読書雑記 -33ページ目

読書雑記

読書日記。

ほとんど自分のためのものです。

ドミノ (角川文庫)/恩田 陸
¥580
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 締切直前に契約書の到着を待つピリピリムードのオフィス。

 競争率の高い子役のオーディション会場。

 自分を捨てようとしている男に復讐を企図する女。

 俳句仲間との待ち合わせ場所にたどり着けない老人。

 ミステリー同好会の次期幹事長の座を争う大学生。


 およそ関連のない複数の物語が真夏の東京駅を舞台に「ドミノ」のように連鎖していくドタバタコメディである。

 筆者は、わずか文庫本376ページの中で、交錯する多くの場面設定と登場人物を巧みに操る。個々の物語が進行するにつれて相互の関係性と加速度を増していき、最後一気に終結する様はなかなか読んでいて気持ちが良い。


 一日に何十万人も行き交う東京駅で、すれ違う人々のほとんどとはまず関わりあうことがない。それがちょっとした偶然で人と人との関係が生まれ、物語を結びつける手段となっている。途中、結びつきかけた物語は何度もそのつながりを失いそうになる。しかし、あるときは登場人物が追いかけ追いかけられ、探し探され、またあるときは再度の偶然により、物語は結びつきを取り戻す。

 

 一生に出会う人はほんの一握り。ちょっとした偶然あるいは必然により、いろんな濃淡を持って、人は関係していき、関係しなくなっていく。そんなことを感じつつ、楽しめた一冊だった。

重力ピエロ (新潮文庫)/伊坂 幸太郎
¥660
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 物語の展開、ユーモアのセンス、多彩な引用、サイエンスの知識、等々、楽しさ満載の小説である。


 主人公の弟は、母親が強姦されて生まれた子供という、かなり重たい設定になっている。にもかかわらず、「本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ」という弟のセリフのように、物語全体が暗いイメージ一色になっているわけではない。主人公と弟と父親(弟にとっては育ての親)の三人の会話も軽妙で笑ってしまう。かといって、これまたふざけている感じがするのではなく、そのあたりの頃合が絶妙だと思う。


 文庫版の解説で、北上次郎氏も「この手の小説に、ストレートな感情表現は似合わない」と言っているが、長々とした心理・情景描写がほとんどなく、淡々とした文章がとてもいい。

 

 登場人物の中では、やはり父親がすごい。自分の妻が強姦されて生まれてきた子供をあそこまで愛せるのか。

 「染色体であるとか、遺伝子であるとか、血の繋がりであるとか、そういったものを、父は軽々と飛び越えてしまった。」

 軽々ではないと思うけれど、ここには、厳格でありながらもユーモアを絶やさない強い父親が出てくる。物語の終わりの父親のセリフはかなり泣けてくる。


 弟は、自らの出生に思い悩むなかで、遺伝学や人類の起源に興味を持っているが、金城一紀の「GO」で、コリアン・ジャパニースの主人公が同じように遺伝や人類の起源について勉強していたのに通じるものがある。自分のアイデンティティ、哲学、思想、人生観を形成する上で、サイエンスの分野から考えてみるという視点はなかなか共感できる。


 同世代の著者の作品を読むと時代感覚が共有できるのも楽しい。他の作品も追々読んでみようと思う。



環境エネルギー革命/金子 勝/アンドリュー デヴィット
¥1,575
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 泥沼化するイラク情勢、高騰するガソリン価格、そして、この夏の猛暑と、いやがうえにも地球温暖化やエネルギー政策に皆の関心が高まるタイムリーな時期に、この本が出た。


 冷戦後のアメリカ一人勝ち状況は、イラク戦争で大きく揺れ動いているようだ。イラク戦争の失敗によって「国際政治の多極化傾向」が進んでいる。ブッシュ政権内のネオコン勢力が弱体化し、ブッシュ政権と共にイラク政策を推し進めてきたブレア内閣も退陣を余儀なくされ、中国、ロシア、中央アジア諸国からなる上海協力機構は「単なる資源・経済協力関係から軍事・外交面での協力関係を強め」、「欧州ではこれに対抗しようとする動きが強まっている」なかで、日本政府は、イラク政策や環境・エネルギー政策において「一つ前の米国」を支持し、「国際的に孤立状況にある」という。


