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音楽に映画たまに美術、そして読書三昧のブログです

名フィル/市民会館名曲シリーズ・ベートーヴェン・プラス Ⅲ

 

曲目/

C. P. E. バッハ:シンフォニア ヘ長調 Wq.183-3(H.665)*

ベートーヴェン:交響曲第8番ヘ長調 作品93
ベートーヴェン:交響曲第7番イ長調 作品92


■ロビーコンサートのお知らせ

18:15より、1階ホワイエにてロビーコンサートを行います。

 

 

[出演]

小泉悠,瀬木理央(ヴァイオリン)、北島明翔(コントラバス)

[プログラム]

J.S.バッハ:カンタータ『おしゃべりはやめて、お静かに』 BWV 211より「ああ!なんてコーヒーはおいしいのでしょう」
 テディ・ボーア:バッハ・アット・ザ・ダブル

 

今回もロビーコンサートがありました。一応トップにはバッハの「コーヒーカンタータ」BWV.211より「ああ!なんてコーヒーはおいしいのでしょう」が演奏されました。ただし、今回はこちらがメインではなく、次のテディ・ボアの「バッハ・アット・ザ・ダブル」が本命でした。まあ、聴いてみてください。こんな曲です。

 

 

 パロディーの元ネタは、バッハの2本のヴァイオリン協奏曲 ニ短調。それをまるで悪ふざけをするかのごとく、スイングして演奏したりと、こんなアンコールピースがあっても悪くないでしょう。こんな、楽しい曲がコンサートのプロローグを彩りました。

 

 
 さて、これが最初のステージ構成です。指揮台ではなくチェンバロがステージ中央でステージ台の上に鎮座していて、演奏者用の椅子はありません。今回の指揮者は大井駿。ピアニストでもあり、古楽のフィールドでも活動を繰り広げる新進気鋭の音楽家で、立ったままで指揮をしながらチェンバロを弾くというスタイルを取っていました。リハーサルではちゃんと椅子に座って演奏していたようですから急きょこういうスタイルになったのでしょう。なを張り付けた映像でも指揮者は立ってチェンバロを演奏しています。もっとも、全員立って演奏しているんですけどね。
 

 

大井氏のプロフィールです。

1993年生まれ、東京都出身。

2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール優勝。
2025年、第21回ハチャトゥリアン国際コンクール指揮部門第2位、古典派交響曲ベストパフォーマンス賞。

パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽科、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科、同大学ピアノ科・指揮科修士課程、バーゼル・スコラ・カントルム大学院フォルテピアノ科卒。2018-20年度ヤマハ音楽奨学支援制度奨学生、2023年度ロームミュージックファンデーション奨学生。

指揮者・ソリストとして都響、読響、東フィル、大フィル、広響、モーツァルテウム管弦楽団、マイニンゲン宮廷楽団など国内外のオーケストラと共演。

暖かい季節はキャンプとスキューバダイビング、寒い季節はスキー、そして1年中天体観察をしている。

 
 バロック作品としてはやや大ぶりの編成ですが、指揮者の相性からしてこの作品が一番生き生きとした演奏でした。この作品はは対比と表現力豊かな 3楽章構成の作品です.第1楽章 (ヘ長調) は三部形式で,華やかで短い導入に続き,情熱的な主題が展開されます.フルートが叙情的な対照的モチーフを奏で,発展部では短い「宣言」のようなフレーズが音楽の流れを妨げ,強弱の対比や急激な休止が緊張感を生みます.主題の再現後,不協和音の遷移で次の楽章へと繋がります.第2 楽章 (ニ短調) は短く重々しい単一主題であり,ヴィオラとチェロが悲劇的な旋律を奏で,「疾風怒濤(Sturm und Drang)」の影響が色濃く表れています.暗い雰囲気の中,調性の変化とともに次の楽章へ進みます.第3楽章 (ヘ長調) は主題と自由な変奏形式であり,優雅で舞曲風の主題が提示されます.展開部では,強弱の対比や転調,装飾音が用いられ,最後は力強いコーダで華やかに締めくくられます.
 

