冨 田 勲
「スペース・ファンタジー」
曲目/
[DISC1](SACD)
1.スペース・ファンタジー2015
悲しきワルツ(シベリウス)~ワルキューレの騎行(ワーグナー)~タンホイザー序曲(ワーグナー)
2.答えのない質問 (アイヴス)
3.パシフィック231 (オネゲル)
4.スター・ウォーズのテーマ (ジョン・ウィリアムズ)
5.ヴィーナスの唄 ~ヴァイオリン協奏曲第1番より(プロコフィエフ)
6.シベリアのツングースに激突したことのあるまばゆく光る円同形の物体 ~交響曲第6番より(プロコフィエフ)
7.アランフェス ~アランフェス協奏曲 第2楽章(ロドリーゴ)
8.ソルウェーグの歌 (グリーグ)
9.ホラ・スタッカート (ディニク/ハイフェッツ)
10.牧神の午後への前奏曲 (ドビュッシー)
11.はげ山の一夜(ムソルグスキー)
[DISC2] (CD)
1.魔法使いの弟子(デュカス)
2.アラビアの踊り ~「くるみ割り人形」より(チャイコフスキー)
3.トレパーク ~「くるみ割り人形」より (チャイコフスキー)
4.交響曲第6番「田園」~第5楽章(ベートーヴェン)
5.花のワルツ(部分)~「くるみ割り人形」より (チャイコフスキー)
1.魔法使いの弟子(デュカス)
2.アラビアの踊り ~「くるみ割り人形」より(チャイコフスキー)
3.トレパーク ~「くるみ割り人形」より (チャイコフスキー)
4.交響曲第6番「田園」~第5楽章(ベートーヴェン)
5.花のワルツ(部分)~「くるみ割り人形」より (チャイコフスキー)
演奏/冨田勲
プラズマシンフォニーオーケストラ
プラズマシンフォニーオーケストラ
録音/1980-90年代
日コロムビア COZQ-1023

これは先月5日に亡くなった冨田勲の「PLANETS」を原点にした「宇宙3部作」より第2作にあたる1978年の「宇宙幻想(英題COSMOS)」、「バミューダ・トライアングル」「火の鳥」の中から厳選されたトラックを、4chサラウンド化して収録したアルバムです。というのが表向きの説明ですが、このアルバムの本当の特徴は、このアルバムで初めて発表された、2枚目のディスクに収録された未発表音源「魔法使いの弟子」「くるみ割り人形」「ベートーヴェン:田園」をなんと初収録していることです。冨田氏自身が「最もシンセサイザーを自在に使いこなしていた時期」と語る80年代中期に制作されたこの音源は、まさにTOMITAファン驚倒の秘蔵音源であり、まるで機械が生命を吹き込まれて縦横に蠢きまわるような、TOMITAサウンドの世界を十二分に味わうことができる垂涎の音源といえます。
NHKは彼の死を悼んで5月末には特集番組を放送しました。まあ、NHKと繋がりの深い人ですからこれは当然かもしれませんが、以下の番組がそれです。
「未来を走り続けた冨田勲の音世界」
【放送予定】5月27日(金)[NHK-FM]後2:00~6:00
【案内役】吉松 隆(作曲家)
【ゲスト】藤岡幸夫(指揮者)ほか
【放送予定】5月27日(金)[NHK-FM]後2:00~6:00
【案内役】吉松 隆(作曲家)
【ゲスト】藤岡幸夫(指揮者)ほか
ETV特集「音で描く賢治の宇宙 ~冨田勲×初音ミク 異次元コラボ~」
(2013年2月3日放送分の再放送)
【放送予定】5月29日(日)[Eテレ]前0:50~1:49 ※28日(土)深夜
(2013年2月3日放送分の再放送)
【放送予定】5月29日(日)[Eテレ]前0:50~1:49 ※28日(土)深夜
NHKアーカイブス「理想の音を追い求めて ~冨田勲さんを偲ぶ~」
【放送予定】5月29日(日)[総合]後1:50~2:55
番組内で、1984年11月18日に放送した、NHK特集「冨田勲の世界~ドナウ川・光と星のコンサート」をお送りします。
【放送予定】5月29日(日)[総合]後1:50~2:55
番組内で、1984年11月18日に放送した、NHK特集「冨田勲の世界~ドナウ川・光と星のコンサート」をお送りします。
「宇宙を奏でた作曲家 ~冨田勲 84年の軌跡~」
【放送予定】5月29日(日)[BSプレミアム]後10:50~深夜0:00
作曲家・冨田 勲の音楽を堪能するスペシャル番組。アニメ「ジャングル大帝」、「きょうの料理」、NHK大河ドラマなどの音楽で冨田の軌跡をたどります。
【放送予定】5月29日(日)[BSプレミアム]後10:50~深夜0:00
作曲家・冨田 勲の音楽を堪能するスペシャル番組。アニメ「ジャングル大帝」、「きょうの料理」、NHK大河ドラマなどの音楽で冨田の軌跡をたどります。
ですが、個人的にはシンセサイザーに取り組み始めた前夜の状況を語った下の内容の方が興味深かったです。
さて、冨田勲氏のアルバムは、以前はRCAから発売されていました。今ではその音源は、ソニーから発売されています。このアルバム、メインは既存の音源を使用していますが、オリジナル2チャンネルをSACDということで、サラウンドで収録しているということだけでは権利問題はクリアしていないでしょう。しかし、このアルバムそれだけでなく色々なところで手を加えています。ですからこのアルバムで響く音は既存のものとはちょっと違うという事になります。以下、冨田氏の言葉です。