 地球温暖化の問題や環境・エネルギー問題がこれほどまでに国際政治の中心的課題になっているとは恥ずかしながら認識が甘かった。世界の政策的対抗軸は、冷戦時代は、「大きな政府」VS「小さな政府」であり、冷戦後は、「クリントン米政権、ブレア英政権、シュレーダー独政権と、レーガン・サッチャーの新自由主義路線に対抗する『第三の道』が登場」し、イラク戦争開戦前までは、「ネオコン型新自由主義」VS「第三の道」が国際政治をとらえる大きな枠組みであった。

 しかし、「今や世界では、環境エネルギー政策が新たな政策的対抗軸としてますます重要性を帯びてきて」おり、そこでは、「小さな政府」か「大きな政府」か、保守か左派か等の単純な枠組みでは国際政治を捉えられないようである。


 本書は、金子勝とアンドリュー・デウィットの共著で、筆者たちはこれまでにも、「反ブッシュイズムⅠ~Ⅲ」(岩波ブックレット)等で、反ブッシュやイラク戦争批判の論陣をひいている。そして、今回は、ブッシュやアメリカ社会とは切っても切れない関係にある石油資源の問題、ひいては環境・エネルギー問題を切り口に論じられ、ブッシュ政権やそれに盲目的に追随する小泉・安倍政権がいかに歴史の流れに逆行し、国際社会が取り組む地球温暖化防止への努力を妨害しようとしているかがよくわかる。


 ブッシュ型環境政策の問題点として、環境派が温室効果ガスの影響を過大評価しているという姿勢や、総量規制や具体的な数値目標を持ち込ませないことの他に、代替エネルギーとして食料を原料としたバイオエタノールの推進も指摘されている。バイオエタノールは環境負荷の少ないエネルギーとして地球温暖化対策の一環としてとりあげられる向きがあるが、「トウモロコシや大豆の値段を急騰させ」る等、世界の食糧需給に悪影響を与えていることもはじめて知った。


 また、日本は、京都議定書の削減目標の達成が危ういそうである。「日本は京都議定書の下、2008年から2012年までの5年間、温室効果ガスを基準年(CO2は1990年度)比で6%削減する義務を負」い、政府もそれを実現する国民的プロジェクトとして「チーム・マイナス6%」などと言っているが、2005年度において、基準年の排出量から既に約8.1%増加しており、実質的には、2008年から5年間で約14%削減しなければならないとのことである。


 環境エネルギー革命が、地球環境問題や国際政治を読み解くキーワードとなることを再認識した。さらには、この革命により世界経済の「長期停滞を脱する道」を開くことにつながるとの主張など、全般にわたり非常に刺激的な本であった。



号泣する準備はできていた (新潮文庫)/江國 香織
¥420
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 表題作を含む全12篇の短編集である。この作品は2003年下半期の直木賞を受賞した。


 江國香織をはじめて読んだ。ほかの作品は知らないけれど、もっと暗くてドロドロ、ネチネチした作品が多いのだろうと勝手に想像していたが、思ったよりカラリとした文体でかなり気に入った。


 この短編集は、失われた恋やこわれていく夫婦の愛情、またそうしたものの危うさを描いた作品ばかりだ。しかし、いずれも絶望感は感じない。出てくるどの女性も最後は強く生きていこうとするからだろうか。


 物語の設定が日常的で、どこにでもいそうな人物の内面を描いているので、多くの読者の共感を得るのだろう。



入門行政の「事業仕分け」―「現場」発!行財政改革の切り札
¥1,800
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 「事業仕分け」とは、本文から引用すると、「現在、国や地方自治体が行っている行政サービスのそもそもの必要性や実施主体(国、県、市など)について、予算書の項目ごとに議論し、『不要』・『民間』・『市町村』・『都道府県』・『国』と分けていく作業。」とあり、つまりは、行財政改革の一環として、国や自治体が実施している事業について、事業の要否、役割分担を整理する「作業」である。