 

 続いて演奏されたベートーヴェンの交響曲第8番は、ステージはそのままの編成でしたからこちらに合わせていたのでしょう。ただ、最近のべートーヴぅンの演奏はどれも金太郎あめ的な演奏ばかりで、最新のベーレンライター版の楽譜を使いながらも、テンポはメトロノームにのっとった早い演奏ばかりになっています。これならピリオド楽器による演奏と変わりないもので、何も編成の大きいオーケストラでやる必要はないわけで、今回の演奏もこれも一つの流れと取れるリピートはすべて繰り替えすスタイルにはなっていましたが、どうにも一本調子でした。

 

 後半は交響曲第7番でしたが、こちらも性急としか思えないテンポで第1楽章から、ぐいぐい飛ばしていきます。せっかくフルオーケストラを使うのですから、ピリオド様式のせわしない演奏ではなく1980年代までのじっくりと落ち着いたテンポでのベートーヴェンを聴きたいものです。最近はベートーヴェンの作品があまり演奏会で取り上げられなくなったのもこういうところに原因があるのではないでしょうか。

 

こちらは規模を拡大した編成での演奏でした。

 

 
 それだけに大音響は響きますが、全体としては空虚な演奏で、アンコールの拍手もそこそこに退出する人が大勢いました。小生もその一人ですがね。

 

ストコフスキー

シェエラザード

 

曲目/

リムスキー=コルサコフ/交響組曲「シェエラザード」作品35

1. 海とシンドバッドの船    10:04

2. The Story Of The Kalendar Prince    11:42

3. The Young Prince And The Young Princess    11:53

4. Festival In Baghdad, The Sea, The Shipwreck, Conclusion    12:09

リムスキー=コルサコフ/「スペイン狂詩曲」作品34*

1. アルボラーダ(朝の歌)    1:20

2. Variazioni. Andante Con Moto    4:52

3. Alborada. Vivo E Strepitoso    1:24

4. Scena E Canto Gitano. Allegretto    5:13

5. Fandango Asturiano    2:58

ボロディン/歌劇「イーゴリ公」より,ダッタン人の踊りと合唱**    11:17

 

ヴァイオリン/エリック・グリューエンバーグ

指揮/レオポルド・ストコフスキー

演奏/ロンドン交響楽団 

        ニュー・フィルハーモニー管弦楽団*

        ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団、ウェールズ国立歌劇場合唱団、アンブロジアン合唱団**

 

録音/1964/09/22 キングスウェイ・ホール

   1973/07*

         1969/06/16,17**

P:トニー・ダマート

 レイモンド・ヒュー * **

E:アーサー・リリー

DECCA 417753-2

 

 

 ストコフスキーは好きな指揮者で「シェエラザード」もレコードで所有していましたが、CD時代になってほとど処分してしまいました。これもそんな一枚で、CD化されておまけもついていたので乗り換えました。1990年ごろに発売されたものですでに72分以上の収録時間を誇っていました。名盤として誉れ高い録音ですが今までこのブログでは取り上げていませんでした。手元には93歳で録音したロイヤルフィルとの1975年録音も所有していますが、そのスタイルの違いは一目瞭然です。まず冒頭のテンポが違います。そして、トロンボーンでサルタンの主題を高らかに歌い上げています。まるでストコフスキー編曲の「シェエラザード」といっても差し支えない演出で、千夜一夜の物語が始まります。これはデッカの「フェイズ4」に録音されたもので、通常のデッカの録音スタッフによるデッカツリー方式による録音ではなく、20本以上のマルチマイクを使った収録で各楽器が生々しく響きます。往々にしてフォルテでは音が玉砕し歪んでいるのもこの「フェイズ4」の特徴の一つです。それでも当時としては生々しい音の洪水はストコフスキーが望んだものでしょう。そして、ここでヴァイオリンのソロをとっているコンマスのエリック・グリューエンバーグもオーケストラをリードしながらも自らもシエエラザードの主題を楽しんでいて、その主題の最後の音をオクターブ上げるという遊びで答えています。

 

 この「シェエラザード」は決してファーストチョイスではありませんが、「アラビアンナイト」の世界をどっぷりと楽しむのならこの演奏は外せません。

 

 