「今回のアルバムは、まずサラウンドの鑑賞を前提にして作りました。例えば《パシフィック231》の猪突猛進で走っていく機関車の精神力というか生命力、これなどは是非サラウンドで聴き直していただきたいんですよ。それから、アルバムとしての音楽性を踏まえ、曲の構成も以前とは大幅に変えています。『宇宙幻想』の時に入っていた《ツァラトストラはかく語りき》は、もはや映画やテレビで使われ過ぎですし、あの曲のオルガンの重低音にしても、当時流行していた(センサラウンド方式の)映画『大地震』の重低音をLPでどこまで再現出来るか、という側面が強かったんです。今どき重低音なんて珍しくありませんし、そこに音楽的な精神性は感じられない。ですから、今回は《ツァラトストラ》はカットし、代わりに《悲しきワルツ》のコーラスが宇宙の中に広がっていくという始まり方にしました。僕のサラウンドは、前後左右、4つのスピーカーのどちらを向いても音が聴こえてくる作りになっていますから、コーラスがどこか宇宙のかなたからきこえてくるような感じにきこえると思います。宇宙に“正面”はありませんからね。そんな宇宙の広がりから現れるシベリウスのコーラスが、次の《ワルキューレの騎行》に繋がっていくんです」
その《ワルキューレの騎行》は、以前、フランシス・コッポラ監督から『地獄の黙示録』の音楽を依頼されていたことを考えると興味深いものです。有名なヘリコプター襲撃の場面で流れる《ワルキューレの騎行》も、冨田が手がけていたら、さぞ度肝を抜かれたのではないでしょうか。氏はこう続けます。
「ヘリコプターの音がサラウンドで移動するイメージは、僕の《ワルキューレの騎行》にも確実にありますよ。いやあ、あの映画は本当にやりたかった。フィリピンのロケ地や、サンフランシスコのコッポラの事務所に何度か行ったんですよ。彼が言うには『俺の映画をやれば、トミタは有名になるんだから、レコード会社は喜ぶはずだ』と。コッポラという人は、この音楽が合うと思うと、それが100%実現可能だと思い込んじゃう。レコード会社も、当然自分に従うだろうと。『ゴッドファーザー』の世界的な監督が自信を持って言うんだから、こっちもその気になりますよね。それと、彼はサラウンドにものすごく拘っていたんです。当時のドルビーシステムのように、後方のチャンネルがモノラルになってしまう3・1方式のサラウンドではなく、新しいサラウンドをやりたいと議論していました。ところが、サントラ盤が(ドアーズが専属契約をしていた)ワーナーから出ることになって、当時の僕の専属だったRCAが『他社から出すなんてとんでもない!』と。その頃、僕の『惑星』がビルボード・チャートの上位に食い込んでいたので、レコード会社も鼻息が荒かったんですね。それで結局出来なかったんです。とにかく、『地獄の黙示録』をやっていたら、僕の人生観も変わっていたかもしれません」
ところでDISC 2の曲目を見てニヤリとした方は映画ファンでしょうね。このDISC 2に収録された秘蔵音源は―《魔法使いの弟子》《くるみ割り人形》《田園》という曲目が端的に示しているように―まさにディズニー『ファンタジア』のための“架空のサウンドトラック”となっていることです。80年代に冨田氏が制作したこのシンセサイザー音源は、それ自体でも音楽的に高い完成度を誇っていますが、試しに『ファンタジア』のDVDやブルーレイを再生し、該当場面と見比べながら聴いてみると、リスナーは驚愕の事実に衝撃を受けるはず。つまり、全ての音が本編の画の動きとシンクロするように作られているのです。氏はその昔、「ジャングル大帝」でアニメのカット割りにあわせて音楽を書いていました。この作品は後年『子供達のための交響組曲「ジャングル大帝」』として結実していますが、それをシンセサイザーで実現しようとしていたのですな。
「当時のRCAの担当者が、冨田の感覚で『ファンタジア』のビデオを出したら面白いんじゃないかと、アイディアを出したんです。そこで僕が先走って作り始めたんですが、その企画には絶対の自信を持っていました。当時としては、かなり力を入れた仕事だったんです。ところが、いろいろな問題が出てきて『進められなくなった』という連絡があり、これから《花のワルツ》が盛り上がるぞ、というところで中断せざるを得なかったんです。もうひとつ残念なのは、マルチトラックで録音したマスターテープがクラッシュして、ワカメ状態になっちゃんたんですよ。幸い、2チャンネルのステレオは別に残してあったのですが、残念ながらサラウンドは作ることが出来なかったんです。こういうものは、連続して作らないとダメなんですよ。仮に続きを作ったとしても、付け足した部分から違和感が生じてしまいますので、下手に弄らず、そのまま収録することにしました」
こういうことで、最後に収録されている「花のワルツ」は始まって3分ちょいで終わってしまいます。残念ですなぁ。この企画が完成していたら、シンセ版ファンタジアが席巻していたかもしれません。ディズニーの作った「ファンタジア」のリメイク版は、結局レヴァイン/シカゴ交響楽団でサウンドトラックが作られ、曲目の入れ替わりがありましたがそれ以上の革新はありませんでしたからね。バックにはその音楽を流しています。ところで、ここではボコーダーで主旋律が表現されているのですが、小生にはどうしても、
「びっくりしたなー、もう」
としか聴こえません。みなさんの耳にはどう聴こえるのでしょうかね。
「びっくりしたなー、もう」
としか聴こえません。みなさんの耳にはどう聴こえるのでしょうかね。
そういえば、収録されている「スター・ウォーズ」ももともとがフルオーケストラで表現したスペースオペラ的作品でしたから、冨田氏は敢えてコミカルな表現で意表を突いたとしか言えません。まるで、ホラ・スタッカートトと同一に捉えているところが改めて聴くと新鮮です。ちなみに、このスター・ウォーズもイントロがショートバージョンで収録されています。