 日本で初めて「事業仕分け」を提唱し実践した、民間の政策シンクタンク「構想日本」が、「事業仕分け」の入門書としてまとめたものが本書である。仕分けとはどういうものかや、作業の進め方の基本、実施した現場の声などがおさめられている。


 国の行政改革の方針等にも採用され、少し前にはマスコミでもたまに報道されていたが、最近はあまり「事業仕分け」の話題を聞かなくなった。労力の割りに効果がないとされたのか、当然にやるべき作業として定着していったのかは不明である。


 個人的には、「事業仕分け」が行政改革の「切り札」とまでは言えないまでも、行財政改革の「一手法」として、あまり手間ひまをかけずに実施できればいいのではないかと思われる。



現代行政分析 (放送大学教材)/真渕 勝
¥2,415
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 京大教授の真渕勝氏が放送大学の教材用として書いた行政学の教科書である。はしがきに、「制度記述を超えて、可能な限り実態分析にまで進むよう心がけた。」とあるように、行政の無味乾燥な制度やしくみを淡々と記述するだけでなく、行政組織や官僚・公務員の実態に関する説明も多いので興味が湧きやすい。


 また、これもはしがきにあるように、行政批判、官僚批判により「官僚を監視し、統制することが重要である」ことを認めつつも、「同時に官僚をいかに気持ちよく働かせるかという視点もやはり重要である」との認識のもと、制度や現状に対する批判的な指摘や問題提起にはあまり多くの紙幅を割いていない。


 表現はわかりやすく丁寧なので本書を行政学の入門書として読んだ後、より体系的で詳細な教科書や、行政や官僚に対してもう少し批判的な論調のテキストに進むのがいいのではないだろうか。



はじめて出会う政治学―フリー・ライダーを超えて/北山 俊哉
¥1,890
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 政治学を少し勉強してみようと思い、とっかかりにこの本を読んでみた。「どのような話題からはじめれば、高校を出たばかりの学生たちを政治学の講義に引きこめるのだろうか。」という配慮もあるため、かなり「つかみ」の話題提供に紙幅を割いているから大人にとっては若干じれったくなるようなところもあるが、その分気楽に読める本である。


 政治関連のニュースや話題は、日常的に新聞やテレビ、一般向けの書籍等で見聞きすることが多いため、本書を読んでみても、政治学が扱う対象はたいへん身近なものだと感じた。自分たちの暮らしや生活に大きく関わる政治というものを、学問の体系に基づき整理して、政治学の大まかなアウトラインを示してもらったような気がする。


 1997年に初版が出て、2003年に新版が出ている。学生が入り込みやすいように、その時注目された話題や時事問題を随所に取り上げているからそろそろ改訂した方がよさそうである。


 「政治学では、法制度を前提としながらもそれと同時に、まず現実を知ろうとしなければならない。そしてもし現実が制度から予想される事態と異なっているのであれば、どうしてそうなのかをまた問わなければならないのである。」

 心して勉強しようと思う。



ぼくの血となり肉となった五〇〇冊 そして血にも肉にもならなかった一〇〇冊/立花 隆
¥1,890
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 政治、経済、哲学、思想、サイエンス、社会問題、時事評論等、およそ人間に関わるあらゆる領域に関心を持ち、評論家・ジャーナリストとして活躍する立花氏は、常々「いいものを書くためには、IO比(インプットとアウトプットの比率)を100対1くらいに保つ必要がある。」と言っているように、100冊にも及ぶ著作がある氏の読んできた書物は半端な数ではない。


 本書は、そんな立花氏が自分の「人格形成期の中でも特に重要と考えられる二十代後半から三十代前半に」読んだ、「血となり肉となった」本、「血にも肉にもならなかった」本(あまりまじめでないやわらかい本という意味)の紹介と、新刊の読書案内を目的として雑誌に連載された読書日記の2部構成になっている。


 気の遠くなるような読書量や関心領域の広さにはただただ呆然とするばかりである。総量としての読書量もさることながら、1つのテーマに対象を絞ったときの集中的な読書の仕方もすごい。ある分野に関しての書物や資料が本棚何個分とかいう話がポンポンと出てくる。