 次の「スペイン奇想曲」はストコフスキー唯一の録音です。ただね映像としては、病気のフリッツ・ライナーの代役でストコフスキーがシカゴ交響楽団を指揮をしたテレビコンサートの映像が残っています。信じられないかもしれませんが、この演奏はストコフスキー80歳の誕生日の3か月半前に録画したものです。セッションという事でそのテンポよりはやや遅めですが、特徴的なのは「アクセント」をはっきり演奏していることです。

 

 

 最後のボロディンの「ダッタン人の踊りと合唱」もセッションとしては唯一の録音です。ここでも、ストコフスキー水んらの編曲版で演奏されています。この編曲の絶妙なこと!個々のテンポの落とし方入念な節回し、テンポアップの対比もストコフスキーの真骨頂でしょう。ラスト熱狂的な声楽とオーケストラの掛け合いもお見事な一大絵巻物風編曲になっています。このCD初めてCD化されたもので、ストコフスキーのだいご味を満喫できるのもうれしいところです。

 

 

下はLPレコードです。

こちらはCDです。

 

 

第5回名古屋市教育文化祭

高 校 展

 

 名古屋市の「市民ギャラリー栄」で「第5回名古屋市教育文化祭 高校展」が開催されているので出かけてきました。この催し、名古屋市立の高校だけに限定されています。これは先月愛知県芸術文化センターで開催された「令和7年度アートフェスタ ―愛知県高等学校総合文化祭―」と対をなすものです。ただ、県のイベントは舞台や音楽といった分野も包括していて名前の通り総合文化祭です。言ってみれば前視聴と県知事との対立の影響である名古屋市と愛知県の対立の名残みたいなものですが、どうせなら来年度からは統一してやってもらいたいものです。ただ、今年も名古屋市立でありながら一部の市立高校もはこの県のイベントにも参加していました。その代表格が名古屋北高です。下はその県のイベントで陳列された時の様子です。

 

 

令和7年度アートフェスタ ―愛知県高等学校総合文化祭―での陳列

 

 で、改めて名古屋市教育文化祭です。

 

 

 この催し、書道、美術、ハンドメイド、写真の4分野に限られているのも何だかなぁと思いますが、今回は5回目が開催されています。

 

書道会場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

味のある写真です、市工芸

 

幻想的に見えます、市工芸

 

何処のタワーなんでしょう?もう電波は出していないようです。

 

岡山県の「鬼ノ城」です。山至弘ですが歴史書には登場していない不思議な城です。

 

この夏に「みなと祭り」で上がったジャズ花火

 

こちらは「常滑りんくうビーチサンセット花火」

 

2台のバイクと後方の街のコントラストが見事です

 

ホグワーツの城でしょうか?

 

こちらはジブリパークの入り口にあたる時計塔です

 

映画のロケでもよく使われる名古屋市役所のエントランスの階段です

 

ミロのビーナス」の背後からのショット

 

imageimage

高校ごとに展示されています。

 

脈々茂色を変えるとイメージが違います

 

これが一年生の作品です。来年が楽しみです。

 

平面的なイラストでありながら立体感があります

 

段ボールドラゴン

 

次からは圧巻のボリュームを誇る「北高」美術部の作品の数々です。

 

 

 

焦土に花を咲かせましょう

 

移り行く戯れ

 

 

県の展示でもみられた作品

 

 この北高については昨年もそうでしたが「ART CLUB通信」なる新聞を発行しています。普通科高校にしてはハイレベルです。

 

 

 行政ともコラボしていて、北高のある楠地区は合併70周年とかで、彼らが描いたラッピング市バスも如意車庫を起点としたルートで毎日走っています。

 

 

 

宙を舞う 神の仕業で人生が変わる? 菊里

 

 

 

段ボールアート 怪獣ミッチー  名東

 

 

名古屋飯ポスター  若宮

 

郡上の鯉  緑

 

陶芸勢ぞろい  緑

 

 今週日曜日まで開催されています。

ヘンゲルブロック

ヴィヴァルディとバッハ

 

