ELP vs 富田勳「展覧会の絵」 | geezenstacの森

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ELP vs 富田勳「展覧会の絵」

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 まず、1枚目の写真は自作のCD-Rの写真です。「展覧会の絵」の代表的な演奏2点を1枚に収録してみました。我ながら気に入っているCD-Rであり、ジャケットに仕上がっています。普段車で聴く時はこのCD-Rを持ち込んで聴いています。以下はオリジナルのジャケットです。

Newcastle City Hall 1971/3/26
RHINO R2 72225

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 まずはELPの「展覧会の絵」です。最初はパイプオルガンによるプロムナードから始まります。1972年のリリースです。最初のパイプオルガンから通常のプレイまでにドラムのロールが入っているのは、Emersion がパイプオルガンのところからバンドの所定位置まで移動中のためとか。でも、このつなぎは違和感ありませんね。「こびと」を経て、また「プロムナード」。今度は静かな演奏です。 そして、グレッグ・レイクの静かで落ち着いた弾き語りの「賢人」。前に在籍したキング・クリムゾンでも披露していたように結構、アコースティック・ギターが旨いです。そこにグレッグのボーカルがかぶっていきます。

 そして突然、ムーグ・シンセサイザーの甲高い音が響きわたります。そう、前半のハイライト「ブルース・ヴァリエイション」。キースのムーグが鳴り響きます。キースの神業的な演奏が展開する。この演奏は、プログレのシンセサイザーの演奏の中でも指折りの演奏だと考えます。キースのムーグが疾走するなかグレッグのベースがバッキングし、カール・パーマーの力強くかつ的確なドラムがぐいぐい引っ張のます。三者一体となった16ビートの疾走。まさに手に汗握る即興演奏です。ELPは結構クラシックの曲を取り上げていて、バルトークのハンガリー民族舞曲なども演奏しています。欧米のロック・グループはピンク・フロイドにしろクラシックの木曽をちゃんとベースに持っているから凄いですね。ですからこういうアプローチの演奏でも上滑りの感覚は感じられません。

 CDになっても2部構成は変わらず、LPでいうとB面には再々度、「プロムナード」が登場し「バーバヤーガの小屋」、「呪い」、「キエフの大門」となだれ込んでいきます。最後のハイライトが「キエフの大門」。キースのキーボードに乗って、グレッグが力強く叫ぶように歌い上げます。この曲にはこれしか無い、という説得力でカールのドラムが、最後のドラマを盛り上げます。後半の途中で、突如、甲高いノイズが響き渡る。『キーーッ、ギギーーッ、ボゥアーーッ、キキーッ・・・』。じつはこれ、LDでの映像で確認すると、キースがオルガンを傾け、ノイズを出しながら最後に日本刀をキーに刺して、最後にぶっ倒してしまった音だったんですね。さすがプログレ、演出もド派手です。

 ELP初のライヴ・アルバムですが、通常ライヴ・アルバムというものは、既発表曲を含んだライヴを収録したもので、オリジナルとは異なる臨場感やアレンジを楽しむものが一般的ですが、この作品は少し違う意味を持っています。それは、全編未発表曲ならびに1枚のオリジナル・アルバムとして完結していることです。そして、「展覧会の絵」野中にもオリジナルの「賢人」「ブルース・ヴァリエーション」「呪い」なんて曲をちゃんと入れてオリジナリティを出しています。のちに純粋に「展覧会の絵」の部分だけを取り出して再構成したアルバムが出たのですが断然オリジナルのこちらの方が面白いです。さて、このLPが発売されたのは1972年のクリスマス前なのですが、それは海賊版が出回りその対策として発売されたという側面を持っています。最後にアンコールで演奏されるチャイコフスキーの「くるみ割り人形」がクリスマスにはもってこいの曲でもあるのも関係しています。それがヒットするのですから分かりませんね。

1974
RCA BMG 69576-2-RG
エンジニア/エドウィン・ベグレイ

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一方、富田勳のシンセサイザー版。このりLPが発売された頃はレコードは高くて買えませんでした。もっぱらFM放送をエアーチェックしてカセットに録音して聴いていました。シンセの音は当時ワルター・カーロス(現在性転換をして女声になりウェンディ・カーロスとなっています)のバッハアルバムがあり、無機質な機械音でなく音階とハーモニーを奏でるレベルに達していたのに驚きを覚えていました。そして。この富田のサウンドは単にシンセから音を出すのではなく、音色のパステルが花開き色彩感が違いました。第1作のドビッシーをモチーフにしたアルバムはまさしく芸術でした。

 「展覧会の絵」はそんな彼の2作目です。クラシックの作品をリ・コンストラクトする手法は進化していますがこの第2作ではピアノの原点版をベースにしています。ヴォイスコーラスをうまく取り入れ、通常楽器の音色の制約を完全に逃れ、イメージがややコミカルに広がっています。子どもなどには原曲やラヴェル版よりもイメージがつかみやすく、おもしろいのではないでしょうか。ただ。ベースがピアノ版なのでサウンド的にはラヴェル編曲のブラスの部分が欠落している部分があるのも否めません。そういう点をこの演奏に期待するには無理があります。初めて聴いた時などはイントロのプロムナードなどスィングルシンガーズがハモッテいるのではと思ったほどです。

 富田勳は、 ヴォイスコーラス、ハミングなどをモチーフにした合成音をふんだんに使っています。「卵の殻を付けたひなの踊り」などではコミカルさを前面に出したアレンジでユーモラスですね。でも、全体は全くのクラシックベース。当時はサンプリングがどの程度で来たのかは分かりませんが最後のキエフの大門での鐘の音は当時から少し安っぽさを感じていました。どうせならもっとド派手に鳴らしてほしいものです。

 もっとも、この曲はスピーカーから聴くよりも、ヘッドフォンを通して聴いた方が音が頭の中を駆け巡る感覚は満喫できます。なにしろドルビー・サラウンドで収録されているんですから、それを楽しまない手はないでしょう。