- 環境税とは何か (岩波新書)/石 弘光
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後に政府税制調査会会長も務めた財政学者の石弘光が1999年に書いた一般向けの本である。環境税の導入に反対する通産省(現経産省)や経済界と、地球温暖化防止には導入が不可欠とする環境庁(現環境省)や環境団体とが、共通の土俵のないままに相手を批判し合うだけの状況を憂慮し、環境税の理論的基礎や導入をめぐる論点等「環境税とは何か」を明確にすることによって、建設的な議論を進めるための材料を提供したいという思いで執筆された。
本書ではまず、環境税の導入が主張されるようになった背景として、現代の環境問題の特徴が説明される。公害問題に代表される従来の環境問題が地域的・局所的であり汚染源も企業が中心であったのに対して、地球温暖化問題をはじめとした現代の環境問題は地域や一国の領土内に限定されず地球規模で被害が拡大しており、企業活動のみならず、大量消費・大量廃棄という一般市民のライフスタイルにまで踏み込まない限り解決できない性質の問題であることが指摘される。
次いで、公害問題の解決に成功してきたこれまでの環境政策とその限界について述べられる。政府介入による直接規制は、地域的・局所的な汚染に対しては一定の効果を有しつつも、地球温暖化問題のような一地域を超えた広範囲にわたる環境問題に対しては、規制に必要な情報収集の効率性、インセンティブ効果の大きさ等の面において経済的手段に劣るとされる。また、日本の環境政策において直接規制と並びその役割が強調されてきた企業の自主的な取り組みについても、二酸化炭素を削減するためには一地域や一部の企業の自主的な取り組みに頼るだけでは限界があるとされる。
そして、経済的手段による環境政策としての環境税の経済学的な理論的根拠が説明される。環境汚染による外部費用を内部化するためのピグー的課税や、より実現性の高いボーモル・オーツ税等の租税政策の理論的根拠が説明されるとともに、補助金、排出権取引、デポジット制度といった環境税以外の経済的手段や諸外国における導入事例が紹介されている。
さらに、具体的な環境税のデザインとして、とりわけ炭素税導入をめぐるケーススタディや導入に際しての諸問題が取り上げられる。炭素税、および炭素含有量に加えエネルギー発熱量も課税ベースとする炭素・エネルギー税を導入した場合に想定される税収の試算が具体的でイメージしやすい。OECDの報告書で示された環境税実施上の論点として、
①租税とそれ以外の手段の役割分担(特に規制的手段との関係)
②課税の目的は、インセンティヴか財源調達か
③課税の対象・範囲と、PPPあるいは税収中立性との関係
④課税の「段階」(生産あるいは消費段階か)と、それらの環境政策上の効果
⑤国際競争力、マクロ経済成長、所得分配などへの影響
⑥既存税制との関係
が挙げられ、これらの問題にも検討が加えられている。また、執筆当時に炭素税を導入していた北欧4国とオランダの制度内容や効果なども紹介されている。
最後には、過去の多方面での分析を踏まえ、炭素税の問題点やデメリットを
①税負担は逆進的となり、所得分配上、必然的に不公平をもたらす。
②経済成長を阻害する。
③国際競争力を低下させる。
④地球温暖化に有効で、かつ望ましい炭素税の基本的な枠組み(税率や課税ベースなど)を果たして構築できるか疑問がある。
⑤実施にあたり、国際協調は不可欠であるが、その可能性はどうか疑問がある。
の5点に要約し、それぞれを検討し是正策等を提示している。また、炭素税導入に関するいくつかの意識調査をもとに、炭素税の導入に向けて国民の一定の支持を得ているとしている。
出版から10年近くが経っており古いデータもあるが、現代の環境問題の特質や、環境税を中心とした経済的手段による環境政策の概要が理解できる。