曲目/

ヴィヴァルディ 

1.歌劇「オリンピアーデ」 序曲(Sinfonia) ハ長調 RV725    5:45

バッハ /管弦楽組曲 No.4 ニ長調 BWV1069 *

1. Overture    11:55

2. Bourree 1 & 2    2:55

3. Gavotte    2:00

4. Rejouissance    2:26

ヴィヴァルディ 弦楽のための協奏曲 イ長調 RV.158 

1. Allegro molto    2:27

2. Andante molto    1:59

3. Allegro    3:11

バッハ /カンタータ No.42「されど同じ安息日の夕べに」 BWV42 - 1. Sinfonia *   6:42

ヴィヴァルディ 協奏曲集「調和の霊感」 Op.3 No.10 ロ短調 RV580 (4vn,vc) 

1. Allegro    3:29

2. Largo - Larghetto - Adagio - Largo    2:06

3. Largo - Larghetto - Adagio - Largo3. Allegro    3:07

バッハ 3つのヴァイオリンのための協奏曲 BWV1064 

1. Allegro    6:04

2. Adagio    6:11

3. Allegro    4:06

 

指揮/トーマス・ヘンゲルブロック

演奏/フライブルク・バロック・オーケストラ

 

録音/1992.IX.11-15 Maria Minor, Utrecht

        1991/02/10-15   Ausenkirche, Berlin *

E: フランシス・エッカート、ヴェルナヘ・ビスチェク

DHM  88697281822 -8

 

 

 

 ヴィヴァルディ(1678~1741)とJ. S. バッハ(1685~1750)は、ほぼ同時代に生きていました。この二人の作品をヴィヴァルディ→バッハ→ヴィヴァルディ→バッハ→ヴィヴァルディ→バッハと、交代で登場させようという企画のディスクです。今から300年近く前、バッハは初めて見たヴィヴァルディの譜面に息を飲みます。「イタリア体験」というカルチャーショックでしょう。オランダに留学していたヨハン・エルンスト公子が持ち帰った様々なスコアの中にそれはあったという。公子からヴィヴァルディの協奏曲を鍵盤楽器用にアレンジするよう依頼を受けたバッハは即座にその仕事を請け負い、ヴァイヴァルディ研究に没頭しました。歌劇「オリンピアード」序曲を聴いて考えます。緩急織り交ぜて、愉悦と悲哀が錯綜する。物語解らずとも、その音楽が歌劇のすべてを象徴するように響きます。先輩のヴィヴァルディと比べても古めかしく感じる。演奏効果を狙った曲を繰り出していたヴィヴァルディが、何だかポップミュージックのように感じられるように鳴ります。

 

 

  ヘンゲルブロックの演奏は、バッハの管弦楽組曲4番ではトランペットとティンパニのない初版によっています。いつも聴く華やかな印象とは全く異なるもので単独の作品として聴くと全く別の印象になります。その第一楽章です。

 

 

 ヴィヴァルディ「弦楽のための協奏曲」は単に「シンフォニア」と呼ばれることもあります。ヴィヴァルディの調和の霊感第10番は、バッハによって「4つのチェンバロのための協奏曲 イ短調 BWV1065」に編曲されたことでも知られています。


 

 

 

 バッハ /カンタータ No.42「されど同じ安息日の夕べに」BWV42からのシンフォニアです。

 

 

 演奏をしているフライブルク・バロック管弦楽団(Freiburger Barockorchester)は、ドイツの古楽器オーケストラで、1987年の設立からこのオーケストラの音楽監督を務めたのが古楽のみならず芸術広範に深い造形をもつヘンゲルブロックです。数々の優れた録音がある中で、本盤は特に目立つものではないかもしれませんが、レパートリー的にはもちろん彼らのメインとなる楽曲であり、活力に富んだサウンドを繰り出しています。テンポはいわゆるピリオド奏法に従順な速さを維持したもので、冒頭のオリンピア序曲は、ヴィヴァルディらしいバロック的な重さと、シンフォニックな幅のある響きが印象的ですが、全般に足取りの速い軽やかさで、淡々とした表現でまとめています。バッハの管弦楽組曲は、木管楽器の印象が支配的で、特有の柔らかい肌合いが感じられます。

