原作を通読したのは、ワイド版が出版された高校生時代だった。

この長期連載のなかで、かなりタッチが変化していく様が面白い。初期の絵柄は、青年誌っぽい。デビュー作「勝手なやつら」から継承するタッチだ。(ちなみに、このデビュー作は確か、小学生の頃ビックコミックかなにかで読み切りで読んだ覚えがある。うる星やつらのタイトルは、当然これにちなんでいるのであろう。ちなみに、内容はタイムスリップもので、あまり関連は無さそうだ)
そして、だんだんと洗練されたタッチになっていく。うる星やつらの終盤あたりのタッチがもっとも好きだ。そして、その後らんまなどを通して、タッチの変化は続き、どんどん「かわいさ」を得てくる。それが、このワイド版のカバーの絵柄なのであるが、ここまで行ってしまうと、子供っぽさが強く、好き嫌いが分かれるのではないだろうか。

ストーリーとプロットについて、よくこれだけ様々な着想を得られたものだとストレートに感心する部分と、よくこれだけ同じパターンのマンネリを読ませる形に描けるものだと、改めて驚く部分がある。実はそれは逆で、きちんと型にはまっているから、飽きないのかも知れない、とも思った。

うる星やつらを思い浮かべると、なぜか、夏、それも夏の海辺、のイメージがが喚起される。当然「海が好き」ではあるのだが、それだけではなく、物語の端々に海の出てくる話が確かに多かったと思う。

著者: 高橋 留美子
タイトル: うる星やつら (1)

つくられる命 AID・卵子提供・クローン技術/坂井律子他

2002年5月放送「NHKスペシャル・親を知りたい」の取材をもとにした本。

医療技術・生殖技術が進歩してゆく中、新しく生まれてくる問題とは何か。
配偶者の一方に生殖機能障害があった場合でも、それを一部補う技術が存在し、実社会で広く施術されている。日本でもAID(非配偶者間人工授精)によって生まれた子供は、数十年にわたり、すでに1万人を超えているという。

では、何が問題なのか?
1.AIDによって生まれた子供は、出自を知らされない場合が多く、自らのルーツを知る機会を失う。
2.1.と同様の理由のため、自分の遺伝情報を失う。つまり、例えば、ガンができやすい家系だからそれに備える生活を行う、などという事が不可能になる。高血圧・肥満・その他遺伝病などについても同様。
3.AIDであることを知った時、自出を隠されていたと言う思いが、親に対する信頼関係を損ねることがある。
4.結婚を考えた時、たとえどれだけ少なくても、相手が自分と血縁的に近い可能性を、常に恐れなければならない。これは、AID児の子供も同様である。

海外の取材などを通じ、AID児の自出を知る権利とドナーのプライバシーのせめぎ合い、そうしたせめぎ合いの中でのドナーシステムの存続について教えてくれる本である。

前半、取材を通して妙なエピソードを紹介している部分もあるものの、こうした生殖医療がもたらす社会問題の現状について知るには、割合良い本だと思う。特にAID児の結婚問題などは、指摘されるまで全く気が付かなかったので、そうした知識が得られたのは良かった点だ。

著者: 坂井 律子, 春日 真人
タイトル: つくられる命 AID・卵子提供・クローン技術

PS/トゥームレイダース

リクエストにより書く。プレイしたのは、たしか99年頃。週末の数時間のこつこつプレイで、2,3ヶ月かかってクリアしたはず。

以前から評判を聞いていたので、中古を入手してプレイしたのだが、全く噂通りの良作だった。こんなに、冒険をした!という気分にさせてくれるゲームは、後にプレイするこのシリーズの続編を除いては、見あたらない。

主人公レイラ(後に版権の関係でララに変更)の後頭部の後ろから眺める視点で、3D空間を縦横無尽に駆け抜ける爽快さ。奈落の底をのぞき込む恐怖。謎を解く手がかりを探し回る焦り。動き出す罠や仕掛けを避けるべく、必死で操作する緊張感。襲い来る巨大な敵との死闘。とにかく圧倒的な冒険としか表現できないものが、そこにはあった。

このゲームで良かったポイント。
1.3D空間としての冒険フィールド。例えば、中盤、ポセイドンの間(?)で高所から足を踏み外し落下する瞬間に肝を冷やした人は多いだろうが、こうしたリアルさを感じさせる空間で、ジャンプとよじ登りだけで踏破してゆく達成感。息の続かない水中迷宮で解錠スイッチを間一髪で発見する。遠く高くかすんでおぼろにしか見えない目的の場所へたどり着くため、あたりを見渡し足場を捜していく。こうした行動に説得力があった。ドット単位ではなく、2m立方程度の大きなブロックを基本にした構造は、絶妙な操作の容易さと難しさのバランスを生み出している。そしてそのブロックの粗さを感じさせない所もすごい。
2.適度な謎。お子様向けでもなく、不親切に難しすぎもしない、適度な難易度。3D空間を使った迷路と解錠スイッチなどのトリックが基本だが、自分がチェスの駒になったかのような巨大な舞台をつかった仕掛けなどが楽しい。
3.適度なアクション。しかも、一瞬の操作ミスが命取りになる緊張感。セーブが随時ではなく、セーブポイント制なので、自力でクリアするしか道はなく、何度も挑戦するわけだが、とうとうその罠をクリアできた時は、その分本当に嬉しかった。銃器による攻撃アクションは、半自動なので逆に簡単だ。ライフゲージ制なので、敵の攻撃を受けても一撃で死ぬことはほとんど無いが、ボス級の敵の攻撃では瞬殺されることもあるし、落下や罠などではしばしば即死する。そしてその死に方がまたかなりむごい。
4.ムダのない音楽&効果音。BGMはほとんど無い。シリーズを通して、この、音無世界でのストイックな冒険感がとてもすばらしい。そして、普段音がないからこそ、要所で入る音楽の、そのゲームを盛り上げること盛り上げること。近づくとともに、神秘的な音楽の響きが流れだし、遠景から浮かび上がる巨大構造物に思わず鳥肌が立つ。
5.ストーリー。終盤、ややSF臭を増すものの、一貫して考古学アドベンチャーの世界観を保つストーリーは秀逸。シオンの謎はなかなか印象に残る。

当然PSの処理能力を考えれば、今から見ればお粗末な画面に思えるかも知れない。しかし、遊ぶには十分。ただ、残念なことに、結構プレイする人を選ぶゲームのようで、操作感やゲームシステムなどで、割合好き嫌いがはっきり分かれるようだ。

個人的にはシリーズの2の方が好きなので、いつかそちらを書こう。

メーカー: ビクターエンタテインメント
タイトル: トゥームレイダース