 そして、読んできた膨大な量の書物が血肉化しているところがまたすごい。本の概要は言うまでもなく、その研究領域や学問における位置づけ、歴史的意義や社会に与えた影響、また、立花氏個人の人生における意義、読むこととなったきっかけ等が頭の中できちんと整理されているのは驚きである。普通の人間ならたとえ氏の何分の1かの書物を読むことができたとしても消化不良を起こして体の中を素通りして終わってしまいそうである。


 そこまでの読書ができなくても、立花氏の次の言葉に共感できる心持ちは常に保っていきたいと思う。


 「人間が生きている限り、そして人間が知的欲望を失わない限り、『もっと本を読みたい』 『新しい本にもっと出会いたい』と思うものです。もっと読みたいと思う本が次々にあらわれてくるということが、知的人間にとっては、生きている証しといってもいい。もしその欲望がなくなったら、その人はすでに知的に死んでいるといっていい。」

 

ナイチンゲールの沈黙/海堂 尊
¥1,680
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 現役の勤務医である海堂尊が描く大学病院を舞台にしたミステリーの第2弾。前作の「チーム・バチスタの栄光」 の続編とも言うべき設定であるが、本作は看護師が物語の中心となる。


 ベストセラーとなった「チーム・バチスタの栄光」に続く2作目として読者の期待も大きくなるがゆえに、「チーム・バチスタ」ほどのインパクトは感じないかもしれない。また、本作の肝の部分でもあろうが、看護師の浜田小夜や伝説の歌姫・水落冴子の歌声が聴く者に与えてしまう影響など、リアリティに欠けちょっとついていけないところもあった。


 それでも、読者をグイグイと引きつけるテンポの良い文章は魅力があるし、田口・白鳥コンビも健在で、事件の捜査をする警察庁の加納警視正や看護師長の猫田など、さらに強烈なキャラクターが加わって、この著者の人物描写はやはり読んでいて楽しい。

読む力・聴く力/河合 隼雄
¥1,575
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 「絵本・児童文学研究センター」主催の第10回文化セミナー「読む 聞く」(2005年11月20日・小樽市民会館)において、河合隼雄氏・立花隆氏・谷川俊太郎氏の3人が、「読むこと」、「聴くこと」の現代的意義を語った内容を収録してまとめたものである。


 カウンセラーの河合氏、ノンフィクション作家の立花氏、詩人の谷川氏は、それぞれが活躍する仕事の分野の違いから異なった読み方、聴き方をしている。


 とくに河合氏と立花氏の聴き方が対照的でおもしろい。

 立花氏がサイエンスの世界を書くために取材をする際には、河合氏のカウンセリングにおける聴き方と対比して、自ら次のように言っている。 「河合氏はひたすら向こうが話すのを待っている。僕の場合は徹底的にとことん聴きます。根掘り葉掘り聴く。『その次はどうなっているのか』、『そこはどうなっているのか』というのを・・・・聴きます。」

 それに対して、河合氏は相談に来た人の話をどのように聴いているかというと、 「『死にます』と言われても『はー』とぼーっと聴いているのです。」 来た人の発言をとらえて掘り下げて聴くのではなく、「・・・・来た人の考えていること、来た人が感じていることよりもっと大事にしているのは何かといったら、来た人の可能性の方に注目している。・・・・その人が「いま死にたい」と言われても死なないというのがあるかもしれない。」


 「読む 聴く」は人間が「生きる」ということに深く関わっていると河合氏は言う。「ところが、科学技術の急激な発展により、便利で快適な生活ができるようになったが、どうしても効率的なことへの追求が強くなりすぎて、短時間で多くの情報をわかりやすく得る方法が進歩しすぎて、じっくり『読む』とか他人の話を『聴く』とかのことがおろそかになる傾向が生じてきた。」

 「読むこと」、「聴くこと」は人間性の基本であり、多様な多彩な読み方、聴き方が人生をより豊かにするものであることを強く感じさせてくれた。