 いずれの楽曲でも、同等のアプローチであり、作品の個性を強調するような方向性を与えず、むしろ全体的な均衡性の美観に貫かれていることは、当盤に限らず近代のピリオド奏法に共通の事項でしょう。しかし、まずはこのオーケストラの高い技術を堪能するのに、十分な内容になっています。

 

 自分にないものを徹底的に吸収しようとする貪欲さがある意味バッハの音楽を作ります。また、バッハが4台のチェンバロ用に編曲した4つのヴァイオリンのための協奏曲「調和の幻想」作品3-10にみる憂愁と憧憬。原曲の持つイタリア的光と翳は、ヴィヴァルディの才能を見事に表出しています。均整のとれた彫像の如く美しいものになっています。

 

 

 

 

 最後に収録されているバッハの「3つのヴァイオリンのための協奏曲」は、バッハがこの楽曲から編曲したとされる「3台のチェンバロのための協奏曲 第2番 ハ長調 BWV1064」のスコアに基づいて復元されたもので、BWV番号も復元を示すRが付いています。楽曲としては、やはり最後に収録された2曲の聴き味が大きく、颯爽とまとめた直線的なスタイルの中で、細やかなバロック的風合いを醸し出した貫禄を感じさせる演奏となっています。

 

 

 

 

 

 

クイケン/音楽の捧げ物

 

曲目/

音楽の捧げもの BWV1079 [王の命令で曲-テーマ-とその他のものがカノンに解決せられた]
1) 3声のリチェルカーレ
2) 王の主題による無限カノン
王の主題による各種のカノン
3) 2声のカノン (蟹のカノン)
4) ヴァイオリンのための2声のカノン
5) 2声の反行カノン
6) 2声の反行の拡大カノン
7) 2声の1全音上昇カノン (螺旋カノン)
8) 6声のリチェルカーレ
尋ねよ、さらば見いださん (謎のカノン)
9) 2声のカノン
10) 4声のカノン
トリオ・ソナタ (フルート、ヴァイオリン、通奏低音)
11) 無限カノン (フルート、ヴァイオリン、通奏低音)

バルトルド・クイケン(フラウト・トラヴェルソ)
シギスヴァルト・クイケン(ヴァイオリン)
ヴィーラント・クイケン(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
ロベール・コーネン(チェンバロ)


録音:1994/02/22-25 オランダ,ハーレム,ドープスヘヅィンデ教会
P:ジョン・ホーフェンマン

E:ニコラス・パーカー

 

DHM  05472 77307 2

 

 

 

 J.S.バッハの曲の中で特殊作品として「フーガの技法」と共にひときわ光彩を放っているのが「音楽のささげもの」です。プロイセンのフリードリヒ大王に献呈されたことでも、よく知られています。演奏楽器の指定がないなど、この曲への興味は汲み尽くすことができないとまで言われている魅力にあふれた作品です。ここ数年の恒例なので今年も年越しはこの曲で新年を迎えました。今年選んだ演奏は日本を代表するフラウト・トラヴェルソ奏者の有田正広氏を中心とするグループのものです。オーケストラではなく室内楽での演奏ですし、フーガの技法と並んで対位法技術を駆使した深い味わいの曲なので、一音一音が明瞭に響いてバッハの意図した響きが目の前に溢れます。

 

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                  フレードリッヒ大王の主題

 

 一曲目の「3声のリチェルカーレ」では、チェンバロの独奏により、これから何が出てくるか、という期待感でいっぱいにさせてくれます。大王の主題は半音階的で非常に斬新なものです。如何にバッハといえどもこの主題で対位法を駆使した即興演奏は難しかったのでしょう。音楽の捧げものは何処か謎にみちた展開で、聴く方もまるでミステリー音楽を聴いているような錯覚を受ける事があります。この演奏はそういう解決しないストーリーを一章づつ解き明かしていく謎解きのような面白さがあります。このリチェルカーレ然りで、チェンバロのゆっくりとした調べが既にその謎を提示しています。

 

 ピリオド楽器演奏開拓者として、ししてそれを志す人々の師として、今もなお精力的に活動を続けているクイケン三兄弟は、1974年にレオンハルトのリードのものでこの作品を録音していますが、本アルバムはそれから20年後の’94年、彼らと長年演奏を共にしてきたコーネンと自分たちが主体となって、心を新たに満を持して取り組んだものです。前作での発想の間違い(編成や解釈)を改め、数多い実演と透徹した研究から生み出された至高の名演を繰り広げています。現代のスタンダードといえる名盤です。

 

 このディスク、1994年録音というクイケン三兄弟のバッハ「音楽の捧げもの」の再録音です。フィリップスに1974年録音のチェンバロはレオンハルトでした。盤の魅力は新旧ともにトリオ・ソナタのバルトルド・クイケンの笛にあります。チェンバロはクイケン兄弟と共演を繰り返してきた盟友ロベール・コーネンに替わり、学研肌のレオンハルトが持っていた硬さはより柔軟なものに変わりっています。何しろ20年の間を空けての再録音です。ここでの発売はドイツ・ハルモニアムンディになっていますが、実際には背オン・レーベルになされています。同年、やはりレオンハルトを中心に編まれていたブランデンブルク協奏曲も再録音されました。古楽器の精鋭を駆使した前回の録音が76、77年。こうして再構成、検証がはじまったのも代替わりと、また新しい奏者の登場で曲に新しい光が当てられていることにほかなりません。兄シギスヴァルトのヴァイオリンは1700年製のG・グラチーノ、長兄ヴィーラントのチェロは1570年製のA・アマーティを使用しています。そして、バルトルドの使用楽器はA・グレンザーのワンキー・モデルで高音の軽やかさがこうしたロココ風の音楽には最適のトラヴェルソと言えるだろう。

 バッハは1747年5月7日にフリードリヒ大王のポツダムの宮殿訪ねます。そこでは息子カール・フィリップ・エマヌエルが出仕していていたのです。フリードリヒ大王は主題を与え、バッハは即興演奏でフーガに展開しました。英語のリサーチ(探索する)と語源を一にするリチェルカーレ、ここでは声部を模倣する主題が続き、フーガとほぼ同義語として使われますが、曲中、このリチェルカーレが冒頭の3声、そして6声のものと2曲登場し、トリオ・ソナタと並んで双璧となっています。一つの主題をさまざまな形に展開する。ゴールドベルク変奏曲、フーガの技法と並び壮観ですが、「音楽の捧げもの」と「フーガの技法」とは指定楽器の曖昧さ(盤選の分類では特殊作品ということになります)とで、ほぼすべての作品が実際に音化されることを前提としていたのに対し、扱いが難しくなっています。西欧音楽の奥の院、楽譜という思考の結果として存在すればよいかのようなところがあるのです。前述のリチェルカーレ、トリオソナタ(4楽章)に加え、登場するのが10のカノン。これが、主題の模倣にはじまり、解決譜という形をとり、展開の問題集といった体裁です。トリオソナタを中心に考えれば、当盤のクイケン兄弟にチェンバロといった演奏の形態はもっとも小さいものであり、チェンバロで登場するリチェルカーレから、カノンをも自在にあてる編成になています。


 古くリヒター盤にはニコレのフルートがありました。トラヴェルソにはD管の残照があり、音域的にも極端な技巧が要求されています。そのため、フルートに要求されるものは大きく、その奏者の名前だけで盤を選ぶという選択もあり得ます。フリードリヒ大王がよくフルートを為したように、宮廷にも優れた奏者が揃っていたにしても、当時、これほど豊かな内容をもった音楽を示し得る人はバッハ以外にいませんでした。豊かなオブリガードのバス・ライン。ヴィーラント・クイケンのパートも、この編成ならではで動きはよく見えます。クイケン兄弟は、20年の過程を経て、これらの作品が音楽理論的な内容から、実際に実践性を持った作品というところから出発しています。それは、作品の再認識に他ならず、楽器の指定も、検証が重ねられ、そうした成果をも盛り込みました。硬さから音楽の呼吸。実際には、当盤のうちにはまだ硬さも残るのですが、再録音という検証はひじょうに真摯な態度で為された結果といえます。

 

 この典雅な響きを聴いていると至福の時の流れを感じる事が出来ます。下の映像は2000年の彼らのライブ映像です。